218.浩太の戦い
兄を助けるために、浩太の猛攻撃!
助けるのは兄だけじゃなく……助かりたかったら、助けないといけないんです。浩太と亮、そして両親の異常な関係に周囲も気づき始めます。
浩太は普段冷静に見えて、白菊姫との戦いではすさまじい残虐性を見せていました。
しかしいろいろ考える大人が右往左往してしまうこの状況では、それが何よりの強みになります。
誰もが、浩太の行動にあっけに取られていた。
大人が何もできない時に、こんな子供が飛び出すなんて。本来なら、一番守らなければならない小学生が。
しかし、亮と浩太の両親は期待を込めて叫んだ。
「やってしまえ、浩太!」
「お兄ちゃんを助けるのよ!
だめだったら、あんたも許さないから!!」
最後の一言に、周りの大人たちも咲夜たちもさすがに違和感を覚えた。浩太も同じ自分たちの子供なのに、この扱いは一体……。
「待ってよ、浩太だって……」
だが、それに深く突っ込んでいる暇などなかった。
バリケードの向こうをオレンジ色の光が照らし、元犯罪者のすさまじい悲鳴が上がった。
「ぎゃあああ熱い!!てめえっこのおおぉ!!」
元犯罪者のリーダーに肉迫した浩太は、その手が自分に届く前にスプレーガスの火炎放射を浴びせた。
あっという間にリーダーの髪や髭が燃え、服に火が燃え移る。
リーダーは苦悶の絶叫を上げ、のたうち回る。
まともな神経の人間ならやることはもちろん見ることすらはばかられるような、人を人とも思わない残虐行為。
だが浩太は、薄笑いすら浮かべてそれをやっていた。
「さあ、兄さんを放せ!このまま消し炭になりたいか!?」
しかし、それでもリーダーは頑として亮を放さない。むしろ絶対に放すもんかとでも言うように、亮の膝裏に刺したドライバーをぐりぐりと押し込む。
「浩……太、も、いい……いいから、逃げっ……!」
亮が痛みをこらえながら言っても、浩太は動かず逆に亮を怒鳴りつける。
「うるさいな!兄さんなしじゃ、僕は生きられないんだよ!!」
その言葉は愛とか情とかそんな生易しいものではなく、もっと切迫した何かを含んでいた。
スプレーから噴き出す炎がリーダーの皮を破り肉を焦がし、役場の壁や床も焦がしていく。その炎は、浩太や亮の服にも燃え移り始める。
「ぐぅっ……まだ、放さないか!」
「浩太、水!」
そこに咲夜と大樹がペットボトルのお茶を持ってかけつけ、亮と浩太にぶっかけて火を消す。二人とも浩太のしたことには驚いたが、今はこれを手伝うべきだと感じていた。
元犯罪者のリーダーは、何がどうあっても亮と自分たちを道連れにする気だ。ならばこちらも、どんな手でも使うしかない。
そして今ここで一番それができるのが、浩太だ。
(浩太……さっき白菊姫をいたぶった時と同じだ!)
咲夜と大樹は、今の浩太の残虐さに覚えがあった。
ここに来る前、菊のビニールハウスで白菊姫をリンチした時……浩太は内なる悪魔を解放したように笑って白菊姫の腸を引きずり出していた。
今の浩太はその時と同じ……いや、今の方が真に迫っている。
今の浩太なら、大人が倫理とか良心とかに阻まれてできないどんな攻撃もためらわずにやってしまえる。
それに任せるしか、亮を助けることはできない。
咲夜と大樹はそう信じて、浩太に武器を渡す。
「何が要る?いろいろ持ってきた!」
「じゃあ尖った硬いもの!」
浩太の求めに応えて、咲夜が浩太に錐を投げる。
浩太が受け取り損ねたそれをリーダーが拾おうとするが、その手はもう焼けただれて指が引きつっておりうまく掴めない。
その手を、浩太が力いっぱい踏みつける。
「だめだよ、これは……こうするものだから!」
ぐりぐりと踏みにじりながら、亮を刺している方の手に錐を突き刺す。
「ぎゃあああ!!?」
リーダーは絶叫しながらも、亮の膝裏に刺したドライバーを放さない。浩太は全身でそんなリーダーを押さえつけながら、苛立ったように舌打ちした。
その目が、曲がり角の向こうから来た白く濁った目と合った。
「し、死霊が……浩太君急いで!!」
美香や宗平たちが、悲鳴のような声で呼びかける。
ついに曲がり角の向こうから、死霊たちが姿を現す。バリケードの近くで騒いでいる人間を目に、獲物だとばかりに近寄って来る。
田吾作がとっさに先頭の奴から撃っていくが、死霊は後から後から現れる。元犯罪者たちが役場に集めた死霊は、十や二十ではない。
「まずい、もう弾が……!」
田吾作が、苦渋の表情で唸る。
さすがの田吾作も、ここまでの大軍をここで相手にするとは思っていなかった。さっきの屋上からの狙撃もあり、もう弾切れだ。
「いやあぁ、亮!亮―っ!!」
「何やってるんだ浩太、早くしろ!!」
目に見えて迫って来る死霊に、亮と浩太の両親が半狂乱になって叫ぶ。その叫びに、死霊たちの呻き声がさらに大きく返ってくる。
今や、兄弟の命は風前の灯火だった。
それでも、浩太は諦めない。
「兄さんは、絶対助ける!
これならどうだ!?」
咲夜から受け取ったスパナとペンチで、ドライバーを掴んでいるリーダーの指をはがすどころか折りにかかる。
「おまえだけに、やらせはしない……俺もだあぁ!!」
亮も痛む体で、己のふがいなさへの怒りを力に変えてリーダーの指をひねり上げる。
「ぎゃひっ……ぎびいいい!!!」
リーダーがいくら放すまいとしても、指が何本もあらぬ方向に曲がってはもう力が入らない。ようやくリーダーが気を失うように脱力し、ドライバーが亮の脚から抜けて転がった。
「二人とも、早く!!」
宗平たちと死霊たちが、前後から先を争うように二人に手を伸ばした。




