第33話 醜い夢《前編》
メア=アウローラ&タイタロス VS 黄金シャルロット on 王都上空
〜Reach at the moon〜
「黄金横薙!」
「うぇあ!」
――――ゴガンッ゙!
人の拳と金属が激突した――とは、到底思えない音が響き渡る。
黄金の力場が二人を空中へと押し上げ、トロンリネージュ王都に突風が巻き起こっていた。攻撃が交差するだけでハリケーンが発生し、拳が衝突しようものなら大地を揺るがせ、地割れが発生してもおかしくない超越者達の戦闘――しかし、地上の都は無傷である。
シャルロットが張り巡らせた武装結界の効果。
盾と放出気――二種類の特型武装気を同時に展開させた、王都を守る黄金色の障壁。
「くぅ…っ」
『痛そうだね、大丈夫かな?』
「んんんん大丈夫っ!」
『そ? じゃあ次行くよぉ』
「なんのこのぉ!」
全長20mからなるタイタロスの拳と蹴りを黄金の火花を散らしながら避け――シャルロットの右手に炎が上がる。
「初弾装填!」
『スゴいスゴいっ気が跳ね上がっていくねっ』
「乗倍率強化弾!」
『自滅因子充填!』
ズィドンッ゙!
二人の肘から爆炎が上がり――黄金が加速する。
「黄金桜魔人拳!」
「黄金滅鯨崩拳!」
ゴガンッ゙!
激突する拳と拳――しかしその質量差は象と子猫の差である。
シャルロットの幼い容姿が歪む。
『そんなんじゃ!』
「くぅぅぅぅぅ」
『誰も、何も、護れないよシャルロット!』
「まだ、まだぁぁあ!」
『みせてよメアに――君の黄金を!』
燃える黄金色――その瞳に信念を宿して。
「次弾装填ぉあ!」
『!?』
ドッ゙――――――
タイタロスの巨大な拳が後方に弾き飛ばされた――駆動関節が悲鳴を上げる。
「押し切った……? やっぱり君は最高だ」
が、プログラムされた戦闘経験からメアは、その反動を利用してタイタロスを回転させ蹴りを放った――魔法学園の学舎もあろうかという質量が迫る。
「これなら?」
「てぃやぁ!」
渾身の蹴りで弾き返す――その衝撃で大気が震えた。圧迫された鼓膜を鼻をつまんで張り直しつつ……シャルロットは捲れそうになったスカートを忙しなく抑える。
「わ、わわわわわ貴族の女の子が足を開いて……ハシタナかったかな」
『貴族……?』
一番上の姉の、怒り狂った顔が思い出される。
しかし今、そんな事を考えてる場合じゃないと両手で頬を叩いてタイタロス(メア)に視線を戻すが。
『うーん』
「メアちゃん?」
『ちょっとお話しよう、シャルロット』
「うえ? いぃ…けど」
『ありがとね』
空中であぐらをかいたタイタロスが手招きする。
反対の手と指で丁寧に、ひと一人が丁度座れる程度の椅子を作ってくれたものだから、少女は怪訝に思いながらも、おずおずと素直に腰掛けてしまう。
「何の…話?」
『うん、えっとね』
「さっきの…話の続き?」
シャルロットの顔に影が差す。
しかしメアから放たれた内容は。
「シャルロットって…良い所のお嬢様なの?」
目を丸くする。
一瞬フリーズしながらも考える。
屋敷が倒壊してから城に間借りしていたが、確かに自分は爵位を持った貴族の娘の筈だ。
「最近忘れてたけど……そぉだよ」
「そっか、なら御挨拶しなきゃね」
「えあ、うん」
「コンチハゴキゲンヨウ、シャルロットの友達のメア=アウローラと良いマス」
おそらくは此処に来る前に一夜漬けで覚えたのであろう。コクピットの中で、おぼつかない仕草で丁寧な挨拶を試みるメアに、シャルロットの頬が緩んだ。
「うん…じゃなかった。ボク…私はシャルロット=デイオールです。えっと…改めて宜しくメアちゃん」
『うん宜しく、教えてもらったんだ?』
「誰に?」
『一つ上のお姉ちゃんに……一番弱くてね。でも、一番優しかったんだ』
「ボクのお姉様も、二人共凄く優しかったよ」
『シャルロットも?』
「うん、お姉様が二人いた」
『そっか』
二人の間に少しの沈黙。
今出てきた3人の姉は、既に此の世には居ないのだから。
『お兄ちゃん達はね…メア達とはタイプが違うからか……話が合わなかったなぁ』
「お兄様もいるの?」
『シャルロットには居ない?』
「いないなぁ…ほしかったけど」
『シャルロットの先生みたいな人だったら良かったのに』
「ユウィン先生みたいな?」
『ぶっきらぼうだけど、優しそうだよね』
「そ、そうなんだよっ先生ぇってそうなの」
『だよねっ』
「うんうんうん」
「あの人、王様と似てるんだよね」
「王様って…前メアちゃんが好きだって言ってた?」
「うん」
「そうなんだ」
「あんな人がお兄ちゃんだったら幸せだったろうなぁ」
「先生ぇが……お、お兄ちゃん…?」
夢のある話である。
脳内でピンク色の妄想が浮かび、思わず少女は鼻を抑える。
「勉強教えてもらってさぁ…でもメア、馬鹿だから怒られちゃったりして」
「ユウィン…お兄ちゃんは怒ったりしないもん」
「そうなの? とっても優しいんだね」
「そうなの、すっごい優しいんだから」
「じゃあ一緒にご飯作ったりして」
「ユウィンお兄ちゃんは、何でも出来るんだからっ」
「お喋りしながらお掃除したり」
「お、お掃除の途中で、ちょっと指が触れちゃったりしてね…あわわ」
『可愛いなぁシャルロットは、でもお掃除したら汚れちゃうから』
「うんうんうん」
「お風呂入ったり」
「何で!?」
『身体洗っこしたり』
「絶対ダメだよぉ!?」
黄金の力場が傾いた。
『ダメ…なの?』
不思議そうに小首を傾げる。
「先生ぇと…お、お風呂」
『シャルロットも大きいし、洗ってもらった方が…』
「何の話!?」
『おっぱ…』
「やめてやめて鼻血が出そう!」
『んー?』
不思議そうに小首を傾げるメアであるが、シャルロットの嬉しそうな恥ずかしそうな顔を見て、微笑んだ。その後、目を伏せる。
(シャルロットは本当に、本当に……可愛いな)
少し、お姉ちゃんをやってみたかった。
そして思う、やっぱり自分は醜いと。
姉妹の中で最高の力をもって生まれ、最高傑作であるタイタロスを与えられ、産まれた目的の為に今日死ねると言うのに。
心半ばに死んでいった、処分されていった兄や姉達とは違い。自分は完全体として生を受けたはずなのに。
(メアは……この時間が楽しくて仕方がない)
好きな人の話をしよう。
全力で喧嘩をしよう。
そして、その両方を受け止めてくれる相手が現れた。
(やっぱりメアは……醜いなぁ)
自分だけ、こんな幸せを貰っていい筈がないのに。
(王様……カゲオウ様……)
薬によって失われていた記憶がどんどん甦る。
こんなに夢が叶ってしまったのだ。
自分は、これ以上望んで良い訳が無い。
(王様と、一緒に…メアは)
どんどん溢れる記憶と、この今の幸せな気持ち、願いを押し殺す。目を閉じて、胸を抑えて押し殺して耐える。自分は、もう取り返しの付かない事をしてしまった後なのだから。だから言おう――友達に。
「シャルロット」
「ん……メアちゃん?」
背丈の割に大人びた顔。
シャルロットが少し驚いたように聞き返すと、友達はニコリと笑う。そして、もう一度、ぎこちない仕草で頭を下げてみせた。
『今日だけで良いですから、仲良くして下さい』
知っている顔だった。
自分にもあったから。
一週間しかない日記帳を買った時の事が思い出される。
ゾッとした。
本当にこの子には、今日しかないのだという絶望が伝わって来たからだ――オーラを通じて。
『メアの持ってる……全部を見せるから』
「待ってメアちゃ――っ」
止められないのだ。
自分は諦めるしかないのだ。
だって、自分は、これ以上、あの人に醜いと思われたく無いのだから。
『さようなら…王様』
メアの因子核が音をたてて――砕ける。
王都に張り巡らせた術式が炎を上げた。
アンリエッタにより接続が切断され増幅量が減少していても、セシリアに横槍によって絶対量の半分程度に減少していても。
この地下には、百年以上を掛けて吸収し、増幅し続けた、呪いの因子と魔法粒子が存在する。ソレはタイタロスの魔核融合炉で膨大な《黒》となって変換される――神をも殺す力に。
『神呪刻印……開放』
メアの金色が黒く、真っ黒なオーラに染まっていった。
ソレはどんどんと拡大していき、空を飲み込み、大気圏を突破して夜を侵食していく。
『黒くて醜いよね…ゴメンねシャルロット』
「メアちゃん」
世界と、月の間にある暗黒の宇宙空間にまで届く放出気。
『これがメアの、刻印開放』
特型武装気――《黒夢覇王》
『シャルロット、もう一度言うね』
「メアちゃんダメだ……その力はっ」
呪いという名のバグ。
強化されたウイルスの集合体。
プログラムエラーを逆手に取ったアンチ天照であり、本来は異世界から地球へ帰還する為の力を反転させ、月をルナリスに引きずり降ろす為だけに組まれた術式――神呪刻印。
しかしこれは、計画通りの結果ではない。
アンリエッタとセシリアの妨害により、第一級権限の天照が発動不可能となったからだ。
だがしかし、ルナティック=アンブラを破壊出来る前提で造られたタイタロスの強さは未だ健在であり、アマテラスが発動しなかったにしろ、そのプログラムは健在の為に行き場を無くした増殖バグは暴走し、闇となって侵食し出したのだ……月へと。
「何て出力の放出気……このままじゃ…」
タイタロスのあまりの出力に、周囲の投影空間までもが剥がれ落ちて闇色に染まっていく。
「これが…メアちゃんの願い?」
――違う。
『力を乗倍率に加算出来る黄金武装気でも、人の肉体を超えて力を振るう事は出来ない』
その言葉は、少女の最後の願いのようにも見えた。
「メアちゃんには…ないの?」
幸せな思い出が――伝えたい言葉がある。
『だからこの鎧がいるの……タイタロスは増幅した力を、そのまま受け止める事の出来る兵器』
漆黒のオーラが収束していく。
シャルロットは自分の後方を確認する――この位置では王都の街が。
『いくら君が特別でも、生身では限界があるんだよ』
「ボクは諦めない……絶対に」
背中に輝く黄金の翼を閉じる――全開防御。
「黄金武装気全開!」
「滅黒神呪砲撃!」
――――――スドァッ゙!
シャルロット渾身の防御を貫通し、王都の四分の一が消滅してしまった。
「街が……くぅぅぅっ」
『もぅ戻れない』
「くっ、あぁぁ!」
背後に回っていたタイタロスがシャルロットの片翼をちぎり飛ばした。
『もぅ戻れる訳が無い……こんなに悪くて醜いメアを』
「ま、前も言ったでしょメアちゃん!!!」
『誰が愛してくれるんだよぉぉ!?』
「愛して……? ――くぁっ!」
今迄、拮抗していた黄金と暗黒の力場が崩れ始めた。
「二十乗倍率弾装填!」
『無駄だよシャルロットもぅ無理だ』
渾身の力を溜めて――放つ。
「抑圧された黄金の拳!」
『こうするしか無いんだよぉ!!!』
「――――っ」
シャルロット渾身の拳圧は弾き飛ばされ――視界が暗黒にのまれた。
◆◇◆◇
「体が動かん……なんや、これまでかいな」
お嬢は大丈夫やろか。
小さな竜人は嘆息した。
自分が心配してどうするのだ。
なんの役にも立てなかった自分が。
「お嬢……大丈夫やろか」
ソレでも口から出た言葉はこうだった。
此の世にはどうしようもない事が数多く存在する事を知っている。自分の生まれた境遇もそうだった。
胸に穴が空いたような虚脱感が少年を襲う。
「オラが心配した所で……お嬢はオラを必要とせんやろうなぁ」
しょうがないか。
役に立てなかったのだから。
この虚脱感と共に死ぬのも悪くないかもな。
『そんな事を思うのか……お前の中のシャルロット嬢は、小生の思う女性とは随分違うようだな』
風に紛れて空耳が聞こえた気がする。
竜人はもう一度嘆息して大の字に寝転んで天を見上げた――暗闇色の空を。
『おいプリューナグお前、そのまま寝てるつもりじゃないだろうな』
今度は空耳ではない気がする。
視線を流すと、ソコには見知った顔が立っていた。貧弱で痩せっぽちの、産まれた時から最後まで、魔力が無ければ、身体を動かせもしなかった小さな少年が。
「……ジキタリス」
『シャルロット嬢には、お前が必要だ』
「なにゆーとんねん何も出来んかったやないか……オラ達は』
『何かを成せる、成せないの話じゃないだろう』
「そりゃ自己満足の話やで」
『駄目なのか?』
「あぁん?」
そう言われてみればそうだ。
何で駄目なんだろうか。
自分はいつも、どうにもならない事に抗って生きてきたのではなかったか?
「そうやな悪いこっちゃないオラとした事が、忘れとったわ」
『だが、そう思えないのが妹だ』
「あん?」
アウローラという存在。
全力以上を出した自分とジキタリスの二人掛かりでも手も足も出なかった相手であり、親友を殺した相手でもある。
『小生の妹は、我々とは比べ物にならない程に、業を背負って生まれてきた』
「あの化物みたいに強いちびっ子がかぁ?…冗談やろ」
『99人の姉と、99人の兄……198人の失敗作の末に、最後に生み出されたのが100番……メア=アウローラだ』
「……そうかい。で?」
『そして、アイツも失敗作なんだ』
「なんやて?……あの強さでか」
『兵器には何が必要だと思う……強さか?数か?』
「いま、ナゾナゾで遊ぶ気にはならへんぞ」
『兵器に必要なのはシンプルさと従順さだ……しかしアウローラもオータイプも、何故か感情を持って生まれてきた』
「お前も……そうやったか」
『オレ達オータイプは…天使をベースに造られた為に他者に見返りを求めてしまう、そもそもがそういう存在だ。アウローラタイプは潜在的に、誰かを守ろうと考えてしまう……それによって精神を病んで、死んで逝った』
「馬鹿げた話やな、そもそも」
『そうだ。この兵器は根本から間違っているんだ……権限者の力を使って、神を殺そうと考えた女は執着し過ぎたんだ……ヴァルキュリアという存在に』
「だからアヤノねーちゃんには解ってたんやな……失敗するのが」
『あぁそうだ。アヤノ様は創成期にノアを盗み出した時に悟ったのだろう。この世界には円環を修正する……デバックシステムが存在する事を。そして、そのあくまで一部であるのが月の使徒……ルナティック=アンブラ』
「こんな事も言っとったな、自滅因子を止めるにはと」
『そうだ。自滅因子とは人の遺伝子の中にあるカルマ…メインユーザーがこの世界に持ち込んでしまった、NPCには存在しない、お互いにお互いを殺させる因子の力』
「メインユーザー……創造神が持ち込んだ?」
『それがバグの正体……デバックシステムでも修正出来ない自滅因子。そして今、この狂った世界の外……円環の外に存在出来ているのが、アンリエッタ皇女殿下とセシリア=ルシファー、そして我らの主……シャルロット嬢』
「お嬢が何やて?」
『これが、シャルロット嬢の元となった権限者……マリィが引いた黄金の道。そしてセシリア=ルシファーは……いや、今はそれよりも……』
「三度蘇ったとかいうアレの話やろ」
『そうだ、調子が出てきたじゃないかプリューナグ』
「やかましいわ、はよ喋れ」
『今のシャルロット嬢の潜在能力は、既にこの世界の理を超えた……バランスブレイカーとなっている』
「何やて? でもお前、お嬢は今……」
『本来、プレイヤーを守護する立場にあったマリィ……彼女はアヤノ様と違い、いつまでも現れないプレイヤーを恨まなかったんだ、何故だか解るか?』
「解るかいそんな事……それとお嬢となんの関係がある」
『知っていたんだマリィは…プレイヤーの現れる時期を。何故なら、彼女はメインユーザー《ヒメノ》が創り出した存在では無いのだから』
「よう解らんが……あの巨乳ねーちゃんが」
『そして、正確には三度ではない。彼女は…人皇が現れる迄の500年に、何度も何度も生まれ変わり続けている……世界に、自らの因子をばら撒きながら』
「まさか…その因子の集合体が」
『それが彼女の理想の姿…シャルロット=デイオール』
「それじゃあ……デバック何とかいう……」
『そうだ。システムが許す訳がない。だが、彼女は諦めなかった。《ヒメノ》自身の遺伝子を持つ、マリィという女は、900年にも廻り準備をしてきた……人皇を死なせない為に』
「しかし何でお前……まぁええ聞くわ」
『イザナミ=アヤノに始まり、マリィが広げた因子を殺す為にデバックシステムは修正を試みた。それがバグ、呪いという名のウイルス、その集合体が神呪刻印……メア=アウローラ』
「つまりはお嬢と、お前の妹は」
『対極な存在……そして、この闘いを仕掛けた元権限者のリィナ博士もまた、イザナミと対極となる女。つまりこの戦いは、プレイヤーが現れなかった900年にも渡る、人皇勢だけの闘い……後始末なんだよ』
「それで可哀想な妹……か」
『そして自滅因子を持ち込んだ、真なる敵との闘いだ……プリューナグ』
「なんや」
『メアを殺してやってくれ…アイツを救ってやってくれ』
「お前なぁ…ソレをオラに頼むんか親友よぉ…」
『あぁ小生が…オレが妹と一緒に行くから』
「そうか……今のお前は円環とやらの一部になった訳やな。呪いの一部に」
『妹の業は、兄であるオレが背負って消えてやるさ』
「損な役回りやなぁお前は……産まれた時から」
『それがオレの夢、母と父から受け継いだ渇望』
「しかしよぉ…あのちびっ子の夢はどうなるんや」
『メアの夢が叶うような事があれは……』
「……?」
『彼女達が抗い続けたこの世界は……本当は美しいのかもしれないな』
「ち…知ったような事を。死んだ奴は気楽なモンやぜ」
『ハハハ全くだな』
暗黒の世界に光が差した。
その光はプリューナグの身体から天に向かい柱となる。
『あとプリューナグ』
「なんやねん」
『自分の胸には穴が空いてるから無理。みたいな事を言うなよ』
「うっさいわ心を読むんやない!」
『お前には似合わないよ』
「そんな事よりどーすんねん。今更オラが加勢した所で、どうにもならんやろ」
『お前が宿ってるオリハルコンには秘められた能力が存在する』
「もぅ依代は粉々やぞ」
『お前もまた、シャルロット嬢の従者に選ばれた特別な存在』
光が差した先に見えるは現実の世界。
折れ、粉々に散らばった蒼色のオリハルコンの残骸。
『可哀想な妹が教えてくれた』
「何をや」
『シャルロット嬢の潜在能力を完全に引き出せる術を』
「あぁなるほどなぁ……そういう事かいな」
『集めるんだプリューナグ……アイスファルシオンを』
「竜使いが悪いのぉホンマ。お前と、権限者様はよぉ」
『あとプリューナグ』
「まだ何かあんのかい」
『もう、自分の胸には穴が空いてるから無理。みたいな事を言うなよ』
「やっかましいわぃ! ちょっとイジケてただけやろーがい」
『穴どころか、な』
自分の身体を見てみろ。
「こ、これ…は」
七色に輝く光の衣。
心が湧き立ち、力が溢れる。
小さな竜人は自身の頭の突起物を確認する。
「これが、上位進化」
『その水晶の一本角……クリスタルホーンは上位者の証。権限者の因子核に繋がれたお前は、そもそも特別な竜人なんだ……だから』
「なんやねん、また弄るんかいな」
『シャルロット様と、妹を頼むよ親友』
少年は蒼く輝く頭を掻いた。
恥ずかしそうに、どこか悲しそうに一度目を伏せるが。
「誰にゆーとんねん、やったるわいジキタリス! 貧弱なお前に変わってなぁ!」
そこには自分が昔から良く知る、親友の顔があった。
身体が弱く、毒の属性であった為に浮いていた痩せっぽちの幼い竜人に、執拗にちょっかいをかけてきた氷竜の少年。
『さぁ行こうプリューナグ……それが竜王属である我々の役目……』
いや、お前は既に違うな。
『今のお前は……神竜』
氷神竜プリューナグなのだから。
爆炎を上げる王都――その全ての炎が一瞬のうちに消え去った。そして都全体を覆うは、無残に撃ち抜かれた黄金の結界の上から更に覆われた氷の結界――輝き、烈光を放つ七色の氷である。
『アイツにもある筈なんだ……夢が』
「お前の妹か」
『心に押し込んでしまった儚い夢』
「醜い…とかゆーとったなぁ」
『あぁ』
「でもまぁ…長寿なオラ達にとっては違う見え方をするかもな」
『きっとアイツの願いは…』
「オラ達からしたら、しょーもない願いやろう」
『あぁ…そうだろう』
「でもそれは」
『きっと』
とても小さく……
とても美しいモノじゃないだろうか。




