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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
309/320

309.あれから~平坂神社

 村の最も重要な守護、平坂神社。

 当主がその座を追われ後継者を奪われたそこは、どのように守りを引き継がれたのか。

 野菊が語った平坂分家の新たな巫女と、その内情。


 そして、ナード代表の浩太に春が来た!

 だいぶ日が落ちかけて茜色に染まった空の下、咲夜たちは集落へと歩く。

 こののどかで平和で、土の恵みに満ちた花いっぱいの村。これから先この村を守っていくのは、この四人が中心となるのだ。

 いや、飛びぬけて大事な役割を担うのが、もう一人。

「やあ、お揃いで。

 あーしも仲間に入れてほしいな!」

 咲夜より丈を短く詰めたスカート、手首や胸元にはドクロのアクセサリーが目を引く。田舎に似つかわしくないパンキッシュな少女が、道を塞ぐように佇んでいた。

 少女はつかつかと浩太に近づき、魅惑的に目を細めて笑った。

「特にキミには、あんまり置いていかないでほしいな。

 あーしの未来のお婿さん!」

「……僕は、そういうところを直してほしんだけどね。輝夜」

 浩太は口ではそう言うが、顔はまんざらでもない。

 浩太とこの輝夜という女は、一応将来を約束した仲だ。といっても恋愛ではなく、お互いを必要として気が合ったからだが。

 一見、真面目な浩太に似つかわしくないクールかつ主張の激しいギャル。

 しかし彼女こそが、村を守るうえで最も重要な、咲夜たちと未来を共にする欠けてはならないピースなのだ。


 平坂輝夜、年は咲夜たちと同じ。もちろん中学では同級生。

 姓が示す通り、彼女は平坂神社の巫女。


 災厄の後、野菊の言った通り、平坂の分家であり死霊の声を聞く力を持つ母子が平坂神社を継ぎにやって来た。

「桃門輝夜……あ、もうすぐ平坂輝夜になりまっす!

 今後ともよろしく~!」

 母親の方が生き残った清美の養子になることで、平坂神社も次の世代へと引継ぎが行われた。

 そして今は、この輝夜と母が村と黄泉をつないでいる。


 輝夜と母も、最初は村人たちから懐疑の目で見られていた。

 やや派手でパンキッシュな服装と、巫女らしからぬサバサバした態度。おまけによそ者で、都会から来た母子家庭。

 清美と同じようになるのではないかと、当初は多くの人が噂した。

 しかしいざ仕事をやらせてみると、この母子はとてもしっかりしていて真面目だった。少なくとも、清美と聖子よりずっと。

 この二人は、自分たちが危険な力とつながっていることをきちんと自覚していた。

「このドクロはさ、あーしらが死神に見られてるってことを忘れないためなんだ。

 分かってる、ウザくても決して無視しちゃいけない。

 でも、父さんはただの占い師で、その辺分かってくれなかったから……父さんの安全のために、だいぶ前に別れたよ。

 分からないし分かる気がない奴とは、分かち合っちゃダメなんだ」

 輝夜は、しっかりと自分の芯を持った巫女だ。

 神事になると、いつもからは別人のように厳かな雰囲気の真面目な巫女に変わる。その一挙手一投足に、強い意志が宿っている。

 そうかと思うと、冗談めかして平坂分家の内情をぶちまけたりする。

「いやー本当はさー、住所不定の紫蔓が来れると一番良かったんだけどね。

 でもあそこ、四代前のばあさんが面倒だからって黄泉とつながってる土地をダムに沈めてめっちゃ怒られてさー……七代は祟られるから黄泉に近づけねーんだわ。

 で、都会で顧客選ばずに探し者とか霊眼封じとかやってたんだけどさ……この村乗っ取ろうとした社長の銃、霊眼封じしたのあいつらなんだよ。

 まっさか野菊様が撃たれるとか思ってなくてさー、めっちゃ謝っといてって土下座してきてワロタ!」

 ……やはり平坂の分家の中にも、やらかす奴が他にもいたらしい。

 だが輝夜と母は、むしろそういう例を反面教師にして己を戒めている。本家の地位に胡坐をかき、外を知らずに調子に乗っていた本家とはえらい違いだ。

 さらに、今は最高の反面教師がすぐ側にいる。

「大丈夫さ、あーしらはしっかりやるよ。

 間違っても、ああはなりたくないからね」

 輝夜も母も、常々清美を見ながらそう言っている。


 生き残った清美は、災厄の夜明けにはすっかり変わり果てていた。たった数時間で、一気に年を取ったようにしわくちゃの老婆のようになっていた。

「お、お願い許して……聖子……あなた……そんなつもりじゃなかったのよぉ!!」

 頭を抱え、憔悴した顔で、うわごとのように聖子に謝る。

 どうやら清美には、常に聖子と達郎の恨みの声が聞こえているようだ。自分の怠惰のせいで死に追いやった、大切な家族の。

 しかもその声は、黄泉から課せられた仕事をしていると消えるらしい。

 清美がこの責め苦から逃れるためには、分家への引継ぎを粛々と進めるしかなかった。

 そんな訳で、清美からの引継ぎはとてもスムーズに終わった。輝夜たちがきちんと修行を済ませていたのも、大きい。

 今や平坂神社の当主は、完全に輝夜の母に切り替わった。

 これなら、また災厄が起こっても前のような大惨事にはなるまい。

 野菊も黄泉で、ホッと胸を撫で下ろしているという。

 役目を果たし終えた清美は急速に体が弱り、今は病院から出られない。もっとも、死んだとて魂が黄泉から逃れられるかは分からないが。


 そんな状況だから、輝夜は将来のことをとてもよく考えていた。

 今度は自分が平坂の当主となり、誰かを婿にもらって子を生まねばならないのだ。その時に、清美や母のようについて来られない男とは結ばれたくない。

 そんな輝夜は、この災厄で賢く立ち回った男の子がいないか話を聞いて回った。

 そして、浩太の話を聞いて、この子だと思った。

「キミ、やるじゃないか!

 白菊姫のこともよく調べてるし、ひな菊を出し抜いた手際も鮮やかだ。それに、咲夜を守ったり役場を守ったり、臨機応変な戦いも見事だ。

 ぜひその才能を、あーしと一緒に村と黄泉の管理に使ってほしい」

 輝夜は堂々と、浩太にそう告白した。

 浩太はその時は驚いたが、これまで女の子にモテたことがなかったところを押し切られて、まんざらでもなく受け入れて今に至る。

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