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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
82/221

第八十一話 虹色吹雪の覚悟!

今回はなるべく早めに投稿できましたー。

次回はいつになるか分かりませんが、新作も進めているので恐らく三日後とかになりましょう。


気長にお待ちください!

夜十の頭部が転がり、生臭い鉄の匂いが周囲の透明な空気を真紅に侵食し始めた頃、想像もしなかった目の前の光景に驚きを隠せない燈火、



「いやぁぁぁぁぁぁああああ!! 」



次の瞬間には、瞳から大粒の宝石のような涙を零して、戦慄の悲鳴を上げた。


悲鳴は廊下という音響のしやすい空間で、夜十を含めた三人組が一人の少年。

久我祐一に敗北した証ともなった。



「夜十、呆気なかったな。まあ、良いやつだったのは認めるけど、強くなければこの学園では生きていけないよ。 」


嘲笑の笑みを浮かべながら、白い指揮棒に扮した長剣の刀身を掌で撫でる。

流石は、KMC魔法学園の《正義派(ジャスティス)》を名乗ることが許された少年だ。


魔法を使用し、敵を破壊する姿は勿論、立っているだけで、言葉を発しているだけで、入学時に一番子供っぽさを見せていた教室のムードメーカーとは別人と思わせてしまう程、久我祐一という男は変貌を遂げた。



「じゃあ、次はこの金髪美女にしようかな。首を切り落として、三人の生首を《革命派》の遺体と一緒に並べてあげるよ!! 」


久我の惨殺的な主張と共に繰り出される巨大烏賊(クラーケン)の魔力を使用した、超速攻撃は倒れ込んだミクルの首を捉え、夜十と同様に一瞬の悲鳴も上げさせずに切断ーー、



音もなく、悲鳴もなく、切断されたのは腕。

床には大量の血液と、指揮棒のような白い長剣だった。

久我は、腕に突如として伝わる『熱』に唸り声を上げる。

『痛み』を『熱』として脳が勝手に勘違いを引き起こしているようだ。



「んんっ……な、なんでっ!? 」



額から冷や汗が流れ、眼球がグルグルと回る。目の前の光景が信じられない。

彼の思考は、疑問の単語で一頻り埋まった。


すると、久我は、足元に転がっていたはずの夜十の頭部は愚か、首のない肉塊が消滅していることに気がつく。

目の前で処そうとしていた金髪の少女も朝日奈燈火の姿もない。


あるのは、漆喰に染まる剣を携えた黒き戦闘服を身に纏う少年の後ろ姿のみ。

けれど、あの時、久我は確かに首を()ねたはず。


それは、朝日奈燈火も戦慄したように見ていることは間違いない。


なのに、


「な、何故……お、お前が立っていられる! 」


右腕を失い、熱に耐えながら、歯を食いしばって、苦難の表情を浮かべた。

歯軋りの音が微かに聞こえる。


「……やっぱり、虹色の魔法は難しいな。《追憶の模倣(メモリーレプリカ)》で具現化したは良いが、手間を取ってしまった。 」


「なっ……!? 」


「悪いな、久我。お前如きに殺される俺じゃないよ。それに、巨大烏賊(クラーケン)は一度攻略済みだ。負ける道理はない。 」


右手を閉じて、開いてを繰り返す夜十。先程とは違い、冷静に物事を客観的に見ながら行動することが出来ている。

元クラスメイトとは言えど、今は自分の首を平気な顔をしながら撥ね飛ばす強敵。


次に夜十が負ける瞬間はもう来ない。

追憶の未来視(リコレクション)》は、巨大烏賊及び、久我祐一のデータを取り尽くした。



「……わっ、笑わせんなよ。腕の一本くらいくれてやる。お前如きには良いハンデだ。 」


既に久我は全体の約四分の一以上の血液を出し切って、意識は朦朧としていた。

喧騒の中に佇んでいても、彼の意識そのものは熱湯の中で漂うように沈んでいる。


瞳は半分以上開かず、開いていても視界はぼんやりとして見えない。

到底、戦闘を続けることの出来ない状態。



「……くっ、くそ!や、やっと……お前らに、お、追いつけ、たのに、……また、 」


久我の悔しさは届かない。

生きる為に必要不可欠で重要な何かが抜け落ちた無垢な表情で、矢に射られた獣のように倒れて動かなくなった。



「……出てきていいぞ。ミクル。 」


何もない無垢で透明な場所から現れたミクルと、涙袋が真っ赤に腫れた燈火は、夜十を目の前にするなり、きな臭い顔つきになる。


ミクルはともかく、燈火としては当たり前だ。何せ、親愛なる恋人が目の前で首を刎ねられたのにも関わらず、生存確認が取れたのだから、



「……ねえ、夜十。さっきのは……」


燈火は思い切って、訊ねた。

分からないことを分からないままにするのは、自分の性分では許せないからか。



「嗚呼、驚かせるつもりはなかったんだけど、思いの外、虹色の魔法が難しくてな。空間展開をした後、幻覚を見せて、その後……どうしたら元に戻れるのか分からなくなってさ。ごめんな、燈火。」


恐ろしい出来事が一歩遠退いた時の如くに、胸を撫で下ろす。

夜十は申し訳なさそうに、燈火の桃色の頭をあやすよう、掌を転がした。



「あっ、ミクル!風見先輩達の足取りを掴める?嫌な予感がするんだ……! 」


両手で三角を作る仕草のまま、ミクルは瞳を閉じた。

此処とは別の空間に存在する人間、会ったことのある人物の魔力を追って、別空間の安寧を確かめる。


平和なら平和でよかった、のに、

ーー夜十の予感は的中していた。






男子寮側の廊下では、黒い髪の大人っぽく、クールな女性がナイフを掌で華麗に転がし、風見を含めた四人の前に立ちはだかっていた。


女性の容姿は何故か、風見によく似ており、度々見せる狂気的な笑みの奥には冷静沈着な戦闘スタイルが伺える。



「……はぁっ、はぁ、はぁ……か、風見!俺の後ろで待機してろ!今のお前じゃ、アイツには勝てない! 」


刀を持った沖が風見を背後へ避難させる。普段から戦闘員でも無ければ、現在は自分と同じ魔法が使えない状態。

沖とクロには剣術の心得がある為、魔法が無くても多少は戦えるが、彼女は皆無だ。


悔しそうに唇を噛み締める風見へ、女性は薄く笑って、真紅に染まった綺麗な瞳を横へズラした。



「蓮、弱いね。魔法が使えないと言っても、出来ることはあるはずなのに、今のお前にはそれが全くない。使えない駒だな? 」


女性らしくもない口調は猛毒。風見が、挑発混じりの言葉に言い返す様子はなかった。



「六神通の会得者が敵を前にして分析の一つもしないの?あ、出来ないんだったね。雑魚乙〜〜! 」


挑発には乗らない。

今、風見は自分の出来ることを全力で探していた。

彼女の言葉に答えれば、最後だと知っているからだ。ならば、言葉を聞こえないように無視し続ければいい。



「無視かあ。私の能力を恐れて何も返さないの?臆病なのは昔から変わらないね〜。 」


廊下に響くのは彼女の声のみ。

聞いているだけで声を発そうとしない風見以外の三人は剣を持ち、集中力を咎め続ける。



「何だよ、私の能力、全員にバレてるじゃん!やっぱり、身内が敵だと厄介かな。まあ、でも殺すけど?? 」


大した瞬発力は無いが、遅くも速くもない動きで沖に目掛けて真正面から一本のナイフを放つ。

瞬間、彼女の顔は狂気の色一色で、口が千切れんばかりの笑顔を見せた。



「……ふんっ! 」


ナイフの軌道を変える為、簡単なステップで前へ踏み込み、叩き落とそうと刀身を振るう。

沖の一太刀に狂いはなかった。

確実にナイフの小さな刀身を捉えていたのにも関わらずーー、沖の目の前でナイフは消滅した。



「なっ……!? 」


ーー、そして、


沖の右目、眼球、瞳孔と数ミリの差もなく、ゼロ距離で現れた銀色の短い刀身は、投げられた速度のままに、眼球へ突き刺さった。



「……ぐっ、ぁぁぁああああ!!! 」


脳心にたぐり込まれるような激しい痛みが右目を襲い、戦慄の絶叫を荒げる。

沖の頬を伝い、白い廊下に一粒ずつ垂れる真紅の赤い液体は、軈て、一粒に収まりきらず、涙のように床へ溢れた。


全身の震撼が取れず、全ての感覚が麻痺しているよう。

瞳の中心に溶岩でも流し込まれたかのような熱が、痛みとして脳中を刺激させた。



「あ、熱い、熱い、熱い、熱い!!ぁあっ……!! 」


ナイフの柄を握り、引き抜こうとするが、今の沖には"そんな力"も残されていない。

前のめりに膝をつき、反動で後ろへ仰向けに倒れた。



「お、沖!沖ぃぃ!! 」


「……お前にはそうやって泣き叫ぶことしか出来ねえんだよな、オイ!私はお前を姉として、敵として全力で軽蔑してやらァ!! 」


狂気的な笑みを浮かべて、仰向けに倒れた沖へ歩み寄り、突き刺さったナイフの柄を握る。

だが、その瞬間、彼女の首に二本の刀身が突きつけられて行動を強制的に停止させた。




「可愛い女の子と、傷だらけで使い物にならなそうな黒いカスがどうしたよ? 」


「……」


「まーた、ダンマリかよ。私の能力がそんなに怖いかぁ?まあ、怖いよなァ!だったらそこで黙って見とけよ。《赤鬼》の最後をな。 」


突きつけられた刀身を一切気にすることもなく、彼女は前のめりにしゃがんでナイフを勢いよく、引き抜いたーー、



「うっ、ぁぁぁああああ!!い、痛い!熱い……いや、ぁぁ、ううっ、ぐっぁぁぁ! 」


涙交じりの嗚咽と断末魔で、更に笑みを深める女性。

二人には意図さえ出来なかったが、自由に沖の眼球にトドメを刺せた彼女の首に突きつけていたはずの刀身は、特に何の意味もなく、彼女の身体を通り抜けていくだけだった。



「今の私に物理的攻撃は効かねえよバーカ!クッ、ハハハハハハハハハ!! 」


くつくつと喉を鳴らし、盛大に笑った。



「……(りょう)!! 」


「何だよ、今更名前なんか呼んでんじゃねえよ。クソブス!キメェんだよ。死ね。 」


虹色は、風見涼という名前に聞き覚えがあった。まだ、虹色が虹色家次期当主に選考される前の時、風見蓮と風見涼という天才姉妹が居るという話を耳にしたことがあった。


蓮は、分析を得意とし、涼は戦闘を得意とする。二人合わされば、負けることが絶対にないと言われる程、名高い姉妹だったはず。



「お前もお前だよ。沖?って言ったか?片目が潰された程度で倒れてんじゃねえよ!まー、いいや。くそブスは最後としても、そこの黒カス邪魔だから消してやるよッ! 」


風見涼はもう一度ナイフを放つ。

それは、先程の同じ、物理的攻撃で防ごうとしてもすり抜けてしまう効果を持していた。


クロが必死に防ごうと、刀を振るがソレは消滅し、クロの眼球ゼロ距離に現れる。

沖と同じ、右目を潰す意図だろう。


ナイフは速度のままに、黒の眼球へ突き刺さーー、



「……させないッ!私の信念は、私の剣で、人を護ることだぁぁぁ!!! 」


瞬の刻ーー、

彼女は周囲、直径百メートル以上の空間の時間を停止させた。

生命体の動きを停止させるだけであれば、身体に大した疲労が溜まることはないが、空間全ての物質等を含めるとなれば、身体にかかる疲労と負担は多大。


時を止めただけで、足場がふらついた。

それでも、今はやることをやるしかない。


虹色は、物理攻撃が効かないと言っていた涼の言葉を思い出し、上限回数を10回程消費する覚悟で一つの手を思いついた。

現在の虹色の魔法上限回数は、38回。

使って仕舞えば、28回と魔法師人生を悔やんでしまう結果になるかもしれない。


それでも、目の前に護れるものがあるのに、自分の未来を悔やんで助けないのは、


ーー、紛れもなく弱者だ。


虹色吹雪は弱者ではない。

一般的な50回と言う数値で生まれた普通の少女だが、剣を学び、実家を引き継ぐまでに成り上がった努力し続ける当主の名にかけても、虹色が弱いとは言わせない。



「虹色家現当主が私、虹色吹雪……!この折れない信念と剣にかけて……、私はーー 」




ーー、護るべき存在を護ると、ここに誓う!!


彼女の施した上限回数十回消費の大技。

それはーー、○○○○○○○○○。


第八十一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は、久我をなんとか撃破した夜十と、

虹色吹雪が魔法師人生に大きく関わる攻撃を決意した瞬間でした〜〜!


それでは、次回予告です(^ ^)


魔法師人生に大きく関わる一手を、静寂に止まった刻の中で虹色吹雪は忍ばせることに成功した。

そして、空間を解放した刻、勝負の行方がどの方向に転ぶのかーー、それはまだ予知できず。


次回もお楽しみに!



【上限回数について】


虹色吹雪のように一般的な数は50〜60。

冴島夜十のように、《魔源の首飾り》所持者は10。


朝日奈燈火、朝日奈焔、新島鎮雄、神城竜吾などの天才クラスになれば、100〜500までの上限回数を持つことが決定的である。


尚、上限回数の消費量については、

一般人は一回の魔法に一回分の魔力を使用するが、生まれ持った才能等で0.1回分の魔力で魔法を打つことが出来る人物も居る。


※やはり、努力に才能は勝てない。




拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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