表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
273/320

273.共感

 会いたくても会えない苦しみに胸を締め付けられる竜也。

 竜也にそれを味わわせる喜久代が、竜也の過ちを突きつけます。


 喜久代ちゃんの背景が垣間見える。その背景は誰よりも……。

 次回から、最後の過去編。

 竜也はこれまで、こんなに娘の側に生きたいと思ったことはなかった。

 娘のことは愛しくて大切だったが、側にいて無駄に時間を過ごすのは愚かだと思っていた。本当に娘の未来を思うなら、もっとやるべきことがいくらでもあるじゃないか、と。

 だから竜也は、ひな菊が求めても側にいてやらなかった。

 甘ったれた感情に流されて共に無意味に時間を使うなど、お互いのためにならない。自分はそんな凡人とは違うし、娘にもそうなってほしくなかった。

 そのうちひな菊は自分で自分を満たそうとすることを覚え、あまり側にいてと言わなくなった。

 竜也はそれを、成長したと受け取った。

 これでいい、側にいなくても、むしろその方が将来のためにいろいろやれるじゃないか。自分と娘はそうして、凡人の手の届かない場所に行けると信じていた。

 親子は初めからつながっているから、その愛が揺らぐことなどない。

 親子の触れ合いなどいつでもできるから、他のこと優先でいいじゃないか。


 ……なのに、今こんなに望んでも会えないなんて。

 娘が危機に陥って、早く助けたくてたまらないのに、ほんの少しの距離なのに、お互いの姿を見ることすらできない。

 今こそ娘を抱きしめて安心させてやりたいのに、指先すら触れられない。

 声すらも、ひな菊が離れていくせいで届かない。

 不安で苦しくて自分が情けなくて、いくら己を責めても他人を責めてもどうしようもなくて。

 あんなに簡単なことだと思っていたのに、たったそれだけのことができなくて。思わずこれまでの自分の考えを疑いそうになる。


 そんな竜也の心を抉るように、喜久代が言う。

「あーあ、こんな事にナルなら……いらレル時に、いテあげレバ良かったねェ。

 届くウチに……いっぱい撫でテ、抱いテ、可愛がれば良カッタねぇ。

 そうシたら、きっとあの娘は幸せデ……変に暴走シテ、こんな事にナラなかったノに。今あの娘とアナタがこうナッテるのは……あなたのセイよ!!」

 喜久代は柄にもなく、真剣な怒りを露わに言い放った。


 その一言に、竜也は面食らった。

「何だと、どういうことだ!?

 私はいつも……あんなにも、ひな菊のことを思って……!」

 喜久代の言葉は、これまでの竜也の娘への愛を否定するも同じ。まるで、竜也が側にいてやらなかったせいで、二人が破滅したみたいじゃないか。

 だが喜久代は、竜也を見下げ果てた目で見下ろして言い募る。

「馬鹿ねェッ!そんナノで、娘が満たサレルとでも!?

 ドンなに一緒にイタくても、どんナニ伝えても叶わナイ……それがドレ程辛いか、今あなたも分かったデショう。

 あの娘ハ、ずっとコンな気持ちでイタのよ!!」

 喜久代の叫びに、竜也はぎょっとする。

「何!?だが……最近は、駄々をこねなくなった。

 ひな菊だって、分かってくれたはず……」

「ンナ訳ないデショお!!

 嫌ワレたくなくて……押し殺シタだけよ!あなたの側にト求めるホド……あなたの心が離れテいくノガ怖くて。

 代わりニ、あなたに認められタクテ……認めラレて側にイタくて、禁忌ヲ破ったりシタんだわ!」

 喜久代の声音には、哀れみが混じっていた。

 だが竜也は、素直に認める訳にいかない。

 だって、自分がひな菊を苦しめていた訳がないじゃないか。自分はあんなにもひな菊を思って、ひな菊のためにバリバリ働いていたのに。

 それに、ひな菊がそんな馬鹿な子な訳ないじゃないか。ひな菊は自分の娘で、自分の気持ちを分かって成長してくれたはず。

 こんな大罪人の娘に分かってたまるか。

 きっとこの娘は、いつもこんな風に人の関係を悪いように言うんだ。こんな奴だから、禁忌を破ったりするんだ。

 そう思って逆に喜久代を見下す竜也に、喜久代は一言。

「ねェ……何でコンナ事をって問い質シタ時……あの娘何テ答えた?」

 瞬間、竜也の脳裏にひな菊との会話が蘇った。


(……あ、あたしだって工場の将来を考えてやったの!

 あたしはただ、あたしもパパを手伝えると思って……)

 思い出して、あれっと思った。

 これでは、目の前の大罪人の言う通りじゃないか。ひな菊は本当に、自分に認められたくて側にいたくてこんな事を……。

(お願い見捨てないで!!)

 ひな菊はこうも言った。

 おかしいじゃないか。本当に父の愛が伝わって揺るがないと信じているなら、この言葉が出るはずがない。

 すると、やはりこの女の言う通り、ひな菊は常に不安に苛まれて……。


「まさか……嘘だろう!?

 なぜだ……こんな性悪な他人に、分かる訳が……!」

 おぞましい合致に、竜也はめまいがしてたたらを踏んだ。

 自分が何より大事にしていたはずのことが裏返って、信じていた世界がはがれ落ちて、ひっくり返る。

 こんな事があっていい訳がない、あってはならない。

 なのに実際に聞いたひな菊の言葉は、したことは、この性悪が邪推で言ったはずのことにつじつまが合って。

 誰より愛していた自分よりひな菊を知っている者など、いるはずがないのに。

 喜久代は、そんな竜也を前に呆れたように大きなため息をついた。

「分かるワヨ……だってあの娘、昔ノあたしト同じだモノ。

 お父様の側にイラれなくて……どんなニ望んでも届かナクて……それデモ、少しデモ何かでつながりタクて……!

 それデ、禁忌ヲ破った……!!」

 喜久代の声は、悲しみに震えていた。

「何だと!?君は、この村に家があったんじゃ……お父さんは、どこに……」

 驚いて問う竜也に、喜久代は鋭い声で答えた。

「満州よ!!

 あたしダッテ、お父様と……信じタカッタぁ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ