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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第八話 愚者の園
69/116

03

3.






 こんな世界で誰かを信じる事に意味はあるのだろうか。


 考えるまでも無く、無いと、そう思った。


 曲がりなりにも当時は友人であった『彼』からはこんな手荒い歓迎を受け、可愛らしい美少女からは先手を打ったものの初対面で騙されそうになり殺されそうになる。こんな世界で誰を信じれば良いというのだろう。


 信じるに値するものは---これも業腹だけれど―――この世界のルールだけ。レベルとステータスとスキル、そして装備。0と1で出来た偽物だけがこの世界で信じるに値するものだった。


 僕を含めて残り9名。学校の1クラスにも満たない数。たった8名。ソレを殺せばこの世界から逃れる事ができる。逃れ、そして『彼』に報復する事ができる。『彼』の姿を思い浮かべながら何をしようかと考える。僕は『彼』を現実で殺すだろうか?どうだろう?あるいは、そう。あるいは今度は『彼』自身にこの世界を体験してもらうのも良いのではないだろうか。


 眼前に聳える建物、皇居を前に僕はそんな事を考えていた。直前に向かった警視庁の中で拳銃やショットガン、刀を手に入れて次いで僕が向かったのはここだった。


 青い空には相変わらず黒い鳥たちの姿。その姿を眺めながら、とても広く、白い玉砂利の敷かれた庭園を横切るよう歩いた。悪魔の姿が欠片も無い事に違和感を覚えながら城門のような厳めしい扉を通り、この場に辿りついた。他の建物と違い、ここは壊れていなかった。恐る恐る壁に……出来たてのような白塗りの壁に手を当てる。ざらざらとした感触が手の平を通して伝わって来る。確かめるように手の平を見れば、少し白くなっていた。


「……」


 手の平を見つめながら、実に『彼』らしく無駄な実装だと思った。そういえば、昔、とある城の修復工事を行った結果、古さがなくなり、折角見に来たのにこんなに綺麗だと駄目だとずれた感想を浮かべている人がいた。流石に風化や劣化まで実装している事もないだろうから、その人がこの場にいたらさぞ怒った事だろう。手を払いながら、そんなどうでも良い事を思い出す。


 パンパン、と柏手を鳴らすようにしながら皇居を見上げる。


 現実の皇居なんて見た事はないけれど、見るからに荘厳な印象だった。静謐で雅で。間違いなくここには何かがあるとそう思わせるぐらいに特別な場所だった。


 事実あるのだろう。


 何があるかは分からないが、イベントが発生するならば確実にそれをこなすとしよう。イベントをこなし、その結果手に入る何かはきっと他のテスターより優位に立てるものに違いない。是が非でもクリアするべきだ。そう言う意味では僕は『彼』の事を信頼していたといっても良い。曲がりなりにもゲームで、曲がりなりにもこうやって壊れていない姿を晒しているのだ。ここを踏破する事に意義がないとは思えない。少なくともこのゲームを優位に進めるためのアイテムや何かがあるはずだ。


 白い玉砂利の敷き詰められた庭を歩く。


 レベルは足りるだろうか。


 ステータスは十分だろうか。


 スキルは十分だろうか。


 装備は十分だろうか。


 不安はある。けれど、後に回せば僕以外の誰かがここを踏破するだろう。それだけは避けたいと思った。時間を掛ければかける程他のテスターのレベルもあがってくる。そうなっては不利になる。今ならば僕のレベルは他のテスターに比べて高い。そのアドヴァンテージを失うなどもってのほか。先手を打つべきだ。


 そう、レベル。


 テスターを一人殺した結果、いくつかレベルがあがった。それまでに殺した悪魔やNPCを思えば経験値配分が極端過ぎるとは思ったものの、この世界の仕様を考えればそれも当然かと納得した。ストーリーなど皆無なこの世界ではテスターを殺せば殺す程クリアに近づくのだから。エンディングに近づくほどレベルがあがるのはおかしい事ではない。


 視界にステータス画面を表示し、それらを確認し、一息を吐いてからその画面を閉じる。


「……行こうか」


 誰に言うでもなく呟く。そして片手にショットガンを構え、いつでも撃てるようにしながら建物の周囲を巡る。正面突破できればそれで良いのだろうが、いくら僕でも流石にソロでそんな事が出来るとは思っていない。臆病者と罵られようと無駄死により遥かにマシだ。比べるまでも無い。故に、僕は建物の背面へと周り、ショットガンを逆手に持って窓を叩き割り、そこから中へと侵入した。


 建物内は外よりもなお静かだった。


 紅色の絨毯を敷いた床に足を下ろし、周囲に目を向ける。右、左、上……


「っ!」


 瞬間、ショットガンのトリガーを引き絞る。


 鼓膜を揺さぶる轟音が建物内に響き、天井にぶら下がっていた人型の、眼球の無い顔、骨の浮き出た上半身、その腰からは大量の萎びた人の足を生やした、宛ら蜘蛛のような悪魔へと散弾が向かう。


 瞬間、悪魔の身体から血飛沫が飛び、周囲を更に赤く染め上げる。同時に、奇怪な絶叫が悪魔の口からあがり、天井に張り付いていた足先を離し、飛びかかるように僕へと落下しようとしてくる---のを絨毯に転がって避け、その勢いでそのまま立ち上がり、反転して再度、その眼球の無い顔面に向かって引き金を引く。


 どん、とショットガンから産まれた散弾が悪魔の顔にぶつかり、顔に無数の穴を開け、更に血が噴き出す。


「うっ……」


 穴だらけの顔面に吐き気を催した。だらだらと流れる血もまた気色悪さを助長させる。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。そんな感情に思考が埋め尽くされそうになるのを耐えながら再度、悪魔に向かって散弾をお見舞いする。


 今度は上半身に無数の穴が空いた。


 殺せた、と思った。


 だが、それでもその悪魔は平然としたまま後退しない。耳に障る気色悪い声を鳴らしながら、節足動物のようにかさかさと多脚を動かして僕に迫ってくる。


 逃げたい。


「うぁぁぁぁぁぁっ!」


 周囲を気にする余裕も無く叫びをあげながら後退し、ショットガンの弾を何度も何度も詰め替えながら、悪魔へと散弾を射出する。こんなに撃っているのに何でこいつは死なないのだ。攻撃が効いていないはずはない。身体を穿つたびに穴が空いて絶叫が木霊するのを思えば効いていないわけがない。そして、武器自体の攻撃力が低いわけではない。手持ちで一番攻撃力の高い武器だ。散弾の攻撃力も合わせれば他の追随を許さない。確かに僕のDEXでは攻撃力の増加はないのだろうけれど、スキルとして銃攻撃力1.2倍があるのに……なんでだ。なぜなんだ。


 恐怖に、苛立ちが沸いてくる。


 なんで僕の攻撃でこいつは死なないんだ、と勝手な思いに駆られる。


「死ねっ!死んでしまえっ」


 恥も外聞もなく叫びながら更に何度も、何度も銃弾を放つ。何本も生えた足を吹き飛ばそうと足に銃口を向ける。骨のような細い腕に囚われないようにと腕を吹き飛ばそうと腕に銃口を向ける。眼球の無い気色悪い顔を見たくないとその顔を吹き飛ばそうと顔面に銃口を向ける。


 この世界での最初の戦闘の時のような痛みを味わいたくはない。痛いのは嫌だ。絶対に嫌だ。しかもこんな気持ち悪い生物に殺されるなんてもっと嫌だ。だから、だから、だから、


「僕の前から消えてしまえぇぇぇぇぇ!」


 あらん限りの声。甲高く、掠れた声が建物の中に響く。


 魂からの叫び。


 叫びが奇跡を呼ぶのならば命の限りに叫ぼう。さながら神への祈りのように真摯にそう願っていた。


 その僕の叫びに蜘蛛の様な悪魔が一瞬停滞したように感じた。


 けれど、違う。


「死ねよっ!早く死んでしまえよぉぉっ」


 天に響けと声を高く叫ぶ。


 ―――そんな行為を繰り返していて他の悪魔が僕の存在に気付かないはずもない。


 ぞくり、と背中に感じる何か。


 それを殺気というのだろうか。


 感じた瞬間、身体が硬直し、ぎり、ぎりと油の切れた機械のように背後を振り向いた。


「な……な……あぁぁぁっ!?」


 言葉にならなかった。


 それを何と表現すれば良いのだろうか。


 嫌悪感と称するにはあまりにも語彙が乏しかった。


 全身に水泡が浮かんだ人間のようなものと言えば良いだろうか。巨大な身体が通路を埋め尽くしていた。首はだらりと下がり、キリンのように伸びていた。その先に巨大な人間の顔。口角のあがったその口の中には巨大なのこぎりのように尖った……黄ばんだ歯が並んでいた。その顔についた目もまた大きく黒眼部分だけが存在していた。ぱちん、ぱちんと破裂する水泡のようなそれからは意識が飛びそうになるぐらいの腐敗臭が漂っている。


 逃げたい。


 逃げられるものならば今すぐこの場から逃げたい。


 けれど、逃げられるはずがなかった。


 多脚の蜘蛛の様な人型。


 形容しがたい巨大なナニカ。


 それらに挟まれた僕の中には諦めが沸いてくる。


 僕はこいつらに殺されるのだという絶望に意識が染まって行く。


 からん、という軽い音と共にショットガンが床に落ちた。


 そんな僕の姿を見てそのナニカは嬉しそうに、本当に嬉しそうに……にぃと口を歪め、まるで小首を傾げるように首をくきりと曲げた。


 歪められたその汚い、臭い口が大きく開き、その舌にあたる部分や喉の奥に光が差し込んだ。


 他の悪魔を食していたのだろうか。


 口の中には多脚の悪魔が何匹もぐしゃぐしゃに潰され、さながらゴミ回収車のように詰まっていた。


 今からそこに僕も含まれるのか。


「はは……」


 笑いが零れる。


 諦めの笑いが零れる。


 こんなものが僕の人生だった。


 こんなものに喰われて終わるのが僕の人生だった。


 散々な人生だ。


 真っ当な人生を歩んで来て、それで終わりがこれか。


 終わりが悪ければ全て悪いと言っても良いだろう。


 最低だった。


 こんな何も信じられない世界で僕は誰も信じられないままに死んでいく。


 全く、無意味な人生だった。


「……ちくしょう」


 零れた言の葉。


 伸びる首。


 僕の頭上で黒一色の瞳を細めながらナニカが更に口を開き、ぼろぼろと中に詰まっていた肉を零しながら……


 ―――その時だった。


「こちら……です」


 突然、バタンという大きな音共に無感情な声が響き、僕の手が、腕が、身体が……その扉へと吸い込まれた。


 直後、がしゃんと金属同士が重なり合うような音が聞こえた。






―――






「ここは……大丈夫……です。……そちらに……お座り……ください」


 無感情で、ゆっくりとした声音でその少女―――イリスという名のNPC―――が部屋の中に備え付けられた椅子を指差しながら口にする。


 けれど、それに答える余裕は今の僕にはなかった。荒く息を吐きながら通路と同じく赤い絨毯を敷いた床に座り込む。つい今さっきまで訪れていた恐怖。その光景を思い出せば自然と身体が震え、我が身を抱いてしまう。自分らしくないと思いながらも、それでも身体は言う事を聞いてくれない。扉の先から先程の奴が襲ってくるのではないか。この少女は僕を騙しているのではないか。自然と思考は悪い方向に沈み堕ちて行く。この世界に信じるに値するものなどないのだから。


 そんな僕の様子を気にする事なく、イリスは部屋の隅に設置されている流し台へと向かう。拙い歩き方だった。漸く二本足で歩く事を覚えた子供の様な危なっかしい歩き方だった。


「のみ……ものは……いります……か?」


 ふいに振り返り、自分の記憶或いは記憶の中から単語を探しているかのように視線を斜め上に向けながらぶつ切りの単語を……これもまたとても拙い声音で口にしていた。言葉を覚えたのは数日前なのだと言わんばかりに。


「なぜ、僕を助けたんだ」


 イリスの言葉には応えず、流れない冷や汗を拭う仕草をしながらイリスに問いかける。


「……意味が……分かりません」


 金髪の長い髪、女性らしい体躯、給仕メイドの様な服に身を包んだイリスは首を傾げながら、無感情という名の感情を浮かべながら逆に僕に問う。


「NPCにとってテスターを助ける意味なんてないだろ」


 感謝する事もなく、ただただ感情のままに言葉を告げる僕は最低な人間だろう。けれど、死を間近に感じ、未だ動悸は激しく、理性で感情を押さえつける事なんてできなかった。


「意味が……わかりません……」


 再び首を傾げながらイリスは流し台へと向き直り、拙い動きでコーヒー豆をカップに入れ、次いで流し台から水を入れる。入れ終わったそれをソーサーの上に置き、カタカタとコーヒーカップを震わせながら一歩、一歩、落とさないようにふらふらと歩きながら僕の方へと、僕が座っている場所へと。


 見ていてとても危なっかしかった。


 加えて、それはコーヒーとは間違っても言えないコーヒー豆を水に漬けただけのただの水だった。


「……どうぞ」


 床にソーサーを置き、満足げな表情を浮かべた後、自分の分を作りに行こうとしたのだろう。彼女はまた拙い動きで流し台へと向かう。


 そんな彼女を見て……なぜだか、僕は……笑みを浮かべていた。


 苦笑に似た笑みだった。


 この世界で、『彼』のゲーム開始の合図以降、一度も笑った記憶はなかった。こんな他愛も無い馬鹿馬鹿しい行動になぜ笑ってしまったのだろうか。自分でも分からなかった。そして、これも分からないけれど、なぜだか何時の間にか心の中に安らぎが生まれ始めていた。殺されそうになったのも忘れて僕は……


「いらないよ……」


 そう言って立ち上がり、


「僕がいれるよ。君のはコーヒーじゃない」


 口元に小さく笑みを浮かべながら自然とそう口にしていた。


「何か……間違えて……いましたか?」


 流し台。彼女の隣に立つ。隣に立つと良く分かるが彼女の背はそれほど高くなく、僕の胸元辺りぐらいだった。そんな彼女が僕を見上げながら首を傾げていた。


「何もかも」


「教えて……下さい」


「了解」


 手始めにケトルの中に水を入れ、流し台の隣に設置されているガス台の火を点火する。古臭いタイプのスイッチを捻る奴だった。デジタルな世界なのにアナログだな、と苦笑を浮かべてケトルの底に火を当てる。


 暫く待てば湯が沸いた事を知らせるようにケトルからピーと甲高い音と共に蒸気が噴き出した。


「わっ」


 僕と一緒になってケトルを見守っていたイリスがびくっと跳ねるように一歩後退した。後退する彼女に再び苦笑を浮かべれば、彼女はくてっと首を曲げた後、興味深そうに一歩前進した。


 そして、恐る恐る蒸気に手を伸ばそうとした彼女の手を慌てて掴む。


「触ったら、火傷するよ」


「……火傷。したこと……ないです」


「しない方が良い」


「そう……ですか」


 少し残念そうな声音を浮かべる彼女。


 他のNPCには見られない所作だった。そもそもこんな所に住んでいるのだから他のNPCとは違うのは当然なのかもしれないが、それでも……なんというかAIが酷い。単語とその意味だけを教えて放置しているようにしか見えなかった。『彼』は一体何の意図を持って彼女を、こんな欠陥品みたいな状態にしてここに配置したのだろうか……。


「君は何故、ここにいるんだ?」


「私は城主に囚われています。なお、城主とは言葉通り城の主を意味します。現在は悪魔が城主となっております。現城主の出すクエストをクリアした場合にはクリアした者に城主の称号が与えられます。城主にはいくつかの特権が与えられます。例えば、法令を制定できる権利などです。より詳しい説明は必要でしょうか?」


 ……驚いた。


「なるほど。説明用の台詞はしっかり喋られるのか。とりあえず、その説明、今は良いよ。とりあえず……」


「……はい?」


 ソーサーの上にカップを置き、コーヒー豆―――ではなくインスタントのものも置いてあった―――を入れて熱湯を注ぎ、コーヒーを作成してソーサーごと彼女に渡す。


「熱いから、気を付けて」


「火傷……しますか?」


「するかもね」


「では」


 言うや否や、止める間もなく、あろうことか熱湯に等しいコーヒーをそのまま喉奥へと流し込んだ。瞬間、彼女の無表情が苦悶に変わった。吐き出せれば良かったのだろうが、残念ながら既に胃の中だったらしく、彼女は口を開けながらわたわたとあっちへいったり、こっちへいったりうろちょろし始めた。そんな彼女の姿に再三の苦笑を浮かべながらコップに水を入れ、それを飲む様に即せば一瞬ためらいを浮かべつつも一気に飲み干した。


 空になったコップを受け取り、水を入れて渡す。それを何度か繰り返し、ようやく落ち着いて来たのか無表情に戻った彼女は、


「これが……熱い……ですね。……HP……が……なくなり……そうでした」


 と何やら格好付けてそんな事を言っていた。言っている台詞は全く格好良くないけれど……。


「君、面白いね」


「君……では……ありません……イリス……です。あなた……は?」


「ネロ……そういう名前だよ」


「ネロ……様。ネコ……とは……違いますか?」


「字面は似ているけれど、別物だね」


「そう……ですか。ネコ……気に……なります」


 こんな世界に猫なんているのだろうか。


 今まで見たことはなかったけれど、どこかにいるのだろうか?NPCが言うのだから居てもおかしくはないように思うけれど……いたとしてもゾンビ然とした腐りかけたネコのような気がしてならない。


「ネロ……様。……私……ネコが……みたい……です」


「その内ね」


 そんな言葉を口にする自分が何とも信じられなかった。


 けれど、なんだか……そう。


 気が楽だった。


 心が安らいでいた。


 この城から出る事は可能だろう。けれど、この城を攻略するのは今の僕には難しい。圧倒的にレベルと戦闘経験が足りていない。だから、そう。この部屋を拠点にしながら、レべリングは城外で行い、強敵との戦闘経験は城内に出現する悪魔を一匹、一匹倒しながら積むのも良いだろう。僕のレベルでどうにもならないのだ。少しぐらい時間を掛けて攻略しても他のテスターに差はつけられないはずだ。


 だから、そう。


 だから、しばらくここを拠点に過ごすのも良いと思った。


 彼女と一緒に過ごすのも悪くないと、そう思ってしまった。


 らしくない。らしくない。そう思いながらも……


 僕は彼女に安らぎを覚えていたのだった。






―――






「ただいま」


 小さなため息と共にそんな言葉を紡ぐ。狩りに出て何の収穫も得られなかった草臥れた狩人、それが今の僕だった。今日も城をクリアする事が出来なかった。


 蜘蛛の様な人型を三匹程度、通路を埋め尽くす奇怪なナニカを二匹。それで限界だった。城主がいる場所も未だ不明でそう言う意味でも攻略は進んでいなかった。


 慣れたように赤い絨毯の上に置かれた椅子の背凭れに上着を掛け、椅子に座る。


 一体、何日が過ぎただろうか。こんな事をしていて良いのだろうか。確かに他のテスターが死んだというアナウンスがない以上、僕のレベルは相変わらず他のテスターより上かもしれない。だが、悪魔やNPCを殺すだけでもレベルはあがる。僕がこんな事をしている間に他のテスターはもっと力を付けているのではないだろうか?そんな不安に苛まれながらも僕は堕落したような日々を過ごしていた。


 いつ死ぬかも分からない恐怖におびえる日々の中で得られた唯一の安穏。それに僕は溺れていた。溺れるまでは必死に抵抗していた。けれど、一度溺れてしまえば沈むのは早かった。沈んで行くのに抵抗する素振りも見えない。狩りに出ているのだって結局ここに帰って来た時にイリスに土産話をするためのようなものだった。


 誰がどうみても僕は堕落していた。


 この世界で生きて行くのも悪くないと、そう思えるぐらいに。


 僕がそう思ってしまった原因は、僕の声に振り向き、相変わらず感情のない無表情を浮かべながら、おかえりなさいと口にした。


 少し頭を垂れ、揺れる髪。その髪が、窓から差し込む斜陽に照らされ、宝石のように輝いていた。それを目に、自然、安堵の息と笑みが零れる。


「今日はどうでした?」


 出会った頃に比べて少し滑舌の良くなったイリスが僕のためにコーヒーを入れながら問いかけて来る。水にコーヒー豆を入れて持って来るようなことはもうない。


「何の成果もないね……あぁ、でも、そうだね。レベルはあがったかな」


 座ったまま、凝るはずのない肩をくきくきと動かす。気分的なものだ。HPに支配されるこの肉体が疲れると言う事はないが、精神的な疲れはあるのである。


「そう……ですか。……どうぞ」


 カタカタとソーサーの上のカップを鳴らしながら目の前に立った彼女の手を覆う様にソーサーごとコーヒーを受け取る。コーヒーらしい香りが鼻腔を擽る。けれど、それに騙されてはいけない。恐る恐るとカップに口を付け、コーヒーを僅かばかり口腔内へと。


「……イリス。これは熱すぎだよ」


「残念……です」


 失敗した事に残念と思ったのか、僕が火傷しなかったのが残念だと思ったのかは定かではないが、彼女は少し肩を下げた。それに合わせて彼女の胸元が下がり、服装も相まって、二つに割れた肌がその隙間から覗く。瞬間、視線を逸らした。


「ネロ様?」


 そんな僕の行動に疑問を浮かべたイリスが首を傾げた。


「なんでもないよ」


 人工のそれを相手に視線を逸らしてしまう僕は何なのだろう。初心にも程がある。彼女に実る果実はそれこそ現実に存在しない架空の果実だ。紙や画面の向こう側に存在する虚構の果実。それに対して目を逸らす僕は本当に何なのだろう。所詮、0と1で出来たデジタルデータでしかないのに。などとそんな風に思っていても、気付けば、そこから目を逸らし、更には彼女の視線から逃れるように顔を逸らしてしまう。


 悪魔や他のNPC、あるいはテスターだとしても僕はそんなものを気にしない。相変わらず出会えば―――テスターにはあれ以来会っていないが―――殺している。そんな僕が彼女に対してだけそんな風に思ってしまうのは何故だろうか。


 確かに青春まっさかりな男子である所の僕はそういう事に興味がないわけではない。けれど、彼女は所詮『彼』に作られたデジタルな生命だ。あるいは僕はもうそんな風に彼女の事を思えなくなっているのだろうか。


 堕ちかけている。あるいは堕ちている。


 このまま時が過ぎれば僕は彼女を大事な、とても大事な存在だと思う様になるだろう。


 2次元のキャラに恋をする馬鹿のように彼女を守るために行動するだろう。そんな自分の未来が容易に想像できてしまった。


 例え、それが『彼』の罠だとしても僕はそれに自ら引っかかってしまう。蜘蛛の巣の美しい幾何形状に自ら囚われに行くような愚かな蝶々の如く。


「ネロ様、あとどれぐらい……でしょうか?」


 窓辺に寄り、ガラと音を立てて窓を開け、彼女が言う。空いた窓から流れて来る風に再び彼女の髪が揺れる。ひらひらと、ひらひらと。女神というものが存在するのならばきっと彼女の事なのだろう。そう思った。


「なに……が?」


 御蔭で、僕の滑舌が悪くなってしまった。


「私はいつ……ネコに……会えるのでしょうか」


「あ、あぁ。それか……そもそもネコってこの世界にいるのかな」


 彼女に言われてから気にはかけているものの、真っ当な生物というのを僕は見ていない。


「いないのですか……?」


 表情は相変わらずだけれど、悲しそうな声だった。


 窓から遠くの風景を見つめる彼女の横顔。それに釣られたのか空からスカベンジャー達が降りて来て窓辺に脚を下ろし、羽を休める。かぁ、かぁと鳴きながらくちばしを開いたり閉じたりしている彼らにイリスが何かをあげようとして服のポケットを探る。けれど何もなかったのだろう。僕の方を向いた。


「『彼』なら知っているだろうけれど……」


 答えながら、仮想ストレージから悪魔のドロップアイテム……腐臭のする肉の塊を取り出してイリスに渡す。


「探しに……行きたい……です」


 手に持った肉塊を器用に指で千切りながら一つ、一つスカベンジャー達に与えようとした。が、スカベンジャー達は肉塊の方に視線を向け、何でそっちじゃないの?と首を傾げる。まぁ、そっちの方が大きいしね、と僕も思った。次の瞬間、スカベンジャー達がぱたぱたと羽を鳴らして肉塊の方に向かった。


「だ、だめ……です」


 わらわらとスカベンジャー達にたかられるイリス。慌てて逃げようとするがそれを追いかけるスカベンジャー達。


 部屋の中をあっちへいったり、こっちへいったり。イリスがとことこと駆けまわる。それを追うスカベンジャー。


 そんな彼女たちの行動に笑いが零れる。


「それ床に落とせば?」


「だめ……です。床が……汚れます」


 彼女の優先順位が分からない。


 けれど、見ている分には可愛らしくて良いと、そう思った。


 そんな光景を眺めながら、僕は……早々に城を落とす事を決意する。


 彼女がネコを探しに外へ行きたいというのならば、それを叶えたいと思った。僕一人では見つからなくても彼女と一緒ならば見つかるかもしれない。そう思いながら。


 そのためには……


「イリス。明日から何日か戻ってこないかもしれないけれど許してね」


「あ、はい」


 追われる事に疲れたのか足を止めたイリスにスカベンジャーが群がっていた。肉塊を啄ばみ美味しそうに喉を鳴らすスカベンジャー達を見て、イリスもまた嬉しそうに―――無表情だけれど―――していた。


 ネコを見た時にはきっともっと嬉しそうにしてくれるに違いない。


 それを僕は見たいと、そう思った。






―――






 城を落とすために必要な項目。


 武器、スキル、レベル、経験。


 その四つ。


 協力プレイが見込めない以上、個人の能力をあげるしかない。その内一番重要なのは経験なのではないだろうか。僕はそう考えている。


 武器が弱くとも、スキルがなくとも、レベルが低くとも相手の攻撃を予測して避け、攻撃を加えていればいつか倒す事ができる。実際、最初に城に来た時に出会った悪魔達には勝つ事ができる。もっとも、あの通路を埋めるような巨大な悪魔に関して言えば他の悪魔が出現していれば、という前提が必要だけれども。他の悪魔すら食べてしまうあの悪魔は、悪魔を食べている最中は無防備なのだ。だからその隙を付いて、というのが一番懸命な戦い方。それもまた培ってきた経験である。


 それだけの経験を得てもまだ足りない。


 城主。


 それがどんな悪魔かは分からない。分からないが、万全を期して向かうべき相手に違いない。恐らく今の僕ならば城主の下へ向かう事はできる。未だどこにいるかは定かではないが、それを目的として行動すれば数日あれば発見できるだろう。もっとも、発見はできても城主との戦いが専用マップなどの閉鎖された空間であったならば、と考えてしまうと、万全を期さねば行く気は起きない。死にたいわけではない。勇気と無謀を図り違えばいつ何時、死ぬかも分からない所に無謀だと理解しながら行く気はない。


 だからこそ、想いを新たにした僕は外に目を向けた。


 荒廃したビル群。家屋、公園。それらを横目に以前と同じように環状線の沿線を巡る。経験を積むために。そのついでにスキルを与えてくれるNPCがいるのならばそれを回収。テスターがいるならばそれを殺して経験と経験値を積む。あるいは近くにダンジョン染みた建物があればそこに入って悪魔を殺し、新たな武器を手に入れる。


 行き当たりばったりの探索。


 言ってしまえば、そんな所だ。


 あと……ついでに彼女が見たいと言っていたネコを探す事も忘れない……いや、今は止めよう。……城を手に入れ、彼女を外に出られるようにして、そして2人で探す。その時までお預けで良い。


 イリスはあの部屋から出る事ができない。


 僕を助けた時のように腕や足だけを出す事はできる。だが、それ以上、外に出る事は叶わない。彼女を外に出すためには、彼女曰く『城主に囚われた心優しきイリス姫を救え』というクエストをこなす必要がある。『心優しい』とか『姫』は彼女による修飾だ。ともあれ、だからこそ、彼女を連れ出すためには城を落とす必要がある。城主を殺して彼女を救う必要がある。僕にそれが出来るのだろうか?僕の様な取り得のないただの男が彼女を救えるのだろうか。悪辣で悪質な悪魔に囚われた姫を助ける勇者になんてなれるのだろうか?


 いいや。


 なるのだ。


 彼女を解き放ち、2人で旅をするのだ。


 それはとても楽しいに違いない。こんな世界だけれど、いいや、こんな世界だからこそ楽しいのだ。この世界で起こった事に対する『彼』への不満もかなり下がっている。寧ろ今となっては感謝しても良いと思えるほどだ。彼女に出会う前の僕に伝えれば頭がおかしいと罵られるに違いないけれども。


「待っていてね、イリス」


 動作を教えればそれを覚えてくれる。言葉を教えればそれを覚え、自らの言葉を作り出し、僕に話しかけてくれる。最初に会った頃より喋り方も滑らかになっている。いつか違和感なく自然な会話ができる事だろう。それが楽しみだった。2人並びながら歩き、時には座り、語り合う。そんな未来の光景を夢見る。今より更に磨きのかかった愛らしさと神々しさを兼ね備えたイリスを思い浮かべる。自身の想像に少し気恥かしさを浮かべながら、想いを口にし、再度決意を固める。


 しかし、そんな彼女であるが、本来は何を目的としたNPCなのだろうか?城主を手に入れた者へ与えられるナビゲータNPCとかだろうか?どうだろう?


 今までに何度も考えた事を再度考えながら周囲を警戒する。


「……ほんと、なんなのだろう?」


 呟く声が廃墟に消える。


 まぁ、彼女が何のNPCかなんて分からなくても別に困る事はない。僕はどんな事をしてでも彼女を手に入れる。それだけだ。


 例え。


 そう。例え……


「久しぶりに人間の声を聞いたと思えば……よう。楽しんでいるかい?イケメンさん」


 どれだけの人を殺してでも。


「そこそこ程々には楽しんでいるよ。見る目のない青年」


「見る目ないってのは酷いなぁ少年。イケメンって言っとけば喜ぶだろうって気遣いだったんだが」


 僕の呟き声に反応するように物陰から現れたのは男だった。


 頭にはヘルメットを被り、迷彩服の下に僅かに覗くのは防弾チョッキ。迷彩服の上からでも分かるほどの筋肉質な男だった。太い筋肉質な腕や胸板で迷彩服が盛り上がっていた。腕など僕の太ももぐらいはあるだろう。現役の自衛官だと言われてもおかしくはない。そう思う。そんな彼は、手にしたサブマシンガンの銃口を僕に向けていた。


「なんか奇抜な格好のマシンガンだね」


「あぁ、これか。FN P 90って奴だな。駐屯地で手に入れた俺の愛銃さ」


 僕から視線を逸らす事なく、鼻で笑いながら男はサブマシンガンの説明をしてくれた。興味がないのでさっぱり分からないが便利そうな代物だというのは理解できた。


「ふぅん。それで僕を殺すのかい?」


 僕の言葉に慌てて男が銃口を下げた。


 良い人なのだと思った。そして同時に馬鹿な人だと思った。


「いやいや。ちげぇよ。こんな成りしてるが……いや、こんな成りのまんまなんだわ。我らは国民のために戦うのさ、ってな。だからまぁ、あれだ。戦闘できない奴らを守るために行動しているってわけよ。どうやら話が通じない殺人鬼もいるっぽいからな。悪かったよ。銃口向けて」


 からからと笑った姿は好青年のそれだった。災害時には率先して被災地に出向き、色んな人の死に目をみながらも多くの人を助けてきたのだろう。彼のこの笑いに勇気を貰った人も数多くいるに違いない。彼の笑顔を励みにがんばった人もいるのだろう。幅広い年代に好かれそうな、そんな好青年だった。


「あぁ、そうなんだ。そういう人がいて、本当……良かったよ。僕ずっと一人だったからね。人殺しをしろ、だなんて言われても……」


「だよな。誰が人殺しなんてするんだよ。ほんと。でだな、少年。俺は、いや、俺達は『あいつ』の思うがままってのは不愉快でね。仲間を集めてんだよ。実際に死ぬかどうかなんて俺達にはわからんけど、僅かでも殺人の可能性があるんだったら、試しになんてもってのほか。誰もしたくないって話さ。とりあえずネロって奴以外の全員集めようかって話をしてたとこさ」


「なるほどね。ちなみに何人ぐらい集まってるの?」


「俺を合わせて四人だ。お前も来てくれりゃ五人だ。残り九人の内五人も集まってりゃなんとかなるだろ。俺と……あと警察官やってた奴。二人も戦えるんだから大丈夫だろ。PTくんでりゃ悪魔を倒すのもわけないし、レベルもそこそこあがってきたつもりだ」


「大所帯だね。凄いや……僕もご一緒できれば嬉しいね。ちなみにレベル……いくつぐらい?」


「俺とその警官が15だな。他は10とかそんな程度だ。ま、そういう話は後にしておくとしてだな。勿論、歓迎するぜ?今から案内してやるよ。ほら、こっから見えるだろ?あそこの建物が実は中に入れてな。そこを根城にしてるんだ」


 正面を向いたまま、腕を曲げて親指で後ろを差す。誘われるようにその指の先を追えば彼の言う建物が見えた。


「ようやく設備も整ってきてな―――」


 後にして、と言った割には延々と現状を語ってくれる青年だった。


 彼らが根城にしているのは4階建てだったであろう現2階建ての家具屋さんだった。CMで良く耳にするテーマソングが自然と頭の中を駆け巡る。『彼』がその家具屋さんの内装をしっかりと作り込んだというのが聊か疑問だったけれど、あるいは『彼』が好きとかだろうか。まぁ、どうでも良い。とりあえず、今はこの男を優先すべきである。もっとも、男の語る言葉に、ではない。最近即席シャワーみたいなものを作ったんだ、とかいう話など『彼』の事以上にどうでも良い。


「というかさ。僕がネロとかいう奴だったらどうするの?そんなに簡単にアジト教えて良いの?」


「あ?ねぇよ。お前みたいなひょろっとした野郎が人殺しなんて出来るわけねぇだろが。面白い冗談言ってんなよ」


 酷い言われ様だったが、確かにこの身はひょろっとした野郎なので当然かもしれない。そして同時にやはり馬鹿だと思った。この人、脳みそまで筋肉で出来ているんじゃないだろうか?


 こんな馬鹿に率いられた残り3名もかなり馬鹿に違いないと、そう思った。


「そういえば、『彼』の知り合いとかなの?」


「『あいつ』の知り合い?やめてくれよ。そんなわけないだろ。俺が趣味で銃の説明サイト作っていたら『あいつ』から色々銃について教えてくれっていう連絡来ただけさ。そんだけの関係だぜ。んで、面白い物出来たからテストしてくれない?とか言われた結果がこれだっての。現実に戻ったらただじゃおかねぇ」


 ペラペラと良く回る口で男は語る。大きく空いた口は、彼が現実で唾を飛ばしながら喋っているのではないかと思えるぐらいだった。そんな風に語る彼に一歩、一歩と近づいて行く。


「で。お前の名前は?……あぁいや、俺の名前からだよな普通。すまんすま―――」


 そこまでだった。


 彼が言葉を口にできたのはそこまでだった。


 僕が、その大きく空いた口にナイフを突き入れ、横に動かした所為だった。


 ぷしゃっと飛び散る血。


 赤い血。


「あ……あが……なにひ」


 まるで口裂け女の様だった。実物を見たことはないけれども……あぁ、似たような悪魔はいたか。……ともあれ、そんな悪魔の様な顔をした男がその痛みに耐えかねたのか蹲り両手でその傷口を押さえる。


 結果。


 FN P90とやらがからんという軽い音を立てて地面に落ちた。


 痛みに悶える男を無視してそれを拾いあげ、蹲った男の頭に銃口を向ける。


「僕の名前教えてあげるよ」


 苦痛に満ちた表情が一瞬、はっとしたようになり、僕を見上げる。そんな彼に向って。


「ネロだよ。ちなみにレベルは君の倍ぐらいね?」


 言って、引き金を引く。


 パラパラと軽い音を立てて薬莢が空を舞い、弾丸が彼の頭を壊して行く。カランカランと地面に落ちて音を立てる薬莢。飛んで行く頭皮、飛んで行く脳漿。


 ぴしゃ、ぴしゃと僕自身の服にも顔にも掛って来るそれが酷く不愉快だった。


 カチャという鈍い音と共に弾丸の射出が終わり、同時に首から上の無くなった男の身体が地面へと崩れ落ち鈍い音を立てた。


 そして。


 ファンファーレが鳴り響いた。


 レベルアップ。


 経験値ありがとう。戦闘経験が一番大事だとは思うが、経験値も得られるのならそれはとてもありがたい事だ。加えて、武器と防具もありがとう。さらに付け加えるならば、情報もありがとう。


 心の中でそう伝える。


 彼女を救い出すための糧となってくれた事に感謝。


 彼女と僕の為に死んでくれた事に感謝。


 人を殺さず、仲間達と共に一緒に生きて行く。そういう想いは尊いのだろう。この世界で生き続け様とする事はとっても尊い事なのだろう。けれど、そんな尊さなんて何の意味も無い。


「寝言は死んでから言ってね」


 これで残り8名。


 もっとも、すぐに残り5名になる。


「待っていてね、イリス」






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