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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
307/320

307.あれから~沢村田吾作

 田吾作と言いながら、半分陽介の続きです。

 田吾作はいかにして、陽介を守り更生させたのでしょうか。


 陽介を内心許せない人は多かれど、村には誰かがやらねばならない危険な役目がある。そして田吾作の後にそれを継ぐ者は……。

 この災厄で唯一の銃持ち(合法)として縦横無尽の働きをした、猟師の唯一の生き残り、沢村田吾作。

 彼は英雄ともてはやされ尊敬されながらも、恐ろしい危機感を抱いていた。

 田吾作以外の猟師は、この災厄で皆死んでしまった。もう田吾作より後に、体を張って村を守る戦士がいない。

 その候補として目をかけていた少年も、任を果たせぬ体になってしまった。

 体力十分スポーツ万能で人格も高潔な高木亮は、災厄で人格面の弱さを露呈しさらに片足を失ってしまった。

 これでは、もう本人がどれだけやる気を燃やそうと、最前線は任せられない。

 真っ先に死霊と対峙し、必要とあらば体を張って戦い、時には死霊を引き付けて誘導するための不寝番。

 そしてもし塚に白菊を供えようとする者あらば、それを何としても止める力を持つ禁忌の門番とも言える存在。

 これから村を守っていくうえで、どうしても必要だ。

 しかし、積極的に引き受けてくれる者はいない。

 何しろ今回の災厄で、その役がどれだけ危険かは皆の知る所となった。これを消防団に押し付ければ、命惜しさに消防団が消滅しかねないほどに。

 だが、誰かがやらねばならない。


 そこで田吾作は、何としても村のために償わねばならない少年に声をかけた。

 幸い、こいつは体力と運動神経は高木亮に劣らない。

 実際に死霊と戦ったこともあるし、逃げ切った。しかも相手は大罪人の中でも武に優れた司良木クルミとあらば、実績としては十分すぎるほどだ。

 しかも、母の帰る家を守るという譲れぬ願いがあるため、逃げ出す心配もない。

 これまでは悪い親に育てられて目先に囚われる浅慮な子だったが、もうそんな風に育てる親はいない。

 むしろ、保護すればつきっきりで育てられる。

 そんな理由で、田吾作は陽介を養子兼弟子とした。


 この提案は、陽介にとっても渡りに船だった。

 陽介自身、この村で家を守りたいとは思っていたが、自分のしてしまったことを考えるといつまた虐めや復讐をされないか怖くて仕方なかった。

 しかし、次代の守り手となれば話は変わる。

 田吾作に守ってもらえるなら安心して暮らせるし、何より誰もやりたくない命懸けの役目を引き受ける者を殺そうとする者はいない。

「陽介!これからは心を入れ替えて、村を守るか!?」

「はい、この身に代えても村のみんなを守ります!

 これから俺みたいなのが出ないように、出てもみんなが死なないように、塚を守る門番になることを約束します!!」

 多くの村人が集まった中、陽介は田吾作に土下座して誓った。

「よし、約束したなら音を上げずについてこい!

 でないと、儂らの家族になる資格はないぞ」

「押忍!全力でついていきます!!」

 改心と更生を誓った陽介に、フワッと着物が被せられる。それは田吾作が着ているものと同じ、沢村家の紋が入った羽織だった。

「よく言ったねえ、陽介。

 これからは、あんたは私たちの息子だよ」

 しわだらけの顔をほころばせ、白無垢をまとったタエが優しく言う。

 タエは陽介を立たせ、紋付き袴姿の田吾作と並んで村人たちにおじぎをした。すると村人たちから、祝福の声が飛んだ。

「おめでとう、お幸せに!」

「陽介ぇ、きちんと恩返しして楽させてやれよ!」

 それは、田吾作とタエの結婚式の場だった。

 ひとり身になったタエは二郎を葬った後、遺言通り田吾作と結婚し、長年の想いを叶えた。そして、新しい家族として陽介を迎え入れた。

 親を失ったこの子に、家族の温もりを与え、真人間に育てるために。

 そして、二郎とは過ごせなかった、親として子を育てる日々に踏み出した。


 そうして沢村家に迎えられ、陽介はみるみる変わった。

 沢村家には、陽介がいつも怯えて苛ついていた親同士の不和はない。田吾作とタエは身も心も寄せ合って、いつも陽介の方を向いていてくれる。

 暴力でお金や物を手に入れなくても、親が怒らない。

 どっちかに怒られるの覚悟でどっちかに媚びるような、卑屈な覚悟はもういらない。

 陽介は生まれて初めて、家族は自分を受け入れて守ってくれるんだと知った。

「さあ、お肉の心配はしなくていいからね。たーんとお食べ!」

「モグッモグッ!う、美味いよぉ!!」

 田吾作が猟師として獲ってくる鹿肉や猪肉がたんまりあるので、陽介は家計を気にすることなく思う存分食える。

 しかも、たくさん食べるとタエが喜んでくれる。

 タエがニコニコしながら田吾作の猟のことを話すと、陽介はたちまち興味を持った。

「そっか、俺も猟師になって自分で肉を捕まえてやる!

 父さん、どうやったらなれますか!?」

 食いっぱぐれず一人で生きていくために、陽介は生活の手伝いやトレーニングを自ら進んでやるようになった。

 ここでは福山家のように、金は威張り散らす父がどこからか取り出して、母が屈辱に塗れた顔でもっともっとと欲しがるものではない。

 田吾作がどうやって金を手に入れ、タエがそれをどう使って生活しているか、生活の中でどう流れているのかよく分かる。

 分からないことはどんどん聞いて答えを見せてもらって、陽介は生きるのに必要な事を学んだ。

 そして、生きていける職に就くために、田吾作に言われたことを懸命にこなした。

「ホレ根性出せい!この程度の罠、自力で運べんと話にならんぞ!」

「ぐおおぉやってやらああぁ!!

 母さん、今夜もたっぷり肉頼みます!」

 田吾作は陽介に、言って聞かせて見せて、やらせてほめて時に叱って、猟師と戦士に必要なことを教え込んだ。

 根が単純な陽介はそれが必要だと分かると、一心不乱に従って己を鍛えた。

 こうして四年が経つうち、陽介は立派な猟師見習いのマッチョになっていた。

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