#158 感謝。
"せめて友達でいたい"
優弥の言葉を聞いて、奏太の腕の力が少し強くなった。
奏太も優弥も、雨にぬれていて密着した奏太の肌は冷たい。
「俺だって、同じだった」
『ほえ?』
「忘れようと思ったけど、忘れられなくて」
『え・・・?』
「・・・・・・ごめん」
奏太が謝ったところで、優弥は勢いよく奏太から離れ、肩をがしっとつかんだ。
『そうだ!忘れてた!!奏太、怪我は?!』
「・・・・・・は?」
『千秋から奏太が事故にあったって聞いて・・・』
「・・・・・・は?」
『え?』
「俺ずっと家にいたし。お前が悠希とここで待ち合わせしてるって聞いたから来ただけ・・・」
そこで、2人ともはっと気付く。
「「騙された・・・」」
2人は、騙されていたのだ。
優弥と奏太を仲直りさせようと企んだ千秋達に。
「・・・帰るか」
奏太は、優弥に手を差し伸べた。
竜たちの待っている奏太の家。
玄関には千秋と静香の靴もあった。
2人で廊下を歩いていると、奏太が急に立ち止まった。
『何?急に止まらないでよ』
「忘れてた。・・・はい」
奏太は、優弥に指輪を突きつけた。
『あ、指輪・・・』
だが優弥は受け取らずに、左手を出した。
『奏太がはめさしてよ』
「は?・・・めんどくさ」
奏太はそっと、優弥の薬指に指輪をはめた。
『・・・結婚式みたい』
「・・・ばーか」
しばらく、左手を眺めた優弥は、奏太に抱きついた。
『千秋達に感謝しなくちゃね』
「・・・だな」
優弥が笑顔で奏太を見上げると、奏太はそっと、優弥の頬に手を添えた。
『なんかごめんね。くだらないことで怒っちゃって、しかも勢いとはいえ別れる、なんて・・・』
「・・・・・・別に」
そして、そっと唇を重ねた。




