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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第五話 廃墟に謳う
37/116

05



 ゲーム開始から1カ月ぐらい経った頃だと思います。


 私のレベルは25になっていました。キョウコは23です。そこから結構離れて他の人達が並びます。雪奈やネージュ君も10を少し超えたぐらいだったと思います。その頃2人の姿をあまり見かけていませんでしたので彼らのレベルは良く分かっていませんでした。


 私達のレベルは私とキョウコで人を殺し続けた結果です。


 気付けば私はキルカウントランキング3位になっていました。御蔭でSISTERなんて名前を付けられてしまいました。キョウコも4位にランクインしていました。二つ名はBLACK LILYだそうです。名付けられた時、2人して何とも言えない表情をしたのを記憶しています。


 ギルドが出来て以降はキルカウントを全て私に移動していますので、その内キョウコの名前はランキングから消える事でしょう。そうなれば、キョウコが目立つ事はありません。キョウコは私1人を殺人鬼のような扱いにさせる事を悔いておりましたが、私はそんな事は気にしていません。むしろ、ランキングにいない人が強いというのはギルドの隠し玉という事にもなりますし、心強いです。


 ともあれ、私たちは当初の予定通り、東北に来た私達の意見に賛同する人達は仲間に。人殺しを死に来た人達には制裁を。そんな事を繰り返しました。


 1ヶ月もすれば、各々が逃げた土地で暮らし始めたと言う事だと思いますが、東北に来る人も少なくなって来ました。殺さなくて済むのは良い事だと思います。逆に言えば、それ以上のレベルアップは見込めなくなっていました。20を超えて以降のレベルのあがらなさは尋常ではありませんでしたし。


 私達はプレイヤーを殺していましたので何とかそのレベルですが、他の人達は戦力と数えるにも難しい程でした。


 結構な人がギルドに参加してくれた御蔭で、人だけはいましたので、武器などはかなりの数が集まっています。装備だけは良いと思うのですが、キョウコ曰く―――ああ見えて意外とゲームとかが得意だそうです―――レベル製ゲームではレベルが最重要とのことでした。望んで殺したいわけではありませんが、レベルが低い事には災害に等しいNEROやWIZARDから身を守る事もできません。


 そういう理由もあって、私達は駅に近いツインタワーの片側でレべリングをしていました。最初は自衛隊駐屯地でレべリングをしていたのですが、流石に経験値の増え具合が少なくなり移動したのです。


 ちなみに駐屯地で手に入れたレイジングブルは今では私の愛銃です。何度も何度もランクBの設計図を手に入れて作成した結果です。PTリーダーを変更すると何度もクエストをチャレンジ出来る事を知ってギルドメンバー全員分ボスを倒しました。数十個のランクBの設計図---銃とか剣とか槍とか―――を元に武器を作成して、得られたのがレイジングブルです。他の武器はギルドの皆に配布しました。ネージュ君や雪奈もランクBの中でも良い感じの武器を持っています。当然キョウコもです。キョウコは銃が苦手と言う事で、ステータスもそんな感じですので西洋剣シルバーソードを持っています。柄の部分が白銀で出来ていて綺麗です。御蔭で今の彼女は物語に出て来る騎士様みたいでちょっと格好良いです。


 さらにちなみに、現実世界の私では扱いが難しかったでしょうが、レイジングブルのような大口径銃はこの世界では比較的簡単に使う事ができました。といっても遠距離武器は基本的に照準を自分でやりますし、その辺りに慣れていない人が使うと厳しいものがあります。両親の御蔭で適性の合った私は素直に銃を、そうではないキョウコが剣を選んだのは必然だったと思います。御蔭で、私は最近ではDEXを優先的にあげています。DEX>VIT>AGIというステータスです。キョウコは私とDEX、STRが逆になっているタイプです。


 そんな私とキョウコを先頭に、最初期に集まった20名程でレべリングを行っていました。今回はたまたまそう言う人達が集まりました。定期的にメンバーを交代してレべリングを行っています。他の人達は駅舎の防衛とか都市部の防衛に周って貰っていました。


 人が多ければそれだけダメージソースが多くなりますので敵を倒すのは楽です。ビルを昇りながら、一階一階フロアの敵を掃討しては上に昇り、昇り切ったら下へと向かい、悪魔がリポップした頃を見計らって再び上へ。そんな事を繰り返し行っていました。反対側のタワーの方にはフロアボスがいるようで、一度見に行った事はありますが、すぐに引き返しました。あれを倒すには平均レベルが足りなさ過ぎます。平均レベルが達していたとしても犠牲者は数多く出る事でしょう。とはいえ……ギルドとして、正義の集団として身内にも力を見せる必要があるので、近いうちに倒しに行かなければならないと思っています。それが少し億劫です。


 毎日のようにビルに昇り、時折泊まりがけで延々とレべリングを行います。大きな牛をレイジングブルで射殺したり、銃弾や道具を見つけたり。そして、私は暗視スキルのレベルあげも兼ねて夜も動いておりました。御蔭で暗視レベルがあがりました。夜でも良く見えます。


 御蔭で……月が、月のようには見えなくなりました。


 綺麗だった月が、昼の太陽のように見えるようになりました。


 夜がなくなったといえば良いのでしょうか。


 夜の帳に浮かびあがる月。黒いキャンバスに際立つ金色の月を綺麗だと思える事はなくなったのです。白い空に白く輝く月が見えるだけです。


 とても、残念でした。


 ビルの屋上から見上げる月が……太陽のように見えて、酷く残念でした。


 目を閉じ、壊れたビルの上で口ずさみます。


 ふんふん、とどこかで聞いた歌を歌います。


「イクス。何?また泣いているの?」


「泣いてなんかいませんよ」


「貴女が歌う時って、悲しい気分の時よね」


「そんな事もないと思いますけれど」


「嘘吐きは泥棒猫の始まりよ。ほら、おいで」


 そう言ってキョウコが私を正面から抱きしめてくれました。相変わらず彼女の体は暖かいです。それにとっても優しいです。


 しばらくそうやってキョウコに抱きしめられていました。例え月が綺麗だと思え無くなっても、1人じゃないなら耐えられると思いました。大丈夫だとそう思いました。


 暫くしてから2人してビルの屋上に座り込みました。


 そしてぼそぼそと適当な話をしました。少しばかりお互い周囲への警戒をしながらもゆったりとした時間を過ごしました。


「もう少しで何人かのレベルがあがるみたいだから、2,3日はこの場に留まっておきたい所ね」


「そろそろレべリングするメンバーを交代しないとですけれど……」


「待たせておけば良いわよ。2、3日程度よ」


 その判断が間違っていた事を知ったのはそれから数日後の事でした。


 ギルドアジトに戻ればもぬけの殻。


 ガーディアンとして雇っていた執事すらいませんでした。


 何があったのでしょうか。


 アジトの中を探っても何も出ませんでした。しいていえば、荒らされたような跡があったぐらいでした。それぐらいに何もありませんでした。


「何があったの……」


 珍しく焦った様な表情でキョウコが口にしました。


「……探しましょう」


 手始めに都市部。何も見つかりませんでした。


 次いで向かった駅舎地下。


「な、なによこれ……」


 吐き気を抑えるように手で口を押さえながら雪奈が口にしました。ネージュ君も引き攣った表情をしていました。他の十数名も同じです。


 死体の山でした。


 ギルドメンバーの死体が、もはや原形を留めてもいませんでした。壁や天井、床までもが抉り取られ、それに合わせたように肉片が飛び散っていました。地下であるが故にスカベンジャーが入る事もできず、そのままだったようです。


 腐る事も無く、そのまま。


 未だ香る血の匂いに鼻が曲がりそうでした。けれど、止まっているわけにはいきません。私は、ギルドマスターですので、彼らがこうなった理由を探らないといけません。示しが付きません。


「どれだけでかい爆弾使ったらこんな事になるの」


 キョウコ以外のメンバーを待機させ、2人で肉片の合間を抜けて行きます。


 地獄を歩いているように思えました。


 ここには10人近いメンバーを配置していました。1,2人が現れても武力で制圧できるぐらいの人間を置いておきました。


 それを軒並み倒せるプレイヤーとは誰でしょうか。


「誰か、キルカウント見て来て」


「ぼ、僕が見て来るよ」


 久しぶりにネージュ君の声を聞いたように思いました。一緒にレべリングをしていても話をする事はありませんでしたので。掛け声や雪奈に掛ける声は聞こえてはいましたが、耳に入っただけという感じでしたので……いいえ、意識して無視していたといえばそうかもしれません。


「お願い。それと……ううん。やっぱり、キョウコ以外全員で行って来て。何があるか分からないから。誰か発見したら逃げる事。戦おうとは思わない事」


 やっぱり全員で行って貰う事にしました。マスターの命令という事で大人しく皆が従ってくれました。


 私は、私達はやる事があります。


「キョウコ、ごめん。手伝って」


「だと思ったわ。……ほんと、損な役回りよね私達。……望んだ事だけれど」


 分かっていますとばかりに苦笑しながら、キョウコがしゃがみ、瓦礫をどかしていきます。瓦礫をどけて仲間だった人達の肉片を集めます。仮想ストレージに入れる事はできませんので、手で運ぶしかありません。少しずつ、少しずつ仲間達の肉を地上に運び、スカベンジャー達に喰わせました。


「鳥葬で申し訳ありませんが……火葬はもう嫌でしょうし許して下さい」


 爆弾にやられたであろう仲間達の体をこれ以上焼きたくはありませんでした。


 例えこれがゲーム上のデータであっても、それでも……。


 両の手を胸の前に構え、手を握り、目を閉じます。


 そして、祈りました。


「遅くなってごめんなさい。ですが……どうか安らかに」


 彼らをこの場に配置したのは私です。ですから、私が殺した事と同じです。


 どうか、安らかに。


 こんな世界で誰にも看取られずに行く事が幸せなわけがないですけれど、私に祈られた所で何の意味も無いかも知れませんけれど……。


「イクス。悲しいなら、歌えば良いよ」


 同じくその身を汚しながら仲間の肉片を抱えて、地上にあがってきたキョウコがそう言いました。


「……」


「でも、そうね。明るい歌が良いわね。それだと、少しは救われるんじゃない?貴女が彼らに送る葬送曲レクイエムにはぴったりよ。運ぶのは私に任せて、しっかり送ってやってよ」


 言って、キョウコは再び地下へと降りて行きました。


 スカベンジャー達が空から降りて来ました。


 どうか、優しく彼らを運んで下さい。


「―――――」


 瞳を閉じて、私は歌います。


 廃墟の中で唄を歌います。


 沈みゆく太陽の下。


 祈りながら、歌います。


 キョウコが仲間達だった物を運び終わるまで。運び終わり、皆が天へと昇るまで。


 延々と。


 延々と。



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