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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
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87.善後策

 社内の安全を確保したところで、竜也と清美は次の策に入ります。


 神社で何が起こったか知っている清美は、これから白川鉄鋼に起こる事も予想がついていました。こういう情報を持つ人が来ると、一気に計画が立てやすくなりますね。

 考えられる二つの道、そこで罪人たちがとった選択は……。

「ほう、工場内の安全は確保できたか」

 内線で事務長からの報告を聞きながら、竜也はホッと胸を撫で下ろした。どうやら、事務長と部下たちはうまくやってくれたらしい。

 これで野菊が来ても、建物内の死霊を操られて内からの奇襲をかけられる可能性を消すことができた。

「社員側の被害はゼロ?やるじゃない」

 ひとまずの勝利に、清美が愉快そうに微笑む。

「もしここで社員が噛まれたりしたら、今後に響くから対策を考えなきゃいけないところだけど……今のところ大丈夫ね。

 それにしても、ずいぶん有能な部下だこと。

 死んでるとはいえ、進んで傷つけたい相手じゃないでしょうに」

 清美は、元が知っている人間であるため処分をためらってへまをするのではないかと心配していた。

 自分たちはまさに知った人間であろうが祖先であろうが容赦なく切り捨ててきたが、それが人として異常だと分かってはいるらしい。

 そんな清美に呆れの視線を送りつつ、竜也は告げた。

「いたんだよ、軽々しく暴力を振るえる奴が。

 こういう緊急時や戦争なんかで、真っ先に倫理を踏み越えて大戦果を叩き出して、ある種英雄になれる人物がね。

 ……そこにいる、陽介君のお父さんだ」

 それを聞くと、陽介は小躍りして喜んだ。

「おおっマジっすか!さっすが親父!

 俺、親父の言う事聞いてて良かった~!」

 ひな菊も、ここぞとばかりに陽介にすり寄って猫なで声でささやく。

「すごいじゃ~ん、やっぱ使える男は親も優秀ってことよね~。この調子でバンバン死霊倒してくれたら、もっと昇進させてもいいかもよ~?」

 ひな菊は、死霊を恐れずに戦える馬鹿にすっかりすがりついていた。無理もない、ひな菊はさっきの惨劇と自らが犯した罪のせいで死霊を極度に恐れているのだから。

 そんな娘を苦々しい顔で見守りつつ、竜也も今はあいつに頼るしかないと思っていた。

 その気持ちを、聖子がぼそりと代弁した。

「まあ……バカと刃物は使いようって言うしね」


「さあ、これからの話に戻るわよ。

 生き残るために、私たちにはまだやる事があるわ」

 清美が空気を入れ替えるように話を変える。一つの戦果についていつまでも論じている時間などない。

 清美は、神社の方を眺めながら言う。

「きっともうすぐ、たくさんの人がここに逃げてくるはずよ。神社に避難してた中で、ここに関係のある連中が主でしょうね。

 神社が落ちたから、次に安全そうで家族や知り合いがいるここに来るはず」

「なるほど……となると、二つの選択肢があるな」

 竜也が呟きながら、目を細める。

「どちらにも、大きなメリットとデメリットがある。

 そいつらを受け入れるか受け入れないかで、今後の戦い方が大きく変わるだろう」


 避難して来た関係者を受け入れた場合、戦力を増強して人望をさらに強化できるというメリットがある。

 人手が増えるし、人道上正しいことをするのだから当然だ。

 ただしデメリットとして、避難者の中に死霊に噛まれた負傷者がいる可能性がある。これをそのまま抱え込んでしまうと、身中の爆弾となる。

 さらに、白川鉄鋼に恨みを持つ者が紛れていて、土壇場であらぬ行動に出られる危険がある。

 こういう奴らにひな菊の犯した罪がバレたら、最悪だ。

 それからこれは会社に直接関係ないが、清美がここにいるとバレると問題だ。必ず、清美を切り捨てろという声が出てくるだろう。

 受け入れない場合それらのデメリットは回避できるが……こちらも安全とは言い難い。

 受け入れないということは、それだけの人間を切り捨てるということ。当然捨てられた者の恨みを買うし、その家族や知り合いである社員の動揺は免れない。

 会社は大きく信用を失い、今後に多大な影響を及ぼすだろう。

 それ以前に、死霊ではなく人間の手で防御を破られる恐れがある。

 どちらを取るにせよ、先は茨の道であった。


 迷う竜也に、清美は静かに言った。

「避難して来た人たちは、できる限り受け入れて。私たちは多くの敵と戦うのだから、兵はできるだけ多い方がいい。

 でも、対策もできる限りして。

 受け入れる人たちには社員による傷の確認を徹底、それからあなたの指示に従うよう念書を書かせて。

 私と聖子の存在は……初めは知らせない方がいいわ」

 清美の意見は、意外にも自身のリスクを取るものだった。

 いや、村人たちに見つかって責められる危険を冒しても、戦力の増強を選んだと言うべきか。つまり、野菊がそれだけ強敵だと知っているということだ。

「なるほど、それなら守りはより固くなるだろう。

 しかし、うちに対する禁忌破りの疑いはどうする?

 ここに野菊が現れれば、ここに大罪人がいるからだと村人は見るだろう。そうなれば、ひな菊が吊し上げられる恐れがある」

 守りの強化には、竜也ももろ手を挙げて賛成だ。

 だが、実際に大罪人になってしまったひな菊のことだけが何より心配だった。

 すると、清美が覚悟を決めたように言う。

「その時こそ、私と聖子が出るわ。私たちがここにいたから、野菊が来たんだって……大罪人がいるせいじゃないって、ごまかしてあげる。

 実はね、大罪人疑いの子が神社で既に見つかってるのよ。学芸会の騒ぎを仕組んだ咲夜ちゃん……あの子、白菊を捨てる焼却炉の鍵をかけ忘れて花を盗まれたらしいの。あの家でしか育ててない花を、白菊姫が頭に挿してた。

 何ならそこを突いて、咲夜が白川鉄鋼を潰すために自作自演で禁忌を破ったって言い張ることもできる」

 それは、竜也とひな菊にとって素晴らしい逃げ道だった。

 どちらの選択をしても野菊はここに来るのだから、それなら清美のくれた逃げ道を活用しつつ戦力を増やした方がいい。

「そうそう、その花俺が盗んだんですよ!

 な、俺っていい仕事するだろ~?」

 陽介は意地汚く手柄を主張するが、ここは素直に受け取ってやろうと竜也はほくそ笑んだ。

 何と言っても、彼の功名心のおかげで、自分たちが罪を背負うことなく戦力を増やして娘を守れる道がつながったのだから。

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