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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
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60.逃亡の先

 死霊が侵入し安全ではなくなった神社から、村人たちは脱出します。

 しかし、今夜は村全体に死霊がはびこり、安全な場所はありません。


 そんな中、村人たちはそれぞれに逃亡先を選びます。そして、我が子を先に放り出してしまった咲夜たちの家族は……。

 ここでの選択によって、今後の安全と巻き込まれる展開が決まります。

 村人たちは、神社の奥になだれ込んだ。

 そこには社務所があり、死霊を身に行かなかった村人たちや休息が必要な女子供、それに監視されている白川鉄鋼関係者の家族がいる。

 何も知らない彼らは、表から多くの村人たちが血相を変えて走ってくるのに驚いた。

「おい、何かあったのか!?」

「死霊だ!死霊が神社に入ってきた!!」

「ちょっと待て、ここは安全じゃ……」

「結界なんかねえ!清美さんは、俺ら全員をだましやがったんだ!!」

 途端に、ここでも蜂の巣をつついたような大騒ぎが広がる。

 だって彼らは、ここが一番安全だと思ったからここにいるのだ。死霊が入れない結界で囲まれた、その一番奥の建物がある場所だから。

 万が一にもここに死霊が来ることなど、想定していない。

「逃げるんだ、早く!!」

「いや逃げるって……どこへ?」

 問われても、答えは出ない。

 だってこの神社が災厄の時に唯一安全だと聞いたから、ここに来たのだ。ここが安全でなくても、他に安全な場所などない。

 だが、そこでまたしても老人たちが声を上げる。

「神社の裏手の道路から逃げて、死霊が壊せんような建物に入れ!

 死霊は少なけりゃそんなに力はない、家に隠れて電気消して静かにしとるだけでも助かる。野菊本人さえ来なけりゃ、それで十分だ!」

 こんな状況でも、さすがに経験者は強い。

 そもそも、前回は軍が神社を封鎖したため村人のほとんどが避難できなかった。つまり今生きている経験者は、ほとんどが神社以外の場所で生き残っている。

 彼らは、自身が結界のない場所でも生き残れる証明であった。

 そして、彼らは結界以外で死霊から逃れる方法を知っている。

「死霊の動きは遅いぞ、皆落ち着いて裏手の道路から逃げろ!」

 表からは絶え間なく悲鳴が上がっているが、未だ死霊が見えないここの人たちはまだ何とか落ち着いて避難を始めた。

 安全でない以上ここにいてはいけない、それだけは分かっていた。


 ここから、どこに逃げるかは人それぞれだ。

「よし、追いつかれる前にうちに戻るぞ!」

 対多数は、勝手知ったる自宅に戻ることを選んだ。

 この暗くてどこに敵がいるか分からない中、無闇に動いて迷子になるのは致命的だ。だから、よく知っている場所につながるよく知っている道を行く。

 それに、現代の比較的新しい家屋は頑丈で数体の死霊なら侵入を防げる。

 さらに、人が集まらない事も条件だ。

「皆、できるだけ散って隠れろ!

 その方が、大罪人の巻き添えが減る!」

 今回野菊は清美と聖子を狙ってきたため、大罪人と思しき咲夜たちを追わなかった。だが、伝承や前回の経験から大罪人が狙われることは間違いない。

 そしてもし隠れた同じ場所に大罪人がいた場合、野菊本人の侵攻を受けることになる。

 野菊は死霊と異なり、神通力を持つ。そのため大罪人はどこにいても見つかるし、どんなに防御を固めても意味がない。

 だから、少人数すつで隠れるのだ。

 前回の経験者の話や伝承を信じる、主に信心深い農家や土着の家の者は、個々に自宅にこもる方を選んだ。


 だが、全く逆の選択をする者もいた。

「へっ、巫女があんなんじゃ他の話もどこまで信じられるか!」

「家だと!?あんな壁の薄い社宅で一人でどうしろってんだ!」

「死霊ってのは倒せるんだろ?だったらもっと頑丈な塀に囲まれたところで、集まって戦うべきだ!」

 白川鉄鋼の関係者やその家族、一部の若い世代がこちらの選択をした。

 頑丈な塀に囲まれ人が多くいる場所、白川鉄鋼に向かう選択を。

 白川鉄鋼の関係者たちは、自分たちを疑って監視した農家中心の村人たちと一緒にいるのも、その言葉に従うのも嫌だった。

「あーははは、結局あたしたち関係なかったじゃない!

 なら、ここからは自由に身を守らせてもらうわよ!」

 足取り軽やかな陽介の母を先頭に、一団は白川鉄鋼目指して駆けていった。


 そのどちらの選択も、できない者がいた。

「私たちは、咲夜を探しに行かなければ」

「ええ、うちも大樹が心配だわ」

 それは、さっき誤って放り出されてしまった咲夜たちの家族だ。彼らは、本当の狙いではないのに追い詰められ放り出された我が子が心配でならなかった。

「結果として分かったことだが、あの子たちが放り出される必要はなかった」

「ええ、それに……たとえ災厄の一端を担っていたとしても、大樹たちにその気はなかった。咲夜ちゃんだって、盗まれる状況を作っただけ。

 実際に花を盗んで、供えた側じゃないのに」

 咲夜たちは禁忌を破ろうとして行動したのではない。

 冷静になって考えれば、それが罪に当たるかも怪しい。

 だから、咲夜たちは無防備なまま死ぬべきではない。標的ではなかったことを伝え、慰めて守ってやるべきだ。

「咲夜は……責任感と正義感の強い子だ。

 大罪人だと責められたままでは、ろくに身を守らないかもしれん。

 ……探して、守ってやらねば」

「そうね、あの子たちを濡れ衣に包まれたまま死なせやしない!」

 咲夜の両親と大樹の両親は、家に帰らず放り出された我が子を探して回ることにした。それが、せめてもの罪滅ぼしだと思ったから。

 しかし、康樹は憤慨して言う。

「そんな、わざわざ命を危険に晒せと!?そんなのは御免……」

「あんたに来いとは言ってない!

 あんたもあたしの子なんだから、死んでいい訳ないでしょ!あんたは家に籠ってなさい!」

 いかにゲーム浸りのオタクといえど、大樹の両親にもう一人の子まで付き合わせる気はない。康樹は晴れて、自宅待機となった。


 一方、浩太の両親は優秀な兄の亮だけ守る気でいた。

「冗談じゃない、亮まで死んだらどうするんだ!?」

「そうや、浩太なんて最近何考えてるか分かんないし、おまけにこんな事件起こして……」

 だが、それに反対したのは他ならぬ亮である。

「ふざけんな、浩太もおまえらの子だぞ!?俺は行く!!」

 亮はそう言って、一人で走り始めてしまった。守りたい亮にこうされては、両親もついて行くしかなかった。

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