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5.
久しぶりというには少し短いように思う。
城に近いターミナルから北陸まで一直線。一体全体どんな物理法則が成り立ってワープ染みた事ができるのか?なんて事を思ってもそういえばこの世界に物理法則なんて意味がなかった。考えるだけ無駄な事だった。そんな事を考えている暇があるならば別の事を考えるか惰眠を貪りたい。
ぞろぞろとターミナルから出て地上へと昇って来るギルドの面々。
カルガモ家族大移動みたいな彼らの様子を見ながら、私は、春にその全てが出て来るまで待っていろと言われた結果、地上に上がってすぐの所にあるベンチに座っていた。
空を見上げれば、どこの空とも同じスカベンジャーが飛んでいた。全国どこに行っても同じ空だ。彼らが飛んでいない日など雨の日ぐらいだ。そういえばつい先日雨が降っていた。その日は全国的に降っていたという話を春から聞いた。情報部隊とやらは本当どこにでも行っているようだった。雨が降るなら涙ぐらい実装していても良いと思わない?とどうでも良い台詞を吐いたのはゆかりちゃんだった。現実の嫁であるハルアキに毎日のように責められているのがいい加減辛くて泣きたいからだろう。正直、どうでも良いと思った。ちなみにそんなゆかりちゃんを見て春が笑っていた。あったらよかったねぇ、と。
実装といえば、そういえばこのゲームあまりSPを使うスキルがない。ご大層にHPバーの下に専用バーがあるにも関らず、だ。
私は特にSPを消費するスキルを保持していない。ギルド内の生産系スキルを持っている人はスキルを使うたびに減っているとのことだったが……あまりにもあんまりな実装だと思う。そういう話を円卓でした事がある。単に間に合わなかったんじゃない?なんて苦笑気味に春が言っていたのを覚えている。βテストといえば製品化の一歩手前だと思うが、全機能が搭載されていないと意味はないのではなかろうか。これもまた私にとってはどうでも良い事なのでその場は流した。
ともあれ、こんなどこにでもある空を見ながら私はいつまで待っていなければならないのだろう。そもそもにしてなぜ私がこんな所に来なければならないのだろう。それこそ春の手下の情報部隊の面々に任せておけば良い話だろう。
「だるい」
「ダウト」
「本当にだるいのよ?」
「ダウト」
同じくベンチに―――私の隣に―――座って同じ様に呆と空を見ている春がそう言った。おでかけスタイルなのかえらくラフな格好をしていた。ジーンズにTシャツという何ともな格好だった。その割に私には防御力の一番高いドレスを着させているのだから不愉快な話だった。まぁ、彼自身の防御力を高めた所で極AGIステータスだと何を着ていようが紙装甲なので良いのかもしれないが……。私もラフな格好をしたいものである。
ともあれ、ギルドの中では忙しいであろう彼にも仕方なく同行願った挙句、彼のダウトカウントを今だけで二つも増やしてしまった事に申し訳なさを覚える。
「ダウト」
「何も言ってないのだけれど」
嘆息する。
嘘が通じない相手は大変面倒である。
そう。
私は今回のこの移動は楽しみだった。何を言っても彼の地元である。彼がふらっと地元に戻って来る可能性もゼロではない。業腹だけれどアリスちゃんに彼が戻って来ているかを聞くのも良い。どうせこの近くのコンビニなのだからメンバー全員が到着するまで待っている間に行ってくるのも良いと思うのだけれど……と隣に座る春に目を向ければ首を横に振られた。示しが付かないという事らしい。面倒くさい。ちなみにこれは嘘ではない。
「僕も見てみたいからね、そのNPC」
「そんなに良いものじゃないわよ?無駄に乳がでかいのが取り柄の馬鹿なNPCよ」
「それは……ダウトではないね。リンカ。あれだよ。フラットスタイルも良いものだよ?」
「殺すわよ」
「おぉ、怖い怖い」
全然怖がっていない表情で春はおどけるように肩を竦めた。憎たらしいにも程がある。自分がその内死ぬ事を自覚している人間は恐怖を抱かないらしい。全く、面倒な人間である。
「で、今度はここを落とすの?個人的には最後にしたいんだけれど」
周囲を全て私の支配下におけば彼はもしかしたらここに来るのではないだろうかなんて思ったりしている。そのためなら私はがんばれると思う。うん。健気よね、私。
「北陸の城はまだ見つかってないよ。って、あれ?聞いてない?言ったような記憶もあるんだけど」
「聞いていたけど聞き逃していただけじゃない?」
「連絡事項ぐらいしっかり覚えておきなよ、女王様。いくら楽しみだからって……おっとこれは禁句だっけ」
「死に急ぎたいなら別に」
「特に急がなくてももう暫くだろうから安心して良いよ。長くても後1、2ヶ月さ」
戯言を繰り返しながら、メンバーが集まるのを待つ。確か3,40人ぐらい連れて来たはずだ。正直に言えば勝手について来たと言った方が良いのだけれども。以前この地に訪れた時はエリナだけだったが、エリナはもういないわけで、その代わりに親衛隊と自称する輩がついて来ていた。まぁ、ギルドのマスターとサブギルドマスターが一緒なのだからそういう配慮があっても良いとは思う。とはいえ、彼の地元にこんな大所帯でくるのは失礼にも当たるし、正直、鬱陶しいのは事実だ。
「それで、何の用なのよ」
「WIZARDへの報酬用だよ。中国地方落とすの手伝ってもらったでしょ?」
「あぁ、あの糞女の……」
「あんなにがんばってくれたのに酷い言いようだ」
そんな台詞は苦笑しながら言うものではないと思う。私が言えた台詞ではないけれど。
中国地方の城を落とす時は本当に役に立ってくれた。明け方に1人で突撃して行って城を粗方爆弾で吹き飛ばして適当に殺しまくった後、飽きたと言って帰って来た。その後、ROUND TABLEの面々で城へ攻め込んだが、城壁を破壊された城など砂城に等しい。人造の太陽が南中を示す前に終わった。爆弾生成能力というのは本当恐ろしいスキルだと思う。私も欲しい。
さておき。そのWIZARDであるが、現在九州南部で破壊の限りを尽している。つい先日、様子見に行ったら粗方が更地になっていた。暇なのだろう。一都市全て瓦礫に還るまで続ける気に違いない。そんな事に何の意味があるかは分からないけれど、まぁあんなのが何を考えているかなんて私に分かるはずもない。もっとも分かりたくも無い。
「例の『彼』の情報を手に入れるまでは契約完了しないんでね。あてにしていた東北の方には全然情報がないしねぇ……」
「ふぅん。そっか。あっちにはいないのね」
だったら本当、どこにいるのだろう?やっぱり犯人が現場に戻るようにここを張ってれば見つかるだろうか?邪魔なギルドメンバーには近隣の都市も見張って貰っておくのも良いかもしれない。
「春。メンバーに近隣の都市探索お願いしておいて」
「そんなに邪魔かい?」
「春だけでも手に余るわよ」
「それがダウトじゃない所が嬉しくない所だけれど。ま。了解だよ。どうせ最初からそうしようと思っていたしね。だからこそのこの人数だし」
「だったら四の五の言わないでよ」
「四の五の言うのが僕の役割だって事をそろそろ理解して欲しいね」
「あっそ」
そんな戯言のやりとりをしつつ、ようやく全員が揃った所で一部は連絡役にターミナルへ置いておき、全体の半数を近隣の都市へと向かわせる。そして残り10名程を連れて私はアリスちゃんの経営するコンビニへと向かった。
コンビニに辿りついた私達は軒並み---私も含め―――呆然とした。
スカベンジャー達が早く開けろ!とばかりに窓ガラスを一斉にこんこんとくちばしで叩いていた。異様な状況だった。
「なんだいこれ?プログラムの不具合?」
「知るわけないでしょう」
「……まぁ、そうだよね」
春もまた呆れていた。脱力したような感じだった。彼がこういう表情をするのは珍しい。何事にも達観したような人間ではあるが、まだ人間味はあったという事だ。
スカベンジャー達のコンコンという音の大きさに辟易してきた頃、内側から大量の廃棄処分品を両手に抱えてアリスちゃんが現れた。
そして彼女が私達に気付き、あ!という顔をして少し急いで自動ドアへと近づき、自動ドアが開いた瞬間、スカベンジャーが彼女を襲った。
「ちょ!?スカちゃん達!?きゃ、きゃぁぁぁぁっ!?」
瞬間、彼女の悲鳴が辺りに響いた。
結果、彼女は背中から倒れ、コンビニのドア周辺に廃棄弁当が散らばり、我先にとスカベンジャー達が弁当を突き始めた。
なんというか飼い犬に全身を噛み砕かれた飼い主のようだった。流石に可哀そうだと思ってしまった。この私が、である。
流星刀を仮想ストレージから取り出し、一振り。
「どきなさいカラス共」
殺さないように鞘に入れたままスカベンジャー達の尻をぺちぺち叩いて追い払う。普段ならきっとスカベンジャーを切り殺していただろうけれど、流石にこの状況で血肉塗れにするのは忍びなかった。
「……ほら、手」
後頭部を打ったのか右手で後頭部を撫でながら左手で私の手を掴みながら、あいたーと呟き、次いでようやく私の事を理解したのか、
「あ……お、御嬢様!誰かと思えばお持ちでない御嬢様じゃないですか!」
瞬間、手を離してしまった。
がつん、という鈍い音と共にアリスちゃんが頭から落ちた。
「いったぁぁぁ!?」
今度は両手で後頭部を抱えて地面をのたうちまわっていた。結果、残飯塗れになった。酷い話もあったものだ。
「騒がしいNPCだねぇ。リンカ」
「でしょ?まぁでもただの馬鹿よ」
くすくすと春がアリスちゃんを見て笑っていた。そして、私の代わりにと今度は春が手を伸ばす。その手をおずおずと――― 一瞬私の方を見たのでまた離されるとでも思ったのだろうか―――手を伸ばす。そして、春に引き上げられるような形で立ち上がった。
「いやー、散々ですね!折角のお洋服が台無しですっ」
ケチャップやソース塗れだった。勿論、顔にも髪にもご飯粒やら何やら分からない焼き肉然としたものがついている。
「着替えてきたら?待っていてあげるわよ?」
「ありがとうございますっ!」
たたた~っと軽快な足取りで店の奥へと下がって行くアリスちゃん。そうか、今日はショートパンツか。趣味が良い。デニムだったらもっと良かったのにと思いながら、振り返りギルドメンバーに掃除を命じた。
私の命令に、皆が皆面白いものを見させてもらったとばかりに苦笑しながら残飯を片付け始めた。
これぐらいやってあげても良いだろう。情報を得るためだし。まぁ、もっとも彼と会って会話していたとなると……
「リンカ。その仏頂面はギルメンが怯えるから止めた方が良いよ」
「普通の面よ」
「ダウト」
そうやってギルドメンバーが片付けている間、春と戯言を言い合っていれば、暫くしてアリスちゃんが着替えて戻ってきた。何か良い匂いがすると思ったら髪が微妙に濡れていた。シャワーまで完備しているのかこのコンビニという以前に、NPCもシャワー浴びるんだと知った。
「お待たせしました御嬢様方!あとお客様方!」
「どういう分類なのよ」
「御嬢様は女の方で、お客様は男の方です。特別仕様としては鬼畜様です」
彼を特別扱いしている事に、一瞬ぎりっと歯が鳴ってしまったのは仕方ない事だ。表情には出さなかったと思うが御蔭で返答できなかった。そんな私の代わりに春がアリスちゃんに対応する。
「あぁ、その鬼畜様の話を聞きたくて今日は来たんだ。教えてくれるかい……えっと、アリスちゃん?」
「そうでしたかー。えっと……はて?」
「どうかした?」
「いえ、どこかで見た事がある顔だなぁと思ったのですが……人違いですよねぇ」
「間違いなく人違いだね。履いて捨てるほどそこらにある顔だし見間違いだと思うよ」
「やっぱりそうですよねぇ……ちなみにお客様のお名前は?」
「春だね」
「陽気な感じで良い名前ですねぇ。えっと、鬼畜様の事ですよね。残念ながら御嬢様が来られてからもまったくです。顔一つ見せてくれませんよ。薄情な人です」
再びがきりと歯が鳴った。が、
「あ。でもでも昨日は県外からお客様が来ましたよっ!御蔭で二日連続お客様デイです!この調子なら明日もきっと誰か来てくれるに違いありませんっ」
なんだか馬鹿を相手にするのも疲れると思い、やる気が失せた。彼の事を知らないなら別に……どうでも良い。どうでも良いので春にアリスちゃんの相手を任せてコンビニの陳列棚に向かう。可愛い洋服があったら少し仕入れておこうと思う。アリスちゃんの御店は意外に穴場だと思う私である。本当は自分で作ってそれを着て彼に会いに行きたい所だけれど、そこまで望んでは罰が当たる。決して裁縫が苦手とかいうわけではない。決して。
「へぇ。今時期に色んな都市を行き来しているってどこの人なんだろうねぇ」
「仲の良いカップルさんとNPCさんでした。東北から来たとか言っていましたよ。雪化粧がうっすらだそうですよ。見てみたいですねぇ」
「東北……か。だったらLAST JUDGEMENTかな。少人数という事は探索とかでもないだろうし、観光というにはこの世界は危なすぎるし、あるいはよほど自信があるのか……その人達がどこに行ったか知っているかい?」
「隣の市とか言っていたと思います。あと帰り際には寄ってくれるとか」
物色している私を余所に春とアリスちゃんが話をしていた。
しばらく春とアリスちゃんの会話は続いていた。他に特筆すべき事はなく、他愛のない雑談だった。それが終わって、情報料がてらに食糧を調達してから一旦ターミナルへと戻る。春がどうしてもというので戻ったものの……面倒くさいので私は再びベンチの住人となった。
「隣町にLAST JUDGEMENTのメンバーがいるそうだよ。今時期は交戦を避けたい所だけれど、まぁ……場合によってはやって良いよ。そう伝えておいて」
ため息と共に春はベンチの裏にある広場に皆を集めて状況を説明していた。
「春様、その件なのですが……」
はるさま……その言葉に驚いて振り返えれば背の低い女の子が春に駆け寄って話し掛けていた。
死を纏っているような危険な人間に憧れる子もいるんだな、と思った。私なら絶対あんなのを様付けで呼びたくはない。とはいえ、他人を否定する程私も偉いわけではないし、別にどうでも良かった。まぁ、しいていえば彼女も肉の宴に参加していたわけで……こういう時だけ乙女を演じても春には通じないと思う。
私に聞かれたくないのか皆に聞かれたくないのかあるいは2人だけになりたいのか、春を連れてその子が少し離れた場所まで移動したようだった。
「隣の街にて紐で縛られて放置されていた一行を発見したとのことです。もう暫くすればそこに行っていた者達が戻ってきますので、その人達を連れて来るかと思います」
とはいえ、離れても会話内容はしっかり私にも聞こえていた。隠し事ならもう少し声を抑えた方が良いと思う。
「捕えられていた?」
「はい。斥候曰く、男女2人とNPCにやられたとか。かなり憤慨していた様子です。どうしましょう?」
「……リンカ?」
「何よ、私は忙しいのよ」
「ダウト。で、ギルドマスター。話があるんだけれど」
離れた場所から大きな声で問い掛けて来る春に対して背を向けたまま手をふりふり、
「聞こえていたわよ、好きにすれば良いじゃない。殺したければ殺せば良いし、仲間にしたければすれば良いわ。そういう自由なギルドでしょう?私達」
好きにしろと伝える。
「面通しだけはさせるよ」
「それは面倒な話ね」
苦笑された。
暫く待っていれば胴体を紐で巻かれた男女の集団が現れた。男が殆どで女は2人。それが私の座るベンチまで連れて来られた。そして私の前に座らされた。
瞬間、
「なんなんだよお前らっ!俺達をどうにかするってか!?」
屈強な体躯の男……恐らくリーダー格の男が吠えた。恐怖に怯えた犬のようだった。刹那、その吠えた男が後ろにいた親衛隊に殴られ、大きな音を立てて地面と接吻した。
「貴様、誰に向かって口を聞いている」
大仰だな、と思う。
「良いわ。モノを知らない獣相手に貴方の武器を汚す必要も無いし」
「マスター……ありがたい御言葉」
そして追い払うように手をふりふり、男を下がらせる。といっても集団のすぐ後ろに行ったぐらいだけれども。
「死にたいか、私の下で自由に生きたいか。どっちを選択するかよ。どっちでも良いわ」
「自由?」
そう呟いたのはえらく化粧っ気の強い女の子だった。
「殺したければ殺せば良い、犯したければ犯せば良い。死にたければ殺されてくれば良い。そういう自由よ」
「え……?」
「頭が悪い子ねぇ……春」
「伝え方が悪いよ、リンカ」
言って、春が男達の前に立つ。
「九州、中国を収めるギルドROUND TABLEのサブギルドマスター、春だ。宜しく……するのは君達の意志決定後だね。さて、マスターであるQueen Of Deathことリンカが君たちに猶予を与えてくれたよ。死んで僕達の経験値となるか生きて自由を謳歌するかどっちかだ。死にたければ今すぐリンカがその首を落としてくれる。死にたくなければROUND TABLEで好きにすると良い。ギルド幹部に逆らわなければ好きにすれば良いよ。肉林を作ろうと血の海を作ろうと自由。……うちはそういうギルドだ」
感情を込めず淡々とそんな台詞を言われた男達や女達の中には戸惑いが生じた。ざわざわと隣と小さく言葉を交わす。そんな事も1人で決められない人間なんて全くどうしようもない人間だけれど……世の中はそんなのが大多数なのだ。自分で決める事もできず、自分で理解しようともせず、無知を誇る。下らない人間達。それが大半なのだ。自分の理解が及ばない事を説明が悪いと切って捨てる愚者。識者を夢見る綺麗な言葉を持って打ち破ろうとする愚者。それが殆どなのだ。致し方ない。そんなのが大半でも人類はここまで成長して生きてこられたのだ。不思議なものだと思うが……それが現実。
「うるせぇ、俺達がそんな言葉に騙されるかよ!」
猛る男。周りも見えず、自分が優性な生物であると思っている愚かな生物。何も知らない愚者よりも尚、性質が悪い。こんな生物もやはり数多くいるのだ。
現実のこの街で公園の木が切られるという話を聞いて自然破壊だと言った者達がいた。そもそも植樹のために植えられた木こそが不自然である事を理解せず、近視眼的に反対した。私達は自然の声を代弁する優性な生物であると声高いに。馬鹿馬鹿しい話だ。戯言でしかない。
そんな話を『彼』が学友としているのを聞いた。
流石、彼だと思った。
私は最初木を切るのは悪い事だという今から考えればとっても馬鹿馬鹿しい意見を持っていたけれど、彼の言葉を聞いて考えを変えた。そうだ。馬鹿な私は考え違いしていたんだ。彼は凄い。彼はあんなにも愚かだった私を正しい道に進ませてくれた。彼の言葉を聞いて私は天啓を得た気分だった。とても嬉しかった。とっても、とっても嬉しかった。彼は私の為に私の間違いを正してくれる人なんだって分かったから尚更だった。
その時の彼の姿を思い返し、自然と口元に笑みが浮かぶ。早く会いたい。でも、こんな馬鹿を引き連れて彼の下に行ったら……彼に嫌われるじゃないか。
「あっそ。だったら貴方だけ今すぐ死ねば良いわ。……お仲間達はそうじゃないみたいけれど」
「お前らっ!?」
と彼が振り返った瞬間、私は立ち上がり、流星刀を鞘から抜き、両手で男の頭上に落とす。
すぱん、という軽い音と共に男が二つに分かれ、周囲に悲鳴が生じた。生じたのは彼らからだけ。ギルドメンバーは当然、動じていない。慣れたものだしね。
「どっちでも良いから、早くしてくれると嬉しいんだけれど?」
「ごめんね、君達。うちの女王様は短気でね。猶予はもうないみたいだよ。ちなみに、生きて君達を捕えたモノに復讐するなら手を貸す事も吝かじゃないよ。今なら……多分まだ近くにいると思うしね。あぁ、それと……人探しをしている最中でね。もしそっちを見つけたら報償も与えてあげるよ」
本当、仲間には優しい事で。
飛び散った男の血を拭いながら……服が汚れた事に少し苛立ちを覚える。まったく、やっぱりアリスちゃんの所で着替えを買っておけば良かった。
また明日にでも買いに行くとしよう。流石にさっきの今で会いに行くのは……私の小さなプライドが許さないし……でも、今から行く大学の方で彼に出会ったらどうしよう?
そんな事を私が考えている間に春が話をつけたらしい。彼ら全てギルドに参加し、なおかつ彼らの復讐のために手を貸すとか。まったくお優しい事だ。
その話が終わった後、結局、アリスちゃんの店に行ってデニムのショートパンツと薄い色のシャツを購入してきた私だった。なお、アリスちゃんは売上が!と喜んでいた。




