32日目 一週遅れのバースデー
「それでね、飼育係の子にウサギ抱かせてもらって写真撮ったの。ほら、あたしと同じくらい可愛いでしょ」
メスガキはスマホを操作すると、ウサギとのツーショット写真を見せてくる。
「なんかこのウサギ小さく無いか。まだ子供なのか」
「大人だよ。ネザーランドドワーフだから少し小さめなの」
「ネザ……なにそれ」
「ウサギの品種よ。ピーターラビットのモデルなの」
ピーターラビットなら俺も知ってる。確か父親がパイにされたんだ。
「お前の学校、しゃれた動物がいるんだな。うちの学校は鶏しかいなかったぞ。しかも雄鶏オンリー」
「いいじゃない。脱出不能の男子寮みたいで」
……今日も今日とて放課後のメスガキが押し掛けてきたわけだが。
はしゃぐ小娘と裏腹、俺は落ち着かずソワソワと辺りを見回す。
「えーと、ここに来るとき誰かに会ったか? いや、変な意味じゃないぞ」
我ながら挙動不審な俺の態度に、メスガキが首を傾げる。
「どしたのおじさん? 警察にでも追われてる?」
「あー……ほら。お前、先週誕生日だったろ?」
三十年も年を重ねた大人の男が、なんでこんなことで緊張せねばならんのか。
俺は開き直って、隠し持っていた小さな紙袋を差し出す。
メスガキは目をぱちくりとしばたかせる。
「……あたしに?」
「ただのお菓子だ。特別なもんじゃないぞ」
「ううん、ありがと! 嬉しい!」
あれ。生意気コメントの一つも返ってくるかと思ってたが。
やけに素直な態度に正直拍子抜けだ。
「可愛いチョコだね。……あれ、なんか他にも入ってる」
紙袋の中から取り出したのはカラフルな編み紐。
「これって確か……ミサンガ、だっけ」
「ほら、小学生とかに流行ってるんだろ?」
メスガキは目を輝かせて俺を見上げる。
「全然流行って無いよ! それに誰も付けてないし」
「え、そうなのか?!」
流行ってないのかよ。あのクソ店員め、適当なこと言いやがって。
昨日の夕方、職場を抜けて近くの商業ビルにこっそり買いに行ったのだ。
その中で女学生の多い雑貨屋に飛び込んだ訳だが———まんまと店員に売れ残りを押し付けられたらしい。
「でも嬉しい! ありがとおじさん!」
メスガキは早速手首に巻こうとする。
上手く巻けずに手間取っているようなので、手を貸してやる。
「ほら、これだと外せなくなるぞ。ちょっと面倒だけど、ここで輪を作ってこうやって……」
「外さんし」
「学校や風呂では外せ。ほら出来た」
手に巻かれたミサンガをニンマリを眺めるメスガキ。
何だかんだで子供である。やっぱこういうのが好きなんだろう。
「これ、おじさんが編んだの?」
「編むまでは出来ないから、上から模様だけ縫い付けるキットがあってさ。お前の学校、手作りじゃないといけないんだろ?」
「うん。でもおじさんがこんなの選ぶんだ。意外だね」
「ま、まあな」
店員に上手いこと売れ残りを押し付けられたとかとても言えない。
「俺が小学生の頃、ちょっと流行ってさ」
「そうなの? そんな昔からあったんだ」
「ああ。それに付けてる内に自然と切れると、願いが叶うとかそんな噂があって」
「へーえ。子供ってそういうの好きよね。切れたら願いがねえ……」
お前こそ子供じゃないのか。
内心でそんなツッコミをしていると、なんだかメスガキがゴソゴソしている。
「なんでお前、手首を手すりに擦りつけてんだ?」
「……ちょっとかゆかっただけだし」
「それ、自然に切れないと願いは叶わないからな」
「分かってるし。……でもさ」
それまでしおらしくしていたメスガキの目が、見慣れた悪戯っぽい光をたたえだす。
「おじさん、あたしのためにわざわざ買いに行ってくれたんだ」
「わざわざってほどじゃないけけどな。買い物のついでだ。ついで」
「ふーん。あたしのこと考えながら、若い女の子に混じって買い物したんだね。あたしより可愛い子いた?」
「いない———って、そんな目で周りを見てないって」
いかん。適当な受け答えをしてしまった。
俺の失点を見逃さない。メスガキはニマニマしながら俺に肩をぶつけて来る。
「だよねー♡ おじさん、たまにあたしのことヤラしい目で見てるもんね♡」
「気のせいだ。来年の誕生日は瓶底眼鏡買ってやる」
「きゃー 来年も予約されちゃった♡」
……ったく、最初のしおらしさはどこにいったのか。
しかし今日ばかりはうるさいことを言うのは無しだ。
黙って好きなようにさせていると、再び黙り込むメスガキ。
……今度はどんな悪だくみを考えているのか。
溜息をこらえて顔を向けると、そこには手首の贈り物を見ながら素直な喜びに顔を輝かせている少女———もとい、メスガキの姿が。
俺の見ている視線に気付いたか。太陽のような笑顔を俺に向けてくる。
「おじさん。大事にするね♡」
「お、おう……」
俺はぎこちなく頷いた。
……いかん、なんで今日は一々ドギマギしてしまうのか、
俺は火を点けずに煙草をくわえる。
まあいいさ。
今日ばかりは好きなようにさせてやると決めたのだから——
本日の分からせ:分からせられ……30:70
メスガキちゃん、ちょっと嬉しすぎて素が出てしまったようです。アラサーさん、毒気を抜かれてちょっと調子が出ません。
帰り道スマホで『ミサンガ 願い 叶う』と検索しまくるメスガキちゃんに、バナー下から ☆彡 を降らせて願いをかなえてあげてください。
きっと、メスガキちゃんがふざけて髪の毛であなたの薬指を縛って、この先の人生を予約してくれます。
次回、メスガキちゃん’Sのガールズトークです。
ちなみに私のこの先の人生はオーダーストップ間近なので、お買い上げの方は早めにご注文お願いします。




