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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十話 ゲヘナにて愛を謳う者達 上
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15:エピローグ

 




「毒は特定悪魔攻略時に極稀に手にいれられる毒袋を基に作成する事できます。ただし、αテストでは未実装です」


 射撃をしながらアリスに問いかければそんな台詞を口にした。実装済みの割には初耳であったし、使われたのも今回が初めてなんじゃないだろうか?BC兵器が実用されているとなると今後が面倒だとは思うが……今回だけではないだろうか。そう思った。あまりにも『彼』らしくないものだから、というのが理由だった。きっと材料は早々手に入る物ではないだろう。例えば数十人から百人近くの人間の死体が必要とか、そんなものだろう。


「……リンカ、死んじゃったわねぇ」


 屋上のコンクリの上でしゃがみながら、WIZARDが双眼鏡越しにその子の死んだ場所を見ていた。


「殺したのは僕だけどね」


 距離的にそれなりにあった所為か経験値は得られず、城主認定もされなかったようだった。その事に興味はないが……


「ちょっと残念ねぇ……ハァ」


「らしくもないし、君の所為でここに来るのに時間が掛ったわけだが……。が、同意見だ」


 彼女がそれまでに殺したであろう死体、それらを見るに見事としか言いようがなかった。鋭利な刃物でもここまで綺麗に切れるだろうかと思えるぐらいのものだった。


 もっとも、それを知ったのはついさっきの事だった。


 僕達はつい先程、この場に辿りついた。


 徒歩で九州まで何日かかっただろう。既に戦闘になっているかもしれないと思い、高い所から見渡せば既に戦闘は末期だった。双眼鏡越しにWIZARDがあの子と指差し、僕は僕でXM-9のスコープ越しにそれを確認し、すぐさま周囲のプレイヤーを撃ち殺した。


「殺されたくせにとってもいい笑顔だったわよね。それだけが救い……になるかな。仕方ないわね、シズぅ。今回だけは浮気認定はしないであげる」


「ランカーは全員碌な死に方しないわよ、とか格好良く言っていた記憶があるんだが?というかそもそも僕は彼女と面識がないのだけれど……いや、どこかで見た事はあるのか?」


 全く記憶にはない。


 が、あの最後に見せた笑顔はどこかで見た事があったかもしれない、そんな風に思えた。例えば、公園のベンチで本を読んでいる時に、『隣、良いですか?』と妙に照れたように問い掛けて来た人のような……いや、流石に気のせいだろう。


「それはそれ、これはこれよ。僅かなりと関りのあった人が亡くなると、少しは思う所もあるのよ」


 そう言って、苦笑を浮かべた。


「SCYTHEの時もそんな感じだったな」


「……そうだったかしら」


 次いでしゃがんだまま肩を竦める。器用なものだった。ともあれ、今は話掛けて欲しくないようで、WIZARDは呆と彼女の死んだ場所を見つめ続けていた。


「フラットスタイル御嬢様……怖い人でしたけど、好きな人に殺されて本望かもしれませんね!」


「……君の思考はいつも分からないが、今日は特に分からないな」


「んもう!私が殺されそうになったのも鬼畜様の所為だったんですからね!忘れたとは言わせませんっ!」


 びしっと指先を僕に向けて来るアリス。


 そのアリスは、新しくWIZARDが作った服を着ていた。ゴシックロリータと言っただろうか。フリフリしていたり、ヒラヒラしていたり、忙しない格好だった。その姿を見ると、どうしてもSCYTHEの事を思い出してしまう。


 SCYTHEにしても、リンカと呼ばれた少女にしても、どうしてこう巧く人が殺せる人は死ぬのだろうか。残念極まりない。もはやそういう希望は持てないのだろうか。僕はそういう星の下に産まれて来たのだろうか。残念、極まりない。


「―――だから、これはただの八つ当たりだ」


 未だその場に残っていたNPC、プレイヤーを一人、一人仕留めて行く。


「鬼畜様は時折、優しいですねぇ……歪みまくっていて判断し辛いですけれど」


 僕の隣に立ち、WIZARDと同じ型の双眼鏡で現場を眺めながら、アリスはそんな事を言った。見当違いも甚だしい。死んだ彼女の仇を取っているわけでもなければ、手向けというわけでもない。僕の楽しみを奪った者達への個人的な制裁でしかない。


「あ、あれ?今……」


 リロード、リロードと何度もリロードしながら丁度50人に達しそうかという所で、アリスが驚きに首を傾げた。


「や、やっぱりです!き、鬼畜様!御嬢様の刀がなくなっています!」


「スカベンジャーが持っていったとかじゃないか?」


 顔を向けるのも面倒くさく、更に引き金を引いて行く。


「そこの人形の言う通りよ、誰かが回収したっぽいわ。私の注意とシズぅの攻撃を避けて」


 黙ったままその場をずっと見ていたWIZARDだから気付いたのだろうか。けれど、彼女の死体の周囲は一番に全部殺している。それにも関らず、彼女の亡骸の近くに落ちていた刀を持っていけば、その場をずっと見ていたWIZARDの視界に入るだろう。


「見逃しは無かったと思うんだが」


「そうね。私もそうよ……気付いたらなくなっていたわ。怪奇現象発生といった所かしら?」


 デジタル世界に怪奇現象も何もないだろう。WIZARDも当然、それを理解していて、苦笑を浮かべていた。何を馬鹿な事を言っているのかしら、私、と。


 そんな風に互いに苦笑を浮かべる僕達に向かって、手をわたわたとさせ、服をひらひらとさえ、慌ただしくアリスが言おうとして、


「わ、私ちょっと見えた気がします!あの人―――は……いえ?違います。あの人は……………………………………………………」


 止まった。


 一瞬、とうとうエーアイがおかしくなったかと思ったが、NPC然とした表情を浮かべ、何かを検索しているようだった。脳に刻まれたデジタルデータの読み取りに失敗し、それの復元を試みながら何度も何度もトライしているようにさえ思えた。その証拠に、時折、唸るような声が聞こえる。ぶつぶつと『違う、違う、違う、違う、あれはそうじゃない。違う。違う』そんな言葉を呟きながら、延々と。気のせいか時折、彼女の頭上に記載されている名前がちらついているように見えた。


「そうです。違うのです。違うのは名前なのです。えぇ、そうなのです。あれは……今、あそこに居たのは………………………」


 彼女が次に口にした言葉の御蔭で、次の行き先が決定した。


 ここにはいないはずの……以前、本人を見て知らないと言った






 ―――間違いありません。ネロ様です。






 NEROの下へ。






―――






「へぇ、毒……ねぇ。ありがと、良い情報だよ」


 椅子に座りながら、それを教えてくれたに言葉を告げる。


 良い情報とは言ったものの作る気はなかった。あまりにも『彼』らしくない、もはや兵器の類であり、何らかのペナルティがあるだろうことは容易に想像がついた。


 さておき。


 ここ一週間ほどは激動の日々だった。もっとも私自身が激動だったわけではなく、ランキングとか城主の関係が、である。


 まずはじめに、DEMON LORDがいなくなった。きっとキリエも死んだ事だろう。馬鹿な子だ。私が助け舟を出していれば助かっただろうか?いいや、そんな事はない。あの子が死んだのは必然だ。そもそも僕に挑んできた段階で分かっていた事だ。感情にとらわれ過ぎている。流石、『僕』の娘だと思う。しかし、キリエを殺したのはSISTERとBLACK LILIY---間違いなく『彼』の妹であるキョウコ―――のどちらだろうか?その事だけは少し興味が沸いた。仇を取ってやるなんて事は言わないけれど、情報としては大事なものだ。それに、NPCを玩具にしているみたいだし、そろそろ真面目に打倒するべきだろう。


 そして、その合間というかDEMON LORDが死ぬ直前、戦ったROUND TALBEのギルドマスター。リンカと呼ばれていた者。あれは……不愉快なものだった。『所詮、素人とよね』なんてどこかの誰かの様な事を私に言いやがった。防御無視攻撃スキルという使い勝手の悪いものを十全に使える辺り玄人なのは確かだが……だが、そんな事は関係ない。私相手にあんな台詞を吐く奴は殺すべきだった。残念ながら、痛み分けになったが……その日は相当荒れた事を自覚している。


 そして、そのリンカも先日の戦闘で亡くなった。


 最終的に誰が殺したかは分からなかったが……今、話を聞いて分かった。


 Czだ。


 遠距離攻撃で高レベルプレイヤーやNPCを殺しながらも間断なく攻撃できるプレイヤーなどアレしかいない。そして、その事が今、私を非常に不愉快にしている。


『WIZARDらしき人物と他に一人、女を連れていた。恐らく情報にあったNPCだろう』


 Czは完全に私を裏切ったのだ。


 彼が連れているNPCはイリスに間違いない。まったく……本当……最悪な事をしてくれる。


「それでね、NEROちゃん。九州平定のために力を貸してくれるっていう話なんだけれどー!」


 気色悪い声が脳裏に響く。幼子のような声、幼子の様な仕草、何もかもが作られた不愉快な仕草だった。


 ヴィクトリア=ぷりん。中国地方の城主だった。


 情報提供と交換でNPCを戦闘に使う事、さらには私自身に手を貸して欲しいという話だった。背に腹は代えられないといった所だろうか。


「あぁ、その件ね」


 どきどき、わくわく。そんな仕草だろうか。


 全く……


「勿論、手伝うわけないよ」


 そんなもので私が騙されるわけがないだろう。


 一瞬の停滞。絶句と言う奴だ。その隙をついてFN P90を取り出し、引き金を引く。パラパラと小気味良い音と共に、少女だったものに穴が開いて行く。


「そ、そんな。この、この私が……」


「私を騙そうなんて100年早いよ。騙すならもっと本気でやらないと……騙されてやるわけにはいかないだろう?」


 その頭をブーツで踏み抜いた。




『中国地方 現城主 ヴィトリア=ぷりん が打倒されました。NERO が 中国地方 の城主となりました。以後、 中国地方 は城主の設定した法令に従い運営されます』






 そんなアナウンスが流れた。


 なぁに。中国地方だけとは言わない。すぐに北陸、関西、中部、四国、九州、その全ての城を手に入れてみせよう。




「Cz、君が悪いんだよ?」




 まぁでも、これだけは祝福してあげるとしよう。


 私の予想は確かだっただろう?




「それにしても、ネタ切れって感じなのかな?……ねぇ、神様?」





 1位 NERO


 2位 WIZARD


 3位 SISTER


 4位 BLACK LILIY


 5位 Cz










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