23話
感情に流され、大胆なことをしてしまった――そう思うと、頬が熱くなる。けれど、カーサリアル殿下の笑みを見られたことが、何より嬉しかった。
(少しは……癒されてくれたかしら?)
まだ冷めない熱を頬に感じながら殿下を見つめると、その目と口元がやわらかくほころぶ。
「ふふ……ルルーナは、けっこう大胆なことをするね。おかげで元気をもらえたよ」
「そ、それは……よかったです」
トクントクンと胸がうるさくて、頬の熱も引かない。両親以外に抱きついたのは――初めてだった。
(……ものすごく恥ずかしくて、大胆なことをしてしまったわ)
本来なら王子に触れるなど、不敬と咎められてもおかしくない。けれどカーサリアル殿下は怒らず、受け入れてくれた。そのことが嬉しくて……鍛えられた逞しい胸板の感触を、つい思い出してしまう。
(お父様とは違う……大きくて、温かな腕の中だった。もう一度、殿下に抱きしめられたい……)
「どうしたの? 頬の赤みが消えないね。ふふ。まだ何か、考えているのかな?」
「頬? あ、これは……恥ずかしいからですわ。ま、また、殿下を抱きしめたいなど……あ」
思わずこぼれた本音に、自分で口元を押さえる。さらに頬が熱く染まっていく。カーサリアル殿下がククッと喉の奥で笑い、私の熱はますます冷めなかった。
――カーサリアルは、そのルルーナの姿から目を離せなかった。
ルルーナはやわらかく、花のような香りがする。恥じらいながら「また抱きしめたい」と言う彼女に、胸の奥がじんと熱くなる。
今すぐ抱きしめ、ベッドで抱きしめて眠りたい。だがそれは、ルルーナ、彼女の父である伯爵の印象を損ねるだろう。
しかも、ルルーナには憎むべき婚約者がいる。
……それでも。
気づけば、恥ずかしがる彼女を再び抱き寄せていた。
「あ、カーサリアル殿下?」
(驚いた声すら可愛い。ああ、たまらない……ルルーナが欲しい。だから、二度とあんなことは起こさせない。必ず守る……守って、俺のものにする)
「可愛い」
「え、あ……う……」
驚きで開いた瞳を、ぎゅっとつぶって抱き返すルルーナが、また愛おしい。
「ごめんね。恥ずかしがるルルーナが可愛くて……抱きしめてしまった」
「う、うっ……」
――昔から、ずっと君だけを愛している。
⭐︎
その頃、廊下の曲がり角にはシャロンの姿があった。扉の隙間からそっと二人を見て、思わずほっこりと微笑む。




