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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
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22.平坂の血族

 前回までの、作戦の全貌が明らかになります。

 学芸会よりも張り切った演技で、咲夜たちは最初の作戦を成功に納めます。


 そして、前回登場した女の子の素性が明らかになります。

 この村を守る使命を帯びた神社……しかし現在の一族は村を守れるのでしょうか。

 その日の夜、咲夜たちは大樹の家に集まってミーティングを開いていた。

 今日の作戦は大成功だ、咲夜たちはそれを祝って麦茶で乾杯した。

「本当、あんなにうまくいくとは思わなかった!」

 結果に一番満足しているのは、今日あれだけ騒ぎを起こした咲夜本人だ。大樹はニヤニヤ笑いながら、咲夜をこづいて言う。

「最高だったぜ、今日の演技!

 みんな最初はびっくりしてたけど、おれが訳を話したらきれいに納得してひな菊に票を入れてくれるってさ。

 全く、これが学芸会だったら間違いなく大賞だぜ!」

 そう、今日の騒ぎは全て咲夜たちの作戦だったのだ。

 昨夜を悪役に仕立てて、ひな菊を確実に白菊姫役にするという作戦だ。

 ひな菊は元々目立ちたがり屋で強欲なため、咲夜というライバルがお姫様役をやると言って立候補するだけで簡単に引っかかってくれる。

 問題はむしろ、票集めの方だ。

 咲夜とひな菊は、ふだんから対立する事が多く、それぞれに支持する層がある。

 ひな菊が何か無茶を言うと取り巻きたちがそれを叶えようとし、それをよく思わない者が咲夜のもとに集まるという構図だ。

 クラスはだいたい、ひな菊支持派と咲夜支持派に分かれている。

 そのため、ひな菊が何かしようとすると咲夜支持派がそれを妨げる。

 今回の大樹の役目は、それを防ぐことだ。

 今日帰り際に大樹の周りに集まったメンバー……咲夜をなだめようとしていたあのグループが、咲夜支持派だ。

 大樹は今日、見事な説得でそのグループの票をひな菊に回した。

 もちろん、その説得も咲夜の入れ知恵だ。

 一方の浩太は、ひな菊をおだてて得意げにさせ、取り巻きたちを安心させてより確実にひな菊に票が入るようにした。

 こうして咲夜支持派とひな菊支持派の票をまとめれば、ひな菊の当選は確実だ。他の立候補者や浮動票があっても、もはや太刀打ちできまい。

 咲夜たちは勝利の予感に酔いしれながら、浩太の持ってきた生チョコレートに舌鼓を打った。


 一しきりひな菊の話が済むと、咲夜はふと浩太に聞いた。

「で、聖子は本当に何も知らなかったのね?」

 浩太はにわかに真剣な顔つきになって、うなずいた。

「多分、大丈夫だと思う。

 白菊姫のことを聞かれた途端に、慌ててごろ合わせとかでごまかしてたから」

 その報告に、咲夜の緊張がほどけていった。

「ああ、良かった……。

 私もあいつだけは気になってたのよ。もしかしたらあいつは、白菊姫の真実を知ってるんじゃないかって。

 だってほら、あいつは……」

「ああ、平坂神社の跡取り……野菊って巫女の子孫だろ?」

 大樹も剣呑な顔で続ける。

「うん、正確には野菊の妹の子孫だけどね。

 代々死霊からこの村を守るよう託された、平坂神社の一族。

 ただ、聖子のお母さんはそういう村のしがらみみたいなのが嫌だったみたいで、一時は神社を捨てて都会へ出てたとか、お祖母さんが死んでから神事をまじめにやらなくなったとか噂になってるから。

 聖子もきっと、神社の使命とか村の過去とか興味ないんだと思う」

 咲夜の説明を聞いて、大樹は苦笑した。

「ひどい話だよな、時の流れは残酷ってヤツか」

「今のこれを野菊が見たら、怒るだろうね」

 浩太も複雑な顔でつぶやいた。

 自分たちが調べた物語は、非常に多くの教訓を含んだ歴史だった。

 それを誰よりも忘れてはならないのは、野菊の妹から連なる平坂神社の一族ではないか。それが今はこの有様だ……咲夜の両親たち古くから村にいる大人たちはそれを嘆いているが、咲夜たちも少し悲しくなった。


 そう、おそらく今村に死霊が出ても、平坂神社は何もできないだろう。

 万が一の時に村を守る最後の砦は、すでにその役割を放棄しているのだ。


「ただいまー!」

 村はずれにある大きな赤い鳥居をくぐって、聖子は自宅に帰る。村に古くからある由緒正しい平坂神社、それが聖子の自宅だ。

 家の玄関に入るや否や、聖子は長い髪をさらりとかき上げて、その古風な外見に似合わぬ大きなヘッドホンを耳にかぶせる。

 そして、音漏れするほど大きな音で激しいロックを流す。

 だが、台所からはそれ以上の音量の音漏れが聞こえてきていた。

 扉を開けると、普通の主婦には似合わぬ大きくてごついヘッドホンをした女の後姿があった。聖子はそっと近づき、肩を叩いてメモを差し出す。

<ただいま、お母さん。

 あまりお腹減ってないから、夕食は少なめにして。>

 すると女は……母親は今娘に気づいたようにそちらを向き、にっこり笑ってうなずいた。

 彼女こそが平坂清美、由緒正しい平坂神社の血統にして現在は巫女だ。野菊の妹からつながる血筋は、この親子に引き継がれている。

 そしてもう一人、短い髪をワックスで逆立てた男の姿がそこにあった。神社に似つかわしくないロックな雰囲気を持つこの男こそ、聖子の父親にして平坂神社の現神主、平坂達郎だ。

 達郎は、言葉もなくやりとりをする妻と娘を苦々しい顔で見つめていた。

 妻の清美が大音量で音楽を聞いているのは結婚前からだし、娘もいつの間にかそうなった。しかしここ最近はどうも、音量が過ぎているような気がする。

 大きな声で呼んでみても、気づいてすらもらえない。

 そのうっぷんを晴らすのと少しの戒めを込めて、突然触って驚かせてやることもある。しかしそれをやると、最近はとてつもなく嫌がられるのだ。

 娘の聖子に助けを求めてみても、逆に、

「パーパが悪いんだあ!」

と怒られる始末だ。

 明らかに達郎の方が冷たくされているのに、娘は決まって妻の味方になる。どうもこの二人には、達郎には分からない何かを共有しているふしがある。

 そして、それから逃れるように二人して大音量の音楽を流し続けているのだ。

(死霊の声……か。本当にあるのか、そんなもん?)

 以前清美は、それが煩わしいから音楽で打ち消しているのだと言っていた。そして最近機嫌や付き合いが悪いのも、ヘッドホンを外すのを極端に嫌がっているように思える。つまり最近になって、その死霊の声とやらが前よりうるさくなったということか。

 だが、聞こえない達郎に真実は分からない。

 大音量のロックで耳を塞いで、今日も平坂家は平和だった。

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