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【完結】Code:ルナティック=アンブラ 不死身の魔剣士とプレイヤーの苦難  作者: ゆーくんまん
第5章 覚醒のヴァルキュリア

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第25話 王者の因子核

  挿絵(By みてみん)



 夢か幻か――記憶の始まり。

 恐らくコレは俺が誕生・・した瞬間なのだろう。


『この世界におけるユウィン=リバーエンド………その全てを御前に託す』


 誕生した俺はソイツを見ていた。

 片腕の男は絶叫のあまり口が裂け体液が流れ出る。


『どうかマリィを、情けない俺に代わってあいつの仇をぉぉと、とって……おああ……あああ!』


 絶叫している男に俺は思う。


『すまないすまないすまないすまないすまない俺なんかでごめんマリィ……ごめんなぁっ』


 情けねぇ男だと。

 自分の女も守れず俺に全てを押し付けた情けない男だと。


『ユウィン…お前は失敗した』


 魔導の師匠の言葉だ。


『お前には此処に来た以前の記憶が存在しないだろう』


 何だったか…あぁ確かこうだ。


「ワタシはお前を決して導かないが、アイツの望みをどうしても叶えたいのなら……」


 今思えばこれは、アヤノさんではなくマクスウェルさんだったな。


『子羊よ、お前の感情の半分を持つ魔人がいる……そいつを見つけ出すのが真の救済かもしれぬな』


 これはゼノンで戦った天使の言葉か。


『だがお前の半身は、お前を絶対に許さないだろう』


 あの時は戯言かと思ったが。


『子羊ユウィン=リバーエンドお前の因子核は不思議だ……二人の人間が一つの核で存在しているような』


 今なら解る。

 あの天使が言っていた意味と、情けない男の吐いていた言葉。


 半身とはあの男の事。

 そして俺に打ち込まれた呪いはヤツの渇望と後悔。


『魔法使いになりたかった男』


 ヤツがおこなったのは魔法因子核を作り出すの法術ではなく、マリィの為に生き続ける、もう一人の自分を作り出すという外法――全ての魔人に備わる権能……使徒を生み出す力。


 男が無意識下でおこなった自分のカルマを切り離すという行為は成功したが、それ以外は失敗に終わった。


 不完全な魔人の状態で行ったソレは完全なものとはいかず、本来あるべきだった能力と感情を分断する結果となる。


 ”皇鍵マスターキー”と、怒りと悲しみの感情はその男に。


 残りの感情と魔力、そしてプレイヤー権限である”王者の因子”が俺へと移行した。


 そうだ。

 俺は生まれた時から俺だった。

 マリィが付けてくれた大切な名前、この世界で生きたユウィン=リバーエンドという人間の2年間――その全てを受け継いだ存在が俺という人間。


 記憶がない・・・・・のでなく、マリィと出逢った以前の記憶など元々なかった。


 そういう事か。



 ◆◇◆◇




「何だこの、(みなぎ)るような感覚は……」


 街道を疾走するユウィン=リバーエンドは(いぶか)った。


 魔法因子核を失ってから感じていた違和感。

 その違和感が実感となっていく。

 王都が近くなればなるほど力が漲り……胸の中心が熱くなる。


「……マリアの、あの時に似ている」


 これならいけるか。

 (オーラ)を練り込み――解き放つ。


「ベソかいてるんじゃない――(ディ)!」


『グスグス……ふぇ? マスター? ユウィン様ぁあ!?』


「すまない心配かけた」


『し、心配なんて…ひっく…泣いてなどいませんよ馬鹿ぁ!』


「あぁそうかい……安心したよ」


 索敵武装気アスディック。

 ユウィンの飛ばせる放出範囲は80m四方であるが今は違う、王都中心まであと10kmもあるというのにオーラによる会話が可能となっている。


「馬鹿な主人で悪かった…もう大丈夫だ」


『はい……はぃ良かった本当に。マスター今何処に』


「この速度ならそっちに着くのはあと10分といった所だ、状況はどうなってる」


『王都内に魔族が解き放たれております。タイプはアンデット系……敵主郭はヴァンパイアの始祖と推測されます』


「魔人四天王……冥王か。ゼノン傭兵達は何をしている」


『配下であるアンデットが生存している所を見ると、まだ討たれてはいないかと』


 輝く結界に覆われたトロンリネージュ城を見据える。


(アンリエッタ……シャルロット……アヤノさん)


 俺がしっかりしていれば、こんな事には。

 爆発的に高まったオーラを全身に纏い――軸足に更に力を込めて踏み込む。


「俺が行くまで、頼む」


『は、はいマイマスター…ユウィン様』


 放出気を閉じて燃え上がる王都外門めがけて激走する。ユウィンは感じていた――今この王都に集結している敵は己の運命に関わる存在だと言う事を。自らの魔法因子核を砕いたマリィに瓜二つの少女――口を紡ぐアヤノ――黒い森で出逢ったアマテラスを使う天使のような女。


 胸の中心が熱く燃え上がるこの衝動――自分という存在が何なのか、何故自分には記憶が無いのか。この争乱に全ての答えがある気がするのだ。


 そして――上位魔人など比べ物にならない強力な存在が待ち受けている事も。


「ユウ君!」

「アヤノさん? 助かった俺をアイツラの所まで――っ」

「――――っ」


 空から急降下したアヤノをユウィンは抱きとめる。否――抱きしめられる。薄い緋色の浴衣から感じる体温は暖かく、相手の心音が聴こえる…ドクドクと。


(速い……これは緊張か)


 いつもと違う。

 いつもどこか必要以上に明るく振る舞って本心を隠す彼女の様子ではない。


「……アヤノさん」


「ごめん、ごめんなさい今迄……ごめん」


「何の事を……言ってるんですか」


「ワタシが間違ってた…ワタシが…」


 しかし今まさに王都が炎に包まれている最中――膨大な戦闘経験からくる冷静さで頭を切り替える。


「すみませんアヤノさん俺は今急いでいます。アイツらが危険な状態だ」


「今のユウ君に必要な事なの…聞いてお願い」


 ただならぬ気配にゆっくりと顎を引く。


「アナタを今突き動かしている力……それは主皇因子核に残っていたマリィちゃんの黄金武装気」


「黄金武装気……この力がアイツの」


「魔法因子が砕かれた事によって漏れ出した……王者の因子核から溢れた力……マリィちゃんが生命を削って譲渡した黄金オーバーロード


 何処か必死な、話すのが辛そうなアヤノは此処で話を切り、ユウィンの様子を伺うように目を向ける。


「……続けて下さい」


「そして、砕かれたアナタの魔法因子核……その本来の持ち主の名は……影王」


 思い出す。

 王都で一度相対した黒の魔人の事を。

 今迄出会ったどの魔人とも違う、唯一魔法出力を感じなかった男の事を。


「ユウィンと影王……貴方達は本来一人の人間……プレイヤーと呼ばれる、王者の因子核を持つ者」


「俺が、あの時の魔人の」


 繋がる。

 400年を生きたその膨大な知識と経験から、それは一本の輝く線となって。


「そしてワタシは……私達は、ワタシとマリィは貴方を導き、守護する権限者ヴァルキュリア


 それは黄金の輝く線となって繋がる

 アーサーが言っていた言葉――後はアヤノに聞け。


「ごめんなさい今迄隠してて、言えなくてごめん、ごめんなさい」


 最後に、アヤノは息を飲む……。

 声を絞り出しすように、死を――覚悟するように。


「マリィちゃんが死んだのは……ワタシのせい」


「…………」


「怒りの感情のない……怒れないアナタにこんな事に言うのは卑怯だって解ってるワタシをどうしてくれても構わない…だから、だから」


 目を閉じるアヤノ――ずっと、それこそ数百年続いた罪悪感。ユウィンは目を閉じ、演算する。何故眼の前の女はソレをずっと隠していたのか。


 プレイヤー

 王者の因子

 もう一人の自分


 まるでコレは本で見るような幻想ではないか。ゲームの盤上で筆者の思い通りに画かれる物語のようだ。


 違う。


 決してそうではない。

 自分は生きた――この400年にも及ぶ復讐という名の劇を、呪いを帯びながらも自分は生きたはずだ。決して誰かの思い通りに生きたわけではない。そして今、それは新たな始まりを迎えようとしている筈だ。


 ならば。


「それ、やめてくれませんか」


「うん…………え?」


「その、アナタって言うのやめてくれませんか」


「あ、えと…ゴメン」


「気に入ってるんですよ」


「な…にが?」


 恐る恐る上目遣いに聞いてくるアヤノに言ってやろう。何でもっと早く教えてくれなかったんだ。何でマリィが死んだのはアンタのせいなんだと。


 自分がこの女を、どう思っているのかを。


「ユウ君って呼び名……気に入ってるんですよ。遠い、遠い昔に、そう呼ばれていたのかもしれませんね俺は」


「そう…なんだ」


 ユウィンは自分の掌を見た。

 あの時マリィを、自分の女の掌も掴めなかった情けない男の。


「俺はずっとアイツの力で守られていたのか……そうか、それなのに俺は400年もイジイジと」


「ユウ……君?」


「マリアにも殴られるわけだ……そうだな、そういうヤツだったな……俺がヘタれた時はシッカリシローって、ぶん殴って来るようなヤツだったよアイツは」


「ユウ君! ワタシは――」

「アヤノさん……アンタ今、目ぇ腫れあがってすっごいブスですよ」


「うえ? あ、あの、ワタシは……」


「何があってどうして話してくれたのか知りません……でも泣いてたんでしょ……さっきまで」


「え、ワタシそんな酷い顔してる? あわわわ」


 いつも凛々しく、厳しいアヤノ。

 甘えたで、どこかヌケていて本心は話さないのに寂しがり屋のアヤノ。どっちのアヤノもアヤノであり――


「アヤノさん……君は俺にとって憧れであり、師匠であり、手のかかる姉のような人だ。この世界でたった一人、マリィの為だけに造られたユウィン=リバーエンドという人間の」


「ユウ……くん」


「それにアイツは……自分が死んだ理由なんてグダグダ悩むような女じゃない」

「でも、でもワタシが……ワタシがユウ君のマスターコアを封じたから」


「アヤノさんの事だ……きっとソレは、俺とマリィの為を思って施してくれたことなんじゃないですか」

「でも、それでも!」


 涙に濡れる権限者の長女。

 ずっと言えなくて、溜め込んでいた罪悪感が溢れ出す。


「確かに俺はマリィの為に造られただけの使徒にんぎょうもしれない……でも俺は、アイツがくれた名前――ユウィン=リバーエンドという人間は、みんなを幸せにすると、そう胸を張って言えるよう生きようと決めた」


「――――っ」


 高鳴る因子核――もうこんなに震える事はないと思っていた。


「アヤノさんアンタ今……良い顔してるよ?」


「う……ゔんん」


 その皮肉にも似た、救いの言葉に。


「うえ、ゔぇええええええええええ」


 罪悪感が流れ出す。

 溜め込んで溜め込んで鉱石のように固まっていたソレが爆発するように。辛かった――自分だけが被害者面をして引き籠もった数百年を恥じ、死んで詫びようと思った自らの行いを恥じる。この男もまた、流せない涙を流しながら同じ時を過ごしていた筈なのに、なのに自分に言ってくれたのだあるじは――回りくどく、果てしなく遠回しに。


 貴女は優しい人だ、 一緒に胸を張って生きようと。


「全く、しょうがない姉さんだ――」

「ゔえ――あっ」


 手を引いて抱き寄せる。


「ありがとうアヤノ、話してくれて……そして」


 頭にそっと手を置いて一言。


「もう大丈夫だ……お前も、俺も。だから泣くな」


 そして見据える。

 輝く結界に覆われた城――炎の上がる王都を。

 この視線に気付いたアヤノは頭を振ってから急いで涙を拭く。長い長い髪がふわふわと舞い、それはまるで紅の妖精のように見えた。


「ユウ君ありがとう。ワタシは……貴方を導く魔女ストレーガ……貴方と共に生き、貴方の為に生きて死ぬと誓う」


「最後のは入りませんよ、もう懲り懲りだ――」

「わっ…ゆゆゆうう君!?」


 再び掌を引かれた紅の妖精は耳までも真っ赤に染めて慌てるが――その顔には意思が、その瞳には決意が乗っている。


「行くぞアヤノさん――アイツらを!」


「うん行こう! 私達が終わらせるんだ」


 飛翔する――アヤノが実行する亜音速の魔法言語は王都の城壁を瞬く間に飛び越え闘技場に迫る。


『ありがとうユウィン……いやあるじ殿』

あるじって…マクスウェルさんその話し方やめて下さい調子が狂う」

『感謝申シアゲマス。グランドマスター』

「アキお前もか…やれやれ」


「うふふ…ごめんねユウ君、二人共ずっとこうなるのを待ってたから」

「そうですか……では仕方ないですか」


「それと、最後に伝えておくね」


 闘技場上空まで到達する。

 2体のドラゴンと巨大な人型兵器、その横で倒れる数名と――シャルロットが。


「マリィちゃんは生きている……あのの中で」


「生き……? あの娘…まさか、いや、それは」


「ユウ君もまだ烈しく動揺する事あるんだ…感情を表に出さないように、あんなに頑張ってたのにねっ」


「まったく……今日は何て日だ」


「だからね」

「わかってます……俺は」


 アヤノは心より願う。

 ワタシにそうしてくれたみたいにと。


「今度は、今度こそ掴んであげて? マリィの、あの子の……ワタシの妹の掌を」


「マリィ……マリア……そして」


 アヤノは心より思う。


「そう、それがマリィちゃんが引いた黄金の道……消えた道標を何度も何度も書き直した……ユウィンがこの世界を好きになってくれるようにって」


「哀しみの感情があれば……俺は今泣いていたでしょうか」


 アヤノは心より思う。

 きっと姉妹みんなで笑える明日が来るはずだから。


「でも笑おう? あの子が今、きっと泣いているから、心細くて泣いているから、だから代わりに笑おう、助けよう、繋ごう、この刹那にセカイを換えて」


 そして最後は――ワタシの番。


『遂にこの時が来た……アヤノ』

「えぇマクスウェル……今がその時」


 拘束制御機関マクスウェル――王者の因子核を、覇王の力を最適化しその後遺症を和らげる為に作られた人格を持つプログラム。


「ワタシには迎え撃たないといけない宿敵がいる……ユウ君、後はお願いします」


「あぁ理解した……この日この時この刹那に」

「再び黄金の桜が咲きますように」


 王は降下する――戦場へ、闘技場へと。

 男の心に刻まれた王者の因子――マスターコアと呼ばれる覇王の因子核。この日、人間領に一人の王者が誕生する。不死身で、皮肉屋で、気分屋で、愚かな、しかしヒトの幸せ渇望する誠のロードが。


 だがその前にやる事がある。

 輝くオーラを纏い地上に向かって降下する私達の皇ロードオブクラウン唯一人を見つめ――術式を編み上げる。


『アヤノサマ、此処デ失敗シタラ全然笑エマセンヨ』


「アキ……アンタって何でワタシにそうなの」


『アヤノサマガソウ設定サレタカラカト』


「そーだねぇ知ってる……でも何でかな、今はアンタに秋影って名付けないで良かったと思ってる」


『ソレハ残念デス。デスガソノ名ハ私ト、今ノアヤノサマニハ似合イマセンネ』


「フフッさぁ行くよ二人共!」


 手を合わせる――祈るように願うように。

 超高難度で複雑な術式が組み上げられて焔を灯した。


 拘束制御術式マクスウェル機関。

 アヤノはユウィンが持つ主皇因子核の機能を停止させていた。他のプレイヤー見つからないように、マリィとこの男が戦わずして生きられるように。普通の人間として異世界での人生を歩めるように。


 いつまで待っても現れず、一度は憎んだプレイヤー。しかしそれでも待ち続け、出逢い、幸せになって欲しいと組み上げたプログラム――今、それは解き放たれる。


「平衡演算……術式開放」

『マクスウェル機関起動』

「拘束制御解凍準備」

『全開放待機』

「権限発動――侵入解除バックドアクセス


 アヤノは生まれて初めて祈る――月の女神に。

 憎悪を押し殺し、あるじの為に祈る。

 自分を許し、共に歩もうと言ってくれた男の為に。


(間に合ってぇ……願いだからぁ)


 一回で良いからワタシのお願いを聞いてよ。


「主皇因子核―――再起動せよ」

『マクスウェル機関解除ボルトアウト!』


 今こそ覚醒の時と、御旗を上げた王の為に。


『「解除バックドア!」』


 起動と共にチャクラ駆動回路を巡り――燃え上がるマスターコア。王者の因子核の拘束制御プログラムが解き放たれる。


 400年の月日を経て、今宵この時初めてユウィン=リバーエンドはプレイヤーとなった。黄金と魔女の力をたずさえた――この世界ルナリスで最後のプレイヤーに。



 アヤノは思い出す。

 マリィと最後に話した――あの時の事を。


『最後に…あるじ殿の元の名は何という』

『それは……私だけの秘密かな?』

『……フン』

『ありがとう……アヤノおねーちゃん』

あるじ殿はお前を太陽のような女だと言っていたがな……お前は桜だ』

『え?』

『何度となく咲き誇る火の国の桜のように……また逢おう我が姉妹』



 今こそ咲き誇れ黄金の花。


「今度は、今度こそ掴んであげて。頑張ったんだよ……? ずーっと」


 決戦の地へ降り立つあるじに向けて。

 そして、あの時は気取った言葉をかけたものだと気恥ずかしそうに微笑みながら。


 そして振り返る。

 己の因縁に終止符を討つ為に。


「さぁ…決着をつけようかリィナ」


 ゾゾゾゾッ゙

 空間が開き、老婆のような少女が現れる。

 この不毛な輪廻を作り出した現況――アヤノとは違い、いつまでも現れないプレイヤーを恨み続け、変わり果てた元権限者の女が。


「アヤノ様ぁ…貴女のリィナが来ましたよぉ」


 再び老人の姿になってしまったアーサーを闇色のデバイスで吊り下げながら。


「こんなヤツでも生かしておいてあげましたよぉ……アヤノ様が気分を害されるでしょうからねぇヒヒッ゙」


「あらそうありがとっ、そんなヤツでも付き合いは長いから嬉しいよ」


 アヤノの気配にリィナは眉を寄せる。


「さっきまでとは眼が違うようですが」


「そうだねぇ……妹が頑張ってるのに、おねーちゃんが頑張らない訳にはいかないよねぇ」


たぎるような気配、もしかして貴女は……」


「ワタシはユウィンの……あるじ様の導きの魔女だと胸を張ってそう言えるようになった。どう? 羨ましいでしょリィナ」


「またアナタは間違ってる。この世界は……」


「人間は所詮一人、孤独に生きてそして死ぬ」


「何ですかソレは」


「ワタシの妹の言葉。このクソッタレな世界でも、繋がる掌があればそう悪くないって言葉コード


「虚言、バットプロですね……それは弱い人間のする事だ。一人で何も成し遂げることの出来ない」


「そうだね。でもアンタにはいる? 手を繋いでくれる人、励ましてくれる人、一緒に泣いてくれる人」


「必要ありません……大業を成せば人は自然と足元に虫の如く群がるものです」


「そうだね」


「思い出して下さい創世記を!  散々良くしてやったのに、一度の失敗で掌を返したあの愚民共を」


 思い出す。

 あの絶望、あの憎しみ、そしてあの悲しみを。

 自分の行いの為に滅亡寸前まで追い込まれた人類――その後悔はそのままに。


「憎欲。人間にとってそれは、とてもとても強い感情で生きる原動力、心の柱になり得る感情だ」


「そうです思い出しましょう二人で。あの憎しみ、あの絶望を」


 前に進めと言ってくれた男がいた。この世界を好きになって欲しいと言ってくれた男がいた。


「でもそれは何も実らせず、誰も幸せにする事が出来ない。絶望という果実の中にはね? 稀に、とてもとても美しいモノを作り出すチカラがある……それが解るのにワタシは900年もかかった」


「それは依存者!  敗者の理屈、力ないものが掲げる屁理屈だ」


 何百年と彷徨って決めたんだ今日――この刹那におのれを換えろと。だから――


「でもね、そんな弱い愚かな女達がこの世界を救うの。ワクワクしない?そういうの。震えない?手を繋いでくれる人が直ぐ側に居るのだから」


「アヤノ様は舞い上がってしまっただけです。頭を冷やせばアチシの言ってる事がわかりますよ」


「リィナには残念な話だけど、それはないよ」


「貴女のシテいる事は……誤認です」


「違うよ? これは覚醒だ――あの人が私の掌を掴んでくれたんだから」


「覚醒のヴァルキュリアとでも言うか」


 覚醒の魔女は吠える。

 自分を奮い立たせる為、そして自分の為に倒れてしまった盟友に。


「何ヤラれてんのバカ! ワタシの事が好きなんでしょー!? なら、こんな時に寝てんじゃないイザナギ=ヤマト!」


 瀕死のアーサーは苦情する。


「まったくキツいのぅお前は……遅いわぃ…気付くのが」


「そして邪魔すんじゃないリィナ、いま――最高に良い所なんだから!!!」


 長い長い輝く紅の髪。

 呼応するかのように燃え上がる魔法粒子。

 創世記からの絶望の輪廻を断ち切る為に。


 そういう名前の幕が叩き落される。


 ―――決戦。


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