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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十一話 ゲヘナにて愛を謳う者達 下
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14:エピローグ



 北陸の地に足を踏み入れたのは、教会で一夜を過ごしてから二日後の事だった。目的としてはアリスをコンビニに返す事。アリス本人は今更コンビニ店員にならなくても、とごねていたものの、何かを察したのか最後には『また二人で帰って来て下さいね?』と口にして定員業に戻った。帰る場所などない僕達に何を言っているのだろう。ただ、その言葉に珍しく、本当に珍しくWIZARDが素直に笑った。それを見たアリスが吃驚していた程だった。WIZARDがアリスの言葉に反応する時は大概が鬱陶しい、ウザい、壊して良い?ばかりだ。にも関らず、その時は素直に笑っていた。苦笑とも違う、ただ無意識に浮かんでしまったという感じだった。勿論、その直後、アリスにそれを指摘され憮然とした表情を浮かべたのだが……。


 ともあれ、アリスとはコンビニで別れ、僕は……僕とWIZARDは二人になった。


 そして、WIZARDが言っていた通りに北海道、東北、関東、北陸、中国、四国、九州を周る事になった。


 断っても良かったのだと思う。


 だが、僕自身、今更死体にも人殺しにも期待できず、暇を持て余していた。どうせ最後は僕とWIZARDの一騎打ちになる。


 これから誰かが人殺しを行い、レベルをあげてくるか?という期待がなかったとはいえない。だが、ある町で見たランキングが悲しいまでにその期待を裏切っていた。


 時々刻々入れ換わる3位から5位。


 次々と殺し、殺されていた。


 『まぁ、当然よね』とWIZARDは口にした。


 数限りある死体がまた一つ減った。減った。減った。減った。この流れは止まる事はないだろう。プレイヤーが減る事は残念だとは思うが、もはや対岸の火事よりも興味の無い事だった。


『……これが人間よ』


 吐き捨てるように口にしたWIZARDの瞳には諦めが浮かんでいた。何処に行こうとも居場所のなかった彼女からすれば、この場所も結局、また同じなのだと気付かされたという事なのかもしれない。


 英雄きょうしゃがいなくなった今、誰もこの状況を止める事はできない。NERO、SISTER、BLACK LILIY、DEMON LORD、Queen Of Death。その内の一人でも生きていれば状況は違ったのだろう。いや、そんな当たり前のことを考えてどうする。いないからこそ、こうなっているのだ。


 勿論、僕にそれを止める理由はない。


 WIZARDは諦めからそれを止める事はない。


 だから。


 僕達は対岸の火事を見る事もなく、ただただ色々な場所へと向かった。


 まず、北陸から一旦北海道へと戻った。北海道で見る景色はどれもこれもが作られたように綺麗なものだった。不愉快な事ではあるが、記憶に残っている。まずは巨大な湖。湖に潜んでいた竜然とした悪魔には苦労させられた。北海道の最北端には流氷が流れ着いていた。それの上を歩いて行けば、世界の果てに辿りついた。何ともテンプレート的ではあるが透明な壁があった。こんこんと叩いてみても、銃で撃ってみても、爆弾を破裂させても壁が壊れることはなく、二人して、まぁ、そうだよな、と頷いた。東北へ南下した。青森の恐山へ向かった。あれをイタコと呼んで良いのか分からないが、鉢巻きに蝋燭を挟んだ狐がコンコンと何かを呼び出していた。そこで現れた悪魔達は倒されたボス達だったみたいである。ボスアタックのようなイベント会場だったようで苦労させられた。僕達以外には誰も来ていないだろう。そも、僕達自身も別にそれを楽しむつもりはなく、適当な所で切り上げた―――この時点でWIZARDが望んでいた悪魔等を殺さずという目標が潰えた。ふてくされていた。青森から南下している最中、陸上を四足で歩く鮪を発見した。先のふてくされの発散が理由かは知らないが、WIZARDが爆弾で仕留めた為、周囲に鮪の赤身が飛び散った。少しばかり残念だと思った。更に南下し、SISTERを見たタワーへと昇った。あの頃に比べて僕達のレベルも上がっていた為、あの時苦労した悪魔も大した時間を掛けずに倒す事が出来た。特に達成感というのはなかった。山間部を歩いた。昔々、武士達の逃げ隠れた集落へと辿りついた。夜になると白骨の武者が現れた。眠るWIZARDを余所に朝までそれの相手をしていた。特に面白さはなかったが、WIZARDは安眠出来ていたようで翌朝、すっきりした顔をしていたのを覚えている。北陸へも向かった。大学に向かい、そういえばここで銃の練習をしていたな、と思い出した。WIZARDがここでリンカにあったわね、とそう言っていた。その後、アリスのコンビニで一泊―――意外にも数人泊まれるような場所だった---した後、関東へと向かった。少し北へ戻った感じが癪に障ったのかNEROの居城だった城をWIZARDが爆破した。酷い事をするものである。次いで関西へ向かった。そういえば、関西にはあまり足を踏み入れた事はないな、と考えながら、淡路島を渡り、四国へと。遍路巡りをする気もなく、そのまま適当にぶらついていた時に見つけた温泉に入った後、連絡橋を渡って中国地方へと。一時期ROUND TABLEの城であった所にも寄った。案の定誰も居なかった。そういえば、WIZARDと旅に出てから誰にも会っていない。僕は彼女だけを、彼女は僕だけを見ていた。まぁ、そんな物言いをした所で僕達の間に男女の何かがあるわけもない。


 ふいに思う。WIZARDは何故僕と一緒に居る事を認めているのだろうか。彼女にとって僕の様な人間は楽なのだろうとは思うが、最初に出会った時から妙に懐かれているというか、僕を殺そうとはしない。時折冗談めいて爆弾を投げられる事はあるが殺傷能力が低いものでしかなかった。僕の方は何度も顔面に全力の弾丸をお見舞いしているが。


 彼女がどういったつもりなのかは分からない。


 ただ、分かるのはこの旅が終われば、それが最後と言う事だけだ。


 九州へと向かった。


 Queen Of Death。Reincarnationのいた場所。結局、遠目から見る事しかなかったが、今更ながらに勿体なかったと思った。SCYTHEにしろ人形殺しにしろそうだが、僕は綺麗に人を殺せる人とはあまり縁が無いらしい。唯一交流があったのはSCYTHEだが……それも隣にいるWIZARDが殺している。


 ふいに。


 不意に思い出した。SCYTHEが死んだ時、いいや、SCYTHEを殺したと口にした時のWIZARDは憂いを帯びていた。今更ながら、何故だろうかと思った。まぁ、考えた所で分かるはずもない。


 北九州から南下して、鹿児島まで訪れた。更地だった。WIZARDがやったという。蟲が一杯いて気持ち悪かったからとのことだった。性もない理由である。


 ともあれ、そこで終着。


 生憎と沖縄は実装していないようだった。


 終着点。


 更地となった場所で僕達はぼんやりと一夜を過ごしていた。


「付き合ってくれてありがと」


「らしくもなく殊勝だ」


「確かにらしくはないかもね。まぁでも……ほんと、ありがとう。シズぅ」


 夜。


 砂と瓦礫だけの場所に座り、互いに背を合わせて天を見上げる。人造の星と人造の月が輝いていた。天に近いわけでもないのにとても輝かしく、眩しく、苛立ちさえ浮かぶ程だった。


「シズぅ。現実に戻ったら何をしたい?」


「……普段通り過ごすだけだ」


「普段通りって人殺し?」


「君は僕を何だと思っているんだ」


「人殺し」


「否定はしないが……別段、現実世界でまでそれをする気はないよ。妹が悲しむ」


「シズぅは意外とシスコンよねぇ。時々出て来る妹さんの話、私結構好きよ。一度会ってみたいわ」


 くすくすとWIZARDが笑った。その笑みが終わるまで、僕は無言を貫いた。別段、苛立ちを覚えたというわけではない。


「そもそも、よ。元の世界に私や貴方のいる場所は残っているの?」


「さて……どうだろうね」


 既に使い古されたデスゲームを綴った物語の勝者はさて、現実世界に戻ってどうなっただろうか。運営が悪であれば、戻る場所も用意されているだろう。家族や友人にも大層心配されているだろう。運営が完全悪であれば、だが。この世界の末路はどうなるだろうか。仮に。この世界の状況が外に漏れているとすれば、殺人鬼が現実世界に解き放たれる事になる。ゲームではあった。だが、それでも何十人、何百人、何千人と殺してきた者が真っ当に元の世界に戻れる道理はあるだろうか。戦争に行った者が帰って来て真っ当でいられなかったという現実も、それを描いた物語も多く存在する。それが僕に当てはまるかといえばノーだが……ともあれ、そんな人間が現実世界に戻った場合どういう扱いをされるだろう。緊急避難どころの話ではない。生憎と法はこんな場合を想定してはいない。いや、例え法が守ってくれたとしてもどうにもならないだろう。


「何千人という人間を犠牲にして、私、帰ってきました!なんて人間を喜ぶ人間は頭が相当おかしいわよ。お近づきになりたくないわ」


「違いない」


「まぁ、シズぅの妹は心配していてくれるかもしれないけれどね。私と違って。もう誰もいないし」


「鳥籠はいつまで経っても鳥籠じゃなかったのか?」


「鳥籠の監視役は私が殺したもの」


「……初耳だ」


「初めて言ったんだから、初耳で当たり前よ」


 言って、自嘲気味に笑った。


「だとすれば外に出れば自由だろう」


「別の鳥籠が産まれるだけよ。……それにしてもシズぅの事だし予想はしていたけど、普通もっと詳しく聞かない?なんで殺したの?とか」


「爆弾で爆破された死体に興味はない」


 くすり、と笑われた。


「そういうシズぅだからこそ私は楽だし、好きなんだけどねぇ」


 そう言ってWIZARD―――自らにアッシュと名付けた女は立ち上がった。


 僕もまた、立ち上がり、振り返る。


「……じゃ、そろそろやろっか。シズぅ?」


 僕の目を見て、髪をかき上げ、心底楽しそうに朗らかに笑いながら彼女はそう言った。


 




 了


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