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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十話 ゲヘナにて愛を謳う者達 上
91/116

07




 この世界では物を作る事ができる。


 設計図というアイテムも確かにあるが、それ以外でも物は作る事ができる。比較的、簡単な物で言えば、木材を削って作った椅子や机があげられる。他にもそういうのが好きな者達は色々な物を作っていた。どれもこれも大して役に立つわけではなく、手慰みのようなものだ。現実世界のことを思い出しながら、想い出に浸りながら作るのは慰めには良いだろう。もっとも、そういう者達の作った物の御蔭で生きながらえたのだから、悪し様にいうのも罰が当たるというものだ。そう。ユーザーメイドだといえ、全てが無駄というわけではない。


 現実でいえば、オブラート。それに似た物。実際には胃の中で溶けない材料で作られており、腹を下してもおかしくない。が、この世界ではそれを体内に取り入れても悪影響を与えると言う事はない。それに、あったとしても死ぬよりはましだった。


 オブラートに似たそれに回復アイテムを砕いて包み、奥歯の後ろに隠した。HPが0でなければ回復アイテムで即座に生き返られるのがこの世界のルール。HP0になる直前にそれを飲み込んで回復できれば御の字だった。回復する間もなく、死ぬ可能性もあった。部の悪い危険な賭けではあったが、私は勝った。


 とはいえ、頭をかち割られ、死にそうになった状態から生き返るというのは聊か辛いものであった。このまま死んでしまった方が楽なのではないかと思えるぐらいであった。それでも死ななかったのは、私の生きようという意志の方が強かったからだろう。


 ヴィクトリア=ぷりんという心底ふざけた名前を付けたキャラクター、それが今の私である。


 リンカの攻撃を受けて、死んだ振りをして、リンカが立ち去った後に脱走。ベルンハルトの手引きで中国地方まで逃げる事が出来た。


 残念ながら加賀は死んだらしい。


 事後、ベルンハルトにそう聞いた。ベルンハルト自身も殺されそうになった所為でルチレーティッド相手にかなり文句を言っていた。愚痴のようなそれを『怖かったね。もう大丈夫だよ』と慰めた。御蔭でベルンハルトからの信用は揺るぎないものになった。


 しかし、よもやルチレーティッドが加賀やベルンハルトを殺そうとするとは思いもよらなかった。ルチレーティッドは『表向きリンカに反発しているように見えるが、その実リンカの信者である』という想像はついていた。が、それでも最後にはリンカに対して抗うと思っていた。彼とて死にたくはなかっただろうに……。そう思っていた。それが間違いだったのだろう。私は彼の気質を把握し間違えていたのだ。リンカに殺されるならそれを是とする程の狂信だったのだろう。私には全く理解できない考えだが、そういう人間がいる事も認めよう。人間は多様である。故に、そういう人間がいてもおかしくはない。


 まして、私の様な人間もいるのだから。


「ヴィクトリア様……いつこの城を奪い取るのでしょうか?リンカの横暴は目に余ります。……我々はあとどれだけ待たなければならないのでしょうか?」


「うん、そうだねー。でも、今表舞台に立っても負けるよ。リンカは狡猾だからね。だから……んーっとねぇ……NEROとかLAST JUDGEMENTとDEMON LORDの戦いが収まった頃が一番都合は良いんだよねー」


 舌足らずな喋り方をしながら、そう口にする。


 私は、私が今表舞台に立つには尚早だと考えている。


 LAST JUDGEMENTとDEMON LORD、これらの戦いは私に、私達には直接関係がない。しかし、そこにおいてNEROがどう動くかは気になっていた。LAST JUDGEMENTはNPCを傭兵として使っている。だから、NEROがLAST JUDGEMENTを後ろから攻撃し始める可能性もなくはない。


 私が考えるに、この世界で一番勝利者に近いのはNEROだ。


 WIZARDは個人であるが故にそれ程脅威はない。NEROも個人と言う意味では同じだが、NPCの軍団を所持している。それを行使する事を厭わない。NERO個人の戦闘能力も高いが故に、NEROが一番勝利者に近いと考えている。それを相手に戦争を仕掛けるのは愚の骨頂である。


 にもかかわらず、リンカも春もそれを良しとして戦争を始めてしまった。


 愚かである。


 NEROと戦うには尚早だった。NEROを相手取るならば、中国地方だけではなく、四国、関西を押さえて、その他の地域を緩衝地域として残しつつ、更に戦力を増してからやるべきだった。


 愚かである。


 今、ROUND TABLEがNEROとの戦争に---可能性は低いが―――勝利で終わるならばよし、そうでないのならば戦争が収まった後が私の立つタイミングとしては最適だ。前者であればNEROとの戦いで数多くのギルドメンバーを殺したリンカを糾弾し、後者であればROUND TABLEを敗北に導いたリンカを引きずり落とすためという名目で私が立つ。理想的なタイミングとしてはそれが一番良いと考えている。


 もっとも、前者の可能性はかなり低い。その可能性を論ずる事自体がナンセンスだ。前提として間違っている。勝てると分かっていればそもそも私はリンカと春を応援した事だろう。勝てないと判断したからこそ、今があるのだ。


 加えて、負けるにしても、ROUND TALBEの被害は少ない事が前提である。勝とうと負けようと戦争が長引くと、今後行動するための戦力が足りなくなる。人間は増える事がないのだから。確かにNPCの補充は可能だ。だが、アレは融通が聞かない点で雑兵以外にあまり取り入れたいものではない。まして負けた後にそれをやれば、NEROの追撃が恐ろしい。


 だから、早々に負けを宣言し九州まで引いてくれる事を期待したいが……リンカでは無理だろう。ギルドメンバー全員を地獄へと引き摺り込んでも止まらないだろう。


 故に、負けるにしても負け方が大事であり、その見極めが重要だった。


 完敗を避ける事を考え、更には今後のことを考えれば、円卓の……少なくともグリード、シホ、ゆかり、春秋が生きている間に九州の城は落としたいと考えている。


 それが現実的なタイミングとしては最良だろう。


 勿論、そのタイミングの見極めは相当に難しい。


 或いは、リンカについていけないと、ギルドメンバー達が暴動を起こす直前。暴動の首謀者として私が立ち上がるのも良い。これも可能性としては高いだろう。


 罪なく殺されそうになったという事に加えて、ルチレーティッドと共謀して春を殺したという事にでもしておけば馬鹿な奴らは疑う事なく私についてくるだろう。これでも、エリナがいなくなって以降、最大派閥の長だったのだから。


 正直な所をいえば、こんな作られたキャラを相手に何をそこまで入れ込む事があろうか、と思う。ベルンハルト辺りは異常だ。こんな女として魅力も無い体躯を支配し、犯したいのだろうか。まぁ、その分簡単に動いてくれるので良いのだが……。これから先も役に立つかと言われれば微妙な所だ。


 しかし……


「どうしてこんな事になったのだろう」


 会話していた相手が退出し、部屋に一人。呆と、そう口にする。


 思い返せば、リンカが関東へ攻め入る事を決めたのが発端だろう。


 なおかつ、その理由が男狂いだと言う事を春から聞いたのが原因だろう。


 別にリンカが男に懸想するのは悪いとは思わない。が、ギルドを巻き込むのは論外だ。せめてでも、懸想相手を探索する程度で留めておいてくれれば良かったのだ。NEROの所に居るのが分かった段階で逃げ足の速い情報部隊に捕まえてこさせれば良かったのだ。そうすれば私も春を殺す計画を立てたり、リンカを陥れる計画を立てたりしなくても良かった。


 そんな事を……時折、思う。


 中国地方の城に移動してからというもの、部屋に一人でいると時折、そんな事を思い浮かべてしまう。


 例えば、そう。


 例えば、誰かに誘導されたかのような、そんな気持ち悪さを感じる。


 そんな事が出来る人間がいるとするならば、春しかいない。


 春。


 私は彼を尊敬していた。


 いや、今でも尊敬している。自分で殺しておいて何を言っているのかという話ではあるのだが……彼の最後の姿は今でも覚えている。


『あぁ、僕を殺すのは君か。……なるほどね。リンカの代わりに君が立つ、か。…………まぁ、精々、がんばってよ』


 楽しい物を見た小学生のような笑みを浮かべて、彼は亡くなった。何の恨み辛みも無く、痛みすら感じていないかのように静かに彼は死んだ。


 まるで人形を殺したような、そんな気分に陥った。


 けれど、それもまた彼らしいと私は思った。


 死を前にしてもそれとは実に達観している。死を前にして本性が表れる者達を大量に見てきた。怒り、嘆き、恨み、憎しみ、悲しみ、感情に囚われる動物としてのサガを見たかのようで、それを私は醜いと感じていた。だからこそ。それが故に、私の尊敬は彼の死後も消えていない。


 この世界が普通のゲームであれば、春の事を気に入った私は、春が大人になった段階で彼を自分の会社に誘っていた事だろう。それぐらいの才能を感じていたし、それぐらいの権限を私は持っているのだ。


 あぁ……そうだった。


 リンカが私の頭をかち割った時に言っていた言葉……私の名前と私が勤めている会社、その職位。


 それを何故、春が知っていたのだろう。


 私はこうしてヴィクトリア=ぷりんという道化のロールを止めた事がない。誰にも『私』という存在を教えた事はない。


 故に、疑問だった。


 春の事である。私が男なのは初対面で見破った事だろう。初対面で見せたあの嘘暴きを思えば当然、見破っていた事だろう。あの嘘暴き、あの瞬間私は引きこまれた。僅かな恐怖と共に面白い人間だと思った。この男が長となったらどれだけ面白いだろうか。そんな期待を胸に抱いた。彼ならば私が何をしていても使いこなすだろう。そう思っていた。そんな風に思った相手など現実にもいないというのに。だから楽しみだった。本当に、私は楽しみにしていた。


 けれど、春はギルドマスターにならなかった。


 彼がギルドマスターとしていてくれればこんな状況には陥っていなかったはずだ。彼がリンカにギルドマスターを任せたのが……間違いだったのだ。確かに、男狂いな部分を除けばリンカは怠惰ではあるが、気の良い面倒見の良い、しかし締める所は締められるギルドマスターである。だが、狂ってしまってはそんなもの何の意味もない。だから、春がリンカをギルドマスターにしたのは間違いだったのだ。春とリンカの立ち位置が違えばこんな事にはなっていなかった……それだけは春の間違いだったのだ。


 だが、彼が間違えるか?というとそれも疑問ではあった。


 あるいは、最初からそうであろうとしたのかもしれない。……いや、流石に考え過ぎだろう。彼とて人間だ。間違いを犯す事もあるだろう。


 ともあれ、春は運営側の……この世界を作った神様の側の人間だとでもいうのだろうか?そんな事を思う。私のプロフィールを知っている以上、可能性としては0ではなく、それなりに高いだろうが、神様本人がサバイバルゲーム内で死ぬ事を是とするとも思えない。いや、あるいは現実世界に戻って高笑いをしているのかもしれない。……いや、これも考え過ぎだ。そもそも確かめる術がない以上、考えても無駄な事だ。矛盾なき公理系の中であっては、その公理の正しさを示せないのと同じだ。世界に住まう者に、世界の外の事など分かるはずもない。


「……ふぅ」


 それよりも今は、今後どうするか、だ。


 今、私は中国地方の城にいる。


 リンカは基本的に面倒臭がり屋であり、自分が治めているとはいえ態々こちらを確認しに来る事はない。当初はエリナが治める予定だったが、そのエリナはリンカに殺されている。結果、現状は誰も支配してない空城である。防衛には人が多数配置されてはいるものの、主無き空城である。御蔭で私は、事前準備として、勝手気ままにこの城に配置された者を私の派閥の者達に変えられた。


 そろそろベルンハルトがリンカから正式にこの城を譲り受けて来るだろう。そうなれば、その時こそ---名実共にとはいえないが―――この城の主は私となる。ベルンハルトは、金稼ぎは得意であっても、人心を掌握する気概も器量もない。


 その他の者たちも……と、ぼんやりと円卓の者達の姿を思い浮かべる。


 王となれる気概と器量を持つ者はいないが、役に立つ人材であるのは確かだ。特に最初に春の下に集った者達はこちらに来てくれる可能性は高いが故に誘えるならばすぐに誘いたいものである。グリード辺りは春を弟の様に可愛がっていたので、真実ウソを伝えれば来てくれるだろう。シホはグリードが来れば一緒にくるだろう。ゆかりも春の事は気に入っていたようだし、春秋共々来てくれるだろう。


 そもそも私達は春の下へ集ったのだから。春がいなくなればリンカに従う理由は無い。彼らはその真実うそを知れば、こちらに来てくれるだろう。


「……ふんっ!」


 可愛らしい鼻が鳴った。


 『だろう』『だろう』『だろう』『だろう』。


 そんな不確かさを信じて行動するのは私らしくもない。世の中すべてが決定論的に決まるわけではない。しかし、だからといって、何もかもを可能性で進めるのは愚の骨頂だ。


 私がこんな『だろう』に頼らなければならない状況に至ったのを、格好悪く誰かの所為にするならば、やはりリンカの所為というべきだろう。


 あの狂人リンカがこの世界に存在していた事自体が問題なのだ。


 アレがいなければ春が王となっていた。


 そうすれば私が何かをする事はなかったし、面倒な計画を立てる必要もなかった。きっと今ものんびり過ごしていた事だろう。


 だが、この世界に狂人リンカがいた。


 それが故に春はいなくなってしまった。


 私が殺してしまった。私が殺さざるを得なくなってしまった。


 人を殺した言い訳にしては最低の部類だな、と自分でも思う。だが……それでも尚、そう思ってしまう。リンカがいなければ、春が王であってくれれば、と。


「……ごめんね、はいわないよぉ?」


 代わりに私が王になろうと思う。


 春亡き今、王の資質を持つ者はいない。


 私がその立場に立つしかない。


 私が立てばROUND TALBEは繁栄する。リンカのような気狂いが女王であるよりも、その方がギルドとしての生存率も高い。


 私が皆を導くのだ。


 そう心に誓ったのと同時に、自然、身体の奥に、腹の奥に熱が籠る。


「全く……」


 女の身体というのは男の体と違って面倒なものだと感じる。


 そもそも私がこのゲームのテスターに応募したのは、別段女になりたかったから、ではない。言葉と仕草だけで人はどこまで操れるか?それを試したかっただけだ。コミュニケーションというと若干語弊がある。対話の訓練と言った方が良いだろうか。今の会社でより上に昇るためにはそういう訓練も必要だった。男を乗せる言葉、女を乗せる言葉あるいはその逆。それらを実地で訓練したいがためにゲームのテスターに応募した。決め手は匂いだった。女性の匂い、それが男に及ぼす影響を知りたかった。


 それがこんなデスゲーム―――あまりゲームをした事がないので、開始当初は良く分かっていなかったが―――になってしまった。こうなってしまっては今の会社でこれ以上は望めない。現実世界に帰った所で今の地位は失われている。良い歳をしてゲームをやってそれで帰って来られなくなったなど話にもならない。自己管理の範疇を超えた事象ではあるが、それで許されるほど社会というものは甘くはない。私が抱えていた案件、それらに携わった者達には迷惑を掛けた事だろう。取引先からの信用も失った事だろう。会社への損失という意味では相当だ。それを無かった事にしてくれるほど優しい会社ではない。


 人間は社会性の動物だ。


 一人で生きていると思ってもそんな事はあり得ない。私一人が抜けた事で不幸になった者達はごまんといる。それは確信を持って言える。


 故に、私は帰りたいとは思っていない。


 今更帰った所で何が得られるわけもない。失うだけだ。なれば、この世界で生きながらえる事を考える他に選択肢はない。


 誰かに家族の事が心配ではないか?と問われた事がある。


 嫁がいる。大学生の娘がいる。高校生の息子もいる。彼女ら、彼らの事は酷く心配だ。だが、今更帰った所でどうだというのだ。私が戻らず、死なず、生きている間は同情を買え、会社も体裁を考えて保証している事だろう。けれど、戻ってしまえば、目に見えぬ制裁が下る。結果、職を失い、今更この歳で再就職など望めない。叶ったとしても給与は半分にも満たないだろう。大黒柱としての役割を全うできず、路頭に迷わせる事になるならば、良く分からないゲームに大量の人間が取り込まれ、これによって死んだと思われた方がましだ。ましてこの世界から戻ったと言う事は参加者全員を殺した事と同義だ。例えこの世界のルールを外の世界の人間が知らなくても私以外全員死んでいるのだ。どうあがいても疑われる。そして、殺人鬼の親を持った子供、嫁などと周囲に言われるぐらいならば、私はこのゲーム内で死ぬべきだ。


 ベルンハルトや加賀に聞いたことがある。デスゲーム物というVRMMOを題材とした小説や映画、アニメなどがあるという。かなり古くから……それこそ私が子供の時分から存在しているという。寡聞にして知らなかったが、そういうゲームに参加させられた者達は必死に元の世界へ戻ろうとしたという。年単位でゲームに取りこまれ、生きながらえてクリアをする。そして元の生活へと戻る。


 それを聞いて、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。


 ベルンハルトや加賀やあるいは他のギルドメンバー達は俺が英雄になるなど息巻き、俺が全員救ってやるなどという英雄願望に取り付かれていたが……そんなのは物語の中だからこそ叶う事だ。失われた時間は戻ってはこない。受験に失敗したとか、大学で留年したとかそんな事とは程度が違う。その時間を仮想世界で仲間達と一緒に、必死に生きて来たと主張は出来る。だが、所詮デジタルデータで、所詮ゲームでしかない。自分探しの為に海外を放浪してきたという方がましだ。人殺しを是とする世界を生きて、戻って来た人間を周囲は真っ当に扱えるだろうか?例えばそんな人間が私の会社の面接に来たとしよう。知った瞬間、私は間違いなくそいつを落とす。関連会社にも連絡し、私に関り合いがないようにする。


 法律的な事を言えば、今の私達には緊急避難が適用できるだろう。だが、それでも殺人を行って生き残って来た者だ。殺す事に怯え、殺す事に悩み、殺される事に怯え、殺される事に悩む日々。戦争帰りの者達が似たような症状になるという。そんな者達をどう扱えば良いというのだ。彼らが悪いわけではない。だが、それを受け入れられる程、世の中は優しく出来てはいない。


 そして、それが大人の場合、尚更だ。


 年甲斐もなくゲームに嵌まって、皆が一生懸命仕事をしている間中、ゲームをやっていた。そう思われるだけだ。一定の同情は得られるだろうが、内心どう思っているかは別だ。


 世間でいうゲームというものの問題点は、その内容が性格に寄与してしまうという事ではない。そも、人間は経験する事で学ぶ生物であり、ゲームに影響を受けるというのは間違いでも悪い事でもない。当然の事でしかない。だから、私はそれが問題点だとは思わない。殺人を是とするようなゲームだろうと、快楽を求めるだけのゲームだろうとそんなものはその人間の性格を作り上げるファクターとなるだけだ。それで人間がどうこうなるわけではない。寧ろ問題なのは、ゲームはゲーム世界だけで閉じているという点だ。発展がない。それに尽きる。この世界で作り上げたものは外の世界の役には立たない。人類の発展に寄与する事がない。人はただ産まれて死ぬだけの生物であってはならないと、そう思う。産めや増やせやは人間以外でも出来る事だ。それ以外の事をなしてこその人間だろう。だからこそ、ここで私が外の世界に戻っても、無意味な事をして無意味に過ごしてきた者だと思われるのは間違いない。そんな者にいる場所などないのだ。少なくとも私が過ごしてきた人生においては、いる場所はない。故に、私はこの世界で死ぬべきだ。この世界で必死に生きて、必死にあがいて、そして死ぬべきだ。けれど、それは私の人生が無意味な事だったという証明になってしまうのだから皮肉だった。


 最も、実際にこのゲームに参加してみて利点を感じなかったわけではない。ぱっと一つあげられるとすれば異業種の者達と知り会えるという事だと思う。それが刺激になり、現実世界に良い影響を与えられるならば、何の文句もない。だが、このゲームではそれも叶わない。生き残れるのは一人だけなのだから。ここで得た関係に意味など無い。


 閑話休題。


 結果、家族が心配ではないのか?という問いに対して私は、『もちろん心配だよ……』なんて悲しげな表情を浮かべつつも気丈な振りをして逆に派閥の人間を増やした。そういう風に状況を使った。


「……今更そんな事考えても仕方ないよね」


 今更どうでも良い事をつらつらと考えても本当に無意味でしかない。


 今、私が懸念すべき事はどこの段階で表舞台に立つか、だ。


 何か切っ掛けがあれば良い。


 そう思った。


 そんな事を思いながら、薄暗い部屋で一人、天井を見上げ続けた。






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