第百九十二話 Alma達の復讐
「キングさ……ま……!! 」
何処からか現れた無数のAlmaは、キングに寄り添う形で停止した。
「うぅ……キング……さ、ま……!! 」
Alma達全員は悔しそうにキングの亡骸を拳で叩き、涙を流していた。つい数分前まで主人だった人物が亡くなったのだ、悲しいに決まっているだろう。
「……うぅ、か、か、か……」
Almaの一人は徐に立ち上がると、涙でぐしゃぐしゃになった顔で魔力を錬成し、その手に剣を携えた。その行動を真似るようにまた一人、また一人と武装したAlmaが増え始める。
「……敵討ちならやめておけ。お前ら如きじゃ、俺らには敵わ……!!なっ!? 」
ギルは戦闘態勢に入り、Alma達に威嚇の言葉を投げかけようとするが、その手前。
「うぅ……うおおおおおお!!! 」
「や、やれえええええ!!! 」
「うぅ……うわぁぁああああ!!! 」
涙を流しながらAlma達は剣を頭上まで掲げると、一斉にキングの亡骸に振り下ろした。
鮮明な赤い血液が血飛沫のように飛び散る。
「……クソ野郎!俺たちを残して死ぬんじゃねええええ!! 」
Almaの一人がキングの顔を手で包み込み、魔力を流した。見るからに蘇生魔法だろう。
蘇生させようとしているAlmaに制裁を加えようとギルが魔力を込めようとした瞬間、リアンは右手でソレを止めた。
「……大丈夫。この子達の感情は嘘をついてないよ。ただ、凄まじい憎しみだ……」
そう言って首を横に振る。Alma達はキングの生前の時の態度とは一変して、憎しみと怒りのオーラを全開に出していた。
「……ーーッ!!がはッッッ!!ッ!はぁ、はぁ、はぁ……ッッ!! 」
キングの亡骸が眩い閃光に包まれ、半開きだった瞳に輝きが戻り、キングは息を吹き返した。だが、眼前で繰り広げられるは地獄。
「貴様ら……何をしてーーッッ!! 」
キングが蘇ったことを確認すると、周囲のAlma達は血気盛んに刃物を振り下ろす。
複数の刺殺痕が身体中に浮き上がり、穴からは血液が溢れるように噴出した。
「……蘇生は任せろ!俺の分まで殺せ!! 」
一度目の蘇生の時に蘇生魔法を行った男は吐血を繰り返しながら、仲間のAlma達に声援を送る。そして二度目の蘇生。
「許さんッ!許さんぞ!殺してやーーッッ! 」
怒り狂ったキングは顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げるが、彼らには届かない。
次々と振り下ろされる刃物になす術もなく、絶命してしまった。
「……ぐはッ!まだ、まだだ……ッ!俺らの恨みは……!! 」
三度目、四度目、五度目と回数を重ねるごとにキングの訴えは弱々しくなっていった。
「も、もう、や、やめ……ッッ!! 」
「俺らが命乞いをした時ッ!お前は一度でもやめてくれたことがあったか! 」
「弱者の気分を味わって死ね!お前なんざ全てに絶望して死んでも殺し足りない! 」
Alma達は口々に痛烈な叫びを上げ、瞳からは大量の涙を流していた。
「お前の統べている国は先代から代々受け継がれてきた富と自然と名誉ある素晴らしい恵まれた国だったんだ! 」
「それを……お前は壊した!たった一日で全てを破壊し、自分が王だと名乗りやがった!恐怖で虐げる政治なんざ誰もついてこない! 」
「……ついてこなきゃ、家畜にするのか!つまらなければ殺すのか!生き物の価値はそんなに安くない!! 」
Alma達の叫びからある程度の事情を理解できた一行は、彼らのやっていることを見届ける事しかできなかった。
「……ギル、魔術師に滅ばされた国ってのは多いのか? 」
下を俯き、暗い表情で夜十は口を開いた。
「そりゃあな。俺の場合は特別だが、familiarの仲間は故郷が無くなってる奴らの方が圧倒的に多い。 」
ギルの話に便乗するようにリアンが続く。
「魔術師の領土は年々増え続けている。この辺も数年前までは人間の領土だったはずだよ。 」
「……この場所で国が、人々が平和に暮らしていた時もあったってことだろ!なのに、それを魔術師は踏みにじるのか! 」
夜十は怒りの表情で歯を食い縛り、刺され続けるキングの元へ駆け寄った。周囲には大量の血液が噴出し、腕も数本落ちている。惨い現場なだけで異臭が漂い、この場に止まっているのはとても不快に感じる。
「……それ以上続けて、気持ちが晴れるのかい? 」
夜十は咽び泣きながらキングの遺体を刺し続ける男達へ声をかけた。
「うぅ……な、なんだよお前!!部外者が俺らに話しかけてくんじゃねえよ! 」
「そうだ!!俺らは……もう……!! 」
「家族を失う辛さは痛い程分かるよ。俺の姉も殺されたんだ。末裔って理由でね。 」
俯いた表情でしんみりと地面を見つめる。
「それで俺らと同じとか抜かしやがったら……! 」
「……同じではないよ。でも、キングを蘇らせて殺してを繰り返しても晴れた気持ちにはならない! 」
これ以上、血を浴び続けるのは良くない。
憎しみは抱けば抱くほど増大し、怒りも交われば、もう跡が無い。
復讐ほど、儚く苦しいものはないのだ。
「……じゃあ、俺たちはどうすりゃいいんだよ!そんなことを言うなら教えろ!! 」
「そんなの簡単だよ。一歩ずつ前に進めるように、明日を迎えるために少しずつ作っていくんだ。前よりもずっと頑丈な国をね。 」
Alma達は下を俯き、悔しそうに拳を握った。
「国を作るのは簡単なことじゃないよ。俺が簡単だと言ったのは、明日を迎えるために必要な準備のことだ。君達は過去を捨てるべきだ。 」
「キングを忘れろってのか? 」
「……それは違うよ。忘れるわけじゃない。ただ、糧にして欲しいんだ。明日を生き抜くための糧にね。 」
Alma達は一斉に武器を落とし、膝から崩れ落ちた。その瞳には憎しみの念と共に一筋の涙が頬を伝い、地面を濡らした。
「……アンタ、名前はなんだ? 」
「俺は冴島夜十。日本って国でアリス討伐を生業とする組織に所属してる。 」
「そうか、アンタが冴島夜十か。ありがとう。申し訳ないのだが、もう一度だけ力を貸してはくれないだろうか! 」
Alma達はその場に跪き、頭を下げて叫び声を上げた。
「俺達の国を……キングの治めていた国を共に取り返して欲しい!! 」
精一杯の声で彼は夜十へ懇願した。
それに対して夜十が出す答えは、もう最初から決まっている。




