第26話 その掌をRe
決戦の地で降る何か。
それは圧倒的な戦力差から来るものだった。
降っているものを簡単にいうとこうだ―――絶望。
今宵この時に圧倒的絶望的な夜が降る。
大げさに聞こえるかもしれないが、少なくともこいつ等にとって、それは現実であった。
「前言撤回や逃げぇお嬢…オラ達が時間を…稼ぐからよぉ」
「プリューナグ……情けない声を出すんじゃない」
「ジキタリスよぉ…そういうお前も尻尾が引けとるで。自分の状態見てから言えや」
夜が降り注いでいた――圧倒的で絶望的な夜が。
勇ましく、雄々しく羽ばたいていたドラゴン達の翼は折れ、鱗は剥げ、黒龍に至っては両手が惨たらしく千切れ、ぶら下がって揺れている。
「魔力を弾き装甲も傷一つ付かん……反則やなコイツは」
「この鎧は博士が造った最高傑作だよ。キミらがいくら頑張っても勝てるわけないのに……何で頑張るの? コレは神様を壊す為に創られたんだから頑張ってもしょうがないのに」
「まだだ、まだ死ぬわけにはいかない…時間を稼ぐんだ。無敵の兵器など存在しない何か弱点が…あるはずなんだ」
「あっ…でも勝手に起動させたらまずかったかなぁ……博士に怒られるかも」
「完全に舐められとるな、でもコレは確かに…しゃーないかもなぁ」
対ルナティック=アンブラを掲げ組み上げられた神殺しの鎧――月の使徒迎撃用外骨格兵装タイタロス。
ドラゴン達の質量を超える全長20mの巨大な人型兵器――その頭部には白髪の少女が座している。
少女の名はメア=アウローラ。
黄金の因子から培養されたクローン体である少女。
彼女は小さな体に付随した豊かな胸を張る。
「無いよ? 弱点なんて」
しかし言動と行動とは相反してその顔には全く愉悦などなく、むしろ悲痛に歪んでいるようにも見える。
まるで弱点があってほしいような、こんなモノに乗りたくなかったような。
「シャルロットさん一度此処から離れますよ!」
「セ、セドリック君……で、でも」
「早く!」
「でも、ボクが…ボクが何とかしないと」
「そんな震えた足で何が出来ると言うのです!」
ビクリと身を震わせる。
しかし恐怖とメアの膨大なオーラに触発された身体は思うように動かず、見かねたセドリックは力任せに手を引いた。
「シャルロットは此処にいてほしいな、メアの最後を見届けてほしいんだ…友達だもん」
二人に巨大な手が迫る。
「来るか――この巨体をどう攻める 」
「メ、メアちゃん」
「邪魔しないで欲しいな」
浮遊する辞典の自動演算をフルで起動させ術式を編み上げる――セドリックの内臓を見るも無惨に蝕みながら。
『倍速演算――思考加速』
「Lv4《絶対防御隔壁》!」
「魔法は効かないってば」
「知ってますよ!」
タイタロスの片足と地面の間に壁を出現させる。
「Lv3地脈隆起!」
それを一気に90度回転させた。
「うわっ――賢いね君」
「倒れろぉお!」
「でも残念」
瞬時に軸足を回転させ――
「こ、この巨体でこうまで素早い動きが!?」
「よっと」
そのままの勢いで蹴りを放つ。
超重量大質量の物体が高速で動いた事により周囲に衝撃波を発生させながら、ソレはセドリックに迫る。
「身体能力向上――!」
蹴りの衝撃で二人は吹き飛ばされてしまう。
「ご、ご…はぁ」
闘技場アリーナの外壁に叩きつけられたセドリックが吐血する。
「あ、当たってもいないのに……この威力」
「的が小さ過ぎて外しちゃった。ゴメンネ余計痛かったよね」
「シ、シャルロットさんは……? 眼が、眼が見えない…クソっぉ」
「痛いよね? 今楽にしてあげるね」
「アウローラぁ!」
「31番のおにーちゃんも、そろそろ良いよね」
「ちぃ…お嬢逃げぇ! ――オラ達が何としても」
寿命を削り続けたセドリックは毛細血管に異常をきたしていた。全身どころか眼球の筋膜迄も破裂してしまい視力が著しく低下しているのだ。
「おい青髪のガキ!――お嬢連れてはよ逃げんかい」
「僕は…何としても…姫を」
「セドリックはもう駄目だ! プリューナグ――死ぬのは小生だけで良い!」
「お前…………あぁ解ったわぃ親友よぉっ」
黒龍が氷竜に目だけで合図する。
お前達だけでも逃げろと。
「う…おあぁぁぁぁあ!!!」
「体当たり?……いよいよ頭がおかしくなったかな」
「お前の馬鹿げた力は王都内の術式…増幅器によるもの!」
「へぇ、よく解ったね」
「お前を王都外まで吹き飛ばす事が出来れば――」
「出来れば、だけどね」
「く…ぉおおおおお!」
「――黄金衝覇」
――――――ズドァ゙!――――――
タイタロスを中心に円上に放たれた衝撃波。
闘技場に存在した全ての対象が壁に激突し沈黙する。
サイ=オーを除いて。
「……く、かっ」
「至近距離で喰らったのに…凄いねおにーちゃんは、まだ死なない」
黒龍サイ=オーだけは吹き飛ばされず、千切れた腕でタイタロスを掴み、藻掻く……王都外まで、押してでも叩き出してやるという決死の気迫。
「どうして…そんなに頑張るの?」
「希望…だ」
「……」
「シャルロット嬢は…希望だ。小生達竜族にとっても…オータイプや、アウローラタイプにとっても」
「……っ」
「オマエも…解っているんだろぅ」
「意味がわからないよ。メアは馬鹿で醜いもの」
「オレタチ被検体は……博士の思う通りに生き、死ぬ為だけに創られた…だが、本当は違うだろう?」
「……何が」
「本当はこの死の連鎖を…誰かに止めて欲しいんだろぅ?」
「おねーちゃん…達」
「そうだ死んで逝った、オマエの糧となって。だがそれをお前が気に病む必要はないんだ」
「そんなコトない…メアは、メアは」
「オマエにもあるはずなんだ……消される前の記憶に…輝く思い出が……やりたかった事が」
脳裏に微かに景色が浮かぶ。
イチゴ畑と、王様という単語、灰色の記憶。
「安心しろ…アウローラ」
「何だよ何がだよ……おにーちゃん」
「お前はシャルロット嬢には勝てないよ」
「無理だよ、あの子でもメアには…」
「彼女の心の光はお前の見せかけの黄金とは違う……心が折れ、泣き、恐れようともお前を救おうとしている。足掻き、藻掻きながら」
「弱い人がいくら頑張っても…しょうがないのに」
タイタロスの巨腕が炎に包まれる――黄金の焔に。
「その眉間のシワ…オマエは辛そうに拳を振るうな」
「メアは強く、強く造られたんだから」
「そうするしかないと……諦めたのか」
「……ナニカそれ、悪いことなの?」
「いいや… 悪いとは思っているんだなと…安心しただけだ。やはりお前は……」
「最後の言葉がそれでいいの?」
サイ=オーの鱗が蒸発していく。
とうに限界を迎えていた身体が。
「最後…聞くんだな」
「?」
「いいや、何でもない…」
最後の言葉はそれで良い。
そして思う――やはりコイツには向いていないと。
(お前にもあるんじゃないか… 嬉しかった思い出が)
拳を握る度に眉間にシワを寄せ、確認しながら攻撃する――優しい妹にも。
(お前は憎まれ役には……向いてない)
先に逝くよアウローラ。
あの世というモノがあるのなら、其処では普通の兄妹になれたら良いなと、微笑みながら。
(ルイズ姉さん…強く生きろ)
そしてシャルロット様……初めて出逢った時に思った――あの輝かしい本物の黄金、本物の光。
(どうか…どうか小生の可哀想な妹を…助け…て)
―――ボッ゙!
黒龍は焔に焼かれ消滅する。
「あ…あぁサイ君……サイ君んん!」
「シャルロット見てて、メアの…コレが博士の悲願…王都全体の生命の灯をもって神呪刻印は完成する」
タイタロスの胸に光が収束する。
「やめてよぉぉ! もうやめてよぉぉメアちゃん」
泣き叫ぶ少女に奮い立つ男が居た。
「ぼ…く…の…役どころ…は」
『もうじっとしとけ小僧…お前はもう十分にやった』
ヘカテーの静止など見向きもせず、いや聴こえていない、セドリックにはもはや少女の声しか聞こえていなかった。
「最後の頼みだヘカテー…僕の…目になってくれ」
『お前もカターノートの血族……本当に』
不器用なオトコだと照準を合わせる。
「コレを…阻止しなければ…姫が……姫が悲しむ…」
『あぁ解ったセドリック…解ったよ』
全身の毛細血管が破裂して真っ赤な男は掌をかざす。
「例え…君が、一生僕のものになら…なくとも」
浮遊する時点は形状を変える――輝く砲身に。
「未来…に、他の男の手に…抱かれていても」
この男は無駄にしない。
同胞が命を懸けて作った時間。サイ=オーが稼いでくれた決死の時間を無駄にはしないと――その間に地下の増幅器にヘカテーを接続させていた。
「護ってみせると誓った…この僕の…生命に換えても」
DOSを通してセドリックに膨大な魔法粒子が供給させる。
「どうか幸せに……なって」
『DOS術式実行――禁術魔法言語!』
命の灯が消えた。
セドリックの生命と共に放出された波動――超魔七罪輪廻の破壊の光はタイタロスの一番高い位置である顔面に直撃するが、魔法粒子を完全に遮断する装甲はLv5を以ってしても破ることは叶わない――しかし。
「うわっ――と」
その核爆発にも匹敵する衝撃までは殺す事が出来ず――王都に狙いを定めていたタイタロスの標準はズレ、黄金の閃光は北側の山を貫通し消えていく。
「今のは…」
「セドリックくん!? いやぁあああ!」
血液までも捧げ、全てを出し尽くした事により赤から真っ白になってしまったセドリックにシャルロットが駆け寄る。
「眼をぉ…開けてぇよぉ…あぁ何でぇ…何でぇ」
泣き叫ぶ。
次々に死んでいく友。
母が死んだ時、姉が死んだ時、父が死んだ時の記憶が蘇る。彼女の哀しみとは裏腹に、シャルロットという少女は人の死と共に強くなっていった。自分の身を焼かれる程に強くなる――自分自身には不幸な事に、彼女の因子核に刻まれた権限がなせる能力――乗倍譲渡という権能の。
「ああああああああああああああああああああああ!」
軸足の震えは完全に止まった。
恐怖が怒りに上書きされて前へと踏み込む。
「何でこんな事する必要があるんだメアちゃん! どうしてなんだよぉ!」
「博士がそう言ったからだよ」
「何なんだよ、何なんだよその人はぁ!?」
「メアも…必要なければしたくないよ」
メアの悲しそうな顔に歯を食いしばる。
心を鬼と化して。
「そんなぁ…こと」
「しょうがないんだよシャルロット」
「しようがないぃ…?」
「納得するしないじゃないんだよ」
「しないよぉ…絶対にしない。サイ君もセドリック君もさっきまで笑ってたんだよ…焼き鳥買ってきてくれるって……言ってたのにぃ」
今度は真っ向から睨みつけてギリリと歯を鳴らす。
「友達にそう言われると…辛いな」
「友達なら…友達なら何で、他に、他に方法が」
「コレが仲違いってヤツだね」
「メア……ちゃん」
幼さの残るその顔が悲痛と怒りで歪む。
言ったじゃないか、友達とはお互いの価値を認め合って、相手の為に出来る事を考えたりするものだと、メアちゃんはあの時言ったじゃないか。友達ってそういうものじゃないのか? 遂にシャルロットの心が爆発する――友達なら。
「壊さないでよぉ!? ――ボクの世界をぉっ!」
シャルロットから放出される気の濁流――動脈から噴射される血液が如く怒涛の勢いで爆発させたソレは地面を割り、大気を震わせた。
メアのアビリティ=メーターが悲鳴をあげる。
「オーラ出力156万!?――メアの数値を超えた」
「うああぁぁあ!!」
「速い」
メアの白髪がゾワリと逆立つ――その感情は歓喜である。
「魔神剣奥義――摩訶鉢特摩!!!」
武装気に魔法言語を組み合わせたシャルロットの究極がタイタロスの胸部に直撃する――――
「やっぱりシャルロットは凄いね……あんなに怒っていたのにコクピットを狙わないんだ」
友達は思う。
31番のおにーちゃんが言っていた事は正しいのかもしれない、だとしたら嬉しいな。でも、今となってはどうでもしい話だと諦めながら――友達は言う。
「博士が言ってたんだけどね? 力を乗倍率に加算させる黄金って言っても、人の身体……戦闘力には限界があるから数値分強くなるわけじゃないだって」
「あ…あぁ」
オリハルコンの刀身。
アイスファルシオンは粉々に砕け散っていた。
初めはくすんだ色であった装甲は今は黄金に輝き、傷の一つも付いていない。
「メアのオーラ出力は128万なのね? これは昔死んじゃったマリア=アウローラって人と同等の出力数なの。この数値を超えたっていう事は、シャルロットは黄金覇王さんより強い事になるね」
でもね?
「タイタロスは砕けない」
絶対に。
「この鎧はメアの黄金の力を更に乗倍率に加算させるんだ。今のメアの力はね? さっき迄のおよそ1万倍――」
126億出力。
「人体と違い、この鎧はその出力に耐えれられる。全ての魔法粒子攻撃を弾き飛ばし、その力は大気圏外の月まで届く」
だから。
今日この日に、死亡する事が決まっている少女は言う。
「ゴメンネ強くって」
王都の地下より供給される増幅器がある限り、魔神でも天使でもプレイヤーでも、それこそ神様だろうと勝てはしない究極の存在。
「それが今のメア……神呪殺鎧タイタロス」
残念だ――この感情は失望だ。
自分を止められるのはもう誰も居ないのだと。
メア=アウローラは今日、何度諦めたのかもしれない「しょうがない」を口にする。
全てを出し切ってしまった友達は、今度はもう立ち上がる事は出来ないだろう。
ならば苦しまないように一瞬で殺してあげるのが友達としての、自分を友人だと言ってくれた少女への唯一自分がしてあげられる事だろうと思う。
巨人は腕を上げる。
地面から膨大な動力が供給される。
金色の焔が上がり収束する―――最大出力。
今度は山どころか、国が吹き飛ぶ程の破壊力を込めて。
「さようならシャルロット……もし生まれ変わったら」
今度は違う出逢いをと、切に願いながら。
声が聞こえていた。
自分を激励する声。
内気な少女から、黄金の因子核から声。
過去の自分。
一人はマリィ、もう一人はマリア。
彼女達は自分にこう言う。
涙は下に落ちるものだ。
視線を上げろ天を見ろ、そこにきっとある。
君の、私達が求めた掌が。
『『掴めその手を』』
そして――あの人の声。
「………せんせぇぇ」
タイタロスから放たれた閃光―――――
この日その時あの刹那に。
あの人は叫ぶ――私の名前を。
「シャルロットぉおおおおお!!!」
◆◇◆◇
変な人だなぁ、そう思った。
真っ黒の服を着た、どこか適当な人。
浮世離れした、何処か芝居がかった人。
私が想像していた王子様とはかけ離れた……とても変な人だった。
脛傷者ばかりでごった返す辺境の色町の人間に、何の偏見も持たない変わった人。
でも一緒に居るうちに解った。
彼は他人に期待をしない人だったんだ。
ただただ自分は周りを幸せにしたかったのに。
自分への理想が強すぎて言葉に出来ない。
自分が凄い人間にならないと、他人は自分を認めてくれないと怯えている。
そんな普通の人。
弱い弱い普通の人。
彼は知らないだろう。
どれだけ私が幸せをもらったか
ユウィンは知らないだろう。
この世界に生を受け何度も何度も生まれ変わった末に、ようやく出会った運命の人――初めて出逢った時、私がどれだけ救われたのか、ユウィンを守って死んだ時、私がどれだけ幸せだったか知らないだろう。
私の権限は《プレイヤーを援護せよ》
力を増幅し、力を譲渡する権能《乗倍譲渡》
何百年もの生まれ変わりの末に、ようやく出逢った彼との二年間がどれだけ嬉しかったか――幸せだったか。
知らないだろうし、知らせるつもりもない。
これは私だけの幸せで、私の宝物だからだ。
あの人が私に預けてくれた元の名と共に。
ねぇシャルロット、アナタは知らないでしょう。
ユウィンってば、本当は剣より魔法より料理が得意なんだよ?
いっぱい作ってもらってね?
いっぱい可愛がってもらってね?
私はあの人にいっぱい愛を貰ったから。
そういえばこんな事があったよ。
私が不意に言った一言
『女の子が出来たら名前はシャルロットが良いなっ』
もし男の子だったら何て名前になってたと思う?
うふふ……ビックリするよ
ね? ユウィン。
幸せだった。
いつまでも一緒に居たいと思った。
恥ずかしい時は変に笑う女。
アイツを幸せにしたかった。
自分は傷モノだと笑うアイツ。
貴方は今日からユウィンだと笑うアイツを。
だが俺のやった事は太陽を引きずり下ろし……その光を奪う行為だったと、何度も何度も打ちひしがれた。
「頑張れ」そう言われるのが嫌いだと言った。
無責任を押し付ける…この安い言葉を。
俺を理解し半端者の俺をいつも奮い立たせた女。
《マリィ》
幸せにしてやろうと。
そう思っていたのに。
死んだ。
今度会う時はダンスでも踊ろうか。
約束をした…俺を負かせたあの女と。
顔が似ているだけじゃない。
無邪気で、強くて、哀しそうに笑ったアイツ。
野生の虎のように雄々しく心は卵の殻のように繊細で壊れやすい女。
《マリア》
背中を任せられる女だった。
アイツとの時間は楽しかった。
何百年と続いた復讐者の夜に登った
太陽のように暖かな時間。
アイツも死んだ。
二人共俺のせいで死んだ。
男の心の中に、いつものあの言葉が湧いて出る。
『もういやだ』
俺という人間は失った恋人の仇を討つ為だけに創られた――嫌だろうが諦めようが。
思い、戻り、繰り返す。
『あの時繋いでくれた…君の掌は暖かかったよ』
すまないマリィ。
『そんな人だとは思わなかった!』
ゴメンなマリア。
だが今なら解る。
アイツらはそんな言葉が欲しいんじゃない。
俺に詫びて欲しいわけじゃないんだ。
今なら解る。
誰かの為じゃない。
俺を生かせてくれたお前達に報いる為でもない。
俺は俺の意思で此処にいる。
今なら心よりの言葉でアイツらに言える。
ありがとう。
今度は俺が――前を見ろ。
「………せんせぇぇ」
あの子と目が合った。
何も考えるな駆けろ――ただ単純に、素直に、その一点のみの思考が閃光となって全身を駆け巡り疾走する。
幸せにしたかった。
俺が幸せを感じたかった。
それだけなのに、マリィは俺の腕の外で死んだ。
俺はアイツの体をかき集めたんだ。
あのとき俺は救いを願った。
叫んだ――天に向かって助けてくれと。
だが今は違う――今、助ける。
「シャルロットぉおおおおお!!!」
胸の中心に炎が灯る。
俺よ、ユウィン=リバーエンドよ。
今こそ心より思え――俺は誰かを救える人間になれると。
「自分を換えろぉぉお!!!」
助けさせろ俺に、届――――――――――――――――
巨人の閃光は
俺の伸ばした右腕ごと地面を薙ぎ払った。
跡に残ったのは――何もなく
思う
「…あぁ」
もういやだ。
..............................zaza......................za......................
◆◇◆◇
「あぁ…なんと言う悲劇…なんという茶番」
こういうのを主殿の世界では何と言ったか。
観覧席で座するセシリア=ルシファーは言う、その整い過ぎて人形のような顔を怒りで歪ませ。
「クソゲー…というヤツですねコレは」
闘技場の地面どころか王都を半壊させた破壊の波動には見向きもせず、流せない涙を流し絶叫する愛しの君を見ながら。
「彼女の予想は的中しましたか…流石と言っておきましょう」
しかし――コレはない。
今一度、一番良く見える位置からユウィン唯一人を見つめる。
「全く女というのは怖い生き物だ、男の為に此処まで用意するとは」
自分が動かざるを得ない”状況”を創り出した女に尊敬と畏怖を感じる。
「リィナ=ランスロットよ、私に不死となる術を示してくれたお前には一応感謝をしている…だが、彼女の方が一枚上手でしたね」
自分が。
「この脚本の結果を観てどう出るか、彼女には解っていた――コレが己しか愛せない女と、一人のみを愛し続けた女の差なのでしょう」
セシリアは誰一人観客の居なくなった観覧席で、灰色に染まった世界――時の止まった世界で、大袈裟な指揮者の如く両手を拡げる。
さも自分がこの世界を調律せしめる神のように――否、彼ならばこういうだろうか、自分は神などではなく、舞台裏で出番をただただ待ちわびる大根役者――または道化であると。
灰色の世界に夜が降る。
「結果というものが無いと事象を換えられないとはいえ、今一度男の前で死んでみせるとは……つくづく女というのは恐ろしい」
灰色の世界に朝が降る。
刻まれて細かくバラバラになった輝く太陽が。
「さて御観覧の皆々様、このどうしようもなく混沌で滑稽で度し難い舞台で御覧あれ。不死身が道化の、このセシリア一世一代の大スペクタクルを――」
灰色の世界が光に包まれる。
魔法粒子の光、我儘を通す光――空間に画かれる恐ろしく複雑で精密な空間魔法陣は天空を埋め尽くし、輝く柱となって収束する。
「独りの力ではコレは成せなかった、所詮はイミテーションである私の力では――だが」
この王都地下には今数百年と溜め込んだ因子の力と魔法粒子が存在する。
「ルナティック=アンブラ……あんなモノを下ろす為ではなく、あの女の為でもなく、コレは愛しの御方の為に使うべきだ――さぁ歌え天照」
第壱転換天照。
究極の魔法言語であるそれは、己が渇望を具現化する我儘を通す魔法の言葉――天使勢であるセシリアの権能は因果律の改変。
時間を巻き戻し、結果を改変する天使の詩。
「この刹那に起源よ変換われ!」
反逆の堕天使である男の十二枚の翼が弾け飛ぶ。
――――――拾弍堕天翼因果逆転――――――
「さぁ狂い咲け、この因果を糧として今一度」
灰色の世界に咲け――《黄金桜》
command〔Alt〕+〔Tab〕Switching Screen




