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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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22話 二度目の来訪

 


 ◇◇◇



「すぅすぅ」

「……うん、良く寝てる」


 あれから、ジークもお見舞いに来てくれて、ティアの体調は少し回復した。

 ティアの体調不調は精神から来るものが大きいと思うけど、小説でも、何度もティアは体調を崩していたって、一文だけだけど、載せてあった。


(その一文が、こんなに深刻だなんて思ってなかった)


 文字でただ見るのと、現実とでは捉え方が違うというのを、実感出来た。


(こんなに健気に頑張って世界を救うヒロイン……本当! 私の推し、尊い!)


 なんて、一人で悶絶していると、隣の部屋から、人が寝静まった静かな部屋でないと聞こえないような、小さな物音が聞こえた。


(隣の部屋……もしかしてフェルナンド様、今、部屋に戻って来たの?)


 もう時計の時刻は、深夜を回っている。


(こんな時間まで……)


 脳裏には、出掛ける前のフェルナンド様の姿が過った。


(いや、でも、私がでしゃばることでも無いし、今まで仕事していたみたいだし、大したこと、無いのよね?)


 小説では、フェルナンド様が体調を崩されたことは書かれていなかった。だから、きっと大丈夫、そう思い込み、ベッド近くの椅子に腰掛けた。


 ――だけど、どうしても気になってしまって、気付けば、フェルナンド様の部屋の方向を向いてしまう自分がいた。


「……ちょっとだけ、こっそり、様子を見るだけ……!」


 頑張って気にしないように努めてはみたけど、もし部屋の中で倒れていたら、その拍子で頭を打っていたら、とか、色々と悪いことばかりが頭に浮かんで、どうしても、このまま放っておくことが出来なかった。


(本当は、二度と、フェルナンド様のお部屋には行かないって心に決めてたんだけど……)


 ティアを起こさないよう、座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりと、フェルナンド様の部屋へ繋がる扉の前へ進む。

 夫婦の部屋になっている対のこの部屋からは、中にある扉で、行き来が出来るようになっていた。


(様子を見るだけ、何も無かったらそれでいいし、こっそりと気付かれないうちに戻るだけ)


 そう思いながら、扉の取っ手を回した。


(お邪魔しまーす)


 心の中で挨拶を呟く。

 部屋の中はもう暗くなっていて、とりあえず、侵入に気付かれなかったことに安堵する。


(以前、フェルナンド様のお部屋に来た時は廊下からの正規の道だったけど、こっちから来るとまた見える景色が違って、変な感じ。二回目なのに、初めて来た部屋みたい)


 暗闇も手伝って、手を伸ばして周りを確認しながら、音を立てないよう、ゆっくりと進む。


(えっと、ベッドは……あった。ちゃんと寝てるかな?)


 ベッドの横には、小さなアンティークのランプが灯っていて、しっかりとフェルナンド様の顔を確認することが出来た。


 久しぶりにまじまじと見る旦那様の、初めて見た寝顔。


(寝顔は可愛い……かも、しれない)


 自業自得だけど、口を開けば、私を傷付ける発言しかしないフェルナンド様。黙っていればこんなに格好良いのかと、改めて再確認した。


(顔色は……まだ悪そう。当たり前だよね、休まずにずっと、仕事してるんだもの)


 そっと、額に手を伸ばして触れてみると、案の定、体は熱くて、発熱していることが伺えた。


(こんなに熱があるのに、隠して仕事してるなんて……!)


 普通なら、休んで下さい! っと、言えば済むところだけど、フェルナンド様が素直に私の言うことを聞くとは思えないし、無茶をするのは明白だった。


(執事のミセスに丸投げする? でも、ミセスの言うことだって聞かないだろうし……)


 かと言って、熱があると分かった病人を放置するのも、はばかられる。


(……よし、奥の手を使おう)


 そう思い付き、私は来た道を辿って、ティアの部屋に戻った。



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