66.ソンブラムの精霊さんに聞いてみた
前回までのあらすじ:ジークとエドガン、素材を求めて鉱山を探索中。
ジークとエドガンが、調子よく坑道を探索している頃、お留守番を申し渡されたマリエラとソレンは、優雅にお茶を飲みながら女子トークを楽しんでいた。
女子会だ。一人は一見男性に見える容貌だけれど、身なりを整えれば美人になる系女子なのだ。もちろんマリエラだってそうに違いない。素材の良さを庶民オーラが隠しているだけなのだ。
「ソンブラムの精霊さんに聞きたいことがあるんですけど」
「誰のことかはわからないけど、私にわかることなら答えてあげるよ。空気の読める子は好きだからね」
ちなみにロバートはハイツェルに捕まって男子会だ。
ロバートの苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶが、おかげでマリエラはソレンと二人きりになれた。今回ばかりはハイツェルにグッジョブと言いたい。
「……ロバートさんのこと、嫌いですか?」
「ははは。ちょっと直球すぎないかい? 嫌いだったらこんなところまで一緒に来たりはしないよと流したいところだけど、マリエラちゃんの聞きたい“嫌いじゃない”はそういう事じゃないんだよね?」
困ったなぁと小さくため息をつきながら、ソレンはマリエラを見る。
アントバレー行きに同行するにあたり、ソレンは同行者およびその言動に関する一切を守秘する魔法契約を交わした。シューゼンワルド辺境伯家が皇帝にポーションを上納することは聞いていたから、その関連だろうと思っていたが、流石にもう気が付いている。
隠し事の中心は、このマリエラだ。
(一見どこにでもいそうな娘だから見逃しそうだけど、奇病を治したあのポーション、材料だけ見たって誰にでも作れるものじゃない。
迷宮都市でアグウィナス家が抱えてた帝国の錬金術師の一人で、……おそらくは、エリクサーを錬成したという“始まりの錬金術師”の関係者。
となると、この質問はシューゼンワルド辺境伯家の代弁と考えた方がよさそうだ。好奇心による恋バナってわけじゃないだろう。
(家督を外されたから安心してたけど、ロバートはアグウィナス家の長男だし)
頭脳明晰な者は、深読みしがちな傾向にあるのだろうか。
ソレンの読みは所々は合ってはいるが、根本的に間違っている。さすがはロバートの友達だ。本人がいる前で「錬金術師はどこにいる!」とやらかさないだけましかもしれないが。
これは、単なる好奇心による恋バナだ。
マリエラの苦手分野すぎるからド直球になっているだけだ。
(ロバートが、私が女だって気付いてなかったから油断してたけど、狙いはやはりアルドリッチ家とのコネクション? 古いばっかりでたいした財産もない家だけど、人脈だけはあるしね)
ソレンの中で勝手に組みあがっていくストーリー。意外とソレンは陰謀論とか好きなのかもしれない。
わくわくとソレンの返事を待つマリエラの視線さえ、自分の一挙一動を見逃すまいと観察されているように思える。
(あぁ、この娘もこんなに庶民庶民した見た目で、考えてることはお義母さまと同じなんだろうなぁ。まったく、貴族というやつは。こんなことなら、珍しい魔物に惹かれてホイホイついて来るのではなかった。私は夢を叶えるために、こんな格好でアカデミーで頑張っているのに!)
一見女性と分からないソレンの格好。
髪を下ろして眼鏡を取れば面食いなロバートを一撃必殺出来るような美人がそんな恰好をしているのは、当然ながら理由があるのだ。
【帝都日誌】マリエラに、キューピッド役は荷が重い。byジーク




