16話 二人目の友人
――その後、ジークの手も借り、母親は無事に見つけることが出来た。
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
最後には、私にも笑顔で手を振ってくれるようになって、可愛いー! って思いながら、私も手を振り返した。
「良かったね、母親がちゃんと見付かって」
「ジーク、ミナちゃんのお母さんを探すのを手伝ってくれて、ありがとう。本当に助かったの、私だけじゃ、ミナちゃんを泣き止ますことも出来なかったと思うから」
「全然いいよ、君だって、善意でミナを助けようとしただろ? それと同じ、気にしないで」
本心で言っているのが伝わる、優しい笑み。
(ジークも、フェルナンド様とは違う系統だけど、爽やかで格好良いよね。優しいお兄さんって感じで、正統派の主人公って感じがする)
「君の名前を聞いてもいい?」
「私は、リーゼよ」
「リーゼか、うん、覚えた。リーゼはこの街の人? それなら、グリフィン公爵邸がどこにあるか知らないかな? ティアに――聖女に会いに来たんだけど」
「……知ってはいるけど、今行っても、聖女は留守よ。一週間くらいは、戻ってこないと思う」
「あ、そうなんだ」
もう一日早く来ていれば、旅に出る前のティアに会えたのに。それなら……まだ、間に合ったかもしれないのに。
(本当は、ジークのことを応援してあげたい)
正直、私はティアの相手には、フェルナンド様よりも、ジーク派だった。
フェルナンド様よりも遥かに優しそうだし、ずっとティアのことを想ってて一途だし、純粋だし、ジークの方がティアに相応しい! なんて思いながら、小説を読んでた。※ 旦那様に対する批判ではありません。感想を述べただけです。
(でも、こればっかりは仕方ないの! 世界の平和のためにも、あの二人には、協力して汚染された土地を癒してもらわないと!)
「教えてくれてありがとう。じゃあ、ティアが戻って来るまで、この街で待つことにするよ」
私の心の葛藤なんて知る由もないジークは、そのまま、会話を続けた。
「もしリーゼさえ良ければ、この街にいる間、僕の話し相手になってくれない?」
「え?」
「この街に来たのは初めてで、知り合いと呼べる知り合いもいないし、リーゼさえ良ければ、暇な時にでも相手をしてくれれば、嬉しい」
「あ、はい、私でよければ」
本当は、ジークと直接会う気はなくて、ただ、ジークがこの街に来ているかの確認と、ほんの少し、お顔を確認出来たらそれで良くて、その後は、挿絵のシーンを実際に見るまで、大人しくしているつもりだった。
ただ、実際に会ってみたらジークは想像以上に優しくて、良い人で、もっとお話ししてみたいなって思った。
(何より、小説にも載っていない、ティアの過去話が聞けるかもしれない!)
――――なんて、ファン心理が働いてしまったことを、のちにとても後悔することになるとは、夢にも思わなかった。
◇◇◇
結婚生活一ヶ月十五日目――
今日でジークと出会って五日目、あれから、ジークとは毎日、街で会っている。
特に何かしているわけでもなく、本当に他愛もない会話をしているだけで、その中には、私が望んでいたティアの話もあって、ジークは私に、ティアが初恋の相手で、今もずっと想い続けていることを教えてくれた。
『別に、付き合いたいとかそんなんじゃないんだ。ただ、気持ちを伝えておきたくて……』
話を聞いているだけで、ジークがどれほどティアを好きかが伝わってきて、結末が分かるだけに切なくて、でも、ジークが前を向くためにもティアとの別れは必要だとも思うから、私は何も言わず、ただ、話を聞いていた。
ほんの少しでも、ジークの気持ちが明るいものになればいい、そう、思って話を聞いていた。
「リーゼ様、今日も街へお出掛けですか?」
「ええ、言ったでしょ? ティアの幼馴染と会ってるの」
市民の格好をして出かけようとしている私に、執事のミセスは、明らかに怪訝そうな表情を隠す気も無く尋ねた。
「別にリーゼ様がお会いする必要は無いと思います、しかも、そのような格好までして」
「貴族の格好で行ったら目立つじゃない。それに、ジークには私の正体は話していないし」
最後まで明かすつもりはない。
私はただ、ティアが戻る頃にグリフィン公爵邸までジークを案内して、こっそりと挿絵の瞬間を見届けるだけ。
「フェルナンド様がお知りになったら怒られますよ」
「何でフェルナンド様が怒るの? 私はただ、友達に会いに行っているだけよ」
感覚では、ジークも、もう私の友達だと思ってる。ティアに続いて、二人目の友人だから、嬉しい。
「…………はぁ、もうお好きにして下さい」
深いため息を吐かれたのは気になったけど、待ち合わせまで時間が無いのもあって、そのまま家を出た。
(フェルナンド様が怒る? 友人に会いに行っただけで? 私のことに興味のないフェルナンド様は、私が外で何をしていようが、誰と会っていようが、気にしない気がするけど)
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