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生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい  作者: のの原兎太
第二章 迷宮都市での暮らし
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キンデル建材部門長

 その日、商人ギルド薬草部門長のエルメラさんはたいそう荒ぶっていた。


「『喧嘩を売っとるのカネッ』なんてばかげた台詞を、本当に言う人がいるなんて思わなかったわ。」


エルメラさんのご機嫌斜めっぷりに、ゴードンらドワーフ3人組は一番日当たりの良い席を譲り、薬味草店のメルルおばさんは、気持を楽にする取っておきの茶葉を選んでくれた。ジークなど表の立て看板をそっと「CLOSED」に替える始末だ。

 彼らが気を利かせて席を外してくれた後、マリエラはすっかり常連となったキャル様と一緒に薬草茶を囲んでエルメラさんの話を聞いた。

 程よく冷めた薬草茶をごくごくと飲み干したエルメラさんがおっしゃるには。


 昼過ぎに約束も無く、エルメラの執務室を建材部門長のキンデルという男が訪れたのだそうだ。都市防衛隊へ薬草の加工品を、すぐに大量に納品してくれという案件で。


「ご説明しましたとおり、都市防衛隊への納品量はお約束の量を既に超過しております。」

「コレは都市防衛隊のテルーテル大佐直々のご依頼なのダゾッ。」

「なぜ、都市防衛隊からの依頼を建材部門長が持ってくるのでしょうか。」

「ワシはテルーテル大佐と同じ学院を卒業した先輩後輩の仲だからダッ。」

「都市防衛隊からの正式なご依頼には既に返答しています。」

「キミはワシに喧嘩を売っとるのカネッ!?」

「建材部門長が他組織の依頼を持ってくるほうがおかしいのでは?」

「ワシは忙しい!話しかけるナッ!」


 こんな会話が繰り広げられ、忙しいエルメラさんの時間を割いたキンデル建材部門長は、喚き散らして帰って行ったそうだ。


 えーと、うーん、突っ込みどころが満載過ぎて何処から聞いていいものか分からない。

 キャル様も「まぁ、それは」等と言葉に詰まっている。キャル様の護衛の人たちなど「何も聞いておりません」と言った表情で背景に溶け込んでいる。

 マリエラはとりあえず、一緒に選別したアプリオレの実を練り込んだクッキーを出す。魔力を練りこんでいない、ごく普通のクッキーだ。ぽりぽりとリスのようにクッキーを齧るエルメラさんの横で、エルメラさんを迎えに来た副部門長のリエンドロさんが説明してくれた。


 都市防衛隊は迷宮都市の外に広がる穀倉地帯の警護と、魔の森を伐採し穀倉地帯の拡大を任務とする部隊で、迷宮討伐軍に比べると遥かに危険性が少ない部隊であることから、家柄がよく戦力に劣る兵が多く所属する部隊だそうだ。その代名詞が部隊長のボーズ・テルーテル大佐。

 彼が都市防衛隊を率いるようになってから、魔の森の伐採は進んでおらず、穀倉地帯も増えないままだ。迷宮都市の木材は魔の森を伐採したものが大半を占めるから、伐採量が少なければ建材の価格は上がる。


 その辺りをうまく帳尻合わせしているのが、先ほどの話に出たキンデル建材部門長だ。キンデル建材部門長も評判が悪い男で、50歳を超えるまで商人ギルドの様々な部署を転々としてきた。常時開いた口元からは並びの悪い歯が覗いていて、迷宮都市では珍しいほど筋肉の付いていない痩せぎすの体型をしている。

 歯の隙間から空気が抜けるような独特のイントネーションで、早口かつ感情的に自分の用件をまくし立てる男だ。今の地位に就けたのも、自らが言ったように「テルーテル大佐と同じ学院を卒業した先輩後輩の仲だから」だと、まことしやかにささやかれている。


 テルーテル大佐はというと、キンデル建材部門長と対照的にたっぷりとした腹回りをしている。腐っても都市防衛隊に所属しているので一般的に見ると太すぎるというわけではないが、身長が低いので余計に丸く見える。毎日良いものを食べていますといわんばかりの腹回りと、脂が滲み出たように艶光る頭頂部の持ち主だ。側頭部に残った髪を強引にかぶせている所が未練がましい。

 自分の財布を開くときにはけちなくせに、隊の物品は大盤振る舞いな男だと有名で、今回のことも無計画に魔物除けの香やデイジスで作った縄を使用した結果だろう。もうすぐ砂糖かぶらの収穫期で、砂糖かぶらを狙ってオークが大量にやってくるというのに、在庫が足りないから追加納入を、と言ってきたのだ。


 魔物除けの香の原料となるブロモミンテラもデイジスも安価な薬草で、迷宮都市のいたるところに生えているけれど、それを採取、加工する人手は有限だ。安価な製品なので、採取したり加工する人材を確保するほうが困難だ。

 都市防衛隊への納入量は年間契約してあり、商人ギルドは納入量を生産者に割り振って生産を依頼し、計画量以上の製品を納品してある。既に契約の範疇を超えている上に、今は様々な薬草の収穫時期で方々に問い合わせても、とても確保できる状態でない。

 この状況は、契約量を超えた段階できちんと話をしてある。きちんと管理して使用すれば、十分賄える量を追加納入してあるというのに。


「それで、泣き付かれた建材部門長がしゃしゃりでて来たんだろうねー。」

 のんびりと話すリエンドロさん。そんな内情を話していいんだろうか。


「てことで、マリエラさん、1週間で魔除けの香とデイジスの縄、どれくらい作れそうかなー?」

 リエンドロさんはのんびりした喋りに反してちゃっかりしていた。


 ブロモミンテラは裏庭に大量に生えていたから、乾燥粉末は地下室に大量にある。香に加工するのは簡単だ。デイジスも縄は作れないけれど乾燥させたものなら提供できる。


「いやー、助かるよー。幾ら契約に無いからって、オークの襲撃のときに準備しないわけにはいかないからねー。デイジスの方は明日にでも人をやって取りにこさせるよー。香はできるだけでいいからよろしくねー。さー、エルメラさん、お仕事が溜まってますよー、帰りましょう。」


 お茶とお菓子で落ち着いたエルメラさんを連れて、リエンドロさんは商人ギルドへ帰っていった。アプリオレのクッキーを沢山包んで渡してある。エルメラさん、がんばれ。マリエラは心からエールを送った。




 エルメラさんが薬草部門長席に戻ると、待ってましたとばかりに仕事が舞い込んできた。

「バンダール商会から、ヤグー便に積み込むエントの実が足りないので急ぎ手配して欲しいそうです。」

「わかりました。至急行って片付けましょう。今日こそは定時に上がりますよ。」


 お土産のクッキーを齧って「よし、頑張りましょうか」とエルメラさんが気合十分に復活したその頃、キンデル建材部門長は都市防衛隊テルーテル大佐の部屋にいた。


「申し訳御座いませンッ、テルーテル大佐。あの石頭女、大佐のご依頼だというのにまったく聞こうとしませんデッ。」

「彼女にも困ったものだね。見た目通り硬くて細かい。よく部門長が務まるものだ。

 それで、どうするのかね?キンデル建材部門長。今の在庫量ではオークの襲撃に耐えられないだろう。代案はあるのだろうね?」

「ハッ、ハイッ。冒険者ギルドに依頼してみるのはいかがかトッ。」

「冒険者ギルドか。いいね、破限のハーゲイ殿をお招きして、是非前回の武勇伝をお聞きしたいね。」


 不機嫌さを隠そうともせずエルメラ部門長をなじっていたテルーテル大佐は、話題がハーゲイになるやとたんに機嫌が良くなり、艶やかな頭部ごと身を乗り出した。50台半ばを超えたこの男は、歳相応の薄い頭髪と歳不相応な冒険者好きの趣味を持っていた。

 自身の弱さ故の憧れもあるのだろう、老若男女を問わず高ランクの冒険者が大好きで、二つ名持ちであればSランクからBランクまで帝国内の冒険者を残らず記憶しているフリークぶりだ。

 用もないのに冒険者を呼びつけるほど非常識ではないが、用があるなら大喜びで会いにいく。普段はとてもケチなのに、冒険者に関してだけは、彼の財布の紐はゆるゆるだ。

 ちなみに彼の神推しは『雷帝エルシー』。正体不明の女性Aランカーだ。死ぬまでに一度会ってみたいと思っているらしい。


「そっ、それは、まぶしい会談になりそうですナッ……」

 キンデル建材部門長はテルーテルの頭部をちらちらと見ながらそう答えた。自身の頭部も荒廃しているというのに。


「……何処を見て言っているのかね?」

「いっ、いえ、お二人のオーラを思いうかべますと目がくらむ思いでありまシテッ」


 ちなみに、まぶしい会談は叶わなかった。


 用件を伝えたキンデル建材部門長に、ハーゲイの部下である副ギルドマスターが、

「この金額で、この量を、この納期でですか?無理です。」と断じ、

「無理だそうだゼ!」

と、ハーゲイがずびしと断ったからだ。


 ぐぬぬ。と、分かりやすい歯噛みをするキンデル建材部門長。

 このままでは、また怒られてしまうではないか。


 そもそも、都市防衛隊の物資調達など、彼の仕事ではないのだが。

 本来の自分の仕事を投げ出したまま、何か良いアイデアは無いものかと、キンデル建材部門長は自らの執務室内をぐるぐるとうろつきまわった。






ヘイトキャラを出してみましたが、この人達ちゃんとヘイト稼げてるんでしょうか……。

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― 新着の感想 ―
雑魚にも雑魚の役目が有る。 話数を稼ぐのに必要な 愛すべき雑魚キャラ。
髪の毛が薄い人を笑いやすいのは分かるけど、これまでもその選択が安易な上にネーミングもちょっと怠慢過ぎると思います。お話はこれまで面白かったので読み続けようと思うけど、ちょっと残念。。。
後書き。子供向けアニメに出て来る、愛嬌のある悪役って感じなので、あんまり……w
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