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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第八話 愚者の園
70/116

04

4.






『さて、諸君。残り6……おっと?……失礼。5名だね。残り5名だ。まったくネロ君は大変な殺人鬼だね。殺したのはネロ君ばかりだよ。他のテスター達にも頑張って貰いたい所なのだけれどね……さて。かなりレベル差が付いた状態だが、このままネロ君のワンサイドゲームというのはあまりにも面白くない。他のテスター諸君、是非是非、死に物狂いでがんばってくれたまえ』


 そんなアナウンスが響いた日から一月近く経っただろうか。城を離れ、僕はずっとレベル上げたり、スキルを手に入れたり、武器や防具を手に入れたりしていた。そして、ようやく……ようやく少しの自信と共に城へと―――彼女の下へと帰って来た。


「血の匂いがします」


 少し慌てるように彼女のいる部屋の扉を開けて部屋へと入った瞬間、窓際でスカベンジャー達に餌を与えながら、彼女は顔だけを僕に向けてそう言った。以前より更に滑舌がかなり良くなっていた。一人で練習していたのだろうか。そう思うと笑みが零れた。


「そんなに匂う?」


 服の匂いを嗅いだものの、匂いはしなかった。


「かなり匂います。消臭剤が必要なレベルです。残念なことにここにはありませんがー」


 『がー』と伸ばされた変な語尾に再び笑みが零れる。どこで覚えて来たんだろうそんな語尾。まぁ、彼女の世界はこの狭い部屋一つだから、自分で考えたのだろうけれども。


 そのことに苦笑を浮かべていれば彼女がスカベンジャー達にバイバイと手を振りながら、窓を閉じ、窓の鍵を掛けた後、僕の正面に立った。


「何?」


「ネロ様。血の匂いも分からないぐらいに一杯、殺してこられたのですか?」


「……」


 言葉に詰まった。


「あ、あぁ。そうだけれど……城主を倒すためにはレベルが足りないしね」


「悪魔、NPC、プレイヤー……一杯殺してこられたのですね。悪魔もNPCも等しく沸く物です。けれど、プレイヤーはそのまま死ぬ者です。……宜しかったのでしょうか?」


 責めている、という感じではなかった。


 純粋に彼女にとって僕の行動が疑問だったのだろう。悪魔やNPCのように無尽蔵に沸くわけではないプレイヤーを、人間を殺す事は良い事なのか?と。もう二度と戻ってこない命を亡くしてしまって良いのか?と。


「良いんだよ……君を助けるためだから」


「ハァ?」


 僕の答えにそんなものですか、とばかりにイリスが首を傾げた。そして、よくわかりません、と口にした。


 苦笑を浮かべる。


 例え、彼女に理解されなくても、それでも構わない。僕が彼女を助けられたのならばそれで良いのだから。


「ところでネロ様?」


 そんな僕の想いを余所にイリスはさらに僕に一歩近づいた。服と服が触れそうな距離だった。


「イリス?」


「次は連れて行って下さいね」


 上目遣いでそう告げる彼女に、僕は、赤くなる事が可能ならば、頬を赤く染めていたに違いないと、そう思った。


「あぁ、そうだね。明日、ここの城主を殺すよ。だから、それが終わったら一緒に旅にでよう。二人でネコを探しに行こう」


「はい。楽しみにしていますね……では、新しく覚えたお茶でもいれますね」


 言って、彼女は台所へと向かう。


「お茶なんてあったっけ?」


「実はあるのです」


 振り返り、びしっと僕の方に指差す。何やら僕がいない間に茶目っ気が出てきたみたいである。可愛らしくて良いな、と思うと同時に一月会わない間に何があったんだろう?そんな疑問が沸いた。


 僕のいない間に彼女のAIが成長を遂げる。そのことになぜだか嫉妬を覚えてしまった。彼女に会ってなかったのは彼女のためとはいえ、僕自身の都合でしかない。けれど、その間に彼女が変わってしまったように思えるのは少し不愉快だった。


 椅子に座り、彼女がお茶を入れている姿を眺めながら僕はそんな思いに駆られていた。慣れたような手付きで湯を沸かし、急須に茶葉を入れ、蓋を指先で押さえて急須をくるくる回す姿。そしてそれを湯呑みに注ぐ。


 愛らしい姿だ。けれど……不愉快だった。


 僕が彼女の為に人を殺したりNPCを殺したり悪魔を殺したりしている間、彼女はこうして僕の知らないうちに色々と覚えて行くのだ。まるで、そう。まるで僕なんかいなくても成長していけるとでもいうかのように。


 問いたい。


 君にとって僕はいらないのか?と。


 僕はこんなにも君を必要としているのに。僕はこんなにも君と一緒にいたいと願っているのに。


「どうぞ。自信作です」


 ソーサーの上に置いた湯呑みを音も立てずに僕の下へと運んで来て、びしっとサムズアップする姿もまた、見た事のないものだった。


「あぁ、ありがとう」


 憮然とした物言いになってしまったように思う。


 でも、湯呑みをソーサーの上に置いているのは……彼女らしいと思った。僕の知る彼女らしいと思った。


「イリス。お茶の時はソーサーはいらないよ」


「そう、なんですね」


 なるほどなー。と彼女は何度か頷いた。その仕草もまた僕の知る彼女だった。


 いつしか不愉快さは消え、少しの安らぎと共に彼女の入れてくれた茶を飲む。少し苦いけれど、温度は丁度良かった。こく、こくと喉を鳴らしながらお茶を体内へといれていく。


「ありがとう。美味しかったよ」


「どういたしまして。私、がんばりました」


 凄いでしょう?と腰に両手を当てて胸を張る姿に……初めて見るそんな彼女の姿に、安らいでいた心がまたぞろ沈んで行く。


「あぁ。イリスは凄いね……」


 僕がいなくても勝手に成長できる君はとても……凄いね。苦笑を浮かべ、視線を彼女から逸らす。彼女の事は大事だけれど、でも、僕の知らぬ間に勝手に成長した彼女の姿を見たくなかった。けれど、そんな僕に、


「これもネロ様の御蔭です!」


 彼女はそう言った。


 はっとして彼女を見上げれば、ぎこちない表情……口元を少しだけ緩めて、嬉しそうに……あぁ、本当に嬉しそうに僕に向かって……拙い笑みを浮かべていた。


 綺麗だと思った。


 拙く、ぎこちない、慣れていない笑みを浮かべる彼女が……とても愛おしいと感じてしまった。僕の為に、僕が喜んでくれると思ってがんばってくれていたのだ。僕の為に。そう、僕の為に。僕が帰って来た時のために……彼女は一人がんばってくれていたのだ。


 それを、何を偉そうに自分の知らない彼女だなんて、自分が知らない間に成長してしまったなんて、そんな事を考えていたのだ。馬鹿馬鹿しいにも程がある。勝手に期待して勝手に裏切られたと思うなんて、本当……僕は馬鹿な奴だ。


 がんばろう。


 今日はここに泊まって、明日朝から城主を殺すためにがんばろう。


 そして、彼女とここを出よう。


 あぁ。


 そうしよう。


 そうすれば、ずっと彼女といられる。


 変な嫉妬を浮かべたりしなくても良くなる。


「ありがとう、イリス。御蔭で元気が出たよ。がんばるよ……明日、一緒に外の世界に行こう」


「はい。楽しみにしています」


 




―――






 城主。


 この城の主。イリスを閉じ込めているそれ。


 それを前にして僕は、『彼』の趣味が最悪なものであることを再認識した。


「人で出来た華……とでも言いたいのかい?」


 問いかけた言葉は白い空間に消えた。


 白い空間の中央に浮いた一輪の花のような生物。


 それは例えるならば、イソギンチャクとかそういう触手系の生物だった。ただ、その触手が……いいや、花弁の一つ一つが人の腕で出来ていた。一本の腕を幹として枝のように腕が伸びている。伸びた腕から更に何本もの腕が生えている。そして、それらは、その白い腕達は踊るように時折絡み、時折解ける。喜びでも表しているのか、ひらひらと手の平を広げ、閉じ、絡み合い、解け合いながら蠢く様は怖気が走る程だった。


 そしてその中央に位置する場所に腰から上の人間がいた。


 女性的な曲線を描くその体は花弁と同じく白い。白一色で作れたその体、その肩、首、顔。唯一白くなかったのは髪。赤い色をしていた。さながら花弁に実った果実の如く。


 芸術家などが見れば美的だとかそう言った類の事を口にするのだろう。けれど、僕にとってはただただ不愉快で吐き気を催す生物でしかなかった。これが、こんなものが僕のイリスを捕えていたのだ。彼女を閉じ込めていたのだ。彼女に手を出していない所だけは評価したとしてもそれだけだ。それ以外の一切合財が許せない。


 一月前に殺した男達から手に入れた弾丸満載のFN P90を2丁、両手に構えながら、全速でその存在に近づいて行く。


 ぎろり、と顔の部分が動き、それに合わせてうぞ、うぞとムカデの足のように白い腕が蠢く。気色悪さに反射的に引き金を引きそうになったが、まだ有効射程外。彼我の距離は約100m前後。この悪魔のサイズが高さ20m程であることを考えればここからでも当てる事はできるだろう。だが、そんなのは弾の無駄遣いでしかない。


 ただただ近づくためだけに走って行く。レベルが上がった事によるAGIの高さ、そして、移動速度のあがるスキルの御蔭で、自分で言うのも何であるが僕の速度はかなり早い。周囲の風景を置き去りにするかのようにジグザグに走りながら近付いて行く。


 そして、有効射程。


 それを認識した瞬間、両手のFN P90の引き金を引き、そいつに向かって弾丸を射出する。二丁のサブマシンガンから連続した発射音が響く。からんからんと空薬莢が空を飛び地面へと落ちて行く。それと同時に、パス、パスと軽い音を立てて弾丸が奴の腕に当たり、ぷしゃっと緑色の血が空中から降り落ちる。


 そして。


 それが床に達したと同時に。


 何かが溶ける様な音がしたと同時に腐敗臭が周囲に広がった。


 一瞬、身体が拒否反応を示し、そいつから視線を逸らしそうになる。それを意志の力で無理やり抑えて歯を食いしばりながら更に弾丸を射出する。


 城主の動きは変わらず、僕に近づこうとするだけ。攻撃といえる攻撃はその腐敗臭ぐらいのものだった。そんなわけがない。そんな当たり前の疑念を持ちながら城主から一定の距離を保ちつつ、弾丸を射出し続ける。弾倉内の弾丸がなくなった時点で仮想ストレージから弾倉を取り出し、弾倉を取り替える。


 そして、


「っ!?」


 一本の幹。


 無数の手が生えたそれが弾丸によって切断された時にそれは起こった。


 ぼと、という鈍い音と共に落ちた木。その先についている無数の手の平が、腕が太いうでを支えるように、その身を立ち上げ、手の平を広げ、使って……走って来た。


 一瞬、思考が停止した。


 結果、避けるのが一瞬、遅れてしまった。


「うあぁぁぁっ!」


 腕の突撃。


 言葉にすると意味が分からない。だが、それは確かに腕の突撃だった。それを避け切れず、枝葉となっている腕に僕の身体が轢かれた挙句、その手の平に腕を掴まれた。


 そしてそのまま……僕を掴んだままその腕が壁へと突進していく。白い空間の端、そこに向かって全速力で走って行く。


 このままでは壁にぶつかってソレ自身が砕け散るだろう。そして、それに巻き込まれた僕もまた、壁にぶつかるか、砕け散ったソレから流れ出た体液によって溶かされてしまうだろう。一瞬の思考。そして次の取る行動は、握ったままだったFN P90の引き金を引く事だった。


 素早く走って行くそいつに乱雑に掴まれ、振り回され、僕自身地面にぶつかったり、空中を浮かされたりしている。真っ当に狙いを定められるわけもない。まるでジェットコースターのように動いている状態で狙いなんて定められない。が、それでもなお、引き金を引き絞り、走る腕を穿つ。


 飛び散る体液。


 腕に掛る体液。


 瞬間、喉の奥から声にならない絶叫が産まれる。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。溶けて行く皮膚。溶けて行く肉。溶けはじめれば一瞬。それが腕の中で広がって行き、骨が見え……たと思えば骨自体を溶かした。そして、ぼきん、という軽い音と共に僕は落下し、地面をごろごろと転がって行った。


 腕がなくなった。


「ぐぅっぁぁああ」


 腕を溶かされ、骨を溶かされ、あげく骨が折れて残っていた肉と皮膚、神経ごと引き千切られた。痛い。痛い。痛い。脳裏に痛いという言葉しか浮かばない。限界を超えた痛みに意識が遠退いていく。だが、そんな状態だとて、しかし、残ったもう片方の腕は仮想ストレージを探り、回復アイテムを取り出す。それを口に入れた瞬間、壁に腕がぶち当たった音が響いた。


 ぐちゃ、という鈍い音だった。


 二度と聞きたくない音だった。


 それに目を向ける事なく、視界のHPバーが回復していくのを確認する。次第、次第と痛みがなくなり、腕が再生していくのを確認しながら本体の方に目を向ける。


「僕を……僕を……嗤ったな」


 中央に生えた赤い髪の白い人間。


 それが無様な僕の姿を見て笑っていた。


 白い顔で、白い目で、赤い髪を振り乱しながら笑っていた。


 無様に転がり、腕をなくした僕を嘲笑っていた。


 不愉快だった。


「絶対に……殺す」


 その腕全て撃ち落としてやる……


 潰れた腕から離れた場所に落ちているFN P90へと目を向ける。かなりの速度で飛ばされた所為か、ここから30m程離れた所に落ちていた。それを確認し、取りに向かおうとして足が止まった。


 それをすぐに取りに行くのは愚策だ、と勘が訴えていた。


 だから。


 僕は正面から城主へと近づいて行く。


 近づきながら、有効射程に入れば城主から咲く腕に向けて弾丸を射出する。二丁使っていた時よりもダメージは小さいが、けれど、間違いなく削れているのは分かる。


 そして、削り終えた……いいや、腕が落ちた瞬間。それを避けるように走る。元より来る方向が分かっていれば避ける事など簡単だ。直線的な動きしかしていないそれを避ける事など、と思い、落ちていたFN P90へと足を向けた瞬間、落下した腕がこちらに向きを変えて突進してきた。


「あ……」


 という間もなく、今度は跳ねられ、身体が宙を舞った。


 宙を舞っている自分。それを認識できた。ゆっくりと自分が宙を舞い、落ちて行くのが分かる。このまま落下すれば頭から地面に落ちるだろう。けれど、身体の向きを変えようとしても肝心のその身体が動いてくれない。


 そんな僕を見て、城主は再び……嗤った。


 瞬間、がきん、と歯が鳴った音が響き、身体が動くようになった。刹那、身体を捻り、背中から地面へと落ちる。


 身体の中から骨が折れた音が響き、さらに骨が内臓に突き刺さったのか口腔から赤い血が流れ出る。


「がはっ。ぐっ……けほっ……あぐっ……けほっ」


 口腔から血を撒き散らす度に身体が緊張して骨が内臓を襲い、吐血を喚起させる。そしてまた骨が内臓を襲う。何度も、何度も。その悪循環に耐えながら再び回復アイテムを仮想ストレージから取り出し、口に入れる。


「……くそ」


 悪態を吐いた所で状況が改善するわけではない。だが、そうしていないと怒りで頭が沸騰しそうだった。怒りに身を任せても意味はない。冷静に、慎重に無感情に殺意だけを浮かべて殺し尽さねば僕は殺される。


 こんな気色悪い生物に殺される。


 冷静になれ、冷静になれと自分に言い聞かせていれば視界が広がって来た。その視界の隅、そこにFN P90が映る。幸いにして僕が落下した場所はFN P90を落とした場所のすぐそばだったようだ。すぐさまにそれを拾い上げ、仮想ストレージへと仕舞いこむ。


「…………」


 腕を落下させれば、それが襲ってくる。分かっていて避けたとしても方向を変えて来る。だったら……そいつらを落とさなければ良い。


 そのためにはどうすれば良いのか?


 簡単だ。


 とても簡単だ。


「…………」


 仮想ストレージの中から刀を一本、取り出す。


 鞘に包まれたそこから刀身を引き抜く。


「国宝だそうだ」


 誰に言うわけでもなく、呟く。城を離れている間に寄った美術館で手に入れたものだった。それを片手に持つ。剣術なんてやったことはない。まして刀なんて握った事もない。唯一知っているとすれば引きながら斬るものだという事ぐらい。これの原点を鍛造した者には申し訳なさすら覚えるぐらいに僕は何も知らないふざけた使用者だ。けれど、城主の腕を切り刻むぐらい、その中央で僕を嗤い続ける不愉快な生物を切るぐらいならば僕だって出来るはずだ。


 いいや。


 やってやる。


 宙に浮いているそれの真下へと向かう様に加速し、そして、近づいた所で飛んだ。


 スキル、跳躍。


 NPCから回収したスキル。高いところから降りるには便利なスキル。そして飛び上がるにも便利なスキルだ。


 まして、城主の下側にも腕は生えているのだ。その一つにでも足が引っ掛かれば、そのまま更に飛びあがれる。使わない手はなかった。


 とん、と足先が城主の手の平に乗ったのを感じた。


 その瞬間、再び跳躍する。


 同じ様に何度も、何度も飛ぶ。さながら八艘跳びの如く。そういえば、遠い昔のゲームにHASSO-BEATと訳したゲームがあったな、とどうでも良い事を思い出しながら赤い髪の女に向かう。


「やぁ……良くも僕を嗤ってくれたね……御礼に笑いながら殺してあげるよ」


 城主の体に向かって対峙する。


 対峙した瞬間、城主の顔が歪んだ。


 嗤ったわけではない。


 恐怖に怯えたかのようだった。


 まるで人間のような感情を持っているかのようだった。


 その表情はとてもとても不愉快で、気色悪いものだった。


 そんな城主の表情に僕は、


「悪魔が感情なんて持っているわけないよね……」


 嗤う。


 こんな気色悪い生物が感情を持っているふりをするなんて許せなかった。


 そんな馬鹿な事が許されるわけはないだろう。所詮、悪魔だ。経験値も少ない大した意味も無い存在だ。そんな無意味で無価値な存在が感情なんて持っているわけがないだろう。にも関らず人間のふりをするなんて……いいや、持っていた所で何だというのだ。


 今から切り刻む事にかわりはない。


「ご自慢の花弁で守って見ると良い」


 ゆらゆらと揺れる赤い髪。それを切り落とそうと刀を水平に保つ。そして、横薙ぎにしようとした時、僕を己の腕に包み込むように花弁が、腕が閉じ始めた。


 だが、僕は慌てない。


「その前に殺せば良いんでしょ?」


 横に薙ぐ。


 切り落とすつもりで振るったその刃。しかし、それは女の首の、その皮膚で止まった。そして、次の瞬間、にやと笑いながら、僕を掴まえようとして、女の右腕が伸びてきた……所に向かってFN P90の弾丸を射出する。


 パラパラと音を立てて腕に穴が空き、周囲に緑色の体液が飛び散った。そして、その体液を己が身体に浴びた痛みか或いは腕に穴を開けられた痛みに耐えかねたのか、その口が絶叫せんとばかりに大きく開いた。その瞬間を見越したわけでもないが、その口の中に―――以前、プレイヤーにやったように―――刀を突っ込み、横に薙ぐ。


 瞬間、口裂け女のできあがり。


 外側が硬くても中が柔らかいというのはよくある話だ。そんなご都合主義、知った事ではないが、裂けた口を押さえるように動いた腕に再度弾丸を射出し、両手に風穴を開ける。


『―――――』


 女から気色悪い悲鳴があがると同時に、花弁が閉じるスピードがあがった。僕を捕まえようと手が蠢いているのが視界の端に映っている。


 だが、もう遅い。


 再度口の中に刃を突っ込み、今度は反対側に向かって刃を立てて、口を裂く。両方の口が裂けた所で靴先を口に突っ込み蹴りあげる。


 下顎を残して女の顔が裏返った。


 その部分に。喉のような場所へと上から刃を差し込み、柄まで突っ込んだ段階で背中側に向けて刀を振り抜く。


「……あぁ、ごめん。嗤うの忘れてたよ。あははははっ!」


 背が裂け、重力に従い女の身体が落ちて行く。自らの重みに耐えられなかったのだろうか。びし、という鈍い音と共に腹が裂け、次いで胸が裂けた。


 右、左。


 女が花開くように左右に分かれていった。


 それと同時に花弁の動きが止まって行く。


 宙に浮いていた花弁からだが落下していき、浮遊感を感じる。


 その浮遊感に任せて、腕で出来た地面を蹴飛ばし、空中で一回転。


 地面へと降り立つ。


「さて、今度は全身で突撃してくる気かな?」


 その時には空に浮かび上がれば良いだろう。


 そう思って、その行動に備えて体勢を整えていた所で……




『城主クエスト 達成』、『クエスト:生贄を救え 達成』というテロップと、『城主となりました。開発、発展、法令設定が行えます。』そんなアナウンスが流れた。


 そして。


 『彼』が語る時のように。


 世界に言葉が流れた。




『 ネロ が 関東 の城主となりました。以後、 関東 は城主の設定した法令に従い運営されます』






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