#157 忘れられない。
『・・・あれ?』
優弥は駅前にたどり着いたが、事故が起こっているような様子は無かった。
『何処?!奏太・・・』
降り続く雨の中、優弥は駅前を走りまわった。
奏太のことは、忘れてしまおうと思った。
何度も、忘れようとした。
だけど、忘れられなかった。忘れたく無かった。
それくらい、奏太が大好きなんだ。
大好きだから、諦められないんだ。
『っ・・・何処っ・・・』
刹那、車のクラクションが鳴り響く。
気が付けば、優弥は信号も見ずに横断歩道を渡っていた。
『え・・・?』
「っ・・・はぁ、はぁ」
奏太は、息を切らしながら駅前を見渡した。
「・・・?」
きょろきょろとしながら、優弥の姿を探す。
「・・・!」
優弥は、横断歩道のど真ん中に居た。
車のクラクションが鳴り響く。
「・・・あの馬鹿っ・・・」
奏太は横断歩道に向かって全力で走り、優弥に向かって手を伸ばした。
『ひゃっ?!』
優弥の肩をつかみ、そのまま引き寄せた。
なんとか事故にはならず、車は走り去って行った。
奏太の腕の中にすっぽりと収まった優弥を、きつく抱きしめる。
驚いた優弥は、そのまま振り向いた。
『・・・奏・・・太?』
振り向いた先には、奏太がいた。
あわてて目を逸らす。
「・・・何、やってんだよ」
『・・・ねぇ、奏太』
「・・・?」
『奏太が華蓮ちゃんの事好きでもいいからさ、せめて友達でいない?』
「は?」
『だって、何度も忘れようと思ったのに・・・だめだったんだもん。私の片想いでもいいから、側に居てよ』
優弥の頬には、雨と共に涙が伝った。




