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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
24/62

24話 貴女が来て下さい

 


 ◇◇◇



 ――それから、更に三日が経過し、結婚生活四か月十九日目――


 ティアの体調は順調に回復し、明日からは、普段通りの生活をして大丈夫だと、主治医から診断を受けた。


「私が元気になれたのは……リーゼ様のおかげです。ありがとうございます、リーゼ様」

「私、ただ傍にいただけで何もしてないよ?」


 実際問題、ティアは精神面から来る体調不良が大きく、熱も無かったので、特に何もすることはなかった。なのにこんな風にお礼を言われると、どうしたものかと戸惑ってしまう。


「いいえ……私、リーゼ様がずっと一緒にいてくれて……本当に、幸せで……嬉しかったです」


(可愛すぎか、ヒロイン!)


 頬を赤く染めて言うヒロインのなんて可憐で可愛いこと。私なんかで良ければ、もうずっと力になります!


 ティアの体調が回復したので、部屋への泊まり込んでの付き添いは、今日で終了。


 いつものようにティアが寝たのを確認し、最近の日課をしようと、こっそりと、ソファから立ち上がった。


(お邪魔します)


 っと、三日ともなれば慣れたように、フェルナンド様の部屋に足を踏み入れた。


 フェルナンド様はこの三日間、ティアのお願いを守り大人しく部屋で休まれていて、顔色は最初に比べたらマシになっているように見えた。


(うん、熱も大分、下がったね)


 額で熱を確認し終えると、日課になってしまった食事の片付けに、起きた時に、すぐに食べやすい果物やゼリーの用意、水差しの補充に、新しくした氷嚢を持って、机に置く。


 そう、私の日課とは、ティアの付き添いのついでに、フェルナンド様の様子を確認すること。

 ちなみに、これはミセスにも許可を取っていて、部屋に入るのを拒まれるフェルナンド様の状態を確認して来て下さい、と、個人的にお願いもされている。


 ただ、その役目も、今日でお終い。


(ティアが治ったら、この役目は、ヒロインに返さなきゃ)


 本来は当て馬的モブ悪女の私じゃなく、ヒロインが看病をするのが、正規のルートというもの。私はただ、それまでの繋ぎを補っただけ。


(ティアなら、こんなにコソコソする必要もないだろうし)


 小説には、ティアの看病をするフェルナンド様の話しか描かれていなかったけど、これで、ティアがフェルナンド様を看病する逆パターンが垣間見えるなんて、小説のファンとしてはたまらない良い展開!


「……早く、元気になって下さいね」


 元気のないフェルナンド様を見るのは、嫌。それなら、私に冷たくしている姿を見る方が、よっぽど安心する。


 最後にフェルナンド様の様子をもう一度確認しておこうとベッドに近付き、手を伸ばしたところで――腕を引っ張られ、ベッドに引きずり込まれた。


「きゃ――」

「……何度も何度も俺の部屋に来て、何のつもりですか?」


 寝ていたとばかり思っていたフェルナンド様が起きていて、しっかりと目が合った。


「フェルナンド様!? 起きてたんですか!?」

「逆に起きないと思っていたんですか? 最初からずっと、貴女が部屋に来ていたことには気付いていますよ。大体、新しく物を持って来たりしていたら、誰かが部屋に入って来ているのはバレバレでしょう」


 何で気付いていたなら、最初から言わなかったの!? いや、今はそれどころじゃない。


「お、怒ってます、よね? 勝手に部屋に入ったこと……」

「……」


 沈黙が怖い。でも怒るに決まってるよね。他の使用人達にも部屋の立ち入りを禁止していたのに、フェルナンド様の大嫌いな私が、勝手に部屋に入ってあれこれしてたんだもの。


「何が狙いで、こんなことをしてるんですか?」

「狙い? 特に何もないですけど……」

「嘘つきですね」

「嘘じゃありません!」


 私はただ、フェルナンド様が心配で様子を見に来ただけ。

 これは私の純粋な気持ちであって、そこに他意はない。ないけど、今までのリーゼの悪行を考えれば、何か裏があると思われても仕方ないか。


「もう来ません、だから許して下さい」

「……」

「フェルナンド様がもっと周りを頼っていれば、私だってこんな事しなくてすんだんですよ?」

「俺の所為ですか?」

「そうです、ティアのことだって、一人で抱え込まないでいいんですよ? 私も、ジークだっているじゃないですか。もっと頼って下さい」


 小説では、私もジークもいなくて、ずっと一人でティアを支えていた。

 フェルナンド様のただ一人、ティアにだけに向ける献身的な優しさが素敵って思っていたけど、今は、私もジークもいるんだから、もっと頼って欲しい。

 一人で、全てを抱え込まないで欲しい。


「――」

「フェルナンド様?」


 黙り込んでしまったフェルナンド様の顔を覗くと、そのまま顔が近付いてきて――触れるだけの優しい口付けをされた。


「……どうして?」

「……さぁ、どうしてでしょう、俺にも意味が分かりません」

「は、い?」


 キスしておいて、意味が分からない、と? 喧嘩を売っておられると?


「はぁっ、コホッ」


 荒い息遣いに咳、倦怠感のある表情。


「……もうっ、しっかり寝て、ゆっくり休んで、早く元気になって下さい!」

「……そうですね、体調が悪い所為か、貴女が優しいと思うような、有り得ない幻覚が見えています」

「失礼ですね」


 掴まれていた手を放し、ベッドから脱出する。


「私に看病されるのがお嫌でしたら、アルルを呼んできましょうか?」


 侍女であるアルルなら、私よりも、上手に看病出来るでしょうし。


「……いいえ、弱っている姿を、他人に見せるのは嫌なので」

「私はいいんですか?」

「貴女は、勝手に見に来たんでしょう」

「ふふ、そうでしたね」


 やり取りが面白くて、思わず、笑ってしまった。


「……明日からも、貴女が部屋に来て下さい」

「え?」


 それって、私なら部屋に入って来て、様子を見に来てもいいってこと? 看病をしても、いいってこと?


「いいんですか?」

「今更でしょう」



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