第六十話 怒りの一撃
遅くなりました、今は仕事が忙しいので毎日投稿は大変厳しい状態になっています。
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「……湯遊川先輩!! 」
のらりゆらりと顔に痣を作った少年、星咲は立ち上がり、靴裏にへばり付いた肉と硬い骨をゴリゴリと砕く。
何故、完璧にまで追い詰めていた湯遊川が一瞬で殺されてしまったのか。
その疑問と哀しみの余韻よりも憎しみと怒りが夜十の感情を支配した。
身体の中が、頭の中が熱い。
脳の中で血液がマグマのようにブクブクと煮え滾っているかのようだ。
「星咲……俺はお前を許さねェ!!絶対に、許さねぇ!! 」
刹那。何が起こったか分からない程の膨大な魔力が周囲へ見えるように放出した。
星咲も突然のことに驚愕の意を見せる。
湯遊川は"平和"を望んでいた。
学園が争うのを嫌っていた。
二都先輩も同じように願っていた。
なのに……ヤツは、星咲は平気で全てを、皆が力を合わせて作り上げた平和を笑いながら潰していく!!
そんなの、許せるわけがない!!
「なっ……なんだ!? 」
血眼になった瞳で星咲を見据え、夜十は思いの儘に力をふるった。
今自分が出来ること、そんなことは考えずに、思いの儘に。ひたすら。
「《緋色の情熱花》《地獄の隕石》《導きの待雪華》!」
空中、天井、地面全てを謳歌し、相手に逃げ場を失わせる。絶対的な組み合わせの魔法。
いくら星咲でもこの魔法から逃れることは至難の技だ。
三つの魔法が一気に空間を制した瞬間、星咲は逃げる手段を失い、迫り来る白い炎の魔弾を、軽い身のこなしと柔軟なステップで避け続ける。
だが、これは時間稼ぎに過ぎない。展開し終えた天井と床の陣が神々しく光輝けばーー。
次々と降り注ぐ無数の隕石と大噴火で炎柱は地面を屠り、天井を突き破る。
オレンジ色の炎の輝きは、火炎と夜十の皮膚をオレンジ色に染めた。
パチパチと音を立てて、建物を燃やし尽くす炎。夜十が手を握り締める仕草をすると、炎は見る見るうちに小さくなり、消滅した。
「……はぁっ、はぁ!!どうだ!! 」
魔力消費で朝日奈のように倒れることさえ無いが、夜十の呼吸は通常の倍も乱れていた。
心拍数、脈共に上昇。《願いの十字架》も無敵ではないということだ。
倒しきったと思い、炎が消えた影響で発生した煙の中を凝視した。
するとーー、煙の中から上半身の服だけが燃えて無くなった星咲が狂気の笑い声を浴びせる。
「フッ、ハハハハハハハハハハ!! 」
焦げがついた額を腕で拭う。白い皮膚が真っ黒になるが、傷が見えていないところを見ると何かを"使った"ようだ。
「……ちぇっ、危なかったぜ。咄嗟の判断でやってしまったが、まあいいか。 」
よく見ると、彼の足元には焦げた肉死体が転がっていた。その皮膚は人間の物とは思えず、ピンク色の肉が集合して人型に形成されているように見える。
つまりーー、彼は臓器を人型に変質させて身代わりにしたのだ。
それでもあの火力であの広範囲、熱気と熱量で俺自身も少し火傷した程。
どうやって範囲から外れた?
「……また、採り直せば良いな!! 」
両腕を広げ、神速を超える速度で迫り来る星咲に俺は反応出来なかった。先程の膨大な魔法を使用した影響か、体が自由に動かない。
彼の神速で繰り出される蹴りは、足のつま先を矛先とし、立ち往生している俺を貫こうと真っ直ぐに襲い掛かった。
「……ふぅ、世話が焼ける野郎だな!!《全反射!》 」
何よりも分厚い反射壁が星咲の蹴りを阻み、跳ね返す。今の威力を自分の足へモロに喰らったのであれば、折れていることは間違いないだろう。だがーー。
「足の軸にしなりを加えて、上手く骨折を免れたか。それでも、致命傷に近いダメージは与えられたはずだ! 」
火炎は両掌を前に突き出して全力の《反射壁》を生成する。
コントロールや魔法の種類は妹に劣っているが、流石は朝日奈の血筋。魔力量が段違いに多い。
「厄介だな。なら、こうするか!! 」
彼は地面に落ちて、燃えカスとなった臓器を掴み取った。
血液さえも蒸発し、無くなっている為、完全な灰にしか見えない状態になっている。
「《制御の宝玉》の本当の力を見せてやる!! 」
星咲は、腹の底から出た低く野太い声で二人へさらなる絶望を与えようと、握った灰を目の前に突き出す。
異様にも禍々しい光を帯び始めた宝玉。
「火炎、お前は三分間、魔法を使えない! 」
星咲は妙な物言いで高々と宣言した。
すると、火炎が全力を振り絞って張っていた反射壁が音も立てずに消滅する。
「……な、何が起こった!? 」
俺は、思わず困惑の音を上げてしまう。
これでは、まるで星咲が宣言した通りになってしまったようじゃないか。
《願いの十字架》と同じような魔法?!
と、思考を駆け巡らせていると、火炎は冷や汗を額に流しながら言の葉を紡いだ。
「て、テメェが何で……二都の魔法を使える!? 」
「二都先輩の魔法……!? 」
俺と火炎の反応がツボに入ったのか、お腹を抱えて笑い出すアルビノの少年。
彼は何もない場所から黒と黄緑で装飾された蛍光色の目立つ刀を取り出した。
「マズイ……!!冴島、あの刀の刀身を見るなよ! 」
どういうことだ?刀身を見ていけない?
ならば、どうやって避ければいい?
慌てふためく、二人へ御構い無しに地面を蹴って加速した星咲は刀の刀身を斜めに傾け、刀の届く範囲中へ突入すると、右方面に横向きで振るう。
刀の振るわれた位置は二人の丁度、腹部付近で避けるのはかなり難しい。
蛍光色に輝く刀の刀身は、振るうことでより輝き、視野の中に入れそうになる。
だが、入れてはいけない。何故なら、火炎にそう言われたからだ。
前なら言うことなど聞くことはなかったが、今の火炎は違う。少なくとも、朝日奈を愛し、星咲を憎んでいるのだ。
ココで協力しない理由などない。
上手く下へ仰け反って、髪スレスレに刀剣の一撃を回避するが、次は縦に一撃が来る。
刀身を見ずに回避出来ている理由は、単純に星咲の《追憶の未来視》はまだ、生きているからだ。
分析したデータを簡単に無駄にしたりはしない。問題は火炎だ、後少しで魔法能力は戻るかもしれないが、避け方が危うい。
感覚だけで避けているのは、一目瞭然。
次の縦の一撃は避けきれる範囲だ、大丈夫。
そう思い、左へステップを切り返した刹那だった。
「……終わりだよ、夜十君!! 」
眩い蛍光色の光が一直線に視野へ飛び込んできた。銀色と黄緑に輝く美しい刀身は、見たもの全てを魅了する程。
「くっ、冴島!しっかりしろ!! 」
意識が朦朧とし、俺は刀身の眩い光に魅了され、目を瞑ったまま動かなくなった。
ーーその頃。
朝日奈と沖、黒は、自分達の持ち場が粗方片付いたことを確認し、星咲の居る《戦闘派》の拠点へ向かっていた。
向かう途中で地面に巨大な大穴が空けられ、付近で気絶している《戦闘派》の隊長達の姿を目撃すると、沖がその場に立ち止まる。
「まさか、全部夜十君が? 」
「……多分、そうだと思います。沖先輩、先を急ぎましょう!! 」
「やっぱり、今年の一年は無茶苦茶だね。嗚呼!行こう! 」
再び走り出した三人は、拠点に近づくにつれて、とある異変に気がついた。
拠点の内部で交戦しているのは、夜十と星咲ではなく、火炎と星咲なのだ。
「沖先輩、どういうことでしょう? 」
「分からねーけど、行くしかねえよな! 」
今まで黙っていた黒が、地面に転がったまま動かない夜十を発見し、驚きの声音を上げる。
「……夜十!! 」
「う、嘘でしょ!?夜十……!? 」
黒の言葉に、地面に転がる彼の様子を目撃した朝日奈は困惑の表情を浮かべた。
そして、彼女は考えた。
きっと、火炎が星咲の命令で夜十を殺したのだと。
もし、死んでいなくても何か致命傷を与えるくらいの攻撃を行ったのは間違いない。
朝日奈は、火炎へ向けて右掌を向ける。
死んでしまった兄の記憶、自分を愛してくれた人の記憶、その熱が、炎が、朝日奈の心を、魔力を、増大させた。
「《残酷な炎を滾らせよ、華は散り行き、綻びを!地獄の炎花!》 」
掌の中で膨大な魔力が爆発し、爆炎を生む。この学園で初めて火炎に出会った時、放った技だ。今、何があって星咲と交戦しているのか分からないけれど、そうであれば好都合。当たれば即死とまでは行かずとも、確実に相手の致命傷になることは間違いない。
反射されて仕舞えば、終わりだが、生憎今回は大丈夫だろう。
流石の火炎も爆風と爆炎が混ざり合い、凄まじい熱気を放つ巨大な龍を作ったコトには気づき、防御の態勢をとるが、時既に遅し。
正面からは星咲が剣戟を振るい、背後からは燈火の一回消費の極大技。
火炎に為すすべなどなかった。
それに、前は操られていただけで、今は、返そうとも思わない。受け止めるのが、兄としての務めだと確信する。
業火の龍に呑み込まれ、凄まじい熱と膨大な魔力による痛烈な痛みがーー。
ーー来なかった。
何があったのだろう。
痛みも、最早、火傷の痕さえない。
少しだけ熱気を感じたが、自分の終焉とさえ思った火炎は思わず目を瞑っていた。
その為、周りの音をあまり気にしてなどいなかったのだ。
だから、彼の姿も、彼の行動も目視出来なかった。
細めた瞳で周りの様子を伺う火炎は疑問にったが、隣の人物の存在に気がつくとニヤリと口を歪めて、目を見開いた。
「はぁ……はぁっ!!……させねェ!! 」
星咲の蛍光色を纏う刀の刀身を瞳で直視してしまい、気を失ったはずの少年。
冴島夜十は当然のように、元からそこにいたかのように刀で星咲の剣戟を相殺しつつ、右掌から朝日奈と同じ《地獄の炎花》を瞬間的に展開し、こちらも相殺した。
息切れが激しいが、夜十は止まることを知らない。気絶してから十分も経たないうちに起き上がった夜十を見て、星咲は困惑した表情を浮かべた。
「なっ……二都の刀の効力を破ったのか!? 」
「生憎、俺が一番幸せな瞬間は過去よりも今なんでな!!俺に幻術なんて効かねーよ! 」
ーー気絶していた数十分間で彼は幸せを見た。それは、平和を望み、平和を愛す者から受けた"平和"の本質。
「ここは……? 」
目を覚ますと、綺麗な花畑に俺は立っていた。なんの花か分からないけれど、白く綺麗な花が無数に咲いており、まるで、向こうの地平線まで続く海のようだ。
建物も森も見えない、あるのは白い花畑と頭上に広がる雲ひとつない青い空のみ。
「……夜十、起きたの? 」
「……え、?ね、姉ちゃん? 」
花畑の中央には、姉が立っていた。
冴島美香、《戦場の歌姫》の異名を持つ有名な魔法師で、彼女の歌声は《アビス》に限らず、人間をも魅了する。
だが、八年前に目の前で居なくなった。
人間が魔法を最大まで使い切ると、何が起こるのかを目の前で焼き付けられたのだ。
魔力を失った身体は、生命線を断ち切られ、この世界からあっという間に消滅してしまう。
その姉が目の前に立っているのは、他でもなくあり得ない。
嬉しいという感情よりも疑問が浮かび、星咲の掛けた幻術を内側から破壊していった。
あの刀は、刀身から放つ光で相手を"一番幸せな記憶"に結びつけさせる幻術魔法が混入されている。
つまり、俺が幸せな状況。
ーーそれは、姉との日々の思い出。
でも、今は何も出来ないわけではない。
俺は成長したんだ。
幸せなのは、過去よりも今。
朝日奈燈火の居るこの世界だった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は、怒りの一撃ということで、目の前で湯遊川を失ってしまった夜十が怒りの一撃を放ちましたね。皆さんもキレて、何かしたことありますか?
自分は……w
はい!ということで、次回予告です!!
幻術の世界で魔法が効力を失った時、
《平和派》で最も平和を好んだ人物が現れてーー!?
次回もお楽しみに!
【死後の世界】
テレビで星咲と夜十、火炎の戦闘を見ている流藤と世界蛇、巨大烏賊。
「……オイ、今の一撃で星咲の部下達がこの世界に舞い降りたぞ!?!? 」
「めっちゃうるさくなりそう……こりゃあ、星咲、死ねないな。 」
※死後の世界編、きっとやる。(やらない)
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




