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【完結】Code:ルナティック=アンブラ 不死身の魔剣士とプレイヤーの苦難  作者: ゆーくんまん
第3章 金色のオーバーロード

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第12話 追憶編~ 黒竜と偽りのフーガ


 102年前の俺は、亡くしてしまった小さな恋人――マリィを生き返らせる為、ある魔薬の調合法を求めて旅をしていた。


 金はいくらあっても損ではない。

 高額な魔人のハントを生業としながら、傭兵王国ゼノンに逃げ込んだと言われている魔人カムイを追い詰める。


 そいつはかなり知恵のある奴で、この国の状況と、どんな薬でも調合出来るという、不死を研究している一族がアテンヌ王国にいることを教えてくれた。


 そいつはもう一つ気になる事を言った。

 人間の使う武装気ブソウオーラには極稀に《特型》と呼ばれる神に選ばれた唯一無二の能力を持った者が存在する。


 ここの国の姫マリア=アウローラは、その特型武装気の能力者なのだという。正直それを聞いた時は「あぁそう」としか思わなかった。


 必要なのは、そんなことじゃぁ無かったからだ。

 だから俺はその魔人に言った。


「死人を蘇らすという死者の書を見つけてこい」


 死霊使いの魔人が持つと言われている《死者の書》

 それを探しだして持って来いと伝えた。

 そうしたら見逃してやる。


 相当脅してやったからか、そいつは数週間で連絡をよこした。

 

 手に入れたと。

 だがそいつは待ち合わせの場所に現れなかった。

 この国に帰って来たことはディの索敵で解っていたので逃げたとは考えづらい。


 まさか天使に食われていたとはな。

 どの道殺すつもりではあったが、正直胸糞悪い気分になった。俺は魔人と一緒に心も殺していた。


 他人と関わらないように、これ以上俺に関わって、どっかの誰かが死なないように。


 だが驚くことにそんな俺にしつこく声を掛けてきた女がいた。


 ソイツはマリア=アウローラ。


 マリィに瓜二つなその女を俺は即座に突き放した。

 俺に関わってまたこの少女が死んだら?

 考えたくもなかった。

 だから逃げた。

 関わりたくなかった


 だが俺は結果的にそいつと関わった。

 何故かって?


 そいつが俺より強かったからだ。



 目が覚めた俺は噴水の前にいた。

 夜の公園は人が少なかったが、それでも目立った。

 この子供の鳴き声によって……


「ふぇぇぇええ良かったよぉォォお」


「ええと…どうしたものか」


 俺が目を覚まして随分経ったのだが、この娘はずっと座り込んで泣いていた。


 ちらほら居る通行人が何事かと視線を向けながら過ぎ去っていく。正直俺が幼女を泣かせてるみたいに見えるが。感情の乏しい俺には気にもならない事だが、このガキンチョに泣かれるのは何故が嫌な気持ちになる。


「マリアもう怖くないから……な?」


「だってだってぇぇぇぇえ」


 何がそんなに悲しいんだ。

 悲しみを持たない俺は、彼女が何で泣いて解らず嘆息する。


 いや……理解はしていたんだ。

 そう思いたくなかっただけだろう。


「ほれガキンチョ、オンブしてやるから」


「ふえぇぇぇぇぇえぇえ!?」


 俺の背中にヒョイっと担がれたマリアは泣き止んだ。

 恥ずかしくて死にそう、そんな顔だ。


「ありがとうな……マリア」


「え?」


「俺を助けてくれて」


 背中の少女にそう伝えた。

 わかっていたんだ。コイツがいなければ帰ってこれなかったであろう事は。感謝していたんだ。おれはコイツに。


 だから。


 彼女をオンブしたまま、夜の公園を出ようとする。

 正直公園よりもこの王都から離れた方がいい。


 あの天使の力は異質だ。

 まともにやりあえば負ける。


 そんな切替えの早い俺とは対象的に、彼女は恥じらいにより泣き止んだが、何かを思い出したかのように驚いた顔で呆然としていた。


「どうした?」


「う、ううん……何でもない」


 彼女は頭を振って俺の質問に答える。

 何でもない顔じゃなかったが、まぁ良い。

 俺はこの娘に伝えなければいけない。


「マリア、アイツには――」


 ――ヴァチ! 


 瞬時に反応した俺は、こちら目掛けて発せられた気弾。

 オーラで出来た弾丸を弾き飛ばした。

 弾かれた気弾は夜空へ方向を変え消えていく。


 油断していたマリアは気付いていなかった。

 周囲の気配を探る。


錆びた釘ラスティネイルか……」


「ティアちゃん……楓さんも」


 気弾の放たれた先――公園入口付近の木陰から2名は近づいてくる。


 今のはうわさに聞く狙撃用気技オーラスキル

 狙弾武装気マグニファイア……俺達を追ってきたと思うのが無難だ。


 そして既に囲まれていると考えていい。

 俺は索敵武装気アスディックを既に展開している。


(上位傭兵級が5人――)


「……何でティアちゃんが」


「マリア離れなさい。その男はギルドから指名手配されています」


 投降しなさい。

 背中に居るマリアの友達らしい女は言ったが、今の気弾には殺気があった。


 そして指名手配されている筈がない。


 俺は全て偽名で通している上、住民権すら無い人間。そしてこの国には空から入国した。


 ハッキリ言ってその言葉は信じるに値しない。


 理由は解らんが天使バラキエルは上位傭兵を動かせる程の力を持っているという事か。


 どうする?俺はマリアを背中から下ろした。


「その男は魔人よ……マリア騙されないでこっちへ来なさい」


 ティアと呼ばれるその女は一定の距離を取って俺の横にいるマリアに話しかけている。そうきたか。さて、どうしたものだこの状況。


「そんな筈ない。私には見えるもの・・・・・!」


「その男のチャクラは解らなかったって言ってたじゃない!」


 何の事かは解らなかったがピンチには違いない。

 しかし錆びた釘ラスティネイル級が5人――街中では魔法は使いづらい上、飛んで逃げようにも2人では速度が出ない。


 確実に他に隠れている3名から狙撃されてしまう。

 正面、楓と呼ばれた女は武装気ブソウオーラを纏い構えをとった。


「マリア姫、このままでは貴方も拘束する事になります」


「師匠、待って下さい。アタシが説得します」


 楓と呼ばれた女にティアが止めに入っている。

 師匠らしいあの女は例の地下にいた。

 既に天使の術中だと考えた方がいい。

 楓は止めようとするティアを手で制した。


「マリア姫、いくら貴方でも錆びた釘ラスティネイル数人の相手は無理ですよ」


 武装気ブソウオーラを解きなさい。

 俺はその言葉に後方のマリアに振り返る。

 彼女は黄金の霧を放っていた。

 やる気か? 見ず知らずの俺の為にとは全く――やれやれ。


 俺の意志は決まった。


「楓さんは間違ってる……あの地下――ムグッ」


 俺はマリアの口を手で塞ぎ、体を羽交い締めにした。


「俺が魔人……か。よく調べたじゃないか」


 動くなよ?――動けば姫を殺す。

 俺は口調を変えて前方の女2名を見据えた。


「ムググン?」


 俺は魔力を開放した。

 周囲に青緑の粒子が立ち上り魔を演出する。

 マリアはモゴモゴ言っているが、俺は全武装気を使って渾身の力で拘束する。何せ凄い力だ。


「革命に邪魔な天涯覇王を懐柔するつもりだったが」


 バレては仕方無いな。

 この言葉にマリアは口を抑えられながら目を見開いた。


「この女と引き換えに俺を見逃せ」


錆びた釘ラスティネイルから逃げられると思ってるの――下郎め!」


 良い友だちのようだ。

 ティアとか言う娘はマリアの為に怒っている。

 それならやはり、俺の為にこの娘を危険に晒すわけにはいけない。


 俺は独りだ。

 俺の為に泣く奴はいないのだから。

 だが君は違う。


 俺はマリアを2人の方へ突き飛ばした。

 ティアは突き飛ばされた親友を抱きかかえるが、直ぐ様マリアは俺に向き直り叫ぶ。


「う、嘘だよね! 竜の騎士さんがそんな事……しないよね」


「天使と繋がり暗躍していたのは俺さ。明日を楽しみにしていろ。ここは火の海になる」


「嘘だよ! 貴方は私を助けてくれたじゃない!」


 ティアが静止しているがマリアは諦めない。

 俺は苦しい嘘を続ける。


「じゃあ何で俺はあの天使の名前を知っていた?おかしいと思わないか」


 マリアの顔が蒼白に変わる。

 カムイ。俺は天使のことをそう呼んだ。

 神の意をかるものの名。


「革命とは主張が織りなす芸術。お前は殺し損ねたがな」


「そ、そんな、貴方はそんな人じゃ……私の」


「関係ない人間が何人死のうと、俺の知ったことじゃない」


 俺の言葉にマリアは俯く。

 口が動いていたが何を言っているのかは分からなかった。


「貴方の背中を感じた時、確信したのに……夢に出てくるあの人だって思ったのに」


「何を言っている」


「そんな人とは思わなかった!」


 その顔で言われるのは辛いな。

 だがこれで、そこの楓という錆びた釘ラスティネイルからは、この女は無関係だと思わせることが出来るかもしれない。


 マリアから俺に注意を逸らさなければいけなかった。


「そうかい。何を言ってるか解らんが、馬鹿な女だ」


 マリア、お前は強いが隙が多い。

 お前なら独りでも天使に食って掛かるかもしれない。

 それはさせない。

 その顔――マリィに似た君を二度と俺の前で死なせたりはしない。


 俺は圧縮魔法を解凍した


『Lv2爆裂ブラストフレア!』


 ドガッン!――マリアをかすめるように爆発の魔法を放ち、俺は巻き起こる砂埃に紛れて上空へ飛翔した。


 マリアは防御したか?

 上手く躱してくれたらいいが。


「チッ!」


 地上から無数の気弾が放たれ、それを躱しながら必至に逃げる。


 この気弾の数は――5人じゃなかった。

 探知できなかったが8人居たのか。

 マズイぞこれは、錆びた釘ラスティネイル全員が天使の術中にハマッているのかもしれん。


 ティアは気を失ったマリアを抱きかかえながら、空を逃げ去るユウィンを見上げる。


「アイツ呪文を詠唱しなかった。やはり魔人か」


 それを彼女の腕で聞いていたマリアは声を殺すように泣いていた。


 彼女は爆発の魔法を防御しておらず、腕からは出血があり抑えている。最後まで、竜の騎士を信じていたかったのだ。



 戦女神は自分に寄り添ってくれる――


 黒い竜星を見つけました。


 しかし少女は自分の気持ちを必至に抑えます。


 自分の周りにいる多くの星を救う事を決意しました。


 しかしそれでも天の怒りは収まらず


 2人に8つの試練を与えました。


 それを知った竜の騎士は


 彼女の知らないうちに


 その8つの試練に独りで挑み


 少女の前から姿を消そうと決意しました。


 騎士は自分の暗黒の力が


 少女を傷つけてしまった。


 そう思ったのです。





 ゼノン王都から5キロは離れただろうか、俺は岩場に身を潜めていた。


 胴体から出血がある、あまりの数に躱し切れなかった。


「っ……3発貰ったか」


『マスター動かないで下さい……今回復を』


 実体化したディが俺の負傷した腹部に癒しの魔法を掛けてくれている。主人に似て無表情でクールな奴だ。


 痛い……イテぇな全く。


「今日は何て日だ。助けて殴られるは撃たれるは……』


『痛いのは心もですね……マスター』


 何言ってんだディの奴、俺にそんな感情が残ってるわけ無いだろうに。


「あの天使……明日の10時と言ったな」


『はいマスター』


 腹部を回復させながらディは答える。どことなくいつもより悲しそうに見えた。


「天使の防御結界は並の魔法言語では抜けない……そうだな」


『厳密には多断層の防御結界です。抜いてもまた新しい結界に阻まれます』


「そして神気、あの歌を何とかしなければ勝てない」


『あの歌も結界の一部です。アヤノ様の得意とする能力、”解除バックドア”を行使して一枚ずつ剥がしていくかです。しかしマスターの場合……』


「一度に結界全てを破壊する出力で倒すか……だな」


 ディは主人と同じ意見のようだ。

 しかし不安もあるらしい。


『マスターあの術式はまだ未完成です……危険では』


『明日までに仕上げる、手伝ってくれ』


『勿論ですがディは融合術式は少々……』


 何故かディが俯いている。黄金の角が赤くなった。何故だ? まぁ解らんことは良いとしても流石竜王、貫通した体の傷がもう治った。


「いつも助かるディ


『当然です……これ位』


「出来ればマリアを動けないようにしたかったが……」


『あの娘なら独りで天使に突っかかって行きそうですね』


 しかし大丈夫の様です。

 反応が城の方に移動しております。

 ディの広範囲索敵より俺は安堵の溜息を付いた。

 マリアは一時帰宅したようだ。


 遠くに見えるゼノン王都を見据える。奴の神気が創りだした幻術を思い出していた。死んだ恋人マリィの幻想と、俺の弱い心――久々に思い出させてくれた……この淡い復讐心を胸に刻む。


(お前は俺のマリィを侮辱した……)


 償わせてやるぞ――天使様よ。


 そして天涯覇王マリア=アウローラ。

 俺が守るまでもない強い女。だが大空に輝く天涯――誰よりも強く優しい孤独な星に生まれた君だ。きっと周りの人間は君のその力に嫉妬しただろう。彼女は寂しくは無かったのだろうか。俺はそんな君に寄り添ってやりたかったのだろう、きっと孤独な君も俺に寄り添いたかったであろう。


 だが、光り輝く星を目指した哀れな黒竜は――女神から差し出された手を目の前に思ってしまった。


 やっとの思いで星に辿り着いた黒竜は思ってしまった。


 きっと俺の黒い体は、キミの輝きを消してしまうだろう。


 それは駄目だ。

 それだけはやってはいけない

 汚してはいけない。


 だからせめて君の光が届かない影を守ろう。

 君の見えない背中を守ろう


 空にはまだ沢山の輝ける星があるのだから。

 そう思った俺は、彼女の前から姿を消そうと決意したんだ。



 一冊の絵本『戦女神と竜の騎士』


 その本の最後だけは――俺は今も知らない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この時代のユウィンが男前で、男しては頷けるものがありつつ、マリアの視点からは少々寂しいような。悔いの残りそうな、そんな暗示的な雰囲気も醸し出されて、味わい深かったです。敵の厄介さも相まって…
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