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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
237/320

237.向き合う二人

 ここまで白菊姫と野菊の二人パート。

 役場で白菊姫に罪と向き合うことを教えながら、また新たな力の特徴を掴む野菊。


 野菊は基本自分を責めやすい、重くなりやすい子なので、白菊姫とは考えが合わないことの方が多いです。

 でも、そんな自分だと沈む一方の時こそ、そんな友達がいると救われる……そんな関係。

 ……という経緯で、二人は役場に来ていた。

 ご大層なことを言って仕方なかったと思おうとしても、実際に死なせてしまった男を家族に見せるのは相当な勇気が要った。

 役場に入っていざその時が近づくと、白菊姫は怯えて怖気づいた。

 放っておけば誰がやったか分からないのだから、道中に拾ったことにしてしまってはどうかとも尋ねてきた。

 野菊は、そんな白菊姫を厳しく叱りつけて連れて行った。

(だめよ、それじゃけじめにならないわ。

 それに、これは主に私の不手際だもの。あなたが謝らなくても、私だけでもきちんと謝って説明しないと。

 あなたはまず、私が謝るところをきちんと見てなさい!)

 昔から分かっていた……白菊姫は謝る経験が足りなさすぎる。

 自分が悪い事をしてしまった時、相手の気持ちに向き合って受けとめたうえで相応の謝罪をするということができないのだ。

 上辺で頭を下げることは、できる方だと思う。

 ただしそれは、穏便に事を収めるための形として教え込まれたもの。

 生前、白菊姫がここまで重くなくても罪に真正面から向き合ったことはなかった。

 だって白菊姫は、村で一番偉い領主の娘だから。白菊姫より偉い親が、白菊姫の才能に舞い上がって甘やかしていたから。

 白菊姫が何か悪いことをやらかしても、形だけちょっと謝らせて後は親が権力で何とかしてしまった。

 これで済んだから後はおまえの得意なことで頑張れば取り戻せると、罪悪感をそらしてしまった。

 だが、もう白菊姫をそうやって守ってくれる者はいない。

 白菊姫は初めて、重すぎる罪をまともに受け止めねばならぬのだ。

 しかし、白菊姫が他の大罪人を救うという役目を果たすには、通らねばならぬ道だ。自分ができないことに他人を導くなんて、できやしないのだから。

 その手本として、野菊は真正面から己の罪を受け止める気でいた。


 役場に着くと、既に中まで死霊が入り込んでいた。

(宝剣があればすぐどかせるけど……今のままだと、順々に触れるしかないのかしら)

 他の大罪人の体を借りていた時、野菊は宝剣なしでは死霊に触れずに操れなかった。だから今もそうかと思ったが……。

 野菊が下がってほしいと思うと、最後尾から何体かが振り向いて下がり始めた。

(あら?この子だけ、黄泉とのつながりが強いのかしら)

 どうやら、白菊姫の体なら他の大罪人より強い力を使えるらしい。

 理由として考えられるのは、白菊姫が直接呪いを受けた原初の大罪人だからか。野菊が白菊姫への恨みを捧げて黄泉の力を引き出したため、黄泉とのつながりが特段に強いのかもしれない。

(これは、やってみないと気づかなかったわ。

 でも都合がいい、これで思ったより簡単に死霊たちを引き離せる)

 正直、野菊は白菊姫の体でここに急行してもそれほど助けになれないと思っていた。だから役場を助けるより、白川鉄鋼への攻撃に重きを置いたのだ。

(ああ、こんな事なら先にこっちに来れば良かったかしら?

 知れば知るほど、後悔が増えるわね)

 さらに気が重くなる野菊を、今度は白菊姫が支える。

(ならば、わらわのこの身はおぬしの特別な助けになるのか?

 それが分かっただけでも、良かったではないか。おぬしには計り知れぬ迷惑をかけてしもうたからな……わらわに手伝えることなら、何なりと手を貸すぞ!)

 白菊姫は、打ちのめされた経験が少ないゆえに前向きだ。

 その明るさが無責任に思えることもあるが、今の野菊にはありがたかった。そして、こんな自分だから白菊姫が友達で良かったと思い直した。


 役場の奥のバリケードまで行くと、宗平たちは大声で何かを言い争っていた。バリケードの下には鮮血がぶちまけられ、逃げ込んだ者たちも皆無事ではないと分かった。

 実体のない死霊の耳を借りると、子供が一人足を切ることになったと分かった。

(ああ、これは大変ね……。

 私たちのことで少しでも気がそれて、白菊の教訓が少しでも役に立てばいいのだけど)

 野菊は少しでも苦しみを引き受ける気で、宗平たちに声をかけた。


「ごめんなさい……私の、せいで……!」

 野菊は白菊姫の体で、宗平たちに謝る。いかに野菊と言えど、死ななくていい子供を死なせた罪は重すぎて、喉が詰まったようにかすれた声しか出せない。

 それでも宗平たちは、見た目だけで状況をかなり理解してくれた。逆に言えば、言い逃れが難しい状況とも言える。

 だが、野菊にそんなつもりはないのでむしろ好都合だ。

 正当に己を問い詰めてくる大樹に、野菊は正直に己の不手際を詫びる。

 しかし、途中で白菊姫が気づいた。

(なあ、野菊……なぜ名乗らんのじゃ?

 こやつら、おまえではなくわらわの不手際だと思って責めておらぬか?こやつらに見えておるのは、わらわの姿なのじゃから……)

 そう、野菊は自分が野菊だと一言も口にしない。

 相手から見れば、姿だけで判断して白菊姫が罪を犯したように見えてしまう。現に大樹は、話しているのが白菊姫だという前提で問い詰めてきている。

(ひ、卑怯じゃぞ野菊!

 己の罪は己で受けると言うたではないか!?

 これでは、わらわが責められて……)

(うるさいわね、やったのはあなたでしょ!!)

 逃げようとする白菊姫に、野菊は厳しく突きつける。

(させたのは私だけどやったのはあなたなんだから、あなたも責められる気分くらい味わいなさいよ!

 あなたに飢えさせられて罪を犯した人が、どれだけ下手人として責められたり自分を責めたりしたと思うの!

 私が対応するだけましだと思いなさい!!)

 そう言ってやると、白菊姫はまたひどく怯えて何も言わなくなる。

 罪と向き合った経験が乏しい白菊姫は、己の罪が周りの人にどんな苦しみを与えるかを想像することができない。

 だから教えてやっているのに、それで野菊は責められて罪悪感を覚えて……。

 だが、野菊が嫌になりかけた時、咲夜が逃げ道をくれた。

「ねえ、あなたは……本当に白菊姫?」

 野菊の心がすっと軽くなり、凪いだ。

「私は……野菊よ」

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