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【完結】Code:ルナティック=アンブラ 不死身の魔剣士とプレイヤーの苦難  作者: ゆーくんまん
第5章 覚醒のヴァルキュリア

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第5話 氷竜王プリュ―ナグ 後編


「ちゅーわけやお嬢、解ったか?」

「え、あ、え~っと……う、うん」

「何や歯切れ悪いなぁ。ハッキリ言わんかいな」


「…………何で裸なの」


 場は再びトロンリネージュ大闘技場スタディオンに映る。

 現在水蒸気爆発によって生じた霧がアリーナ全体を覆い、観客、解説審判席、両選手共に視界が悪い。その合間を縫って、プリューナグがどうやってシャルロットの剣に宿ったかの説明を終わらせた所だった。シャルロットは視線を逸らしながら顔を赤らめる。理由は目の前に立っている少年の格好があまりにもこの場所に異を唱えていたから。

 

 誰も見えていないのを良い事に小さな竜人プリュ―ナグは全裸で具現化していたのだ。


『何でってお嬢……可愛ええやろ?』


「……何が」


『いやほれ、チンチ――』

「何て呼べば良い? プリューナグ君ってちょっと呼びにくいし、先生の所のディさんみたいに愛称があったら良いと思うんだけど」


 エメラルドの瞳を灰色に変化させつつシャルロットは口早に話題を切り替える。どうやら下ネタを自動で遮断する心の壁シャルロットフィルターに引っ掛かったらしい。プリューナグは「何やね~ん」とか言いながらチ○コを揺らしているが、レイプ眼と化した主人には見えていないらしい。


『そやなぁ……プーさんとかがエエなぁ。何かマスコットっぽい感じやし、蜂蜜とか舐めてそうで可愛ええやんけ――』

「じゃあピィちゃんで」

『何やて!?……ま、まぁお嬢がそう言うならエエけど……あれ? もしかしてお嬢、オラのチンチ○に欲情――』

「あ、霧が晴れそう! 早く剣に戻った方が良いと思うな。反則取られるかもしれないし」


 お、おう。プリュ―ナグ改め、セクハラ5才児ピィちゃんは身体を粒子に変化させアイスファルシオンへと戻る。――と、同時にシャルロットは脳内で術式が書き込まれていく感覚を覚えた。


「ピィちゃんこれって……」


『あぁそうや、オラが編み上げた術式や。さっきぶっ放したLv3高位魔法言語エンシェントはオラが実行した魔法やが、逆にオラが編みあげて詠唱した魔法をお嬢が実行する事も可能なんや。ちなみにさっきの魔法、氷竜槍破グラキエースマイスターはオラ自身を源流ソースとする魔法やから詠唱はいらんで? 相手には詠唱破棄ファンクションを使って実行したように見えたかもしれんけどなっ』


「……凄い」


 それに脳内で編みあげられた魔法言語は自身の最も得意で且つ最強の魔法だった。


『そやろそやろ! オラはさっきお嬢の因子核と完全に繋がった。お嬢に何が出来て何が出来んかも手に取るように解るんや――霧が晴れると同時にぶっ放したれお嬢!』


(それに気付かない内に足の傷も少し良くなってる……ピィちゃん、ちょっと変な子だけど凄いや)


 これなら勝てるかも。

 シャルロットは霧の中から現れたルイズの姿を捉え、ピィから転送された術式に自身のありったけの魔力を込めて解き放った。


『Lv4絶魔凍結地獄テラクオー=カーネーション!』


 ドツバッ!


 シャルロットが放ったのは古代魔法言語低温最上位魔法――摂氏マイナス273℃の凍気流である。絶対零度の波動は空気中の水蒸気すらもパチパチ音を立てながら凍らせ弾きながらルイズに突き進む。相手がいかに演算速度に優れていようとも魔法出力ならこちらの方が上、相手より先に放った全力魔法は必ず相手に届く――はずだった。


 ズアッ!――

「――え?」

『何やて!?』


 凍気流はルイズの周囲から滑るように斜め上空へと逸れていったのだ。アリーナ最後部にあるスポットライトに凍気が掠め、観客席にダイヤモンドダストが降り注いている。

 超低温が作り出した輝く霧から見えるはピンクの髪の対戦相手――ルイズ=イザナヴェ=カターノート。


「……勝ったと思った? お生憎様ね」


「どう……やって」


 「フンッ」ルイズはプライドの高そうな鼻を鳴らしてから、一度自分の右手に視線を落とし、ちょっと考えてから。


「フフンッ! 教えてあげないわ!」


 秘密にする事にした。





 霧がようやく晴れ、視界が確保できた審判解説席、毎度アナウンス兼審判員の男とビールを片手に酔っ払う傭兵王国ゼノンの王、クワイガン=ホークアイが座していた席であるが、本日は魔法使い同士の戦いだという事と傭兵王の試合が近いという事で、当大会主催国代表のアンリエッタ=トロンリネージュが代りに解説席に座っていた。

 マイクを持った解説者がアンリエッタに向き直る。今までムサイ男が座っていた席に、急に花が咲いた気分にでもなっているのだろうか、表情が少々エロい。


『いやー王女殿下、トロンリネージュ魔法学園代表シャルロット選手の先程の魔法……凄かったですねぇ』


「そうですね、このレベルの魔法戦はめったに見れるものではありませんし……でもルイズさんも流石ですね、カターノート一族の名は伊達ではない事を身をもって証明しています」


『先程の魔法をどうやって防いだのでしょうか?……ルイズ選手に当たる寸前に上にそれたように見えたのですが……』


「あぁさっきのあれですか? あれは……」

古代魔法言語レベルフォーをアリーナ内で使うなんてもぉぉぉぉ……ヘタしたら死人が出る所ですよぉ!?)


 そんな胸中を全く表情には出さず、凛とした態度で解説を行う現在18歳の国家代表アンリエッタ――彼女は高位魔導師にして特型の武装気ブソウオーラの持ち主、文武共に優れた天才である。


「ルイズ選手は空気を遮断したのでしょう」


「え?……空気を……ですか?」


 理解の及ばないらしい解説者にアンリエッタは笑顔を向ける。


「魔法言語というのは全て、この空気中を飛び交う魔法粒子を振動、または変換させて現実空間に投影しています。……シャルロットさんが放ったのは低温魔法……要するにマイナス値粒子振動を起こす魔法……しかし絶対真空状態ではマイナス粒子は直進しません。故に行き場を失った冷気は濃い密度の魔法粒子がある場所……空へと逸れたのでしょう」


「な、なるほど流石……アンリエッタ姫殿下」


「あと、確実に反らせるように相手の冷気を逆に利用して超電導を起こしてありましたね……あの一瞬で電気系と風系Lv2精霊魔法言語アセンブラを2つ同時に使用しています。……相当速い演算をしないと不可能な高等テクニックですね?」


 ニッコリ笑顔で解説者に説明するアンリエッタ。


「何て美し……じゃない! し、しかし姫殿下よく解りましたね、ルイズ選手はあの魔法演算速度世界一を誇るカターノート一族ですよ!? ……と、いう事は殿下はあの演算構成が見えていたという事ですかぁ……?」


 キョトン?……アンリエッタは一瞬、この解説者の言っている意味が解らなかった。魔法の構成は魔導師ならば空気中を漂う魔法粒子ミストルーンの状態からある程度推測出来るのは当然であるから。――そこでハッとなり、そうか……この人は魔法を使えない系の人だったんだ。と納得する。


「ええまぁ……あの位の構成速度でしたら」


「あ、あの位……」


 解説者、名をナカノ=アデランスという男は魔法因子持ちまほうつかいであった。それも20年前カターノート魔法学院を主席で卒業した程の高位魔導師である。

 アーサーの口利きで今大会の審判兼解説役を買って出る事になった男は困惑していた。目の前の年端のいかない他国の皇女は、あの演算速度を「あの位」と形容したのだ。――自身では全く目で追えなかったルイズの高速演算術式を。

 しかしそんな驚きの眼を向けられているとは夢にも思わないアンリエッタは、全く関係ない事を考えていた。


(遂に姿を表しましたね……プリュ―ナグさん)


 「はぁ……」おしりを鷲掴みされた忌まわしい記憶が蘇りため息を漏らす。


(大丈夫かなぁ……シャルロットさんにエッチな事しなきゃいいけど)


 同情の眼差しを送り再度――アンリエッタの花のように愛らしい口元からため息が零れるのだった。





 舞台は再びリング上へ――ルイズが再び無数の火球を放ち、シャルロットがそれを躱す。と、試合開始初期の状態に戻りつつあった。だが違う所が2つ――火球の数が減りつつある事と、シャルロットの動き格段に遅くなっているという点である。シャルロットの右足は完治したわけではない、あくまで少し良くなった程度のモノである為、武装気ブソウオーラを使っているとはいえ段々と動きのキレが失われつつあったのだ。

 

 一方ルイズは「こんの化け猫何てバカ魔力……」小さく呟いて憎々しげにシャルロットを睨みつける。


(平気ぶってみたものの痛いよぉ……空気を遮断したのにとんでもないダメージ……全身が痛い、右指が凍傷で動かない……回復に後何分いるかしら……)


 ルイズは炎魔法で攻撃しながら全身をLv1暖房治療ウォームヒールにて回復を図っていた。 複数の魔法言語を同時に使用できるルイズだが、流石に不得手な回復魔法をかけながら、先程のように魔法を不可視化させて打ち出すことは出来ない――そのため相手には避けられてしまっているが。


(でもあの娘の足もそろそろ限界のはず、このまま距離を取っていれば勝てる!)


 凍傷による激痛を堪え、額の脂汗を拭って見た。

 苦しそうな顔で火の玉を避けるシャルロット――相手の体力もそろそろ限界に近い筈なのだから。



『――魔人剣流波インパクトアサルトスパーダ!』


 肩で息をするシャルロットは目の前に迫る数発の火球をまとめて衝撃波で薙ぎ払った。


「はぁ、はぁ、ピィちゃん……回復はこれ以上無理なの?」


『応急処理以上の事は無理やな! オラは氷竜や、お嬢の師匠んトコのディネーチャンみたいな器用な事よーせんわ。それよかオラの特技見せたるわ……ほれ見てみぃ?』


 うにょ~ん……アイスファルシオンから淡い光と共に青白い触手が現れた。


「何……コレ」


『凄いやろ! これがオラの特殊能力、心のチン○ン――――ぎゃぁぁぁ!?』


 力まかせに剣は地面へと叩きつけられる。


『ななな何すんのや痛いやないかお嬢!』


「今度それ出したら燃えないゴミの日に出すよ」


 何やて!? 地面に投げ出されたプリューナグは上から自分を見下す主人の眼を見て思った。


(な、何て冷たい視線や……まだあどけないチビッコやと思ってたがまるで氷の女王や……オラの主人はこんな冷酷な眼が出来る人間やったんか……こ、これはマジで捨てられる! 来週の金曜日に業者さんに回収されてまうでぇぇぇ)


 プリューナグが思うと同時に再びルイズから火炎魔法が放たれ、瞬時にシャルロットはアイスファルシオンを拾い上げてから後方に飛び退いた――元いた場所に複数の火球が着弾し炎を撒き散らす。


(しっかしあれやなぁ……男としてこのまま尻に敷かれとったらあかんなぁ。ここは何とか、お嬢に必要とされる役に立つ自分デバイスを演じとかな後々自由にセクハラさせてもらえんかもしれん! ――そうや! 奥の手出す時かもしれへんな)


 アイスファルシオンの中でプリューナグは決意する。――竜王族が持つ最大の切り札を使用する決意を。


『お嬢!――そろそろ勝ちに行くで!』


「勝ちにって……どうするの?」


 オーラの連続使用により全身が疲弊し始め、更に先程の魔法で魔力も残り少ない。


『相手は世界一とか調子乗っとる魔法使いや! ほなら魔法で負かしたんのがスジってもんや』


「で、でも魔法の勝負ではルイズさんに分がある……よ?」


 演算処理能力――魔法を放てる速度では圧倒的にこちらが不利だった。


スデゴロにはスデゴロ魔法チャカには魔法チャカで勝ってこそオトコってもんや』


「ボク女の子」


『間違えましたゴメンナサイ!――でも仁義の話や細かいこといちいち気にすんなや』


 プリューナグは素直に謝る。

 さっきの一件で捨てられる事を警戒しての謝罪である。


「う、うん……解った、でもどうするの?」


『宜しい! で、や、竜王族には竜刻印ゆーて自身の魔法と身体能力を数倍に引き上げる”乗倍術式オーバークロック”ちゅう固有魔法言語があるんや! ユウィンのおっさんも使っとった――』

「先生の事おっさんって言うのヤメて」

『ハイスイマセン! ……え~っと、そんで、お嬢もユウィン師匠が使っとるトコ見たことあるやろ?――あれを使うで!』


 竜魔融合術式ファイナルオーバークロック――主人の魔法因子核リンカーコアにドラゴンの竜刻印を同調させるシャルロットの師、ユウィン=リバーエンドの得意とする術式である。――使用した際の戦闘能力は人の域を超え、その力は上位霊子体、天使、魔神に匹敵する。


「そんな……ボクに出来るかな」


『お嬢なら出来る自分を信じるんや!』


「う、うんボク頑張る!」


 ボクは強くならなくちゃ先生を助けられる位に! ――迫り来るルイズの魔法を必死に避けながら、シャルロットのエメラルドの瞳に強い意志の炎が灯った。


『よおーたでお嬢、それでこそオラが見込んだ女や! 今から言う事をう聞くんや――大事な話やで!』


「うん! 何?」


『竜魔融合術式には莫大な魔力がいるんや! 幼竜のオラ1人ではどうにもならん!』


「解った! ボクは何をしたら良いの」


 完璧や! プリューナグは剣の中でほくそ笑む。


『そこで、や、お嬢!』


「うんPちゃん! ボク頑張る」


『おっしゃそうか! なら、オラをお嬢のデッカイ乳に――ハサめ!』


「…………ん?」


 シャルロットは今の言葉を脳内で何回か繰り返した。オッパイに挟め? 剣を? それは流石に聞き違いだろうと勝手に納得する。


『それで一発逆転や!』


「え、え~と……もう一回良い?」


『おぅまかしとけ! お嬢の巨乳にアイスファルシオンを――ハサめ!』


「う、う~ん? ……ゴメン、もう一回だけ」


『よっしゃ! シャルロットお嬢のたわわに実ったオッパイでオラのチ○チ○を――ハサめ!』


「今違うこと言ったよね」


『何や聞こえとるんやないかお嬢ぉ~何回も言わすなや恥ずかしいやんけ~』


 瞬時に発動した心の壁シャルロットフィルターによってレイプ目と化した彼女は右手のアイスファルシオンをどこか遠くて投げ捨てようかという衝動に駆られるが、タイミング悪くルイズが大きめの火球を飛ばしてきた為遮られる。


「嘘ダヨネ、どらごんじょーくダヨネ」


『え? 何でカタコトやねん?』


 ルイズの炎魔法をオーラを込めた剣で切り裂いたシャルロットの瞳に色は無かった。目の前の現実を拒絶したらしい。


『何ゆーてんねんホンマや。オラの魔力の源はお嬢の乳にある。そのデッカイ乳は何の為に付いてるおもとんねん! 負けてもええのんか!? あの貧乳さっさと打ち負かしてユウィンのおっさん――』

「先生の事おっさんって言うのヤメて」

『あ、すんません……え、え~っとユウィン師匠、探しに行きたいんちゃうのんか!?』


「そ、そうだけど……その行為に何の意味が……」


『お嬢の決意は――見せかけやったんかぃぃぃい!』


 これでどないや!? プリューナグが主人の右手の剣アイスファルシオンからシャルロットを見上げる。5歳児は5歳児なりに考えていたのだ――どうやったら頭上の巨乳を合理的に揉めるか? まだ5歳児故オッパイが恋しい年頃……否! ただのエロ心ではあるが、DOSとなって主人を助ける剣と化した自分だが、完全に従属とされるのは勘弁だった。自分は自由にノビノビとセクハラしながら精一杯己を貫いて生きるとそう決めているから。


(その為にはまず自己アピィルや!)


 第一印象は大事である。

 この発言には2つの意味があった――完全に家来として扱われる前に「ここは一発イワせとかなアカン!」それともう一つ「自分でセクハラするよりお嬢自ら挟んでもらった方がエロい」と。――そして計画通り主人はさっきの言葉が効いたのか「先生のため挟む?」「頑張れ頑張れボク」とか言いながらブツブツ言っている。やっぱ思った通りお嬢って頭ユルイな、もう一息や! プリューナグがシャルロットに再び何か言いかけた時――。


『――Lv2爆裂ブラストフレア!』


「ンキャッ!」

『なんでやねぇぇぇぇん!』


 ルイズの放った魔法言語で吹き飛ばされてしまう。

 シャルロットが空中に吹き飛ばされた拍子にプリューナグも投げ出され、リング場外手前に落下する。


「回復完了……随分手こずったけど、やっとこれでお開きね」


 ルイズは掌をニギニギして凍傷だった両手の感覚を確かめ、そして場外寸前まで吹き飛んだシャルロットを見据えた。何か剣と喋ってるように見えたが何だったんだろう? そして急に隙だらけになったのは何故だろう? 疑問もあったが。


(まぁ良いわ、このルイズ=イザナヴェ=カターノートをここ迄追い詰めた子猫ちゃんに敬意を評して……見せてあげる)

 

 DOSを持つお爺様程上手くはやれないけど。

 長い髪がゾワゾワ動き出した。――ピンク色の髪の内、数束に文字が浮かび上がり輝きを放っている。


圧縮魔法ラプラス……解凍)


 圧縮魔法術式――予め魔法術式を編み上げておき、高位魔法の構成と詠唱を省き即実行する事を可能とする魔法である。――本来DOSと呼ばれる魔法使いのデバイスに圧縮しておく術式であるが、ルイズは自らの長い髪を束ねる、レアミスリルという特殊金属を媒介にして魔法を圧縮することを可能としている。

 そしてこの術式の最大の特徴は詠唱破棄で実行不可能な魔法も即実行が可能だという点だ。


(私が詠唱破棄で一度に放てる魔法は最大3つ……だけど、これで5つ)


 2つのLv3魔法が解凍され、ルイズはそれに自らのありったけの魔力を込めて更に3つのLv2魔法を上乗せする。これこそルイズ=イザナヴェ=カターノートが有する最大攻撃力――右手に溜まったトータル5つの全属性魔法言語を同時に放つ”五芒魔法波バーストオブペンタゴン”という魔技である。――その威力はLv4古代魔法言語に匹敵する。


(私に勝てなきゃ義弟サイにも勝てない……そんなアンタがアイツに守られる資格なんて無いんだ!)


 アイツの隣には私がいるんだ。


「私のばしょを奪わないでよ! この――泥棒巨乳猫ぉ!」


 ルイズは叫ぶと同時に右手の”全力”を解き放った。



 その数秒前――青白い輝きを見せる閃剣アイスファルシオンの中で小さな竜人は困惑していた。


(な、なんや……なんやねんこれは、この感触はママン以上、生まれて……初めてや)


 困惑していた。――自分の目の前にある物質に。


(カップ数ってアンダーとトップの差やったっけ? B……なわけないなぁC、D、E、F……以上って何やったっけ)


 頭を抱えた。――その規格外のサイズに。そして閃く――ピッタリな言葉を。


(スイカップや)


 ここは場外負けになるかならないかというギリギリのリング端、吹き飛ばされたシャルロットが転倒したその時、アイスファルシオンが彼女の胸に挟まるように下敷きになっていた。


『お、お、お、お』


「え? あ、あの……Pちゃん?――へ?」


 ボンッ それに気付いたシャルロットの顔が真っ赤に染まり、両胸を抑えて飛び起きた。――その時、剣は輝きを放つ、いまだかつて無い烈光を、それは魂の叫び。


『お、お嬢……って』


「何したの!? ボクの胸に何したのぉぉ!?」


(ブラジャーしとらへんやんけ)


 涙目で叫ぶシャルロットに呼応するように光はどんどん強くなっていく、少年は一つ大人になったのだ。――そして今、自分のこの状態を一言で表すならこれしかないと確信する。――フルボッキや、と。


『うぉぉぉお力が漲る心が踊る! オラの竜刻印が呼応しとる。流石やお嬢、常人の因子核では受け止められんドラゴニックコアの出力をものともしとらん!』


「えええええええ!?」


 それにこの反応は……プリューナグは完全にシャルロットの因子核と同調を果たした時違和感を感じた。何かやたら大きな、自身の持つ魔力を遥かに凌駕する異質な力と”声”を聞いた気がしたのだ。しかし今は戦闘中「目の前の敵を張り倒すのが先やな」納得して叫んだ。


『行くでお嬢! 竜魔融合術式ファイナルオーバークロックや!』


「ちょっちょっとまってPちゃん!? い、いやぁぁあああ」


 頬を染めたシャルロットの絶叫と共に炎が巻き上がる。否、それは炎にあらず。シャルロットの全身をを覆う蒼天の如き”青”――青の炎は衣は聖女を悪徒から護る鉄壁の防御結界、そして青の光はシャルロットが持つ常軌を逸した魔力許容量キャパシティを8倍に増幅させる破魔の剣である。


――ズドギャ! シャルロットの眼前少し手前で巨大な魔力が弾ける。


「なっ! 何あれ!?」


 放った全属性攻撃魔法を真正面から弾き飛ばされたルイズは驚愕の声を上げる。そんな事をやってのけた当のシャルロットは虚ろな目でブツブツ言っているが。


『散々オラのマスターに舐めた事ほざいてくれよったなぁ貧乳魔法使い! 世界一とか抜かしよったがお前にこれが出来るか!? 魔法因子核にドラゴニックコアを融合させる竜族最大の秘儀――ファイナルオーバークロックを!――出来んやろ。お前はオラのマスターには勝てんしなれんよ! それを今見せてやるわぁ!』


 青の業炎を撒き散らすシャルロットの姿を観客は総立ちで見守っていた。皆言葉を忘れて驚愕している。リング上のいる世界最高位の魔法使いであるルイズ=イザナヴェ=カターノートでさえも。この状況を把握出来ているのはアリーナ全体で2名しか居なかった。同じ術式を使えるアーサー=イザナヴェ=カターノートと、プリュ―ナグと同じく、ドラゴニックコアを持つサイ=オーのみ。

 だが、伝説級の魔法術式を使ってみせたリング上の魔法使いとその従者が繰り広げていた会話は非常にレベルの低い内容だった。


「あ、あのぉ……ピィちゃん、ボクの、ボクの胸……」


『おう、良かったでお嬢! や、なくて攻撃やで、今がチャンスやで』


「さ、さわった、の?」


『いんや、触っとらんで』


「ほ、ほんと? よ、良かったぁ……ボクてっきり」


『心のチン○ンで突ついただけや』


「なおのことダメだよぉ!」


 ビキッ! 


『うおぉぉ! マジかお嬢!? ヒビがっ、アイスファルシオンにヒビが入ったでぇぇこれオリハルコンちゃうのぉ!?』


「ひっく、ピィちゃんのぉぉぉぉ……」


『うそぉぉ!?』


 竜魔融合術式とは、中位霊子体であるドラゴンの防御結界と魔力を相乗倍にして主人の力に上乗せする特殊術式である。故に、それはあくまで霊子体より劣る核を持つ、人間の魔法使いの”魔法因子”強化にほかならない。だが、シャルロットが剣を砕ける勢いで握りしめ、振り上げ、叫んだとともに放出したのは武装気ブソウオーラ、青の防御結界と交じり合って紫と化した常軌を逸した爆炎のオーラだった。


「80倍……氷斬撃魔人剣アイシクルアサルトスパーダ


 恥辱の涙を流すシャルロットが呟くと同時だった。彼女が掲げるアイスファルシオンに冷気がまとわりつき巨大な氷の剣となる――その長さ実に20メートル。そして彼女はアリーナ観客席を貫いて天に届かんばかりの氷山と化した剣を持ったまま上空に飛び上がった。


ピィちゃんのぉ……ケダモノぉぉ!」


『ぎゃぁぁぁぁ!』


 そして巨大な氷山となったアイスファルシオンを上空からリングに叩き着ける。


「……は?」


 呆然とするルイズの喉から漏れた言葉と、爆音と共にリングに大穴が空いたのは全くの同時だった。観客が静まり返る中、ルイズは四散した瓦礫片をかき分けてゆっくり穴に近づいて行く。


「あ、穴の底が……見えないし」


 ペタンと尻餅をついた。腰が抜けて、もう立てそうにない。こんな事をしでかした対戦相手に視線を移してみると、彼女は爆砕して粉々になったリングの片隅で泣きわめいている。


「ひっく……ひっく男の子にオッパイ触られたよぉ……触られちゃったよぉ」


 わんわん泣き叫ぶシャルロットを見てルイズは溜息をこぼす。


「な、何なの、何なのこの娘……」


 ちょっと涙目になりながら観客席を見た。


「……あれ? サイ……」


 それはあまり見せない弟の笑顔。


「あの娘を見て……笑ってる?」


 ふぅ……再び溜息を一つ、でもさっきと違うのは。


(まぁ良いか……アイツが笑ってるんなら)


 グッと涙を堪えてそう思い、ルイズは審判に降参の合図を出した。



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