第八十三話 情報共有
遅くなりました!!
《正義派》の十柱。
久我祐一、《正義派》唯一の在校生からの昇格。在校していた時は、《祈願派》に所属し、クラスのムードメーカーだった。風魔法を得意とし、身体強化や速度重視の魔法で敵を早期に片付ける戦法を用いる。
AWは、巨大烏賊。
「久我は俺が倒しました。面白くて良い奴だったのに……俺が全部悪いんでふよね。分かってます。 」
夜十は自分のせいで久我が《正義派》に所属したと思っている。
きっと日常を一番望んでいた久我の日常は、流藤が死んだことから崩れ始め、世界蛇で学園の英雄とされたクラスメイトが、数ヶ月後に教室から消えてしまったことで、完全に崩れてしまったに違いない。
「夜十君、それは違うよ。彼が《正義派》に入ったのは、KMCが出した条件を呑んだからさ。 」
眉を細めて、反論する風見。
彼女は"風見涼"が見てきたこと、聞いてきたことを自らが体験したように語ることが出来る力がある。
今の風見には説得力と確信があった。
「どういうことですか? 」
「彼は学園に入る為の多額な費用を全てパーにすることを条件に《正義派》に入ったみたいだよ。君が自分を責める必要はない。 」
「そうですか……」
下を俯き、瞳を大きく開けてなにかと葛藤する。夜十の表情を心配げに捉えながら、彼女は話を続けた。
《正義派》の七柱。
風見涼、元平和派リーダーの風見蓮の実の妹。心理的な魔法を用い、敵が止まった瞬間にナイフ等でトドメを刺す、残忍な魔法師。
アビスとの戦闘経験は浅いが、魔法故に対人戦闘ではズバ抜けている。
AWは、神威。
「……」
「風見、大丈夫だよ。無理に語るな。 」
目が虚ろになって、顔のパーツを一ミリも動かさずに、呆け始めた風見を、沖は優しく諭した。
「今、名前を出した人物以外は大したことはないよ。まあ、そこそこ各々が強いのは明確だけど、恐れるほどじゃあない。私が記憶を探っている時に恐れをなしたのは、上位三名。 」
風見は、上位三名の深くまで潜らねば見つけることは出来ない程の有力で危険な情報を入手することが出来た。
その情報はーー、
「上位三名、一二三四五六、獅子王慶吾、早乙女拓哉のデータが明らかにここ最近で変動してるんだ。魔力の量、攻撃力、魔力制御のバランスまで全てが! 」
それは一体何を意味するのか、夜十には少しだけ理解が出来た。
もし、夜十の理解通りであれば、状況は絶望どころの騒ぎではない。下手すれば、この勝負に勝ち目がないかもしれないのだ。
「六神通は魔力の消費は乏しいけれど、代わりに疲労が来る。今の私は正直、厳しい状況だけど、三人の機密データは確保した。だから、皆……戦闘は頼んだよ。 」
風見の言葉にいち早く、笑いを吹き出したのは店長と沖だった。
彼らは笑顔で、
「戦闘はお前の分野じゃねーだろ!風見と俺は、後ろから皆の戦闘を支える役目だっての! 」
「そうだよ、風見。戦闘じゃあり得ないほど使い物にならないんだからいーんだよ、そのままの風見でさ。 」
と、煽り口調でコケにする。
「うるさいなぁ!分かってるよ!どーせ、私は非戦闘員の分析一筋の人ですよーだ! 」
その場の雰囲気が和み、思わず皆笑いを零した。一頻り笑ったところで、風見は話を続ける。
「まず一人目! 」
生唾をごくりと飲み込む。
さっきの笑いとは、てんで変わって緊張感の募る空間が出来上がった。
夜十は確証の持てない考えがそうであって欲しくはないと願うばかり。
「《正義派》第三柱の一二三四五六。彼は現在十七歳で大型アビスを二体、平然と駆逐する傭兵。金さえ積めば、人であってもアビスであっても、目標にしたものを確実に狩り尽くす。だってさ。 」
アビスや人間を殺すことを仕事としている人物となると、戦闘経験は豊富。
また、大型アビスを二体駆逐する点で何か強力な魔法、能力を持っているに違いない。
「彼の魔法は影魔法。暗殺もしているそうで、やっている理由は魔法がそれに特化してるからなんだとさ。 」
影系統の魔法であれば、《革命派》にもクロが居る。クロは影、基、闇魔法の使い手で自分の身体を暗い場所であれば自由に転移したりすることが出来る。
基本的には魔法を用いずに、剣術だけで敵をねじ伏せるのが好きみたいだけど。
「武器とかの詳細は情報として入ってきてないから分からないけど、彼と戦う時は要注意だよ。それに、私が気になる魔力量や力の変動だけどーー」
「ーー俺と同じ《魔源の首飾り》持ちですか……? 」
風見の言葉を遮って、夜十は口を開いた。
確証はないけれど、魔力量と力、反応速度も含めて戦闘力が急激に上がる方法なんて、現時点ではコレしか頭に浮かばない。
「……そうなんだけど、つまりは夜十君が三人居るのと同意義になるんだよね。それってかなり頼もしいけど、敵だったら死ぬほど厄介だよ。 」
「俺の《願いの十字架》のように何か一つ特別な力を得ています。上限回数が無限になるとかは置いておいて、どんな能力なのかを教えてください。 」
「……教えたいのは山々なんだけど、涼も流石にそこまでは知らなかったみたい。戦ってるうちに判断するしかないかな……」
もし、《魔源の首飾り》所持者が三人居るとすれば、かなりの絶望的状況になる。
星崎嶺王のように、強い魔法を無制限に使われるのは、かなりキツイ。
何か打開策を見つけなければ勝つのは難しいだろう。
「二人目、獅子王慶吾は、獅子王家の現当主にして、沖、虹色と並ぶ程の剣の名家。相手を自らの火力でねじ伏せ、ひれ伏せさせるパワーありきの剣術を止めるのは至難。彼の魔法は……不明。愛剣も不明なんだってさ……」
"獅子王"に食いついたのは、沖だった。
剣の名家である以上、負けることにプライドが許さないのだろうか。
いや、それはない。沖にとって、沖家の剣術は肯定して欲しくない散財。
自分が生み出した、沖遼介の剣術を肯定してくれることに喜びを感じるのだ。
彼は今単純に、大切な恋人を傷つけようとした獅子王を許せずに居るだけだ。
それが例え、どんなに強いとされていても、立ち向かう勇気と決意は変わらない。
「三人目は、早乙女拓哉。彼は今言った三人の中でも、身体能力、魔力コントロール力、消費量、全てに於いて素晴らしい実績を持っているようだよ。ただ、どこかの組織に所属していたわけでもないけど、アビスを駆逐していたみたい。 」
その人物がアビスを駆逐していたというデータが存在する限り、KMCは彼がアビスを狩ることを承諾したことになる。
ただ、KMCが定めた規定では、アビスを正式に駆逐して良いのは、"魔法師を志し、正義に基づく制裁を行う者"とされている。
「彼は一般人なんですか? 」
「そのようだよ。家系も特に目立った所はないし、両親と兄弟は数年前にアビスに殺されてる。きっと、その復讐心で狩るようになったんじゃないかなって、私は思う。 」
それではーー、まるで、夜十と同じ。
自分にとって、たった一人の家族だった姉、美香は彼の目の前で上限回数以上の魔法を使用し、夜空に輝く白い粒子となって消滅した。
形はどうであれ、姉はその瞬間から夜十の前に二度と現れることはなかった。
「早乙女拓哉について、今、てんちょーに探らせてはあるけど、有力な情報とかはKMCの高セキュリティの壁が立ちはだかる箇所にアクセスしないと、閲覧は不可能になってる。まだまだ時間はかかりそうだよ……」
傭兵、剣豪、一般人。
《魔源の首飾り》を持っている可能性のある三人だ、気を引き締めなければならない。
勿論、他の五人も気を抜かず、全力で仕留める必要がある。
仮にも、KMCが金を出してまで欲しがった、最強の魔法師グループなのだから。
「じゃあ、確実、二人一組で探索を開始しよう。学園のどこに居るかが分からない以上、虱潰しに倒してくしか方法がない。以上!解散! 」
非戦闘員の纏、風見、店長と、負傷者の虹色を除いて、戦闘員総勢十名はくじ引きで決めた二人一組に分かれて、行動を開始した。
ーー夜十、火炎ペア。
本校舎の一階、職員室や校長室など、主に職員が使う教室などがある階の探索を任された二人。まさか、場所までくじ引きで決めるとは思っていなかった。
適当に探索して出会った敵と五秒でバトル!っていう結末ではないらしい。
充分に警戒し、どこに敵が居てもおかしくない緊迫状態の中、夜十は火炎の方を見て口を開いた。
「まさか、火炎と一緒になるとはな。 」
「俺も驚きだ。お前はてっきり、運命的に燈火かと思ったんだが、燈火はお前の連れが一緒だな、大丈夫なのか? 」
火炎は表情を歪めて、威圧的に聞く。
「嗚呼、ミクル? 」
「女二人って安心出来ねえだろ? 」
「いやあ、俺はそうは思えないかな。俺の知る限りでは、二人共半端ではない程の実力者だし……」
燈火は言うまでもない天才、ミクルは、長年アビス討伐の現場にプロとして携わり、見習いから副隊長にまでのし上がった人物。
心配するのは余計なお世話だ。
「……《雷弾》!! 」
雷鳴を轟かせ、バチバチと火花を散らしながら加速する弾丸が真っ白い光を発して夜十の眉間に迫る。
技使用者は口元を歪めながら目標の身体が宙を舞う瞬間を瞳で捉えようと、待つ。
「……え? 」
だがーー、彼の瞳に映ったのは白い光。
速度の篭った弾丸は、そのままの速度で跳ね返り、使用者の腹部を貫いた。
「……気づいてないとでも思ったのかな。今、下っ端に魔法を打たせて俺達の反応を見て楽しもうとしてただろ?なあ、出てこいよ!! 」
夜十が捉えた先は廊下が右側に曲がり、正面からでは決して見えない場所。
そこから口元を歪めながら狂気に満ちた雰囲気を醸し出す男が現れた。
彼の右手には黄緑色の長剣が握られている。
鋭利に尖った先端と、刀身は廊下に取り付けられている電灯の光に照らされて、輝いた。
「お前らが《革命派》か。聞いた話じゃ、クソ兄貴の意志を継いでる人が居るんだっけ? 」
「クソ兄貴? 」
誰の弟だろうか。
整った顔に黒い髪。瞳の色は茶色に近い赤で、髪型を動き易いように短めにしている。誰かの面影と重なりそうもない、唯一、見覚えがあるのは、彼の持つ長剣だった。
刀身を見れば最後、永遠の幻術に囚われ続けると言われる二都翔の剣に酷似している。
似ているだけで、本質は違うかもしれないが、彼の放った言葉。
"兄の意思を受け継ぐ者"
それはつまり、前の《平和派》メンバーに対する言葉になるわけだ。
「君、名前は? 」
「あっはぁ!二都翔太、冴島夜十、お前と同じ歳だ。 」
「やっぱりか! 」
確信付いて、さらっと言った火炎。
「敵に力がバレてるのは辛いけど、俺にはAWもあるし、負けねーよ。 」
刀身を前に突き出して、重心を低く構えた。
「……俺だって負けない! 」
真っ直ぐな言葉。
夜十&火炎 VS 二都翔太の戦いが始まった。
八十三話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
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@sirokurosan2580
今回は情報共有ということで、
絶望の情報が載せられてました。
《魔源の首飾り》持ちが三人?
今後どう戦っていくのか楽しみですね。
それでは次回予告です!
二都翔太と名乗る少年と戦闘に入った、火炎と夜十は油断せず、二都と同じ刀を意識しながら戦闘するが、相手のAWは特殊でーー!?
次回もお楽しみに!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




