17話 強烈な誤解
「ジーク、お待たせ」
「そんなに待ってないから、気にしないで」
ニルラルカ街の大きな広場の黄色いベンチが私達の待ち合わせ場所で、先に座っていたジークの隣に座ると、開口一番、心配そうに声をかけられた。
「こんなに連日付き合ってもらって、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
ジークとはこの機会を逃したら、彼は故郷に戻ってしまって、会えなくなってしまう。もし、会いに行こうと思えば会えたとしても、もう、私は彼に会う気は無かった。
(身分を隠しているし、これ以上を望むのは贅沢だもの)
ジークが故郷に戻ったら、私も、二度と会わない。そんな風に思っていた。
(ティア達が戻って来るのは一週間後だから、後、二日か。フェルナンド様に見付かって何か言われるのも嫌だし、念の為、会うのは今日で最後にしようかな)
怒られるいわれは無いけど、グリフィン公爵家の執事、ミセスの意見を丸々無視するのは、怖い。
(今日がジークと会う最後だから、いっぱい、ティアの話を聞いちゃおう)
「ねぇ、ジークは、ティアのどんなところを好きになったの?」
「んーそうだな、泣き虫で気弱だけど、優しくて一生懸命なところかな」
「おー、本当にティアのこと好きなのね! 私も、そんな風に誰かに愛されたいなぁ」
「リーゼなら、きっとすぐに見つかるよ」
「…………そうかな」
(現実、愛のない結婚をしていますけどね)
「でもティアは、僕のことをただの幼馴染としか思っていないと思うよ。それに、聖女になったティアには、僕よりもずっと、彼女に相応しい人が現れたかもしれないしね」
(その相手は私の旦那様なんですけどね)
「勢いでここまで来たけど、会いに来たことを迷惑がられたらどうしよう、って思うんだ」
「それは絶対にないよ、ティアは、ジークのことをとても大切に思っているから」
小説の中で、ティアはフェルナンド様を選んでしまったけど、決して、ジークのことが大切じゃなかったワケじゃない。ティアはジークを大切に思っていたし、ジークが故郷に帰ってしまった時は、寂しくて、涙を流していた。
「ジークが故郷に帰ったら、きっと、泣いちゃうんだろうな……」
推しが悲しんでいるのを見るのは、辛い。けど、こればかりは仕方ない。
「……リーゼ、君、ティアを知ってるの? 会ったことがあるのか?」
あ、思いっきり普通に話してしまった。私はただの平民として接していたから、ティアと面識があると思われてなかったのに!
「えーーーーっと」
何とか誤魔化そうと言葉を探すけど、全く何の言い訳も思いつかない。
「リーゼ?」
話を聞くためか、距離を詰めるジーク。
ど、どうしよう? もう隠せないかも、なんて、一人で焦っていたら、少し離れた場所から、私の名前を含む声が聞こえてきた。
「――――随分、楽しそうですね、リーゼ」
聞き慣れた、どこか冷たさを含んだ声が聞こえ、反射的に、体がビクッと反応する。
その声の主は私が想像していた通りの人で、明らかに怒っている雰囲気を醸し出していて、思わず、体が後退ってしまった。
「フェ、フェルナンド様? どうして、ここに?」
「ここに俺がいることに、何か不都合でも?」
「そういうワケじゃないですけど……」
色々と混乱してる。
あれ? 何で!? まだフェルナンド様とティアが戻ってくるのは先のはずなのに、何でこんなに早く戻って来てるの!?
小説では、戻って来るまでに一週間以上は経過したって書いていた。だからジークにもそう伝えたし、私も、そう思って動いていたのに!
「リーゼ? この人は?」
一人何も分からずに置いてけぼりのジークは、当然の疑問を投げかけた。
「ああ、自己紹介が遅れて失礼しました。俺はフェルナンド=グリフィン。そこにいるリーゼの、夫です」
「夫って……リーゼ、君、結婚してたのか!?」
「う、うん」
「成程、既婚者であることを黙って、いかがわしい関係を持っていたんですね」
「いかがわしい関係って、変なこと言わないで下さい! 私とジークは、そんなんじゃありません! ただの、お友達です!」
何やら強烈な誤解をされているみたいなので、必死で否定する。
「……グリフィンって……失礼ですが、まさかフェルナンド様は――グリフィン公爵家当主ですか?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、リーゼは、公爵夫人なのか……」
ああ、ジークに全部バレた。何もバレないまま、綺麗にお別れしようと思っていたのに!
「大変失礼しました、フェルナンド様。まさかリーゼが公爵夫人だとは知らず、こうして彼女を何度も呼び出してしまったことを謝罪します。ですが、僕とリーゼは、貴方が思っているような関係ではありません」
フェルナンド様に向かって頭を下げて謝罪し、関係を否定するジーク。
うう、ジークを巻き込んでしまったことに、強い罪悪感……! ジークは何も悪くないのに!
「構いませんよ、俺がいない間、妻と仲良くして頂いてありがとうございました。ですが今日のところは、妻を連れて帰ってもいいですか?」
「はい、勿論です」
勝手に話は進んでるけど、私は帰りたくない! だってフェルナンド様、顔は笑ってるけど、目が笑ってない! すっっごい怒ってるよね? 何で!?
(私が誰と何をしていても、興味無いんじゃないの?)
「では、帰りましょう、リーゼ」
帰りたくはないけど、私にフェルナンド様を拒否することは出来なくて、渋々、その手を取り、エスコートされるまま、馬車に乗り込んだ。
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