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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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18話 再会

 


 ◇◇◇



 馬車の中には、一緒だと思っていたティアの姿は無かった。


「あの、ティアは?」

「ティアなら、一足先にグリフィン公爵邸に帰ってもらっています」

「どうして、こんなに早く帰ってきたんですか? 一週間くらい、時間がかかるものだと思っていたんですけど」

「俺がいつ、一週間、時間がかかると言いました? そう思われていた根拠は知りませんが、ティアが土地を癒した後、すぐにグリフィン公爵邸に帰りたいと言ったので、そのようにしたまでです」


 聖女としての活動後、何の寄り道もせずに戻って来たってこと?


「ティアの息抜きのために、綺麗な景色とか、見に行かなかったんですか?」

「行っていません」

「そ――う、なんですね」


 小説では、聖女の活動に慣れずに弱気になっているティアのために、色々としてあげていたのに……


「そんなに俺が早く帰ってくるのが嫌でしたか? ああ、浮気相手との時間がなくなるのが、嫌だったんですね?」

「浮気相手? 何言って――んっ、んっ――!」


 馬車の中、壁に追いやられ、激しく唇を奪われる。


「も、止め……」


 なんとか体を離そうと押してみても、びくともしなかった。


「貴女は俺の妻なんですから、浮気、しないで下さい」

「浮気なんかじゃ……ジークは、ティアの……んっ!」


 幼馴染で、ジークはティアが好きで、相談に乗っていただけ。そこまで言いたかったのに、また口を塞がれて何も言えなかった。


 こんなことになるなら、大人しく家で過ごしていれば良かった。ファン心理からジークの姿を見に行ってしまった自分を、心底後悔した――



「――っ、ティアに、確認して下さい」


 やっと解放されて、最初に出た言葉は、それだった。ティアに確認すれば、全てがハッキリする。


「《ジーク=モナーク》、ティアの幼馴染で、彼女に会いに来たんでしょう?」

「知っていたんですか!?」

「ミセスから報告は上がっていましたから、調べさせました」


 言いたいことは、色々ある。

 まず、ミセスはフェルナンド様に知られたら怒られると言っておきながら、とっくに教えていたことと、全てを知った上で、浮気だと私を責めたフェルナンド様のこと!


「酷い、皆、酷いです。やっぱり、ジークの方が優しい……!」

「へぇ? そこでまだ別の男の名前を出せるなんて、リーゼは凄いですね」

「嘘です! ごめんなさい!」


 やっと解放されたのにもう一度壁に押しつけようとするフェルナンド様を、必死で止める。


「あのっ、以前、私がどこで誰と何をしていようと、興味無いって言ってませんでした?」

「そんなこと言いましたか?」

「言いました!」

「すみません、まさか貴女が、平民の格好をして誰もお供をつけずに街へ出て、男と密会するだなんて思ってもいなかったので」

「密会って……ちゃんとミセスにも伝えていたのに」

「ええ、だから、まだ許しているんです」


(……まだ? もしかしてミセスに伝えてなかったら、もっと酷い目に合ってたの!?)


 フェルナンド様の台詞に、背筋がゾクリと凍った。


「ティアにも幼馴染の件は伝えています。彼に会いたいと言っていたので、近々、こちらから迎えを送ります」

「! 良かった……!」


 私の所為で二人が会えなくなってしまっていたら、罪悪感で押しつぶされるところだった。


「他人のことなんてどうでも良かったはずの貴女が、随分な変わりようですね」

「二人には、幸せになって欲しいですから」


 ジークの想いは届かないけど、それでも、好きな人の幸せを願って身を引けるジークの強さを、優しさを、リーゼにも見せてあげたかった。


(でも、今のリーゼは私)


 私が代わりに、しっかりと見届けますね。



 ◇◇◇



 結婚生活一ヶ月十六日目――



 今日は、ジークとティアが会う日だ。

 フェルナンド様は言葉通り、その日の内にジークに使いを出し、次の日である今日には、グリフィン公爵邸へ招待した。


「ジーク、私が公爵夫人であることとか、色々と黙っていて……本当にごめんなさい」


 応接室に通されたジークに、これまでのことを謝罪する。

 謝っても許してくれなくて当然、きっと、友達には戻れないんだろうな、って覚悟していたのに、ジークは優しく、許してくれた。


「リーゼ様は黙っていただけで、嘘はついていませんでした。僕の方こそ、公爵夫人に対して無礼な口の利き方をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「……あの、前みたいに、砕けた口調で話してもらうのは、駄目?」

「え?」


 急に距離を置かれたみたいで、悲しい。


「僕は別にいいけど……リーゼはいいの?」

「ええ、だって私、ジークのこと、大切な友達だと思ってるから」


 折角、出会えた、ティア(推し)仲間です。推しの良さを語り合える同士なんて、最高だもの。


「そっか、そう言ってもらって、僕も嬉しいよ。ありがとう、リーゼ」


 こんな私を許して、今まで通り友達でいてくれるなんて、やっぱりジークは、引くほど優しい!


「フェルナンド様も、グリフィン公爵邸に招待して頂き、ありがとうございます」

「……いいえ、聖女の望みなので」


(何でフェルナンド様は、そんなに不機嫌なんですか?)


 応接室には、私とジークの他に、笑顔だけど目の奥が笑っていないフェルナンド様の姿もあった。

 あれですか? ジークを自分の恋敵だと認識されているの? それは合ってるけど、ティアはフェルナンド様を選ぶんだから、心配ないのに。


「……ジーク兄さん……!」

「ティア!」


 遅れてやってきたティアは、ジークの姿を見た瞬間、涙が溢れた。


 故郷を離れ、単身、聖女として活動しなくてはいけない重圧は、想像を絶するくらい、大きいものだと思う。そんな中、年上の幼馴染で、兄と呼んで慕っていてたジークが目の前に現れたら、安心して泣いてしまっても無理はない。


「うう、会いたかった、寂しかった……ジーク兄さん……!」

「ティア……」


 二人で抱き合う姿を見て、私とフェルナンド様は、そっと席を外した。



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