07
ベレー帽を被り、ラバー製の服に身を包み、背中といいますか腰の後ろに西洋剣を2本横吊りにしているキョウコの姿は格好良くみえました。加えて両方の太ももにそれぞれ拳銃が装備されています。全身武器ばっかりですが、格好良い感じです。前に着ていたジャケットとかは仮想ストレージにしまったみたいです。
対して私はといえば、相変わらずのシスター服にレイジングブルを持っているだけです。
あれから数日が経ちました。
新しく壊れていない建物を探してアジトとしました。数日後に元のアジトを見に行ったら瓦礫の山になっていた事を思えば良い判断だと思いました。
「メンバーが足りないわよね……」
「ですね」
ランクAの設計図から作った剣。アロンダイトというどこかで聞いた事のある名前の剣の柄に手を置きながらキョウコがそんな事を言いました。
25名。現在のギルドメンバーの数です。
「卵が先か鶏が先かだけれど……この場合、どっちが良いのかな」
「NEROという前例はありますし、私たちは彼とは違って多人数ですし、大丈夫なのではないでしょうか……」
駅舎から小一時間程離れた場所に城―――広い日本家屋―――があります。その情報を手に入れてきたのは、ギルドメンバー集めも担っている例の30代の男性プレイヤーです。プレイヤー名はタチバナです。至って普通のお名前です。現実の職業は会社員とこれまた普通です。ですが、人を御誘いするのが得意なようで、あれから数日とはいえ、何人かの人を連れて帰ってきました。関東以外の都市を点々とランダムに渡り、人殺しに忌諱感を持っている人を集めたというのです。この短時間で凄い事だと思います。私には絶対に出来そうにありません。
そもそも隠れているプレイヤーを探すのが大変ですし、そのプレイヤーを説得するのも大変です。それが出来るというのは凄い事です。
『お嬢達より鼻は良いんだよ』
なんてタチバナさんは言っていました。眉唾だとは思いますけれど、頼りにはなります。
御蔭で先日よりもギルドメンバーは増えています。数日で3人。もっと時間を掛ければさらに増えて行く事だと思います。
そしてそれは、このゲームに参加している大多数の人はやっぱり人を殺す事を良しとしていないという事の証左でありますので少し嬉しく思います。ネージュ君も新人教育に精を出すと言う物です。
閑話休題。
そのタチバナさんがNPCから得た情報―――コンビニ店員ではないそうで―――を手に入れたという事で内容を教えてもらった結果、私たちは城まで偵察に来ていました。
「NPCでも雇う?」
「それもありですね」
お金さえあればギルドで戦闘用NPCを雇う事ができます。
死んでも何も文句を言わない方々です。そういう意味では私の両親と同じ様な存在です。金のために死ねる人達。少し親近感が沸きました。
「同レベル帯で20人ぐらい雇えると安心できるわね」
収まりが悪いのか、後ろ手にアロンダイトの位置を直しながら、キョウコはよいしょ、よいしょと体を動かしていました。きっと装備制限の所為でアロンダイトが重いのでしょう。
「流石にそれだけ雇うにはお金が足りませんね」
「だとするならば現状でどうにかするしかないわね……」
「そんなに急ぐ必要がありますか?」
「ある、と私は思っている。WIZARDに壊滅されて、あまつさえそれを殺す事もできず、逃げたわけよ私たちは。仕方ない事なのだけれど、でも、そう認識しない人が産まれるわ」
「産まれる?」
「気をつけなさいイクス。あのタチバナって男。狡猾よ」
「メンバーを集めてくれますけれど……」
「それが問題よ。タチバナの言葉で集まった人間達よ。一体何を言って集めたのかわからないけれど、分からないからこそよ。けれど、ここまで人数が減ったら四の五のも言えない。まして、あいつを放逐する理由もない。となれば、早めに対処しないといけないわ」
「殺すってこと?」
「それが出来れば苦労はしないわよ」
苦笑された。
「私達が絶対であるとギルドメンバーに知らしめるしかないわ。それ以外に道はない。早くしないとギルドメンバーが喰い潰されるわ。あの男の思うままに動いてしまう事になる」
「そんなに悪い人かなぁ」
「正義のためにと言って、WIZARDのいるであろう所へ行かせたのはあの男よ。論理的に考えて意味の無い行為をさせたのは、あの男の言葉よ。でも、誤算だったという事よね。先日の件は」
WIZARDを目撃したのは確かだけれど、逃げのびられたし、加えてフロアボスも倒されていた。横取りした気分ではあるけれど、設計図も手に入って結果だけを見れば良い事ずくめだったとも言えます。
「一番良いのは今、ここで私達が城を落とす事。できるかしら?」
「NEROが単体でも倒せたと言う話だから……大丈夫かもしれないけれど」
「今ある資金で可能な限りのNPCを雇って行きましょうか……駄目だったら逃げてくれば良いのよ」
「逃げられるかな?」
「さぁ……でも行かなくても私達が吊るしあげられて死ぬ可能性は高いわよ」
「だったら前に進むしかないよね」
短慮と言われればそう思います。
けれど、キョウコがいうなら多分それ以外の選択肢はないのだと思いました。だから、ギルドメニューからNPCの雇用覧を開き、同レベル帯―――自分より低いレベルしか雇えないのですが―――のNPCを探しました。
「7人かな」
私たちのステータスからすれば壁役になってくれるNPCが必要でした。それを鑑みると、現状では7名が限界です。
「それは流石に心もとないわね。数日金を稼ぐ事にしましょうか。その後に行きましょう」
くるり、手の平を返しつつ自らも振り返って、キョウコが笑います。
ちょっと恥ずかしそうでしたが、とっても綺麗な笑顔でした。




