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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十一話 ゲヘナにて愛を謳う者達 下
103/116

04


「NERO様、四国の調査が終わりました。件のNPCは発見されませんでした」


「あっそ。じゃあ、次は関西の方……いや、お前はもういいよ」


 そんな事聞かなくても分かるだろうに。態々指示を出さないと言う事を聞かない存在なんて機械と同じでしかない。所詮、こいつらNPCはイリスとは違うのだ。まったく、使えない奴だ。使えない奴なんていらない。


 FN P90の銃口を向け、引き金を引いた。


「そっちの奴は?まだ見つからないのかい?」


「はい」


 再びFN P90の銃口を向け、引き金を引いた。


 銃弾によってできた風が、血の匂いを運んでくる。その臭いにも慣れたものだった。後で換気ぐらいはしておこう。イリスが来た時に臭かったら怒られそうだ。


「じゃあ、次はお前に任せるよ」


 適当なNPCに指示を出す。面倒な事だ。人海戦術といっても所詮、NPCだから仕方ないのかもしれないが、面倒な話だ。


 列島にNPCを放ち、それでも見つからないイリス。


 Czが隠しているのだろう。不愉快なことだ。


「で、どこか全滅した部隊とかないの?」


「ありません」


 CzとWIZARD。その二人が今も一緒にいるのだとすれば、高レベルNPCだろうと意味はない。とはいえ、足止めぐらいにはなるはずだ。


 今や私の方がレベルは高い。寝ることなく四六時中悪魔を殺していたとしても、プレイヤーを大勢殺している私の方がレベルは高い。そんな私が作り出したNPC軍団なのだ。時間稼ぎぐらいはできるだろう。部隊に所属する一人ぐらいは離脱できるはずだ。にもかかわらず、そうなっていない現状が聊か疑問だった。


「北陸から東北に侵攻している部隊が多少減っています」


「ふーん。LASTなんとかも存外がんばるね。いい加減そっちも終わらせてしまうかな。『彼』が余計なちょっかいを出してきているみたいだし……いや……そうか。逆に待つのも面白いか」


 3次元モデル……建物を作る事ができる素材、それの販売メニューが追加実装されたとき、私は『彼』が動き出したと理解した。あれの妹がこの世界にいるのだ。家族という事で多少は有利に働くようにするだろう。そんな感慨が『彼』にあるかといえば、微妙な所だけれども。それでも死ぬ前に、妹に華の一つぐらいは持たせるようにも思う。


 死病に侵されている『あいつ』の事だ。


 βテストが始まってから随分時間が過ぎた。


 随分持っているものだが、それでも精々、後数ヶ月と言った所だろう。


 きっとそれまでに花火をあげる。火付け役を妹に託すのか、自分でやるかは分からないが碌でもない花火なのは想像に難くない。どれだけの人間が死ぬ事になるだろうか。


「そんなに寂しいのかい?」


 自然、笑みが零れた。


 死に向かう際の道連れがなければ耐えられないなんて、らしくもない。古代中国の王様のように何千、何万という人を道連れにしなければ、安心できないなんて、何とも馬鹿馬鹿しい。


 人間なんて道連れにしてどうする。


「そんなだから呪われるんだよ」


 あんな人間を長生きさせていてはいけないと、神様が決めたのだろう。全会一致に違いない。


 挙句、妹まで巻き添えにしているのだから最低にも程がある。……いや、あの妹の事だから望んでこのゲームに参加したに違いない。兄が生きていない人生に意味はないと、そう思っているだろう。まったく、狂っている。


 ともあれ、


「『彼』の妹が暴れるのを待つとするかな。大分、静かだったみたいし。そろそろお兄様成分が足りなくなってきたんじゃないかな」


 そして、ROUND TABLEと同じ様に内部分裂で終わる。


 所詮、人間なんてそんなものだ。内部に一人でも裏切り者が居れば疑心暗鬼によって分裂する。あの聡い妹の事だ。その辺りは重々承知しているだろう。


 そんな光景を見て私はきっと満足するのだろう。


 所詮、人間なんてそんなものだ、と。疑って、裏切って、嘘をついて、殺し合って。そんな何の意味もない性もない生物なのだと。そして、そんな人間よりもイリスの方がとても高潔で素晴らしい存在なのだと、理解できるのだ。満足できることだろう。


「精々、大きな花火を上げて欲しいものだ。『彼』が寂しがらないように」


 自分の言葉に苦笑が浮かんだ。いや、嘲笑というべきか。


 そんな風に笑っていれば、バタバタと慌てるような足音が聞こえ、聞こえたかと思えば、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。


「NERO様!」


「煩いよ」


「申し訳ございません---ですが、WIZARDが」


「……どこだ?」


「東京駅です」


「へぇ……向うから来るとはね。やる気満々だ。じゃあ、東京にいる全NPCを東京駅へ向けて。私も後で行くよ」


 私の方が強いのだと、それを示すためにも。


 あんな頭のおかしい女なんかより私の方が強いのだ、と。


「それで、腐った目をした人間プレイヤーみたいな奴はいたかい?」


「…………居ました。背にNPCを守っていました」


 瞬間、全身に鳥肌が浮かんだ。


 ぞくり、ぞくりと身体が悦びをあげる。


「あぁ……そうか。そうか。ようやく。ようやく来てくれたんだね、Cz。でも、遅いよ。もう約束は、期限は切れた。君は死んでもらう。死んで、私のイリスを返してもらうよ……お前ら。そのNPCには一切傷を付けるな。付けたら殺す。私が殺す。二度と復活できないようにしてやる。さぁ、行け。私もすぐに向かう。それまでに魔法使いの一匹ぐらいは殺しておけよ」


 


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