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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
243/320

243.結果発表

 白川鉄鋼に舞台が移ります。

 衝撃の五度目の放送に、白川鉄鋼に激震が走る。


 竜也社長はかなり頭脳的に強キャラですが、さすがに追い詰められて予想外の事態に焦り、作戦の綻びに気づかなくなってきています。

 そんな竜也が見落としていた、襲撃作戦のそもそもの欠陥とは。

 白川鉄鋼では、この五度目の放送に皆が胆を潰した。

 スピーカーが鳴った当初は、大多数は今そんな場合じゃないと無関心だった。そんな事より、今始まろうとしている楓とクメの戦いに釘付けだった。

 だが、その戦いは始まらなかった。

 この放送で明かされた真実のせいで、今度はそれどころではなくなってしまったから。


 竜也は、この放送は役場を制圧した部下たちが流しているのかと思った。ここで宗平や森川にでっち上げた罪を認めさせれば、こっちのものだと。

 あるいは、宗平たちが追い詰められて命乞いのために流したか。

 もしくはまだ持ちこたえているが、こちらの罪を暴く又は村の援軍を求めて流している可能性もある。

(……が、どう転んでも奴らに勝ち目はない。

 この非常時に役場を襲撃して人間同士で殺し合うなど、まともな人間のやる事ではない。ゆえにここにいる者たちは信じないだろう。

 相手がおかしな事を言えば言うほど、人の支持はこちらに傾く。

 それに、何のために役場に死霊を集めたと思っている。援軍を求めれば来た奴が犠牲になり、人が殺されても死体は食われてボロボロもしくは残らん)

 竜也は、いろいろな可能性を考えてそう思う。

 自分の手駒であるならず者たちが負けるとは、考えていない。

 だってこっちは荒事に慣れた部隊で、向こうは女子供混じりの素人どもだ。しかもこの襲撃は、予想だにしていないに違いない。

 竜也の頭の中は、これからの放送をどう利用するかで占められていた。

 聞き耳を立てるのも、そのためだ。

 さっきの四度目の放送はかなり痛かったが、その借りはきちんと返してもらおうじゃないか。この放送で墓穴を掘り、自ら地獄に落ちるがいい。

 竜也は宗平たちの慌てふためき追い詰められる様を想像しながら、放送に耳を傾けた。


 ……が、聞こえてきたのは、竜也の予想を見事に裏切る内容であった。


『防災放送、防災放送、こちらは菊原村役場です。

 ……ここまで生き残った皆様におかれましては、引き続き……安全を確保していただきますよう……』

 最初の言葉は、予想外に平和で当たり障りのないものだった。

 チラリと時計を見て、竜也は訝しんだ。

(どういうことだ……役場への襲撃はまだなのか?)

 襲撃があったなら、もっと違う内容でこちらに呼びかけてくるはずだ。しかし時間的に、襲撃はとっくに行われていないとおかしい。

(死霊を集めるのに時間がかかりすぎている……その間にヘマをやったか?

 いや、村の印象を悪くしないために、あいつらが言わせているかもしれん)

 少し嫌な予感はしたが、とりあえずしばらく聞いてみることにした。どうせここにいる自分が、放った矢に何かすることはできないのだから。

 しかし次の一言で、竜也は総毛だった。

『白川鉄鋼の妨害工作により、住宅地にあるスピーカーの多くが破壊されております。……屋内にいる方は……外に出ないでください

 この放送は最大ボリュームで……これが小さく聞こえたら……』

(しまった、そういうことか!!)

 ここで竜也は、こちらの作戦の欠陥に気づいた。

 死霊を住宅地から役場に連れて行くには、死霊を音で釘づけにしているスピーカを壊す必要がある。

 しかしそれをやると、一緒についている監視カメラ等も壊れるため、役場に壊されていることが分かってしまう。

 つまり、役場は襲撃前に異常を察知して備えられたということ。

 今だって、それを疑っていたら実際に襲撃がきたので放送を流したのかもしれない。

(クソッまずい……盲点だった!

 こんなことなら、人間だけで襲撃させた方が……)

 竜也は最小限の戦力であちらを落とすことだけを考えていて、死霊を連れて行くのに必要な破壊が向こうに伝わることまで考えていなかった。

 完全に、焦りによる作戦ミスだ。

 しかも、伝わってしまったものはもう取り消せないのだ。

 ミスに焦る竜也の耳に、さらに決定的な内容が流れてくる。

『安否情報……先ほど、白川鉄鋼の社員に襲撃を受けましたが、高木亮君が片足を切断した以外は全員無事です!』

 次の瞬間、村人や社員たちがざわっと騒がしくなる。

「えっ襲撃……ウチの社員が!?」

「高木亮って……あの陸上めっちゃ速い子?」

 混乱する村人と社員たちに、さらに残酷な情報が叩きつけられる。

『白川鉄鋼から来た方々の安否……二人は死霊に食われて死亡、一人は上半身に火傷……残りの二人は無事です。火傷はこちらの……正当防衛……!

 こちらの命を奪いに来たなら、無事でなくても異議は認めません!』

 これが、襲撃の結果だ。

 襲撃は到着前に察知されて失敗、おまけにあちらに身を寄せていた一般の子供にまで被害が出てしまった。

(最悪だ!!これでは、村からの印象が……!)

 うまく宗平たちだけ排除できれば問題なし、たとえ失敗しても相手が宗平たちだけなら信用勝負に持ち込む気だった。

 二度目三度目の放送を利用し、ここにいる者たちにはたっぷり奴らへの不信を植え付けてやったのだから。

 しかし、一般人の子供の怪我はまずい。しかも一生残るやつだ。

 こんな危ない夜にわざわざ役場に出向くのは守り手と支配層の家族くらいだと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。

(何てことだ……いや、まだだ!

 無事な二人が逃げて証拠を隠滅してさえいれば……)

『無事な二人は、既にこちらに投降しております。車も……警察の方が来たら引き渡します。犯罪の証拠は、間もなく見つかることでしょう』

(何いいぃ!!?

 だが、奴らが朝までに死霊に食われれば……)

『死霊は、こちらにおいでになる野菊様によって統制されております』

(野菊だと!?なぜだああぁ!!)

 明かされた結果は、竜也の理解が追い付かないほど悪い事態だった。

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