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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第百一話 修羅の道 ③ 《紫欲の魔術師》

遅くなりましたー!

ーーキュレル城。

歴戦の魔術師が一夜にして作り上げたという魔法によって生み出された鉄壁の居城。

建築された場所が崖の上というだけあってか、他の生物は愚か、人間は城の上まで辿り着くことは困難。

城の下部、崖付近には肉に飢えた狼が蔓延っており、近づくのも危険とされている。



ハルトとシンは、城の崖付近へ到着し、木陰に身を潜めて作戦を練っていた。



「ここからどうするんだ?あの狼の数、突っ込んで行ったら敵に音を伝えることになっちまうぞ! 」


黄色い涎をダラダラと垂らし、緋色に光る瞳で獲物を探す狼が100匹以上は居る。

シンはハルトに作戦を請う。



「……正面突破以外、無いだろ。 」


「え? 」


ーーと、シンが拍子抜けの声音を出したのもつかの間、ハルトはしゃがんで折っていた足を伸ばし、地面を蹴った。

掲げた拳を狼の顔面へ放ち、複数体を一気に吹き飛ばす。

だが、周囲の狼は「絶好の獲物」を感知して、短く細い足を走らせた。


あっという間に囲まれてしまったハルト、彼の視線はシンへ向いていた。



「……ったく、脳筋かよ!! 」


シンは、背負っていた刀剣を鞘から抜くと、地面を蹴って一気に加速。

凄まじい速度を保ちながら、刃を斜めに滑らせる。



「グォォオオオオオ!! 」


激しい雄叫びが耳に刺さり、一瞬だけ怯みそうになるが、立ち止まっている暇はない。

シンの銀色の刀剣は、狼の身体を容赦なく斬り捨て、血に染まった。



「この狼、本物じゃないのか? 」


返り血から魔力を感じ、ハルトは魔術師が作り出した生物なのだと知る。

普通の狼に魔力など付与されるわけがないからだ。



ーーすると、崖へ上がる為の坂道から風船が割れるような大きな音が連続して聞こえ始める。シンとハルトは、それが誰かの手で紡いだ拍手なのだと気がつくのに、大した時間は必要なかった。



「いやぁ〜、ブラボー!僕の愛狼ちゃん達を意図も簡単に殺しちゃうなんて〜!アグニス様が油断するな!と仰ったのには理由があったんですね〜! 」


独特の伸ばし棒を付与させる話し方をした白衣を着た紫色の髪の男は、四角い黒縁眼鏡を上に持ち上げる仕草をして感激した。



「……誰だよお前! 」


すぐ様、シンがハルトの前に出て、戦闘態勢を取る。だが、男は動揺もせず、ただただ嘲笑の笑みを浮かべているだけだった。



「君が人類最後の生き残り、《魔法喰狩(マジックイーター)》というわけか。私は、アグニス様が主人、《紫欲の魔術師(グリード)》ニアル! 」


「《魔法喰狩(マジックイーター)》? 」


男は、シンをそう呼んだ。

だが、シンには心当たりのない名前だけに疑問の声音を吐かずにはいられない。



「僕ら魔術師が人類を率いて戦う、君を知らないわけがないだろ〜?君が我々に呼ばれている名前だよ〜!じゃあ、僕は帰ってミルクティーを飲みたいから、サクッと殺しちゃうかな〜っ! 」


紫の髪の魔術師は組んだ両手を強く開き、紫の光がひしめく中、木製の杖を取り出した。

(ステッキ)というものだ、魔術師は杖で溢れ出る魔力を制御し、使いたい分だけを抽出して、魔法へと具現化させている。

一部、杖を使わず、魔力で具現化した武器を使用する者も居るが、基本は杖が主流だ。



「アグニスの部下だと……?シン、気をつけろ!アイツ、只者じゃない! 」


「そんなこと、分かってる。これだけの数の狼を生成して余裕の笑みを保ててる奴だ!俺が倒してきた雑魚とはわけが違うってな! 」


二人は、重心を低くし、いつでも動ける最善の態勢に構えると、集中力を魔術師へ咎める。彼は、ニヤニヤと落ち着きがなく、調子に乗っているようだった。



「……行くぞッ! 」


最初に飛び出したのは、シン。

地面を蹴って、一気に加速した速度任せの一撃をニアルの眼前に容赦なく振り下ろす。

ーーだが、しかし、それは空を切り、微々たる風を周囲に撒き散らして消える。



「今の速度でも駄目か。やっぱり、強すぎるな、魔術師って奴は! 」


追撃をして来なかったことをチャンスに思い、一歩後退して再度構える。

だが、魔術師の姿が見当たらない。

集中して逃さないことに細心の注意を払っていたにも関わらずだ、シンはキョロキョロとして彼を探す。



「ココでーー……っ!! 」


シンの真上に現れたニアルは、にっこりと微笑んで自身の魔力を凝縮した一撃を杖に溜め込む。シンが今、上空を見上げて回避に徹しようとしても間に合わない広範囲な魔法だけに、ニアルは魔法が作り出すクールタイムに焦りさえも感じなかった。


だがーー、もう一人の人物は分かっていた。

ニアルが上に飛び、剣を回避。後の行動として、上から魔法を浴びせるのだと。


だから、ハルトは彼に気づかれないよう、空中で、ニアルの後ろで息を殺し、気配を殺しながら剣を上に掲げ構えていたのだ。

振り下ろすタイミングを運に委ねて。

そして、そのタイミングがまさに、今ーー。



「ぐぬうううううううう!!! 」


ニアルが後ろを振り返り、魔法でガードするには、とても間に合わない速度。

人間が持つ反射速度と魔術師の反射速度は明らかに異なると言っても、突然の強襲には敵わないようだ。

ハルトの剣は、ニアルの右腕を斬り落とした。



「……次は首を貰ってやる! 」


空中に舞い降りたハルトは、頭上で止血を始めたニアルに矛先を向けて、言った。



「こ、この程度で負ける僕ではない!調子に乗ってもらっては困るね〜っ! 」


止血が完了すると、左腕に携えた杖を下に向け、ハルトとシンへ目掛けて、凝縮した魔力の球体を連続して放出する。



「……魔術師の治癒魔法は、斬られた腕程度、数分で治す。だから、その隙を与えずに攻撃するぞ、シン! 」


「……ああ、分かってる! 」


二人はジグザグに地面を駆け抜けて、ニアルの照準を合わせないよう、翻弄する。

彼の作り出す魔力の球体の威力は絶大で、たった一個の球体が地面に当たった瞬間、マンホールくらいの大きさのクレーターを地面に生み出す程だ。



「ちょこまかと、面倒臭い〜っ! 」


球体から、魔力を直接流し込む光線に変化させると、自らの射程位置を低め、地面に降り立った状態で放出し始めた。

範囲は広まったものの、展開させるには速度が足りず、二人は一気にニアルとの距離を詰める。

また空に飛ばれては面倒臭く、倒すにしても効率が悪いと踏んだ二人。ハルトの合図でシンは陸、ハルトは空高く飛び上がる。



「……なっ!ま、まずい! 」


ハルトの刀剣が眼前にまで迫った瞬間、身の危険を察知したニアルは、杖を横持ちで受け止めた。


だが、それだけでは二人の攻撃は終わらない。杖をガードに使用してしまった為、防御用の魔法も使用出来ず、下から狙われれば丸腰状態。


シンは、右足から踏ん張って一気に加速すると、ハルトの刀剣を受け止めるのに必死なニアルへ渾身の一撃を放つ。

通り過ぎるタイミングで首の骨と肉を一瞬で削ぐ技、まるで風が吹き抜けたようだった。



「……アグ、ニス様の……」


「死ね、クソ魔術師! 」


首を斬り落とされても、尚、ニアルは血まみれの表情を(しか)め、決死の言葉を吐く。

その直後、シンの刀剣が宙を舞い、一気に振り下ろされたかと思えば、彼は絶命した。





「《紫欲の魔術師(グリード)》を倒すとはな……ふむ、次は《赤暴の魔術師(おまえ)》だ。……行け! 」


暗闇の中、水晶で戦いを見ていたアグニスは部下が殺されたことを知ると、自分の後ろで跪いている男へ命じる。


彼の髪は赤く、されど白く、背中には刀身が緋色の巨大な大剣を背負っていた。

命じられるなり、男は深く頷き、シンとハルトの元へ出向こうと姿を消した。



「……アレくらいの魔術師じゃ、大したことは無いけど、俺らの潜入がバレてたってことになるよな! 」


「嗚呼、どこで漏れたのか分からないけど、シンの言う通り、コイツが来たってことは次に魔術師が来るのも時間の問題……。だけど、進むしかないんだ、ここまで来たんだからな! 」


二人は崖を登り始める。

凸凹の岩を慎重に足場にして、手で掴んで一気に駆け上がる。そんなに難しいことではないが、落下すれば無駄なダメージを負うことになってしまう。

シンとハルトは、慎重な判断力を講じて、何とか崖を登り切った。




「はぁ、はぁはぁ……意外とキツイな。 」


「だな……鉄壁はどうすーー」


眼前に(そび)える鉄壁は高さ五十メートルはありそうだ。登る為の凹凸部分も無ければ、自分達で破壊するのも困難だろう。

シンがハルトに鉄壁の話を持ちかけた瞬間ーー、シンの背筋が凍りついた。



「貴様ら如きでは、この壁を超えることさえ出来ん!何故ならば、私が居るからな! 」


突然、背後に現れた赤髪の男は、背中にさした大剣を引き抜き、縦振りに大きく下ろした。



ーー瞬間。

彼の剣からは、こうこうと光り輝く緋色の衝撃波が波のように流れ始め、真っ直ぐシンの方へと向かう。

突然の奇襲に気持ちを僅かだが緩めてしまっていたシン。


だが、咄嗟の判断で刀を抜き、衝撃波との真っ向勝負に挑む。

緋色の髪の男は笑みを浮かべ、シンは額に汗を流した。



「はぁぁぁぁぁぁ!!! 」


シンが見定めた絶妙なタイミングで振り下ろされた剣は、衝撃波を真っ二つに斬り、シンを中心に左右に分かれて背後の壁に亀裂を入れた。



「……人間風情が!この私、《赤暴の魔術師(レイジ)》バアルの剣圧を斬るだと?魔術師最強の剣士と言われた私の剣圧を貴様ら如きが斬って良いわけがないだろう!! 」


赤髪の男は怒りの表情を浮かべ、そう言った。

《赤暴の魔術師》と呼ばれている理由なのか、彼は紅い魔力を身につけて、真紅に染まる大剣を、瞳をシンとハルトへ向けたのだった。




百一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


遅くなりました!今回は、シンとハルトが魔術師を撃破する話でした!


次回、《赤暴の魔術師》がシンとハルトの行方を阻み、鉄槌を下さん!!


次回もお楽しみに!!


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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