ヒーローは遅れてやってくる
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ソフィーラさんが身を挺してくれたおかげで、俺たちは旧倉庫からなんとか脱出することに成功した。
「はあっ、はあっ……っ、も、もう走れません……!」
「止まるなピルク! 追手が迫っているかもしれない!」
膝に手をつき、肩で息をするピルクを、梨香が鋭く叱咤する。
『梨香の言うとおりだ。目的地に着くまでは、気を抜くな』
「そ、そうだね、ヘラクレス! ……ほら、ピルクもへばってる場合じゃないってば!」
「は、はいぃ……!」
リリカにまで急かされ、ピルクはふらつきながらも再び走り出した。
そして少し進んだ先の、薄暗い路地裏で俺たちは足を止める。
「も、もう……一歩も動けません……!」
ついに力尽きたピルクは、その場にへたり座り込む。
「ここまで来れば、さすがにもう追っては来まい」
『……待て梨香、それを言うのはよしたほうがいい』
「どうして、パパ?」
『それは、ほら……フラグってやつだ。言霊ってあるだろ?』
「よく分からないけど……了解。口は慎もう」
『それで、ソフィーラさんから避難場所の情報は聞いているか?』
俺の問いかけに、梨香は懐から一枚のメモを取り出し、皆に見せた。
「このメモによれば、町の外れに彼女の古い友人が営む鍛冶屋があるらしい」
「そこって、あの頑固なドワーフの爺ちゃんの店じゃない?」
「知ってるのか、リリカ?」
頷いたリリカは、少しげんなりした顔で答える。
「リリカもナイフの調整で頼んだことあるんだけどさ……あれはなかなか一筋縄じゃいかないタイプだったよ」
「ですけど、ソフィーラさんのご友人なら信頼できそうですぅ!」
「うーん……本当に大丈夫かなあ~?」
タマコの前向きな発言にも、リリカは歯切れが悪い。
どうやら相当な曲者らしいな。だが――
「贅沢は言えない、頼れる先があるだけありがたい。まずはそこを目指しましょう」
「そうだな、ピルク。休んでる暇はないぞ」
「は、はいっ!」
リカーシャの合図で、俺たちは鍛冶屋を目指して再び歩き出した。
街の目を避けるため、俺たちは建物の隙間を縫うようにして路地裏を進む。
「ねぇ、これって遠回りじゃないの~?」
「無理を言うな、リリカ。広い通りは危険すぎる」
「むぅ……このじめじめした感じ、どうにも苦手なんだよね~」
リリカはほっぺたを膨らませて不満を訴えるが――
『我慢しろ。少しの辛抱だ』
「……そだね、ヘラクレス」
彼女も納得してくれたようだった。
そのときだった。
突然、タマコがピタリと足を止め、狐の耳をぴくぴくと動かす。
「どうした、タマコ?」
「……何か、いるですぅ。この気配……イヤな感じですぅ!」
タマコの警告が終わるより早く、闇夜を切り裂いて数本の刃が飛んできた。
タマコ、危ない!
『ノビ~ルホーン!』
俺は即座に角を伸ばし、タマコの前に割って入る。
飛来したナイフは角に弾かれ、ガラリと地面に落ちた。
「ちっ……妙な虫がいたのを忘れてたぜ」
暗がりから現れたのは、盗賊職のギルドメンバー。
見覚えがある――ダンジョン攻略のときに同席した冒険者だ。
「あんたは……あのとき一緒に戦ってくれた人じゃない!」
「その通りだ。……だが、今は敵だ」
指笛と共に、数名の仲間が路地の両側から現れ、俺たちを取り囲む。
「かかれ!」
「おおおおッ!!」
一斉に襲いかかるギルドメンバーたちの気迫に、俺たちは一瞬たじろいだ。
その時――
「ーーソード・スプラッシュ!!」
飛来した水の刃が敵陣を切り裂き、水しぶきが辺りを包む。
「このスキルは……!」
「やあ、待たせたね!」
現れたのは、水色の甲冑に身を包んだ少年、ルクスだった。
「ルクっち! どうして!?」
「リリカちゃんがピンチと聞いてね! ヒーローは遅れてやってくるものさ!」
金髪をかき上げながら気取ってみせるルクス。
……でも正直、今は本当に助かった!
「ルクス……貴様、裏切ったのか!」
「君たちこそ、女の子相手に集団で襲うなんて、冒険者の風上にも置けないな!」
ルクスの一喝と同時に、地面が爆ぜるような轟音とともに割れた。
「うああああっ!?」
「な、なんだこれは……!」
「オレもいるぞォ!」
現れたのは、赤き鬼人の戦士――レッドだった。
「レッドさん……!」
「……タマコ、助けに来た」
タマコが絡むと口調がたどたどしくなるのも、変わっていないようだ。
「いくぞ、レッド!」
「おう!」
二人は即座に敵陣へ飛び込み、戦線を押し返していく。
その隙に、ルクスの仲間であるマオがリリカの肩をポンと叩いた。
「今のうちニャ、ついてくるニャア」
「う、うん!」
その案内に従って、俺たちは再び逃走を開始したのだった。




