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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
241/320

241.勝負の決め手

 最後の放送の内容を煮詰める宗平と野菊たち。

 襲撃に来て降伏した小山が、強力な協力者となります。


 竜也から人々の指示をはがす決め手、そして平坂親子の処遇を決める決め手とは。

 戦況を分析し、出せる物を洗い出し、最後の勝負で伝える情報を練り上げる。

 野菊たちは、竜也から人心を離れさせるのに必要な要素を一つ一つ挙げていく。

「私がおびき寄せられて撃たれた時、大罪人は片方……男の子しか出て来なかったわ。

 もう一方の女の子……社長の娘が大罪人だって、あそこにいる人々は知らないんじゃないかしら?」

 野菊の指摘に、森川はうなずく。

「おそらくそうでしょう。

 多くの人々は、社長が悪くないと思っているからすがり留まっている。

 逆にひな菊が大罪人であると知れば、怒りと恨みは竜也に向くはず。それはもう一瞬で、人は離れるでしょう。

 ただ問題は、こちらが言って信じてもらえるか、ですが……」

 森川と宗平は、苦い顔を見合わせる。

 二度の誤った放送で、あちらの人々は自分たちを信じられなくなっている。そこに付け込み、竜也は支持を手にしたのだろう。

 そんな状況で自分たちの口から言ったとて、果たして信じてもらえるか……。

 すると、そこに小山が寄って来て言う。

「そういうことなら、俺が役に立つぜ。

 それに、ただ知らせるだけじゃなくて、奴らに自分も手を貸したんだって気づかせりゃいい。

 お嬢が見張りの猟師に仕掛けた睡眠薬入りのビールもどき……アレを作るのを手伝わされた奴がいるはずだ。

 そいつに、この俺がタネ明かしをしてやる」

 これは力強い助けだ。

 小山は社長の命令でいろいろと後ろ暗いことに手を染めてきたならず者だが、一般の社員から見れば忠実な同僚だ。

 その立場からの知らせと、そして証拠があれば……。

 小山は、役場の玄関の方を顎で指して付け足す。

「例のビールもどきの缶は、俺らが回収してきて車の中にある。日が昇って警察が来れば、睡眠薬もジイさんたちの唾液も、作業者の指紋も出るだろう」

 動かぬ証拠は、何よりの力だ。

 竜也とひな菊が差し向けた刃が今、二人を討つ強力無比な刃となった。


 それから小山と田吾作は、向こうの戦力と使えそうな者について話し合った。

「もう、白川鉄鋼に戦力はあまり残ってないはずだ。俺らを攻撃に出すのも、社長はかなり考えてからだったから。

 残ってる中で飛びぬけて強いのは猛さんと楓姐さんだが……さっき、誰が撃たれたって?」

 小山は、ほくそ笑んで野菊に尋ねた。

 野菊も、残忍な笑みで答える。

「大罪人、陽介の父……猛で合ってるわ」

「そりゃ傑作だ!じゃあもう向こうの忠実な戦士は、楓姐さんだけだ」

 小山は、少しためらってから告げた。

「実はな、社長は陽介の罪を償わせるために、楓姐さんに体を売らせようって考えてた。俺らの慰みも含めてな。

 そいつを楓姐さんに教えて、今の状況と考えさせて気づかせりゃ……」

「なるほど竜也は丸裸。

 そして、人々を守る力を失う……か」

 田吾作も、面白そうに呟いた。

 竜也に従う戦力が減れば、竜也がすがってくる人々を守る力を失う。そうなれば、人々は竜也にすがれなくなる。

 そこを、もう一押し。

「なら儂は、囮にされたあの若者に呼びかけてみるか。

 小山よ、あいつはどうなっとる?」

「ああ根津か。社長に買収されて、あんたが教えたことをしゃべらされてたよ。

 けど、内心は社長にかーなーり不信を抱いてるだろうな。一方的に巻き込まれてそのうえ力で黙らされちゃ……なあ」

 不穏な火種は、竜也のすぐ側にある。

 田吾作はそれを聞くと、カラカラと笑った。

「そうか、それではあの若者に、勇者になる機会をやるかのう。

 汚名を着せられたままでは、可哀想だからのう」

 田吾作はせっかく助けた若者に、一つ大きな仕事を任せることにした。勇気はいるが、今の立場を教えてやればやらずにいられないだろう。

 自分を押さえつけた相手を蹴落とす、根津にとっても悪い話ではないのだから。


 と、ここまで情報が揃うと、小山が最後の懸念を口にした。

「社長親子は、それでいいだろう。

 しかし、匿われている平坂神社の巫女さんたちはどうする?あいつら、この村の守りに不可欠なんだろ。

 あいつらも殺すとなると、抵抗する奴は出そうだが」

 それを聞くと、野菊は渋い顔ながらも首を横に振った。

「いいえ、許さない。

 私も黄泉も、あんな事をした二人を許せない」

「ですが、それでは村の守りは……」

 宗平が言うと、野菊の目の奥に怒りの炎が燃え上がった。

「そう……あなたが知らないということは、あの当主は伝えるべきことを伝えてないのね。自分が甘い汁を吸い続けるためだけに。

 ますます許せない!!

 ふぅ……でも、村人の不安を和らげるのも兼ねて、母親の方は命だけは助けてあげる。

 死んだ方が良かったって、死ぬまで後悔させてあげるわ!」

 どうやら平坂神社の一族には、宗平たちが知らない秘密があるらしい。そしてそれが知られていない事が、野菊を激しく怒らせているようだ。

 あの二人は村を守る力ではあるが、やったことはあまりに怠慢で無責任かつ非道極まりない。

 野菊の口ぶりからして村を守る手段が他にもあるあるなら、間違いなく切るべきだろう。野菊はそれを、教えてくれる気でいる。

 課せられた役目を捨てた罪深い母子に、断罪の時が迫っていた。


 こうして言うことをまとめると、宗平たちは放送室に入った。

 きっとこれが、最後の放送になる。

 きっとこれで、今夜の勝負は決まる。

 死んでいった多くの村人たちの無念、巻き込まれた多くの人たちの恐怖と悲しみを背負って、宗平はマイクのスイッチを入れた。

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