19話 ジークの想い
◇◇◇
ティアとの面会を終え、帰宅するジークを、私は一人、門まで見送りに来た。
本当はティアも見送りに来たがったが、ティアはまだ旅の疲れが取れておらず、フェルナンド様に連れられて、部屋に戻った。
「ティアに会わせてくれてありがとう、リーゼ」
「私は何もしてないよ」
「それだけじゃないよ、ティアの力になってくれているって聞いた。本当にありがとう」
そう言ってもらえると、私でもティアの力になれているんだって思えて、嬉しい。
「ティアがあれだけ辛い思いをしていたなんて知らなかった、知っていたら、もっと早く、ここに来たのに」
「ジーク……」
聖女として、国を救う重圧を一人背負わされたティア。それでも、国を救うために頑張る姿を小説で読んだからこそ、私は、ティアが好きになった。
「ティアに、好きって伝えられた?」
「ううん、無理だったよ」
小説通りの展開。
でもいいの、ジークには申し訳無いけど、ティアの隣に立つのがフェルナンド様でも、二人が幸せなら、それでいい――
「今から故郷に帰るの?」
「僕は、ここに残るよ」
「……残る? 残るの? ここに? ニルラルカ街に?」
小説では、ジークは、ティアの心がフェルナンド様にあると気付いて、気持ちも伝えないまま、身を引いて故郷に帰る。だからここに残る展開なんて、小説には無かったのに!
「髪飾りは? 髪飾りは、渡せたの?」
「うん、渡したよ。リーゼ、僕が髪飾りを買っていたの、よく知ってたね」
小説とは内容が変わったんだと、瞬時に理解した。
「ティアの傍にいて、少しでも彼女の力になりたいんだ。まずは、これからこっちで暮らすにあたって、職探ししないとな」
(渡せなかった髪飾りも渡せて、故郷にも帰らない。じゃあジークも、ティアの傍にいてくれるってこと?)
「職探しなら、私に――モンセラット伯爵家に任せて!」
大きな声で、胸を張って主張する。
「モンセラット伯爵家は、幅広く事業を展開してるの。だから、ジークの一人や二人、お父様に頼めば簡単に雇ってくれます! あ、でも今のお父様なら、ちゃんと面接とかするかも……」
娘を甘やかすだけでなくなったお父様は、本当に自慢の誇れる父親になって、娘の我儘を何でも聞き入れたりせず、誰にも平等で正しくて、フェルナンド様からの評価も高くなった。
「ありがとうリーゼ、面接の機会をくれるだけで、充分、助かるよ」
「ジークなら、絶対にお父様も雇ってくれるはずよ」
人も良いし、真面目だし、こんな素敵なジークを採用しないはずがない!
(ジークがティアの傍にいてくれるなんて、これ以上、ティアにとって良いことはない! いくらフェルナンド様がティアの傍にいるとは言え、ティアにとってジークは特別だもんね)
残念ながら、私の見たかった挿絵のシーンは見られなかったけど、推しのティアが幸せになれる展開に物語が変わったなら、喜ばしいことでしかない。
(ジークが髪飾りだけでもティアに渡せればって思ったけど、こんな結果になって、良かった)
◆◆◆
「うう、会いたかった、寂しかった……ジーク兄さん……!」
「ティア……」
聖女になったティアは、僕の腕の中で震えるように泣いていた。
昔から気弱で泣き虫だったけど、こんなに思いつめていたことに気付いてやれなくて、自分の想いを伝えたい、なんて身勝手な想いだけで会いに来た自分が、情けなくなった。
「大丈夫?」
「う、うん……ごめんね、ジーク兄さん。ジーク兄さんの顔を見たら、思わず、泣いちゃった」
「顔色が悪いけど、体調が悪いのか?」
「聖女の力を使うと、いつもこうなの。私がまだ、力を使うことに慣れてないからだと思う」
前よりも痩せたんじゃないかと思う、華奢な体。
「でも、大丈夫だよ……私には、リーゼ様がいてくれるから」
「リーゼ?」
「うん、私……リーゼ様が私の友達になってくれたから……聖女として、頑張っていられるの。昨日もね、寝込んでいた私のところまでお見舞いに来てくれて、ジーク兄さんのことを話してくれたの。ジーク兄さん、私のために、プレゼントを用意してくれたんでしょ?」
「え――」
「リーゼ様が教えてくれたの」
(どうしてリーゼが髪飾りのことを知っているんだ? 髪飾りのことは話してないのに……髪飾りを選んでいるところを見られたのか? でも、ティアに渡すとは限らないのに……)
不思議には思ったが、リーゼにはティアへの想いを話しているから、結び付けても不思議じゃない。そう、思うことにした。
「可愛い髪飾り……ありがとう、ジーク兄さん。私、この髪飾り、お守りにするね」
聖女になり、公爵家でお世話になっているティアからすれば安物の髪飾りだろうに、ティアは宝物でも与えられたように、大切に受け取ってくれた。
(僕でも、ティアの支えになれるんだな)
ティアは聖女として、その身を削り、あらゆる重圧に耐えながら、これから大勢の人達を救うだろう。そんなティアを、近くで支えてあげたいと、そう思った。
(例えこの想いを伝えられなくても、叶わなくても、傍にいてティアを支えよう)
そう思えるようになったのは、リーゼのおかげだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。
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