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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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25話 後日談

 


 本当は、今日をもってフェルナンド様のことはティアに任せるつもりだったんだけど……


 弱っている姿を他人に見られるのがお嫌なフェルナンド様は、好きな人にも、そんな姿を見せたくないのかもしれない、と、解釈した。


「分かりました、任せて下さい」


 ティアに役目を返すつもりと言っておきながら、早速、頼りにされたことが嬉しかったなんて、なんて私の単純なこと。


(いつか離婚するにしても……少しでも、良い思い出になって、フェルナンド様の心に残ってくれたらいいな)


 そんな風に、思った。




 ◇◇◇




 後日談――



 自室のベッドの上、ぐわんぐわん頭が回って眩暈がする、体中が筋肉痛みたいに痛い、熱い。症状を簡潔に述べるなら、咳、喉の痛み、発熱、倦怠感――そう、風邪。二人が完治した後、今度は私が、体調を崩してしまったんです。


「コホン! ケホッ!」

「リーゼ様……ごめんなさい、私の所為で……!」


 心配そうに私を見つめるティアの姿。


「大丈夫だよ、ティア」

「あの、今度は私が、リーゼ様の看病を……」

「いけませんよ、ティア様。それで聖女である貴女様が風邪を引いたら大変です」

「ミセスさん……でも……」

「リーゼ様の面倒はきちんとこちらで見ますので、ご安心下さい」


 私が測った体温計を眺めていたミセスは、体温計を机に置くと、私から離すように、ティアの肩を押して部屋の外に出した。


「全く、リーゼ様まで体調を崩されるなんて、困ったものです」

「ごめんなさい……」


(迷惑をかけているのは分かってるけど、風邪をうつしたのは貴方の主人のフェルナンド様ですけどね!)


「……ここで素直に謝罪されるなんて、本当に人が変わってしまったんですね」

「え?」

「いいえ、何もありません。主治医から薬はもらったので、ゆっくりお休み下さい」

「うん……ありがとう、ミセス」


 何だかんだ文句は言われるけど、医者の手配をしてくれたりと、何かと世話をしてくれたのはミセスなので、感謝してる。


「どういたしまして、では、失礼致します」


(初めて、ミセスが私に微笑んでくれた気がする……これが幻覚? ミセスも体調を崩した人には優しいのね)


 ティアもミセスも出て行き、部屋は静かになった。眠ればいいのに、しんどすぎて眠れない。こんな時、一人が寂しいと思っていたら、すぐに部屋の扉が開いた。


「リーゼ様! 大丈夫ですか!?」

「アルル……」


 両手に一杯の果物や水差し、氷嚢、大量のタオルを持って現れるアルルの姿。


「とりあえずお部屋、換気しますね! 何か食べれそうなものはありますか? 言って下されればご用意しますので、何でも仰って下さいね! あ、お体もお拭きしますよ!」

「ありがとう……助かる」

「リーゼ様が元気がないと、心配ですから!」


(リーゼの悪評が酷過ぎて誰も心配してくれないと思っていたのに、こうして優しい言葉をかけてもらえると、嬉しい)


 優しさに、思わず感動してしまう。


「リーゼ、今、大丈夫かな?」

「……ジーク!」


 扉をノックし、確認をしてから中に入って来たのは、ジークだった。


「お見舞いに来てくれたの?」

「当たり前じゃないか、友達なんだから。主人――君のお父様からも、お見舞いの品を預かってきてるよ。今日は仕事が忙しくて顔を出せないけど、絶対に、お見舞いに行くと言ってたよ」


 以前までのお父様なら、たかが風邪だろうと、かすり傷一つだろうと、仕事なんてほっぽり出して来ていたでしょうに、なんて成長……娘は嬉しいです。自慢のお父様です。


「早く良くなってね、リーゼ」

「うん、ありがとう、ジーク」


 こんな風に、皆に心配されて、優しくされて、風邪を引いた人の特権ね。

 ああ、早く良くなって、元気になろう。


(……風邪をうつした張本人は、やっぱり、お見舞いに来てくれないよね)


 なんて、分かってはいたけど、風邪を引いて弱っているからか、少し、寂しいと思ってしまった。



 ――深夜。


「すぅすぅ」


 薬も飲んで、夢の中。

 彼と違って、私は夜中の来訪者に気付くこともなく、目覚めることはなかった。


「……早く、元気になって下さい」


 その呟きにも、気付かないまま――


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