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第98話 運命の女神様…7


「お? オイ、土橋?」


 あたしは両頬に手を当てると、田村くんの眼の前で妄想を追い払おうとして乱暴に頭を振った。急に首を振ったりしたものだから、田村くんが驚いて思わず声を掛ける。


 なに? あたしったら、少し優しくして貰ったからって、ときめいたりなんかしちゃって……なんて図々しいんだろ。


「ね、ね、今、俺の事カッコイイって思わなかった?」


 あたしの心の中を読んだのか、田村くんはにやりと笑って表情を崩した。


「何が?」


「はああ? 『何が?』って……って……チクショ~、決まったと思ったんだけどなー」


「何自分に酔ってるの?」


「……そう思う?」


「うん」


 彼はあたしの返事を聞いて、がっくりと項垂れた。


 慶も判り易いけれども、田村くんは慶以上に表情が出易くて判り易いタイプだわと思った。そしてさっきまでの微妙な態度は、あたしに精神的動揺を誘ってからかっていたのだと判った瞬間、そんな事を思い付く彼が妙に幼く見えてしまい、あたしの彼へ対する関心はたちまち色褪せてしまった。


 あたしはこれ以上慶の事で田村くんから余計なチョッカイを出されたくなくて、本人へ話題を振る。


「あたし、てっきり田村くんか姫香のどちらかが告白したんだと思ってた」


「別に。告ってから付き合い出す奴も居るけど……まぁ、川村とはフツーで居られるつーか、気兼ねしなくて良いから」


「そうなんだ」


「馬が合うって言うのかな? なんか、思考回路が似てるんだよ」


 一緒に居ても平気なんだ……お互いに告白こそ無かったらしいけれども、田村くんと姫香との関係は、どうやらあたしが心配する程、危なっかしい仲じゃ無さそうだわ。


 あたしは改めて二人の仲の良さを彼の様子から読み取り、ホッとした。そして、彼の挑発に乗らなくて良かったと思う。


「なあ、土橋。異性の友情と、同性の友情って違うってーの判る?」


「え?」


 突然何を言い出すのかと思えば……これだもの。男子ってどうしてそう突拍子も脈絡も無い事を思い付いたりするのかしら。


 あたしがそう思っても、姫香は田村くんと思考回路が似ているらしいし、あたしだけが特別に男の子を理解出来ていないのかしら?


「小さい頃って、男とか女とかって、それ程気にしなかっただろ?」


「う、うん」


「でもな、お互いに性別を意識し始めて、相手が異性だと一緒に居辛くなる時期が来るんだよ。自分とは違うって線引きしちまって、同性の中だと居心地が良い様に思えて来る。丁度、今の土橋みたいにな」


「な……」


「しかも男同士の友情って長続きするモンだけど、女同士って……男が絡むと案外呆気なく終わっちまうものだからなー」


「そんな……」


 本当は『そんな事無い』って、ハッキリと言いたかった。


 だけど、田村くんの理論も一理あるのかも知れないわと思ってしまうのは、姫香と言う親友が田村くんの彼女じゃなかったら……とあたしが考えてしまったからなのだと思った。


 姫香や田村くんが、どれだけあたしの恋愛の先輩になるのかは知らないけれども、二人の『自然に振舞える』仲の良さとか見習える所は見習えば良いし、あたしにだってきっといつか素敵な人にめぐり逢えるって信じてるもの。


 ただ、その日がいつ来るのかは判らないけれど……


「なぁ、土橋は告られなきゃ駄目な方? それとも自分から告る?」


「こっ、『告る』だなんて……そんなの急に聞かれても困るわ」


 軽いノリで訊かれてしまい、あたしは眼の前に居る田村くんと、あたしの脳内に浮かんだ慶の顔とが二重にダブって見えて、うろたえてしまった。


 こんな話を田村くんと……あたしが親友の姫香の彼氏だと思っている男の子としているだなんて……勘弁して欲しいわ。だけど意識していないこんな時でも、慶の顔が自然に浮かんで来るのはどうしてなのかな? 


「別にそんな深刻に考え込まなくっちゃなんねーモンか?」


「わ……判らないわよ。その時が来ないと」


 そんな気軽に考えられるものなのかしら?


 あたしの返答が気に入らなかったのか、田村くんは軽くふうんと相槌を打つと、それっきり黙り込んでしまった。



「ん、じゃコレ頼むわ」


「うん、助かったわ。ありがとう」


 あたしの家の前まで辿り着くと、田村くんはそう言って慶のカバンを差し出した。そしてあたしに背を向けようとして、急に立ち止まる。


「ああ、言い忘れていたけど……」


「なに?」


「さっきの事だけど……余計な事言って悪かったよ。人を好きになるのも嫌いになるのも本人次第だしな。他人がそうだからって、何も自分も同じにしなくっちゃいけないなんて無いし、土橋は土橋で良いんだから」


「……?」


「ま、何でも自分のペースで頑張れってコト。気にすんな。じゃあな」


 慶のカバンを届ける役目を果たした田村くんは、そう言って駆け足で学校へと戻って行った。


 田村くんが慶のカバンを届ける役を買って出たのは、何かをあたしに伝えたかったのじゃないのかしら? 


 思わせ振りな彼の態度が、姫香の言動と何気に頭の中でリンクしてしまう。それって、あたしへ慶の事を応援してくれているって思っても良いのかしら?


 小さくなる田村くんの背中を見送りながら、あたしは胸の中で、寄せては返す波のように不安と期待が交互に入り乱れていた。



 お隣の慶の家には、まだ誰も帰っていないらしくて、人の気配が全くしていない。あたしは届けて貰った慶のカバンと自分のカバンを手にすると、一旦家へと引っ込んだ。


 本当は、このまま亜紀のお見舞いへ行こうと予定を立てていたのに……カバンのお陰で、予定が狂ってしまった。


 あたしは自宅に持って帰った慶のカバンを、恨めしく見詰めてしまった。


「……」


 あたしってば、何考えてるの? 亜紀のお見舞いに行こうと思えば行けられるのに……


 幾ら頼まれたからと言っても、慶の家はお隣なんだから、カバンを返すのなんていつだって出来ると思った。だけど気分が優れなかったせいもあって、この時は慶の事を棚上げしてまで亜紀のお見舞いを優先する気にはなれなかった。


 どうしてなのかな? 親友の亜紀が入院しているのに、何故か慶の事を放っておくのを躊躇ためらってしまう。


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