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追憶のアビス  作者: ezelu
第三章 魔術師戦争編《潜入編》
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第百七十九話 エーデルシュタイン ①

 

 「さあ、知ってること全部話してもらうよ! 」

近くにあった大きな木の太い幹にリヴァイアサンへ変身出来るアビスの女性を縛りつけ、尋問を始めた。だが、当然のように彼女は口を割ろうとせず、ダンマリを続けている。

「ダンマリを決め込むつもりのようですよ。リアンさん、どうしますか? 」

痺れを切らした夜十が掌へ魔力を流し、黒剣を具現化した。

"少しだけ痛い目を見てもらいませんか?"という提案だ。

「ちょっと待って、夜十!この人の魔力が制御されてるとは言えど、苦しみの感情で何が起こるか分からないよ! 」

アビス化出来る人間は未知数だ。感情の昂りが繋ぎ止めている鎖を切ってしまうこともあり得なくはない。


「燈火ちゃんの言う通りだよ。あまり、軽率な行動は取れないんだ。あくまでココは敵の私有地、全て最悪を計算して動かなきゃ、それが命取りとなってしまう! 」

「確かに……軽率でした。でも、このままじゃいつまで経ってもしらばっくれられるだけですよ!! 」

「夜十君がアビスと魔術師に怒っている気持ちはよく分かったよ。大丈夫、ここからはお姉さんに任せなさーい! 」

拳を強く握りしめ、リアンへ強く抗議する夜十の気持ちを察したのか、彼女は優しい声音で諭す。

「はい。分かりました……リアンさんのやり方にお任せします! 」

「うんうん、素直で良いね!鎮雄はいい部下を持ったと思うよ!……っと、さて? 」

リアンは彼女へニコッと笑顔を手向けると、話を続ける。


「貴女は知っていることも考えていることも全て!聞かれたことを答えてしまう癖があるよね? 」

魔力の篭った一言。夜十はリアンの魔法の正体を少しだけ理解し始めた。

恐らくだが、相手を対象とした無理強いの言葉。つまり、"嘘"を本当にする力。

もし、今の言葉で彼女が知っていることを話し始めたのなら、この推理は当たっていると言える。


「……っ!!うっ、あぁぁ、うぐっ!! 」

頭に激痛が走ったのか、歯を食いしばりながら苦い虫を噛んだかのような表情を浮かべ、嗚咽混じりの唸り声を上げ続ける。

リアンの言葉から約数分が経ったか、経たないかくらいで彼女の嗚咽は止まった。

「貴女はロゼという魔術師のことを知ってる? 」

「……は、はい。知っています。私の主人(あるじ)でした。 」

彼女は先程までのダンマリを続ける様子とは打って変わって、リアンの述べる質問に対して的確な答えを話し始めた。

「どういう主人だったのかな? 」

「この街の民に愛され、部下にも愛される素敵な魔術師様でした。絶対的な攻撃力と防御力、二つを兼ね備えたロゼ様に敵う相手なんか居ない……はずだったのです。 」

リアンは彼女の回答に思わず、目を見開いた。魔術師がこの街の民に愛されていた?familiarに所属する魔法師には、魔術師に故郷や家を追われた者達が殆どだ。街に愛される魔術師、そんなことがあるのか?

リアンの頭の中は疑問でいっぱいになった。


「直属の部下は貴女一人なの? 」

「いえ、ロゼ様の直属の部下は私を含め、全員で五名。五宝石(エーデルシュタイン)と呼ばれています。 」

彼女は淡々と話を続ける。

五宝石、西を治める魔女なら優秀な部下が数人居ても不思議ではない。


 「ごめんなさい、最初に聞いておけばよかった!貴女の名前は? 」

「私は五宝石が一人、水神竜(リヴァイアサン)のマール。私はロゼ様に絶対の忠誠を誓い、ロゼ様の為に死ねる覚悟で胸を張り生きています。 」

マールは本当に幸せそうに語る。目を細め、頬を赤くして満面のニッコリ笑顔だ。


「……そっか。幸せそうだね? 」

「はい!私はロゼ様と出会えて本当に良かったです! 」

笑顔で話を続けるマールに、リアンの目の色が変わった。

「ほんわかした話はここで終わりだよ。別に魔術師とアビスの絆なんて心底どうでもいい!イラつくなぁ……! 」

拳を強く握りしめ、リアンは何かを訴えかけたがっているように見えた。何もかもをぶっ壊してきた魔術師とアビスとの間に生まれた絆が彼女を苛つかせたのだろう。



 「この写真見てもらっていいかな? 」

そう言ってリアンが見せたのは、輝夜の部下である浅沼の遺体の写真。肩に刻まれた上限回数がゼロになっても尚、体が消滅していない。

「うん、えーっ……なんでゴミの写真? 」

遺体の写真を見て、彼女はサラッと言った。

「……っ!!があッ……!! 」

その瞬間、マールの腹部に力強い蹴りが入り、身体がフワリと一瞬だけ宙に浮いた。

突然の腹部への衝撃に驚愕と同時の激痛、肺が圧迫されて空気を吸い込もうと必死に痛烈な弱々しい叫び声を上げた。


「夜十君!やめて! 」

リアンの声音にハッと気づいたのか、マールの腹部に蹴りを入れた後、トドメの一撃を放たんと魔力を収束させていた夜十は我に帰った。

「気持ちは分かるよ!大切な仲間の遺体をゴミ呼ばわりしたこいつの事を殺したくなる気持ちはさ! 」

「リアンさん、俺から少しだけアビスに質問してもいいですか? 」

リアンはふと、夜十の周囲から吹き荒れる吹雪のような冷たさを感じた。それは気のせいだったのか、事実だったのかは分からない。

ただ、直感だからだ。


「オイ、いい加減にしろよテメェ!リアンがどういう気持ちでーー」

「ーーギル、大丈夫。質問することは構わないよ。でも、さっきみたいに手をあげることは許さない! 」

奮闘したギルを抑え込んで、リアンは言った。

「……分かりました。手を出さない約束はします。さっきはすみませんでした。 」

「いいよ、夜十君もそれだけ魔術師やアビスに対する怒りがあるってことだからね。仕方がないよ、奪われる側は辛いよね。 」

リアンは優しく諭すように声をかける。

リアンの眼差しは何処か真っ直ぐに見え、淀んでいるようにも見えた。

リアンも怒っているのだ。組織は違えど、同盟を組んだ以上は仲間。

その仲間の遺体が"ゴミ"などと言われているのだ、怒りが込み上げる理由には充分すぎる。



 「お前達、アビスの真の目的はなんだ? 」

「そ、それは……魔法……っ!!ごぼっ……! 」

「夜十君、約束と違うじゃないか! 」

夜十の質問に答える途中、彼女は身体の奥底からこみ上げてきたかのような噴出に近い血反吐を吐いた。

「いえ、俺じゃ……! 」

ドサっと重みのある音が耳に届き、ふと目をやれば彼女の首と頭が切り離されていた。大量の血液が断面から流れ落ちる。

夜十の頭の中は真っ白になった。アビスの真の目的を聞いただけで彼女は壮絶な死を遂げたのだから当然だ。一体誰が?!

しかし、その答えはすぐに分かった。



 「……ったく、千の兵を率いる五宝石が見て呆れるぜ。敵の言いなりとかよ……」

「全くだわ!主人が不在(・・)になったからとはいえ、敵に情報を流すなんて! 」

「マールの身体からスッゲェ魔力を感じるぜー!ありゃあ、俺でもキッツイかも!! 」

「お前今、"俺じゃなくて良かった"って思っているだろ? 」

四人の奇抜な姿の男女が現れ、今は生亡きマールの遺体をまるでゴミを見るみたいに見下す。

四人の魔力量からその場に居た全員は只者ではないと瞬時に悟った。一瞬で夜十達魔法師の魔力察知能力の包囲網を掻い潜り、マールにとどめを刺せる程の実力。


「……お前ら、何者? 」

ドスの効いた声音でリアンが問う。今まで見たことのないような引きつった顔と殺意剥き出しの鋭い目つき、リアンは憤怒し、自分自身の魔力を全身に纏い始めたのだった。


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