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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
74/320

74.連鎖

 ゾンビは数が増えれば増える程、被害も加速度的に増していきます。

 気づく奴がいるかどうかが、被害を止める鍵なのですが……。

 一番初めに、近寄って来る血まみれの仲間に気づいたのは、手首を噛まれて止血している救命士だった。

「あれ、おまえ死んだんじゃ……?」

 その声に、止血を手伝っている無事な救命士も顔を上げる。

 そして、フラフラと歩み寄ってくる仲間の姿を見て歓喜の涙を浮かべた。

「生きてた……良かった!生きてたのか!!」

 無事な救命士は、感涙に目を潤ませながら声をかける。

「ごめんよ、死んだかと思って!死んでなかったんだな。ただの仮死状態だったんだな。俺が冷静に判断できなかっただけだな。

 うおおおぉ良かったよぉ!!」

 むせび泣く無事な救命士に、血まみれの救命士は近づいて手を差し伸べる。

「ん?何だ、手伝おうってのか。

 やめとけ、おまえはもう寝てろ。あんなに出血したんだ、おまえはもうそうやって動いていい体じゃないんだよ。だから……」

 血まみれの救命士をいたわり、ねぎらい、休ませようとする。

 だが、それを見ている他の仲間の目は感動に染まっていなかった。

 他の三人の救命士は、何とも腑に落ちない顔でこれを見ていた。目の前で起こっている事態に、言い知れぬ不気味さを拭えない。

「ねえ、何であんなに血が出て動けるんスか?」

 若い救命士が、ぼそりと口にする。

 彼らは救命士であるからして、当たり前に知っている。どれくらい血を失えば人間は死ぬのか、その目分量を。

 首を噛まれた救命士と看護していた救命士の血に染まり具合、そして床にぶちまけられた血の量から……どう見ても出血の致死量を超えている。

 なのに、動いている。立ち上がって、歩いている。

 これはおかしい。二つの事実が矛盾している。

「一体……どうなってやがるんだ?」

 年配の救命士から、恐れを帯びた呟きが漏れた。


 その時、若い救命士が悲鳴を上げた。

「イデェッ!!」

 はっと見れば、傷ついた女が手首に噛みついていた。女の首の脈を探る手を離さないまま視線を外したため、噛みつきを避けられなかったのだ。

「バカ野郎!噛みつくって言われたのを忘れたか!」

「だって、早く鎮静剤を打てるとこを探さないと……」

「救助は自分の安全が第一だ!」

 すぐに年配の救命士が女の顎を掴んで外しにかかるが、女の力は想像以上だ。あっという間に、手首の薄い肉が食いちぎられる。

「うぐううっ!!」

 そしてまたもや、鮮血がまき散らされる。

 ちぎれた手首の動脈から、心臓の鼓動に合わせて噴き出す鮮紅色の血。さっき指を食いちぎられた時のそれより、はるかに多い。

「チッすぐ止血だ!」

 痛みに身を縮めて悶える若い救命士を、年配の救命士が女から離して下がらせる。もちろん、処置をするために自分もだ。

 後には、机で押さえつけられた女と、押さえつける社員たちだけが残った。


 社員たちは、その様子を唖然として見ていた。

「おい……こいつを助けてくれるんじゃなかったのかよ……」

「あんたらプロだろ!?何やってんだ!」

 その目には、助かる期待をまたしても裏切られた失望と、本当にどうなるか分からない不安と恐怖が浮かんでいた。

 救急隊が来たから皆助かると思ったのに。一人がひどい事になっても、増援が来たからきっと大丈夫だと思ったのに。

 全然、誰も助かってないじゃないか。

 思わず、やり場のない怒りが救命士たちに向かう。

「……結局、助かってんのはあいつだけじゃねえか」

 舌打ちして、フラフラと仲間に歩み寄る血まみれの救命士に視線を向けた。


 年配の救命士は、焦っていた。

 自分たちは通報のあった重傷者を助けるためにここに来たのに、未だ何一つできていない。それどころか、こちらの被害が増えるばかりだ。

 いやそれよりも、訳の分からないことが起こりすぎている。

(なぜだ!なぜあの女は動ける!?

 私が診たところ、あの女には呼吸も脈もなかった。あれだけ解放された傷口があるのに、血が出ていない。

 あんな状態で長時間動ける人間など、いるものか!)

 長年命の瀬戸際を見続けて培われた勘と、職業上当たり前に持っている知識が警鐘を鳴らす。

 この状況は普通じゃない、と。

(それに、首を噛まれたあいつだってそうだ!

 ただの心臓発作なら、脈が消えてからもすぐ蘇生して元気になることはある。けどあいつの場合は、失った血が戻ってくる訳じゃない。

 どう考えても死んでるはずなのに、動けるはずがねえのに……)

 と、そこで奇妙な一致に気づいた。

(……あの女と、同じように?)

 気づいて、寒気がした。

 要点を洗い出してみると、二人に起こっている事には共通点が多い。こんな有り得ない異常事態が、偶然すぐ近くの二人に起こるのか。

 ぞっとした年配の救命士の耳に、社員たちの会話が流れ込んでくる。

「……何か嫌な感じだな、あいつ。

 あの歩き方と目つき……似てるんだよ、この女が俺たちに近寄ってきた時の動きに」

 また、共通点が出てきた。しかも、別の視点から。

 自分も社員の一部も、あの女と血まみれの救命士に多くの共通点を見出している。となると、さらに同じことが起こるのではないか。

 あの女に近づかれた社員の身に起こったことは……。

「様子がおかしい!そいつから離れろ!!」

 年配の救命士は、叫んだ。

 だが、感動に浸っている無事な救命士は聞かない。

「何言ってる?大事な仲間が生きて……ぎぐううぅ!!?」

 予想通り、同じことが起こった。

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