第34話 ペレイアの街
ペレイアは、ラボス村よりずっと大きな集落だった。
街をつらぬくように、水路が流れている。
石垣で造られた大きな水路だ。おとなの背丈でふたり分ぐらいの幅だろう。そこにいくつかの橋がかかり、水車もあった。水路の左右に家は密集している。
街の家は二階建てが多かったが、ひときわ高いものがふたつ。細長く建てられた塔と、櫓を組んだ見はり台があった。
着いたときにはグールとの戦闘中、そんなことも想定していたが、街はおだやかな風がふいている。
道ばたでは婦人たちが世間話に興じていたし、野菜を運ぶ驢馬の音も、かっぽかっぽとのんびりしたものだった。
ここまでグールは来ていない。ほっと胸をなでおろす。
馬は街の入口にあった木につないだ。ドーリクだけ、馬房をさがしにいく。
「のんきなもんだな」
あきれたようなラティオだ。
「住民がのんきなのはよいが、街の外にも、なかにも、どこも警備の者が見えん」
そう言われれば、ラボスでは村の両端に見はり台があり、だれかが常にいた。この街には中央に高い見はり台が見えるが、人影はない。
街一番の大通りは、水路の両側にそってある。その大通りに面して店がならんでいた。
歩いていくと、建ちならぶ店のなかに塔があった。遠くからでも見えた細長い建物。入口にアッシリアの旗がかかげられている。
「塔が兵士の詰所か」
グラヌスが入っていく。なぜか、すぐにでてきた。
「だれも、おらぬ。そんなことがあるのか」
ぼくはラティオと見あった。そんなことは、おおいにある。
「イーリク、兵士をさがそう。グールは街外れの民家まできているのだ」
グラヌスとイーリクが駆けていく。残ったぼくらはどうしようかと思ったとき、会いたかった顔を見つけた。
「おじいさん!」
おじいさんもぼくがわかったようだ。
「おお、セオドロスの息子、アトボロスか」
おじいさんに駆けよる。
「だいじょうぶでしたか」
「おまえさんが去ったあと、考えての。あぶないと言われて家にいるのもどうかと」
よかった。おじいさんには、ぼくは何度も強く避難するように勧めた。そのときは伝わらなくとも、あとになって意味がある、そういうこともあるのか。
「おじいさんの家、襲われてました」
「なんとな!」
「しばらくは、帰らないほうがいいと思います」
「わしの家はどうなっとった?」
おじいさんの顔が青くなっている。言うべきか迷ったが、隠していてもなにもならない。
「母屋は半分ほど崩れています」
おじいさんが地面に座りこんだ。無理もない。
「ちょっと、あんた! 老人になにやってんだい」
ぼくが? 声をあげたのは通りがかった婦人だ。
「ひっ、猿人!」
ぼくは猿人ではない。そう言おうとしたが、うしろにいるのはラティオとボンフェラートだった。
大通りに面した家や店から、次々に人がでてきた。ぼくらを囲む。
「なにをしておるか!」
剣を腰にさした男があらわれた。兵士というより、肉屋を思いださせるような腹のでた男だ。すこし顔が赤い。なんだか足取りもふらついている。
「兵士長、どうされました?」
もうふたり、兵士があらわれた。
「敵が入ってきておる、ひっとらえよ!」
「待ってください!」
言い返そうとしたぼくの肩をラティオが押さえた。
「あれ、酔ってるぜ。へたなことは言わないほうがいい」
あれよあれよという前に、ぼくとラティオ、ボンフェラートさんは後手にひもで縛られた。
「ちょっと通していただきたい」
人混みをかきわける声が聞こえた。グラヌスだ。
グラヌスは、ぼくらを見てぎょっとした。近よってこようとしたが、ラティオが首をふった。近よるな! という合図だ。
「ほら、歩け」
兵士長と呼ばれた男がせかした。さきほど見た塔の建物に連れていくらしい。
「さっさと歩かんか!」
後手に縛られたラティオの背中が蹴られた。つんのめって顔から地面にこける。
あわててラティオに駆けよった。
「ラティオ、だいじょうぶ?」
「ああ、世話ねえ。だが、嫌な予感がするぜ」
嫌な予感? その時、うしろで剣をぬく音が聞こえた。
「わが友に対し、あるまじき行為。このグラヌス、ラティオ殿が許すと言われても、おまえを許さん!」
ラティオは盛大にため息をついた。
「あいつ、人のことになると、すぐかっとなる性格だ」
その通りだと思ったが、グラヌスはラティオを友と呼んだ。ぼくにはそっちのほうが、とても重要に思えた。
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