25話
姿を消した私たち。カーサリアル殿下が「行こうか」と、大きな手で私の手を包む。どきん、と胸がはね、そんな私を見て殿下が嬉しそうに微笑むから、鼓動はますます速くなる。
「さぁ、行こう」
「はい。……シャロンも行くわよ」
「は、はい」
そのまま姿を隠し、裏門に呼んでおいた馬車へと乗り込む。殿下は「待っていて」と言い残し、少し離れた場所で姿を現すと御者に合図を送り、自らも馬車へ乗り込んできた。
私の隣に腰を下ろした殿下は、ほっと息を吐く。
「ルルーナ、身消しの魔法を解くのは門を抜けてからね」
小声でそう告げ、御者へと出発の合図を送る。馬車が走りだし、王城の門を通り抜けたところで、私とシャロンの魔法を解いてくれた。だけど、殿下はなおも周囲に視線を巡らせる。数呼吸の後、彼はにこりと笑った。
「よかった。あの人達に気付かれていない。もう安心していいよ」
「……はい」
馬車は王都を進み、一軒のパン屋の前で止まる。殿下は魔法で髪色を変え、フードを深くかぶると店へ入っていった。そして戻ってきたとき、大きな紙袋を手にしていた。
「色々あって食事を出せなかったから、お腹が空いているだろう。人気のパンを買ってきた。みんなで食べよう」
「ありがとうございます」
袋を受け取ってのぞくと、そこには――私の好きなものばかり。クリームたっぷりの甘いパン、チョコパン、そして卵を挟んだクロワッサン。思わず瞬きをする。
クロワッサンにするか、チョコパンにするか悩んでいると、
「あ、そのチョコパン好きなんだ。一つちょうだい」
「もちろんです。……シャロンはどれがいい?」
「え、私もいいのですか? でしたら卵を挟んだクロワッサンを」
「ふふ。クロワッサンかチョコパンか迷っていたのよね。じゃあ私もシャロンと同じクロワッサンを先に食べるわ。その次にチョコパンね」
袋から卵クロワッサンを取り出してかぶりつく。ふんわり香ばしい匂いが広がる。その様子を見ながら、殿下はチョコパンを口にして、ぱちりと目を大きくした。
「クク……ルルーナって、意外と食いしん坊なんだね」
あっ。
「まあ。ええ、否定はできませんわ。食いしん坊ですもの。だから、遠慮なく食べます」
もう一口とクロワッサンをかじりながら、私は殿下へ笑みを向けた。――だって、カーサリアル殿下の、笑った顔が好きなんですもの。




