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【完結】Code:ルナティック=アンブラ 不死身の魔剣士とプレイヤーの苦難  作者: ゆーくんまん
第4章 導きのストレーガ

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第7話 魔女は別れを決意する

この物語はL75年

創世記と呼ぶ時代が舞台となっております。

 月読命ツクヨミ 秋影アキカゲという少年は、あれから狩りに出る度にワタシの居る丘に来るようになった。

 ワタシは自分の役目を知っていたので、他者との関わりは避けるべきだと思っていたのだが、いつの間には彼が来るのを待つようになっていた。


「イザナミさんは何でここに住んでるんですか?」


「な~いしょ」


 秋景少年はここに来る度に、村ので起きた出来事や、噂話を話してくれた。

 彼の村にある伝説、裏山にある天の岩戸というほこらに天女が住んでいるとか、その近くの河には8つの頭を持つ龍が住んでいるとか、いかにも伝説らしい戯言であったが、ワタシは秋影の話を聞くのが大好きだった。


(この世界が出来て、せいぜい50年そこそこなのにね)


 伝説って、そんな事有り得ないのにね。

 人間というものはつくづく娯楽に飢えた生き物なんだなぁ……アタシは自分の心臓に手を当てて思う。


(でもワタシは人間じゃない……)


 ワタシが関わるときっとこの子を不幸にしてしまうかもしれない。

 そうは思ってもワタシは秋影に、もうここには来るな。そう言おうと思っていた。

 でも……言えなかった。



 ――3年後。



「御子様がご祈祷したらね? 母様の病気が治ったんだよ? 僕ビックリして……卑弥呼様は神の使いって呼ばれてるんだ」


 今日の話題は彼の村の祈祷師の話だった。

 まじない師の類だろうが正直眉唾だ。

 あの村からはワタシの様に特殊な「力」は感じ取れない。そういう如何わしい者でも無理やり信じ、頼っていかないと生きていかなければいけないのが人間だ。ワタシの様に全て思い通りに出来る人間ばかりではないのだから。人の生命は短く、儚く、そしてそれ故美しい。


「良かったね。お母様が元気になって」


「う……うん! 父様はちょっと怖いけど。母様は凄く優しいんだ?」


 彼の笑顔は見ていて飽きない……この子が3歳の時、不意に目に止まっただけ。ワタシと違って美しい輝く「人間」の人生を送っている男の子――それ故、不死で朽ちないこの身は醜く汚い。だからずっと独りで皇が現れるのを待とうと決めたはず。


 ワタシには重要な使命がある。皇に知識を与え、導く使命が。きっとその時が来れば人類全てを武器にして、奴ら・・を迎え打たなければならない。他人に情を持ってはいけない。きっと自身も辛

 い思いしてしまうだろうから。


 周囲の風に身を委ねる――その頃から、丘に住んでいた動物達が、少なくなってきたような気がした。




 ――それからまた3年の歳月が経ち、秋影は14歳になっていた。


 相変わら彼は、狩りに出る度にワタシの居る丘に毎週来てくれる。だからこの子はいつも弓矢を持ってワタシに逢いに来る。最近亡くなった父親の形見だそうだ。


「イザナミって苗字でしょ? 名前はないの?」


「う~ん……考えた事も無かったなぁ」


 ワタシは年を取らない。

 人間では無いのだから、そんなものは必要ない。そう思っていた。

 彼は何か考え込んでいたが、その横顔が可愛くて、ワタシは久しぶりに笑った。

 最近動物達をあまり見なくなった。



 ――更に2年が経ち、とうとうこの丘で生きているのはワタシだけになった。


(やっぱり……ワタシは人間ではない)


 丘にあった緑は無くなり、動物達を1匹も見なくなった。

 これはワタシに備わった能力「生命の木クリフォト」――後の世に特型武装気と呼ばれるこの力は、大木の根のように無意識下に吸い続ける。ワタシは他の生物の生命核を吸い取り、自分のものとして生きている。故に年を取らない。

 知ってはいたけど、自覚したくはなかった。自分が化け物だと。

 今度ここに秋影が来たら、ちゃんと言おう。


 もうここには来るな……と。



 数日後――いつものように彼が、寂しい風景となったワタシの丘に顔を出した。

 この頃には秋影は、16歳の青年になっていた。

 彼はいつもと同じように、弓と荷物を背中に抱え、ワタシに笑顔を向けてくれる。

 彼の眩しい笑顔を見ながら、ワタシは意を決して言葉を告げる。


「秋影……もうここには――」


「イザナミさん。今日はこんなものを持ってきました」


 それは美しいフィラメント糸が優しい輝きを放つ、絹の衣だった。


「浴衣とか着物とかって……俺の村では言います」


「……綺麗ね……どうしたの? それ」


 確か白の衣は、この子の村では結婚の時に男性が女性に渡すもの。

 そうか……結婚するんだ。今日はきっとお別れを言いに来たんだね。良かった……ワタシから別れを言い出すのが辛かったから、正直少しホッとしていた。


「蚕の調子がずっと悪くて……織るのに2年掛かっちゃって」


「そう……なんだ」


 でも何だろうこの気持は……この子がもうここには来なくなる……本当になんだろう。この胸の痛みは……

 ワタシは彼に背を向けた。


「な、名前!――あげます。 が貴方に」


 え? ワタシは背中越しに聞こえてきた、彼の言葉に心臓が止まりそうになった。

 何を言ってるの? アナタは……

 秋影が、ワタシのすぐ後ろまで歩み寄ってきたのを背中越しに感じる。


「絹の衣……ずっとイザナミさんが着たら……似合うと思ってたんです」


 振り返ったワタシは、彼の持つ衣に目をやった。

 その白い衣には、ワタシの髪の色に合わせた黒と朱のラインが入っていた。

 彼のオッドアイと同じ――朱黒の色彩が。


「そう思ってから……気付いたら2年も経っちゃって……」


 ワタシはどんな顔をしたらいいか解らなかった。それになんて言えば良いのか解らなかった。


「絹の生地は機織り機で、綾織りで織るんです……」


 男のクセにって、また友達にバカにされました。

 そう言って彼は少し恥ずかしそうに笑った。まさか自分で織ったの? もしかしてワタシの為に……


「そして親父の形見の弓と……俺の宝物の中から貴方に名前を送りたい」


 そ、そんな……ワタシはアナタにお別れをしなくちゃ……


綾乃・・――」


 彼のくれた名は「綾乃」伊邪那美 綾乃……


「……受け取ってくれませんか?」


 化け物のワタシには涙が出なかったが……彼のその言葉に、胸が締め付けられ、上手く言葉が出なかった。


 綾乃さん……


「ここの景色は哀しいよ」


 周囲の景色を見た後、秋影はワタシに衣を手渡してくれた。

 ワタシ……人間じゃないんだよ? 化け物なんだよ? ワタシはきっと、アナタを不幸にしちゃうんだよ?


「俺達の村で……」


 一緒に住みませんか。


 いつの間に……こんな顔が出来るようになったの? あの小さかった男の子が。

 ワタシはずっと同じ姿……ずっと同じ景色を見ながら生きているのに。ずっと……ずっと変わらずに……それが一番良いと思っているのに。


 緋色の瞳は、アタシを真っ直ぐに見ている。


 アナタの言葉に……ワタシは黙って頷いていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 綾乃さんの心のゆらぎがよく伝わってきました。悲劇を予想させるような暗示的な雰囲気と語り口がとても心惹きつけるところでした。思いが何か貫くような場面でしたが、手放しで喜べないところが切ないで…
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