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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編《revolución編》
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第百四十二話 思わぬ展開

「《暴虐の叡智よ、私の呼びかけに応じなさい!暴刃の剣雨(アルボロート)》! 」


日南は槍を手放し、二刀流の剣を生成した。

刀身は黒く、柄の部分に槍と同じ金色の龍が巻き付いている装飾がされている。


日南の詠唱が完成すると、夜十を巻き込んだ頭上に赤く禍々しい巨大な魔法陣が発現。

夜十は警戒し、魔法陣を直視した。



「怖がらなくても大丈夫だよ。この魔法陣は今見ただろうけど、そういうことになるだけだからね! 」


夜十は青ざめ、掌を前に突き出して呟いた。



「《全反射(フルカウンター)》! 」


防御に身を徹するしかない、夜十が見てしまった未来は、無数の剣に串刺しにされる光景だ。

それも、避けることの出来ない厄介な剣。

どんなに逆算して未来を予知しても、避け切ることは不可能だった。



「その壁でどうにか出来るとでも……? 」



どうにか出来るとは思ってはいなかった。

きっと、この障壁を容易く破られるだろう。

だが、破られて串刺しにされるのもまた作戦の一つだ。恐れるものは何もない。



「……どうにか出来るかどうかじゃないですよ! 」


「そっか!じゃあ、貴方の力で何をするのか、楽しみに見せてもらうよ! 」


魔法陣の準備が整ったのか、彼女の発現した赤く禍々しいソレから無数の剣が流れ落ちる(・・・・・)

まるで梅雨の日に降り注ぐ雨の礫のように、空気を斬る音で周囲を支配した。


夜十の展開した反射壁へ真っ直ぐに落ちる剣雨は、跳ね返っては追尾して突き刺さりを繰り返し続ける。

夜十が見た未来での"避けられない剣"というのは、標的に突き刺さるまで動きを止めないという意味だった。


ならば、目的を実行させてあげればいい。

障壁はそう長くは持たない、自分が少しでも出来る努力で抵抗したということを相手に見せつけることが大切。

そこが大きな穴になるのだから。



「くっ……!!まずい!! 」



障壁にパキパキとヒビが入り始めた。

剣雨はヒビが入ったことで、ここぞとばかりに追い打ちをかける。


「このままじゃ……!! 」


冷や汗を流し、障壁に与える魔力を増幅させるが、到底間に合わない。



「いいよ!夜十君!串刺しになっても、完全回復させてあげるからさ! 」


そういう問題じゃないです!!

言いたかったが、そんな余裕もなかった。

パキンっと障壁が音を立てて崩れ去り、夜十の身体へ剣雨が次々に突き刺さった。

血反吐を吐き、血眼になって抵抗しようとするが数分後には、へらりと意識は途絶え、身体は動力を失った。



「若手の魔法師はこんなもーー」


日南の額に一閃の筋が入り、ツーと血液が垂れる。と同時に死角から現れた夜十は、胸部に強い打撃を与えた。



「やっと……良いダメージが入った!! 」


打撃を与えられた衝撃で胸部を抑え、後退するが、日南は直ぐにニコッと笑った。



「そうだよね……美夏の弟だもんね。何かしら、手を打ってくるとは思ったよ。私の暴刃の剣雨(アルボロート)の追尾条件を瞬時に知り得る判断力、凄いよ! 」


日南は、額の血を服の袖で拭った。



「弐でもダメか〜!参ならどうかな? 」


持っていた二刀流の剣を夜十へ放つ。

二本の剣は夜十の目の前の地面に突き刺さり、音を立てて破裂した。

再び白い煙幕に周囲は包み込まれる。



「……《妖の民よ、弔いは哀、復讐は亡。霊炎にて焼き尽くせ!波旬の灼球(ファンタズマ)》! 」


ーー日南も夜十も予期していなかった青い炎が、白い煙幕を吹き飛ばした。

周囲の空気を焦がし、凄まじい火力で演習場の壁を貫いた無数の青い炎の球を作り出した張本人は、日南へニコニコと笑いかける。



「あっ……!不知火さん、後少し!! 」


「日南、独断で始めておいて、まだ決着がついてないのか?あぁ?早く戻んぞ!! 」


不知火は昭和チックな軍事服の第一ボタンを外し、帽子を被った。

先程の雰囲気とは別で、何か急いでいるようだった。



「ごめんね、夜十君!また今度やろう! 」


「あ、はい!またやりましょう! 」


日南は持っていた武器を手放して、不知火の元へ走って駆け寄っていった。



「あー、冴島夜十。お前、凄いな。人間で日南に参まで出させようとしたのは、お前が初めてだよ。賞賛に値する!では、またな! 」


不知火はそれだけ言い、日南と二人で演習場から出て行った。



「はぁ……疲れた。ギルはどうなったんだろう、新島さんの部屋に行ってみるか。 」


ボロボロに破壊された演習場を後にして、夜十は新島の部屋へ向かった。



「お前らのボス、いや父親か。ルーニーから直々に命令を下されたのか?答えろ! 」


新島の部屋では、ギルを含めた拘束具を付けられた全員に尋問が行われている。

新島も不知火と吉良が突如として連れてきたこともあってか、色々と錯乱していた。


神城と吉良、新木場と新島の四人が腕を組んで、ギル達へ問いかける。



「この拘束具を取れ!そうしたら答えるか、考えてやる! 」


「お前、自分の立場分かってんのか? 」


神城はイラついた様子でギルへ詰め寄り、肩をガッシリと掴んだ。

ギルの肩部がカチカチと音を立てながら凍りつき始める。


「ルナ、頃合いだ。……始めろ!! 」


合図を受けたルナールは、思い切り口を開け、舌を噛み切った。

ピンク色の健康的な舌がポトリと床に落ちる。

よく見ると、舌には魔法陣が描かれていた。



「……神城、離れろ!! 」


神城はギルから手を離し、後ろへ後退するが、間に合わなかった。

緑色に発光した舌がギルを含めた隊員と神城を消滅させた。



「なっ……!?神城、神城おおおお!!! 」


「転移魔法です!!まさか、自分の舌を噛み切って魔法を使用するなんて!! 」



全員、驚きが隠せなかった。

それよりも神城が連れてかれてしまったことに焦りを感じた新島は机を拳で殴り壊した。


「新島!!焦るな!……くっそ、やられた!! 」


新木場は、してやられたと悔やむ。

吉良は自分の魔力で生成した拘束具がどこへ転移したのかを、集中して感じ取る。



「吉良、何をしている? 」


「今、拘束具の魔力を辿っています。そうすれば、神城さんの行き先が分かるはずです! 」


「そんなことが出来るのか……?! 」



五つ分の魔力だ、そう簡単に見失う程の雑魚ではない。

プロを何年やってきていると思っている。

ソロだって、強いんだ!



「……っ!!分かりました!!でも、ここは!! 」


「神城は何処に飛ばされた!? 」


新島も新木場も生唾をゴクリと飲み込む。



「ミルク王国です、廃国なので跡地ですが……!! 」


新島と新木場が答えを聞いて、焦った時、部屋の扉が音を立てて開かれたのだった。




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